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腐葉土みたいな人たち
厚真町3年目の春
その種と、芽

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

東京都心から過疎の村まで。いろんな仕事を取材していて、最近気づいたことがあります。

それは、地方の仕事は「職種」を一言で言い表しにくいということ。

営業、事務、広報、企画、カメラマンなどなど。都市部では細分化されている仕事も、地方では、全部ひとりの人がやっていたりする。

「わたしの仕事は、“いろいろ”です」とか、「募集要項にどう書いたらいいですか」のような相談を受けることもしばしば。

北海道厚真町で活動するエーゼロの花屋さんは、今回紹介する仕事についてこう話します。

「一番の仕事は厚真町に暮らして、人間関係を広げていくこと。ここでの仕事は、地域全体でひとつのプロジェクトチームみたいな感じだから、町の人からの理解が深まれば、それだけいろんなことにチャレンジしやすくなると思っているんです」

エーゼロは、地域で起業しようとする人たちをサポートしながら、人口の少ない地域でも持続していける「ローカルベンチャー」のモデルづくりをしてきた会社。岡山県西粟倉村の本社から、100%子会社として誕生したのが株式会社エーゼロ厚真です。

今回はこのエーゼロ厚真で一緒に活動するスタッフを募集します。まずは町から受託しているふるさと納税の業務に携わりながら、意欲があれば、まちづくりや情報発信、イベント企画などの業務に活動を広げていくこともできます。


北海道南部に位置する厚真町。新千歳空港からは、車で30分ほど。

エーゼロ厚真の現在の事務所は、町の中心部から車で15分ほどのところにある。もともとは保育園だった建物の一部を、ほかの事業者さんとシェアする形で使っている。

取締役の花屋さんはこの厚真と、千歳、東京、それに本社がある西粟倉を行き来しながら働いている。

エーゼロのことは、西粟倉も含めてこれまでに何度か取材させてもらっていますが、ローカルベンチャーの支援にとどまらず、ツアーや町の広報、福祉など…。本当にいろんな側面がある会社ですよね。

「僕らの仕事は、ひとことで言うと過疎化対策。その手段として、『ローカルベンチャースクール』や情報発信、イベント開催っていう日々の仕事があるんです」

ローカルベンチャースクールというのは、「地域には仕事がない、だから離れざるをえない」という人口問題のジレンマに、「仕事をつくる」という発想でアプローチしていく取り組み。

スクールの参加者は、自分のやりたい事業プランを持って過疎地域に移住し、起業し、地域おこし協力隊の制度を利用しながら3年かけて事業の自立を目指す。

エーゼロは地域とのつなぎ役となって、参加者の相談に乗ったり、専門家と一緒になって事業計画をブラッシュアップしたりしながら、伴走していく。

西粟倉村ではじまったこの取り組みが、厚真町でスタートしたのは2016年。

当初は外部のメンターとして関わってきた花屋さん。2018年から取締役として地域に深く入っていくことに。

「そもそもエーゼロっていう名前は、土の表面の『A0層』とよばれる腐葉土に由来するものなんです。地域で挑戦する人たちが 『種』だとすると、腐葉土である僕らの役割は、その種が芽を出せるように、水やバクテリアを蓄えておくこと」

「要するにそれは、僕らがこの町で人間関係をつくっていくことなんです。何かやりたいっていう種を持った人が来たときに、仲間になる人を紹介したり、つないだり。そのための土壌をつくっておく仕事だと思います」

花屋さんはここへ来てから、役場、農業生産者、商工会など、いろんなところに顔を出しては、町の人とコミュニケーションを重ねてきた。

取材や打ち合わせの内容を記事にして、町外に向けて情報を発信したり、町内の人同士で意見交換できる場を設けたり。

町の人と対話のなかから、自分のやるべき仕事を見出してきた。

「新しく入った人にいきなり、僕と同じように自分で全部やってくれっていうのはやっぱり難しいなあと。だから今回入る人には、まずふるさと納税の業務を通じて、厚真町やエーゼロ、町の人のことを知ってもらえるようにしようと思って」

ふるさと納税の業務は、すでにエーゼロのなかで担当している人がいるので、ノウハウを引き継いでいける。

主な返礼品であるお米の生産者をはじめ、町の人と出会う機会も多い仕事。そのなかで自分にできそうなことが見つかったら、情報発信やイベントの企画なども、少しずつ挑戦してみればいい。

「僕らみたいに外から来た人が地域で活動するには、理念だけではダメなんですよ。『ああ、花屋くんがやってるあの事業ね』っていうふうに顔を知ってもらってはじめて、協力が得られると思うので。まだまだ十分じゃないですけどね。」

花屋さんは今、厚真町のなかでいろんな活動に参加している。町内の商工会に理事として参加したり、地元の塾で中学生に数学を教えたり。

昨年の夏祭りでは、盆踊り会場で焼き鳥を焼いた。

花屋さん、1年前の取材のときより町を楽しんでいますね。

「あのころは地震の直後だったし、僕もここに来て2ヶ月とかだったし。とにかくどうしていいかわかんなかった。今楽しいと思えるようになったのは、人間関係ができてきたからだと思いますよ。仲間が増えている実感が持てたというか」

