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緑のまぶしい春、花が咲きほこる夏、いっせいに穂が色づく秋が過ぎれば、あたりは銀世界。四季折々の風景がみられる「丘のまち」として、長く親しまれてきた北海道美瑛町(びえいちょう)。
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仕事がはじまるのは、この春から。お試しとして数ヶ月間農業を体験するのもいいし、一年間北海道の暮らしを楽しんでみたいという方も歓迎です。
8年目となるヘルパー募集。毎年、思いがけない出会いが待っているようです。
羽田空港を飛び立って、1時間半。
旭川空港の着陸が近づくと、雪で真っ白に染まった大地が見えてくる。
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15分ほど走らせると、美瑛の中心地が見えてきた。
「ちょうど雪が降ってきて、寒かったでしょう。これでも今季は全然雪がないほうなんですよ」
迎えてくれたのは、JAびえいの佐藤さんと、美瑛通運株式会社の山岸さん。お二人は、ヘルパーの受け入れを担当している。
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「きれいなまちですよ」と話すのは、JAの佐藤さん。
「丘のまちびえい、ってキャッチフレーズのとおり、なだらかな坂が続いていて。いまは真っ白だけど、雪がとけると季節の花がいっせいに咲いて、夏になると野菜や小麦がわっと実るんです」
北海道でも指折りの景勝地として、その名前を聞いたことがある人もきっといるはず。
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化学肥料や農薬を最小限に抑えた独自の土づくりに、昼夜の寒暖差、十勝岳連邦から注ぐきれいな水。
そんな環境で育まれた作物は、カルビーをはじめ食品メーカーの原材料に使われていたり、東京のブーランジェリー『VIRON』とコラボしたりと評価が高い。
「トマト、ブロッコリー、アスパラ、かぼちゃにスイートコーン。作物の種類も多いです。今年度は天候もよくて、今までにない豊作の年でした」
「とくにヘルパーさんにお手伝いいただいているトマトは、すごくよく実って。農家さんからも助かったという声を聞いています」
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そこでJAびえいは、8年前から関連会社の美瑛通運と一緒に、農作業を手伝うヘルパーさんを募集するように。毎年、20名ほどのヘルパーさんが全国から集まっている。
美瑛通運の山岸さんは初年度からこの取り組みを担当していて、ヘルパーさんと農家さんを繋いだり、住宅の手配など生活面でのサポートをしたりしている方。
「おかげさまで町内でもこの取り組みの認知度が上がってきました。今年度のメンバーもすごく前向きに農業に携わってくれていて。今日も取材があるからよろしくねって話しているから、いまから会いに行きましょうか」
紹介してもらったのは、ヘルパーの萱沼(かやぬま)さん。
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もともと旅行好きで、北海道には何度も訪れていたという萱沼さん。
農業は未経験だったものの、「北海道に住めるチャンスかも」とピンときたそう。
「美瑛には、自分と同じように未経験のヘルパーさんもたくさんいると知って。家も仕事も用意してくれているなら、もう行っちゃえ!と。段ボール2つとトランクだけを持って、こっちに来ました」
「未知の世界だからこそ、考えてもしょうがないだろうなって開き直れたんです(笑)」
ちょうどトマトの収穫が始まる7月に着任した萱沼さん。受け入れ先の農家さんに教えてもらいながら仕事をスタートした。
ビニールハウスで栽培されているトマトは、機械がほとんど入らないため栽培から収穫までほぼ人の手で行われている。
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なかなか根気のいる作業ですね。
「はい。集中力が必要で、気を抜くとすぐにトマトを傷つけてしまいます。わたしは不器用なのもあって、ずっと気を張っていました。のんびりゆったり、ではなかったですね」
それに北海道とはいえ、真夏の美瑛は30℃近くにもなる。ハウスの中はさらに気温が上がり、サウナのような気温と湿度なのだとか。
「今年は天気がよかったので、ハウスの中も葉が茂ってジャングルのようで。ギラギラの日光のもとで、風もない。あんなに顔や体から汗が吹き出したのは、人生初めての経験でした」
「でも、みなさん保冷剤を巻いてくれたり、気にかけてくれました。それに休憩でハウスを出ると、バーっと涼しい風が入ってきて生き返るんです。疲労感はあるけど、『ああ、働いたなあ』っていう心地いいものでした」
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暮らしの面では、どうですか?
