求人 NEW

人が集い
行きかうカフェで
場づくりの腕をみがく

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

朝、焼きたてのパンを目当てにご近所さんがやってくる。パンと一緒にいつものコーヒーも一緒に手渡して、玄関まで見送る。

お昼のカレーも自信作。ご近所の設計士とデザイナーさんがちょうど隣同士で座っていたので、お互いを紹介してみる。意気投合したみたいで、なんだかうれしい。

夜はトークイベントのお客さん同士が、「次はこんなイベントをやりたいね」と盛り上がっている。

いろんな人が訪れて、一日のうちに表情も変わっていく。この夏に新しくできるお店『時計台』は、そんな場所になるんじゃないかと想像しています。

徳島の市街地からほど近い、目の前に小さな港をのぞむ万代中央ふ頭エリア。60年前に建てられた倉庫の一つが『時計台』として生まれ変わります。

目指すのは、人と人、人と地域をつなぐ場所。気軽に立ち寄れるカフェでもあり、何か始めたい人のためのイベントスペースでもあり…。いろんなことができそうです。

徳島空港でも販売している銘菓「マンマローザ」をはじめ、おいしいお菓子をつくり続けてきた株式会社イルローザを中心に、建築やデザイン、地域づくりなど、さまざまな分野の専門家が一緒になって準備を進めています。

今回は、このお店の店舗マネージャーとキッチンマネージャー、パン職人を募集します。



羽田空港を発っておよそ1時間半。徳島空港の到着口では、今回のプロジェクトの発起人であるイルローザ代表の岡田圭祐さんが迎えに来てくれていた。

お互い少し緊張しながら、挨拶をすませて車に乗り込む。

そっとカメラを向けると「すみません、カメラを意識すると笑っちゃって…」と圭祐さん。

空気がほぐれはじめたところで、イルローザの看板を掲げた店舗が見えてきた。

「いろいろお伝えしたいことはあるんですけど、まずはうちのお菓子を食べてもらおうと思って」

かわいらしい雰囲気の建物に入ると、ケーキや焼き菓子の甘い香りがふわっと漂ってくる。

「好きなのを選んでください」という圭祐さんのお言葉に甘えて、ティラミスをいただくことに。

なめらかで味の濃いクリームに、細かなココアパウダーがまぶしてある。やさしい甘さのスポンジとコーヒーシロップのほろ苦さのバランスも絶妙。

「おいしいです!」と伝えると、圭祐さんはうれしそうに教えてくれた。

「うちのお菓子は、バターや牛乳、クリーム、卵、小麦粉などの自然素材の味わいを活かすために、乳化剤や安定剤といった添加物を極力使っていないんです」

「食の安心はもちろん、一番の理由は、せっかくの素材の味がぼやけちゃうから。素材やつくり方までこだわるのが、僕たちのやり方です」

徳島を中心に20店舗を展開し、県内有数のお菓子屋さんへと成長を遂げてきたイルローザ。圭祐さんは昨年、創業者のご両親から引き継ぐかたちで代表に就任した。

「うちは最初からお菓子屋さんだったわけじゃなくて。もともと両親が40年前にひらいた『時計台』っていうレストランがはじまりなんです」

へえ、時計台。どんなお店だったんですか?

「モーニングからディナーまで、いろんな人が集まる場所でした。手間暇かけておいしい料理をつくって、ピークタイムになると広い客席が全部埋まって、フロアがいろんな会話で溢れて…。えもいわれぬ高揚感、一体感があって」

お菓子屋さんへと変わった今でも、時計台を懐かしんでくれる人は多い。

「わんぱくセットのおまけのおもちゃが楽しみだったとか、デートで来たんだとか。時計台は、食事だけじゃなくて、楽しい時間と思い出を提供していたんですよね」

もう一度、あの時計台を復活させたい。

そんな想いで、昨年からプロジェクトはスタートした。

舞台となるのは、徳島の市街地からほど近い万代中央ふ頭。港をのぞむ空き倉庫をリノベーションして、今年の夏にオープンする予定だ。正式名称はまだ決まっていないため、今はかつてと同じ『時計台』と呼んでいるそう。

カフェのメインメニューはこだわりのカレーライス。もちろんお菓子やデザートも楽しめる。

さらには、四国産の素材にこだわったパンのテイクアウトも。誰でもふらっと立ち寄って、いろんな過ごし方ができるような場所にしていきたいという。

「一番やりたいのは、人が集うことで出会いやコラボレーションが生まれる場所にすることなんですよ」

そう言って話してくれたのは、圭祐さんから見た今の徳島のこと。

「徳島って、経済指標でも人口でも魅力度でも全国ワースト5に入るんです(笑)。でもまちのなかには『地元のために何かチャレンジをしたい!』って人が、大学生から子育て中のお母さんまで、立場を問わずたくさんいて」

これからの徳島は、まちに暮らす人たちのリアルな声でつくられていくんじゃないか。

あたらしい時計台は、そんな人たちを応援したり、きっかけを授けたりできるような場所になれたら、と圭祐さんは話す。

具体的には、お店のスペースを使って、イベントやワークショップなどの企画を仕掛けていく。

たとえば「徳島をどうしていきたい?」とみんなで考えるようなワークショップを開いたり、神山町や上勝町など、県内でも先進的な取り組みが起こっているまちのプレイヤーを呼んで対話のきっかけをつくったり。

