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お風呂とサウナで
工芸の村を沸かす
自由に遊ぶ、番台さん

扉を開けると、木の香りがふわっと広がる。

ジュワーっという音とともに立ち昇る、ロウリュの蒸気。

数分間じっと耐えて、芯まであたたまった体を、キンと冷えた水風呂へ沈める。

「最高のサウナを、自分の手でつくりたい」

そんな憧れをもつ人に、今回紹介する場所はぴったりです。

静岡県静岡市にある「駿府の工房 匠宿(たくみしゅく)」。

竹細工や染物、木工といった静岡の伝統工芸の工房が集まり、職人さんの近くでものづくりを体験できる施設です。

敷地内にはカフェやギャラリーがあったり、歩いてすぐの場所には古民家を改装した宿があったり。暮らしのなかで工芸を感じられる、ひとつの村のような場になっています。

2025年1月。このエリアにオープンしたのが、温浴施設「ふきさらし湯」。今回はここの責任者を募ります。

お風呂をきれいに保ち、お客さんを笑顔で迎える。日々の運営を大切にしながら、もうひとつ、挑んでほしいことがあります。

それは、お風呂とサウナをきっかけに、匠宿のエリア全体を沸かせること。

「年間何万人呼ぼう、みたいなカチッとした戦略じゃなくてもいい。たとえば『こだわりきったサウナをつくって、結果として投資分と同じくらいの売上がつくれる』ならそれでもいい。楽しんで運営してくれる人がいいんですよね」

そう話すのは、この場所を運営する株式会社創造舎の鈴木さん。

好きだからこそ生まれる、ちょっと突飛なアイデアがあってもいい。

山あいの隠れ里で、自由な実験がぽこぽこと生まれています。

 

東京から新幹線で1時間。静岡駅で降り、車に乗り換えて15分ほど走ると、「丸子(まりこ)」という地域に入る。

かつて東海道の宿場町として栄え、とろろ汁などが名物として知られる場所。

車を降りると、山の稜線がくっきりと近くに見える。三方を山に囲まれた、細長い谷のような地形。意外にも、ここから富士山は拝めなさそうだ。

この日は1月の半ば。静岡は雪が降らないと聞いていた通り、あたたかく、穏やかな空気が流れている。

通りから一本入ったところに、平屋や二階建ての日本家屋がいくつか点在する集落のような場所が見えた。ここが「駿府の工房 匠宿」だ。

歩いているところに声をかけてくれたのが、このエリアの立ち上げから関わっている鈴木さん。

「立ち上げた当初は、本当に誰もいなかったんです。広い施設内に、私とお客さん2組だけ、みたいな(笑)。娘にも『お母さん、ここで働くの本当に大丈夫?』って心配されるくらい、静まり返っていましたね」

ここはもともと、20年以上前に市が建てた体験施設。地元の小学生が社会科見学で訪れることはあっても、休日にわざわざ遊びに行く場所ではなかったという。

転機は5年前。地元の建築設計事務所である創造舎が市の第3セクターから運営を引き継ぎ、大規模なリニューアルを実施。

建築の力で空間を一新し、「今の暮らしに馴染むかっこいいもの」として工芸の見せ方を変えた。そうして少しずつ、人の流れが生まれてきたという。

案内してもらいながら、エリアを歩いてみる。

まず目につくのが、ものづくりの工房が集まる「駿府の工房 匠宿」。

ガラス越しに中を覗くと、静岡の伝統工芸「駿河竹千筋細工(するがたけせんすじざいく)」の職人さんが、竹ひごを一本一本組み上げて、虫かごや花器などをつくっている。

隣には染の工房があり、さらに奥へ進むと木工の機械や陶芸のろくろが回っている。

ものづくり以外にも、カフェや県内の日本酒やワインを扱うスペース、ビールの醸造所など。職人さんの作品を購入できるギャラリーもあるようだ。

「この場所の面白さは、ここから先にあるんです」と鈴木さん。わくわくしながらついていく。

匠宿の敷地を抜けて、「匠宿 工芸の村」へ入る。

約700メートル続く一本道に沿って、古い空き家や倉庫をリノベーションした店舗が点在している。

株式会社タミヤ監修の模型工房や、ペットと泊まれるホテル。最奥には、古民家を改装した一棟貸しの宿もある。

ふきさらし湯があるのも、このエリアの一角だ。

半露天のお風呂とサウナ、そして上半身まで浸かれる水風呂があり、宿泊客だけでなく、日帰り客も利用できる。サウナ好きを中心にリピーターも増えてきた。

「運営も落ち着いてきたなかで、まだ足りないものがある。ふきさらし湯を目当てに来た人が、カフェでコーヒーを飲むとか、ふらっと工芸体験をして帰るとか。人の流れをつくりたいんです」