「家具と家電付きのアパートを市街地に用意してくれていたので、まちで一人暮らしているような感じです。美瑛はまちのつくりがコンパクトで、市街地にスーパーやドラッグストア、居酒屋や図書館もキュッとまとまっていて」
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また、作業終わりに農家さんが野菜をもたせてくれることも多い。トマト、アスパラガス、ブロッコリーなど、ヘルパーさん同士でお裾分けをしていたそう。
朝早く起きて、土や植物に触れて働き、夜はぐっすり眠る。しっかり体を動かすのでご飯もおいしく感じて、以前よりたくさん食べるようになった。
そんな生活を送るなかで萱沼さんは、「もうちょっと美瑛にいようかな」と思い始めたという。
「もともと、長くても10月末までかなと思っていたんです。でもこっちに来て一ヶ月目くらいで、この環境は手放すには惜しいなって。美瑛通運の山岸さんに相談して、延長させてもらうことにしました」
美瑛では、ヘルパーさんが希望すれば農業シーズンが終わっても働けるように、玉ねぎの加工をはじめとした冬の仕事を用意している。
今年度は、あらたに着任した19名のうち7名が冬まで契約を延長。
萱沼さんも、一日8時間、玉ねぎの選別と段ボールへの詰め作業をしている。
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「覚悟は… 夏の暑さくらい。別にいらないんじゃないかなあ」という萱沼さんのとなりで、「本当ですか?」と笑うのは、受け入れ農家の一軒である山崎さん。
「そう言ってくれたら、ぼくたちもありがたいですけどね。ヘルパーさんがいるのといないのとでは全然違いますから」
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春に着任した場合は、苗を育てる過程から関わることができるそう。
苗が大きくなればポットからハウスに植え替え、茎やツルを上へと引っ張るために紐をかけ、成長を待つ。そうして世話をしたトマトは、いよいよ夏に収穫だ。
「作業を手伝ってくれるだけじゃなくて、うちは嫁さんもいるので、子育てとか、学校での話題も聞いてもらっていたみたいで。ヘルパーさんたちは、休憩時間でもトマトについて質問してくれることも多いですね」
「そうそう。やっているうちに、野菜のこと、もっと知りたくなるんですよね」と萱沼さん。
実は、萱沼さんはこの春からも継続してヘルパーとして働こうと考えているそう。
「まだトマトの収穫しか経験したことがないので、もったいないなって。アスパラとか、ほかの作物にも興味があります。でも足を引っ張らないか、ちょっと緊張していて…」
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「ぼく自身も新規就農者なんですよ。一年目からできていたわけじゃないし、だいぶ迷惑かけたし。最初から完璧にできるとは思っていないので大丈夫」
「どの農家さんも、きっと農業に興味を持ってくれていたら大歓迎ですよ」
一通り取材を終えたところで「お疲れさまです」と声をかけてくれたのは、JAびえいの井原さん。
「まだ時間ありますよね。お昼、食べに行きませんか?」と誘ってくれた。
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「農業というよりも、美瑛で暮らしたかったんです。高校の修学旅行で、美瑛の丘を自転車で下りていった、その思い出が印象深くて」
美瑛の農業ヘルパーには、井原さんや萱沼さんのように、農業以外への興味をきっかけにやってくる方も多い。
料理の勉強のためにやってきた人、大自然でアウトドアを楽しもうという人、セカンドライフとして美瑛での生活を選んだ人。
そしてひと夏を経て、それぞれの生活に思いがけないきっかけが訪れることもあるそうだ。
「わたしは縁あって農協で働くことになって。ほかにもこちらの保育園で働くようになった方、直接農家さんに雇用してもらうようになった方もいます。ヘルパーを終えてからも美瑛に遊びに来てくれる同期もいて」
「縁もゆかりも無い土地で、知らない人同士で働くって不安かもしれないけど、みんな自分にあった働き方を見つけているような気がします。いろんな人と関わっていくうちに、次の選択肢も広がっていくのかもしれません」
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自然豊かな風景に惹かれて集まってきた人が、ここで交わり、次の道を見つけていく。
丘のまちで深呼吸をしてみれば、あたらしいきっかけに出会えるかもしれません。
(2020/01/30 取材 遠藤真利奈)