※この仕事は募集終了いたしました。ご応募どうもありがとうございました。
誰かの役に立ちたい。やりがいや、誇りを持って働きたい。
自分や家族を養っていくための収入源にとどまらない、「働く楽しさ」を途上国の人たちとも共有したい。
ビジネスレザーファクトリーはそんな思いから生まれたブランドです。バッグや靴、名刺入れなど、日本のビジネスシーンをいろどるアイテムの企画販売をすすめてきました。
革製品の加工を担っているバングラデシュの現場には、はじめは生きるための手段としてこの仕事についた人も多くいます。それが、日本のユーザーからのリアクションが励みになって、さらに品質を高めていこうという職人としての誇りが芽生えているといいます。
募集するのは、プロダクトデザイナー。日本でのニーズを見ながら、製品の企画やブラッシュアップをしていくのが主な仕事です。
デザインの経験は問いません。つくり手となるバングラデシュのメンバーや、ユーザーになるお客さん。両方のよろこぶ顔を想像しながら働ける人を探しています。
ビジネスレザーファクトリーのオフィスがあるのは、福岡市の卸センターの近く。博多からは、バスで20分ほど。
白い3階建てのビル。玄関で靴を脱いで階段を上がり、2階のドアを開けると壁のない大きな空間が広がった。
30〜40人くらいの人が、それぞれのデスクで仕事をしている。フリーアドレス制なのか。
部署や事業会社の垣根もないみたい。
窓のそばのソファに座って待っていると、代表の原口さんが来てくれた。はつらつとしていて、挨拶だけでもその明るい人柄が伝わってくる。
さっそく、この会社が生まれたきっかけから教えてもらう。
都市部の失業率が高いバングラデシュ。雇用を生み出すための手段として、なぜ革のものづくりを選んだのでしょうか。
「バングラデシュはイスラム教の国で、牛などの肉を神様に捧げるイードと呼ばれる宗教的な祭りがあって、その皮革は海外に輸出されていました。ただ、原料として輸出するよりも、デザインという付加価値をつけて日本で販売するほうが、現地の人に残る利益が大きくなる」
「それに革製品はアパレルの縫製に比べて、組み立て作業が多く、手作業が多いので、それだけ多くの人を雇用できるんです。ミシンが使えないとか、文字の読み書きができないっていう人たちにも働く機会をつくりたくて」
自分たちの直営工場として運営していくことで中間コストが抑えられ、コストパフォーマンスも上がる。
これまでの「本革の製品は高価」というイメージを覆す商品は日本のユーザーにも好評で、5年目の現在、直営店舗は18店舗にまで増えた。
「売り上げは伸びているんですけど、私たちの目標はそこじゃない。もっと雇用を増やしていくことなんです」
今、バングラデシュのスタッフは700人ほど。もっと多くの人に働く機会を提供していくため、近いうちにさらに10〜20店舗を増やし、ゆくゆくは海外にも出店できるように計画している。
原口さんは学生時代から途上国の貧困問題に関心を寄せ、以前はJICAという国際協力機関で働いていた。
社会起業家が集まるベンチャー業界に身を置いてみて、一番に感じる違いは、そのスピード感だという。
「これから先、チームが大きくなっても、スピード感だけは失いたくない。本当に、社会問題は待ってくれないから。ぼーっとしている間に、本当は一緒に働けたかもしれない人たちが、死んでしまうこともあるんです」
消費者として商品を手に取ることは、その活動に一票を投じることにもなる。
ただ、ビジネスレザーファクトリーのお店としては、そのストーリーの伝え方はとても控えめですよね。
「私たちはまず、商品そのものや品質の魅力でアプローチしたい。バングラデシュのメンバーも、日本で納得して使ってもらえる商品をつくるっていうことに誇りを持っていて。もし私たちが日本で『貧しい人たちがつくっている商品です』っていう伝え方をしていたら、悲しむと思うから」
同情票ではなく、本当にいいと思ってもらえる製品を届けるために。
ブランドとしての企画力を高めていくためにも、原口さんは、スタッフ一人ひとりが積極的に意見を出し合えるチームを目指したいという。
「私、『勝手に考えちゃったんですけど』っていうのがすごく好きなんですよ。たとえばデザイナーが店舗のことを勝手に考えて提案するとか、店舗メンバーが経営のことについて意見を言うとか。役割を超えて勝手に考えちゃった、っていう。そういうのは『ぜひ聞かせて!』って思いますね」
メンバーみんなが、自分ごととして事業に関わってほしい。
お互いにコミュニケーションをとりやすい関係であるために、原口さんはスタッフとプライベートのこともよく話すのだそう。
「みんなの彼氏彼女のことも知っていますし(笑)、あとは家族の介護をしているとか、障害を持っているとか。仲間として働くために、お互いの強さも弱さも知っているって大切なことだと思うんです」
原口さんによると、メンバーの共通点は「愛があること」。ものづくりの経験よりも、会社のビジョンに共感して仲間に加わる人のほうが多いという。
今プロダクトデザインを担当している吉田さんは、もともとWebデザインの仕事をしていた方。