そして、「この町で実現したらおもしろそう!」というアイデアであれば、お客さんの持ち込み企画も大歓迎。

若いお父さんお母さんが子育てについて相談し合うパパママ会や、子ども向けの移動図書館、映画の上映会…。地域の方から、少しずつアイデアも寄せられつつある。

一年目で100件のイベントを開くという目標を掲げつつも、「まだまだ固めないといけないことばかりです」と圭祐さん。

「ただ、なんでもありの場にはしたくなくて。カフェとして間口は広げつつ、『イベントなどはこういう人に使ってほしい』という指針を、これから言語化していきたいと思っています」

現在は、夏のオープンに向けてハードの設計を進めているところ。同時進行で、コンセプトメイキングなどソフト面も考えている。

「どちらも心強いメンバーが力を貸してくれていて。どんな場所にしたいか対話をしながら、お店づくりをしているところなんですよ」



だんだんとお店の概要が見えてきたところで、時計台が出店する万代中央ふ頭へと案内してもらった。

海辺に倉庫が立ち並ぶこのエリア。端から端までは、ゆっくり歩いて5分ほど。倉庫を改装したおしゃれなカフェやフリースペース、飲食店などが出店している。

目の前には港が広がっていて、吹き抜ける風が気持ちいい。

時計台予定地の向かいには、お店の設計を担っている内野設計事務所のフリースペースがある。

中に入ると、一足先にプロジェクトメンバーのみなさんが集まっていた。

設計士の内野さん、伝統産業から企業ブランディングまで広く手がけるデザイナーの大東さん、『神山塾』という人材育成プロジェクトやまちづくりを10年以上続けている祁答院(けどういん)さん。

圭祐さんの想いを受けて「どういう場所にしたい?」「どうしたら事業として成立する?」「イベントやワークショップって、何する?」と、日々話し合っているそう。



そんな時計台のソフト面について考えるメンバーの一人であり、この万代中央ふ頭を何もないところから盛り上げてきた立役者でもあるのが、岡部斗夢(とむ)さん。

実はこのふ頭、もともとは船着き場として栄えていたものの、船がつかなくなってからは荒れ放題だったそう。

「残された倉庫街のロケーションは魅力的だったから、『ここで商売できたら』って考える若い経営者は多くて。それで僕たち商売人が集まって、『この地域を盛り上げよう!』ということで、まちづくりらしきものを15年前に始めたんです」

一帯をみんなで清掃して、イベントも企画して。長い時間をかけて、少しずつ人が集まるようになった。

「どこかの大きな資本や行政のお金がドンと入って一気に様変わりしたんじゃなくて、地元の商人たちの手で地道に成長してきたまちなんですよね」

時計台も、そんな流れを汲む場所でありたい。

その一つとして、ここ内野設計さんと、時計台のお隣の家具店『+wood(タスウッド)』さんで手を組み、人の流れや循環が生まれる仕組みをつくろうとしている。

まず、時計台と+woodを繋ぐ鉄扉を取り壊し、自由に行き来できるようにする予定。

そして、この設計事務所のフリースペースや、目の前の公園も使って「食」や「住」をテーマにしたイベントなども一緒にひらければと考えている。+woodさんからは、「時計台のインテリアをお客さんと手づくりしたい」というアイデアも出ているところ。

地域にひらかれたお店を、地域のみんなで育てていきたい。



「いろんな人が圭祐くんに巻き込まれて(笑)。みんなそれを楽しんでるし、口を出したからには責任を持ちたいと思っています」

そう話すのは、神山町を拠点に人材育成やまちづくりを手がけてきた祁答院さん。

圭祐さんと長い付き合いで、時計台にはコンセプトメイキングなどの面から携わっている。

「今回面白いのは、地域の会社が、ボランティアやなく事業としてまちに関わろうとしていること。持続させていかないと、“人のため地域のため”ってアホらしい、って思われちゃう」

「それはあかんよねって思ったメンバーが、じゃあ、どうしたら事業として成立する? コンセプトやコンテンツは?って話し合っているところです」

今回は、このチーム時計台の一員となる、店舗マネージャーとキッチンマネージャー、パン職人を募集したい。

パンの開発と製造については、長年イルローザとも付き合いのあるパティシエが、オープン後もしばらく力を貸してくれる予定。

ただ、そのほかの現場スタッフは、新卒を中心とするイルローザのメンバーで、想いはあるもののほぼ未経験。キッチンマネージャーとパン職人は、頼もしい経験者を求めている。

店舗マネージャーは、彼らをまとめながら場づくりを進めていくことになる。

「いわゆる飲食店のマネージャーではないよね。この場のアシスタントプロデューサー、コーディネーター候補って言うんかな。3年くらいかけて、じっくり場をつくっていくイメージやと思います」

プロデューサー、コーディネーター候補…。

たとえば、どんな働き方になるでしょう?

「想像やけど、午前中はふ頭の掃除に参加して、デザイン会議やイベント会議に入る。午後はマスト業務としてスタッフの勤怠管理や仕入れをして、新規のイベントのアイデア1本出す。我々が見て、ちゃうかったらごめんやけど不採用。また考えてやーって」

なるほど。場づくりやコミュニケーションのプロを目指すイメージでしょうかね。

「そうそう。楽な仕事やないけれど、ここで得た経験や繋がった人たちとの縁を生かして、次の事業を起こすための鍛錬の場として使ってもいいと思うんですよ」

一人の意見をきっかけに、ほかの人がアイデアを出す。この人たちとだったら、おもしろい時計台をつくれるかもしれない。

「時間大丈夫? 俺ら、止められなかったらいつまでも『時計台は〜』って話すからね(笑)」

まだ形が定まっていない不安よりも、これからつくりあげるワクワクが大きければ、きっといいメンバーになれるはず。

思い切って飛び込むチャレンジャーを、楽しみに待っています。

(2020/02/26 取材 遠藤真利奈)

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