花屋さんたちはこの春から、新しい仲間とともに場づくりもしていくことになった。

「厚真で育った30代のメンバー3人が『ichikara(イチカラ)』っていうチームを立ち上げて、町の空き店舗にコミュニティスペースをつくることになったんです」

建物はエーゼロが借り受けて、ここを新しい事務所としても使用する。

1階は、いろんな人が出入りできるコミュニティスペース、2階はローカルベンチャースクールの参加者が入居するシェアハウスになる。

町の人たちに、もっと身近に活動を知ってもらえる機会も増えるはず。

花屋さんが塾で教えている中学生も、いつかローカルベンチャーに興味を持つ日が来るかもしれませんね。

「そうですね。ここに来てから、時間の感覚も変わりました。今、10年後にこの町はどうなっているかなって、すごく楽しみなんですよ。地域ってやっぱり1年やそこらでは変化は見えない。まずはそこに、居続けることが大事だなあって」


そんなエーゼロ厚真で働いている方を、もうひとり紹介します。

ふるさと納税の業務を担当している小倉さん。厚真町役場の事務所の一角に、その姿を見つけた。

今はパートタイムのスタッフと協力してふるさと納税の業務を担当しているので、オフィスより役場で過ごす時間のほうが長いという。

「せっかくなので、町を案内しますよ」と誘ってもらい、車で移動しながら話を聞く。

「厚真町は南北に長い形をしていて、大まかに言うと北部はお米、中部は畑、南部のほうは畜産の農場があるんです。沿岸部は、北海道のなかでサーフィンができる数少ないスポットなんですよ」

北海道出身の小倉さんは、以前は長野県のNPOで働いていた。エーゼロに入社したのは2017年のこと。

「以前から、小さな地域の経済を動かしていくには、どうすればいいんだろうっていう疑問があって。志だけではどうにもならない過疎の問題に、仕事として取り組みながら勉強したいなと思ってこの会社に入ったんです」

入社当初は、厚真に常駐するただ一人のスタッフとして、ローカルベンチャースクールの運営などに当たっていた小倉さん。

その後、ふるさと納税業務を担当することになった。

「最初は、ウェブのこともふるさと納税のことも全然知識がなかったし、ふるさと納税を扱うシステムも新しく導入したばかりで誰もわからない状態。役場の人とか、システム会社の人とか、いろんな人に助けてもらいながら覚えていきました」

ふるさと納税の主な業務は、ふるさと納税申し込みのためのポータルサイト管理や、寄附者の希望の返礼品が届くように生産者と連絡を交わしていくこと。

重要な個人情報を扱う仕事でもあるので、几帳面さは必要だと思う。

「私も少しずつ、おもしろさがわかってきたところなんですよ。ふるさと納税って、ウェブマーケティングの要素もあって、文章とか写真とか、サイトでの伝え方を工夫すれば、もっと伸びしろがあると思うんです。そしてそれが地域の経済とつながってきます。」

「地震の復旧には、まだ時間もお金もかかる。ふるさと納税も、その助けになると思うので、頑張らないと」

ちょうど今年は、ローカルベンチャースクールの一期生が3年間の学びを終えて、自走しはじめるタイミングでもある。

スクールからはどんなお仕事が生まれているんですか。

「たとえば、昔の日本で行われていた馬搬(ばはん)っていう山仕事を、現代に合ったかたちで再生しようとしている方とか、個人で海外との貿易をしている方とか。本当にいろんな可能性があるんだなって思います」

「町内でローカルベンチャーに取り組む人は増えているんですけど、地元ではまだ『なんだ、それ?』っていう声も多くて。地域で理解してもらうのは、本当に大変なことなんだなって感じます」

「一方では、『ichikara(イチカラ)』のメンバーのように新しいことに挑戦しようという動きも起き始めている。そういう様子を間近に見ているうちに、私も自分で工夫しながら、この町で今起きていることを発信したり、人をつないだりしてみたいと思うようになって」

厚真町内での活動を、自社メディアやメルマガなどで外に発信したり、災害復旧ボランティアに参加したいという町外の人と、手伝いを必要としている事業者をつないだり。

町の可能性を見つけていきたいという目的に向かって、自分の仕事をつくっていく。

「不安もありますけど、新しいものが動いていくっていう楽しみのほうが大きいです。きっとこれからもっとおもしろいことが起こるし、自分もそのなかにいたいから」

話をしながら車で30分も走れば、町をぐるりと一周して海に出られる。

町にやってくるサーファーのこと、渡り鳥のこと、沼のこと、猫カフェやパン屋さんのこと…。小倉さんは楽しそうに厚真の話をしてくれた。

地域の課題だけじゃなくて、いろんな可能性に気付ける目も、大切。

「業務や暮らしのことなら、私から新しく来た人に伝えられると思います。ただ、何をおもしろいと感じるかは人それぞれだから、それは自分で見つけていくしかない。私は、こういう小さい町にこそ可能性があると思うんですよね」

10年後はきっと、今よりよくなっている。

1年前よりもさらに明るい表情で話すおふたりに出会って、そんなことを思いました。

芽吹きの季節だからこそ、身をもってわかること。厚真での挑戦は、きっとこれからいろんな地域での取り組みにも、いい刺激になっていくような気がします。

(2020/2/25 取材 高橋佑香子)
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