ビジネスレザーファクトリーが手がけているのは、ビジネスバッグや、ビジネスシューズなど、ビジネスシーンに必要なアイテム。
そのデザインはどれもシンプルで、働く人のかゆいところに手がとどくような機能性の高さを目指している。
「商品開発のときは、まず僕が何パターンかサンプルをつくって、そこからメンバーみんなで話し合って決めていくんです」
形はどれがいいか、使いやすさはどうか、価格や商品名はどうするか。実際のビジネスシーンを思い浮かべながら、細かなパーツの仕様なども考えて組み立てていく。
デザイナーの仕事は、自分のクリエイティビティを発揮するというよりも、チームみんなの意見をまとめてかたちにすること。
独自のセンスや個性より、ビジネスシーンでバッグやケースを使うユーザーの目線に立てることが大切なのかもしれない。
「最初のころは、みんなの意見を全部反映しようとしすぎて失敗しました(笑)。それをやっちゃうと、原価も高いし、重いし、使いづらいし、本当にへんてこりんなバッグになっちゃって」
うまく整理をするのが、大事なんですね。
「そうですね。僕は自分の考えを伝えるときも、つい感覚とか熱量に頼って説明してしまいがちで…。こういう理由でポケットは2つ必要だと思います、って言葉でうまく伝えられる人が一緒にやってくれると助かるなあって思います」
同じデザインでも、吉田さんが以前関わっていたWebデザインと革のものづくりはまったく違う。特に、人との関わり方においてそれを感じるという。
新しく靴の企画をはじめたときは、浅草で木型をつくっている職人さんのところに話を聞きに行ったり、バングラデシュで鞣(なめし)をしている業者さんをあちこち訪ねたり。
「みんながあーでもない、こーでもないって、いろんな意見をくれるんですよ。大変だったけど、いろんな人に出会えて楽しかったです」
吉田さんがこだわってつくった靴のシリーズを見せてくれた。
木型を細かく削り、今の若い日本人男性の足にぴったり合う形に仕上げた。試着した瞬間に表情が変わるお客さんも多いのだそう。
「お客さんの声が直接聞けるっていうのも、僕たちのチームの強みだと思うんです。具体的な改善のヒントがもらえたり、思った通りのリアクションでうれしくなったり」
吉田さんにとっては、人とのつながりのなかでものを生み出したり、誰かと達成感を共有したりすることが、デザインの楽しさなんですね。
「ああ、そうかもしれないですね。最初はバングラデシュのメンバーたちとうまくコミュニケーションがとれなくて、指示とは違うサンプルができたりして、大変でしたけどね(笑)」
今では、たいていのものは大まかなイメージを伝えるだけでちゃんとしたサンプルが返ってくるまでになったという。
それは、現地の生産のメンバーの技術が熟練してきたこともあるけれど、吉田さん自身、なんどもバングラデシュに足を運んできたから。
「向こうに行くと、図面を前に直接やりとりできるし、実際に縫うところも見せてくれるんです。そうすると、ああ、僕の指示した縫い方は難しいんだなとか、量産だと時間がかかるんだなっていう気づきもあって」
「僕はバングラデシュとのやりとりに慣れてきましたし、新しく入る人にもし抵抗があるようなら、海外出張はマストではないですよ。しっかり企画を一人でできる人なら、僕が設計、その人が企画という分業でもいいですし」
とはいえ、やっぱり現地でつくり手の顔を見れば、モチベーションも上がってくるはず。
出張に行くと、必ず工場の親方にお昼ご飯に誘われるという吉田さん。その様子も話してくれた。
「向こうの食卓はカレーが多いんですけど、僕がいつもカップ麺を持っていくせいか、家に行くと必ずラーメンを一緒に出してくれるんです。ただ、それがバリ辛くて(笑)。思わず『辛いっす!』って言ったら、次の日から卵とかジャガイモを入れてアレンジしてくれて」
「しかも、一回親方の家に行ったっていうことがわかると、その弟子とかフロアマネージャーが『明日はうちに来てくれ』って言ってくれるんです。すごく温かいんですよね」
自分が企画した製品を、誇りを持って形にしてくれる人たち。さらに、その仕事を通じて支えられる家族がいること。
今まであまり社会問題に関心がなかったという吉田さんも、彼らと接していくうちに、意識が変わってきた。
「本当に出会えてよかったなと思います。知らなかったら一生損をしていたと思います。僕の残りの人生は、少しでもバングラデシュの人たちに残せるものをつくりたいなって思いますね」
ビジネスレザーファクトリーとして企画する商品は、工場でアレンジすればOEMとして他国向けに販売していいということになっている。
よりよい企画をすれば、それが彼らの次の仕事をつくるきっかけにもなる。
バングラデシュの人たちの手から生まれたアイテムは、日本のビジネスシーンで使われて、誰かの「働く」を楽しくすることができる。さらに、そのユーザーの声を拾い上げることで、新しいアイテムが生まれて、お店が増えて、一緒に働く人が増えていく。
企画の仕事は、「働くことを楽しむ」バトンリレーのスタートなんだと思います。
(2020/3/30 取材 高橋佑香子)
※撮影時にはマスクを外していただいております。