「私たちは建築の会社なので、“かすがい”っていう言葉を使うんです。木と木をつなぎ合わせる金具のことですね。このエリアには、工芸や宿、美味しいものがある。ふきさらし湯は、それらの魅力をつなぎ合わせるかすがいになれると思うんです」

エリア全体をつなぎ合わせる軸として、お風呂を育てていきたい。そのために、数字の管理も含めて、事業全体をハンドリングできる人がほしい。

 

「お風呂とサウナが大好きな人がいいんですよ」

そう言葉をつなぐのは、匠宿の館長を務める松本さん。入社4年目。前職ではプロバスケットボールチームの飲食部門を担当していた。

広報として入社し、今は匠宿の責任者へ。ふきさらし湯の責任者とは、エリアを盛り上げるパートナーのような存在だ。

「ここはね、本当にいろんなことができますよ。働くスタッフが、いい意味で役職や肩書きにとらわれないんです。エリア全体が良くなることなら、何にでも首を突っ込むスタンスですね」

その振れ幅は、想像以上に自由。このエリアを舞台に映画を撮影したこともあって、松本さんもエキストラとして出演したことも。

松本さん個人としても、 “おもしろそう”発信で、いろいろな取り組みを仕掛けてきた。子どもたちが職人さんに弟子入りする体験企画など、人気コンテンツに育っているものも多い。

印象的なのは、匠宿でお酒を楽しむ“宴”イベント。

営業時間を夜まで延長し、職人さんたちが目の前でろくろを回したり、染め物をしたりと技を披露する。

お客さんは、地元のビールや日本酒、おつまみを片手に、その様子を眺め、夜だけの特別な工芸体験に参加することもできる。

フィナーレには、静岡でつくられた花火の演出も。

楽しそうな光景だけれど、実現するのは簡単ではなかった。

もともと市の施設だったのもあり、夜間の営業はできないというのが通例。

「夜にお店を開けるなら、そのぶんの光熱費や人件費がかかりますよね。じゃあ、お酒一杯いくらに設定すれば元がとれるか。何人のお客さんが来てくれれば赤字にならないか。その時ばかりは必死に電卓を叩いて、周りのスタッフに説明して回りました」

やりたいことを形にする過程で、必要な数字の感覚を身につけていった。

「匠宿エリア全体は、この5年でようやく地面が固まったくらい。だからふきさらし湯も、まだ完成形じゃないんです。新しく入る人には、このエリア全体を使って遊んでほしい」

数字を見る、と聞くと、決算書を読み解いたり、緻密な経営戦略を練ったりすることを想像して身構えてしまうかもしれない。

ここで求められているのは、松本さんが経験してきたような、もう少し肌感覚に近いもの。

「別に最初から完璧なPLが読めなくてもいいんです。私もKPIがなんだとか、そこまでロジックを完璧に考えられるかと言われたら、怪しいですから(笑)」

大切なのは、自分なりの根拠をもって「これをやりたい」と言えるかどうか。それを実現するために、お金と人をどう動かすか、というシミュレーションからはじめてみる。

たとえば、今月はお客さんが少なそうだと予測したら、イベントを企画して、その予算を捻出するために、シフトを調整して人件費をコントロールしよう、といった感じ。

サウナ好きとしてのこだわりも、そのままビジネスの種になる。

「最高級のサウナストーンに入れ替えたい」「ロウリュで使うアロマの香りにこだわりたい」

そのために、貸切サウナの日をつくって客単価を上げてみたり、オリジナルのサウナグッズをつくってみたり。投資分をどう回収するか、仮説を立てて、自由に実験を繰り返していく。

会社には、財務や広報のプロもいる。小さなことでも相談すれば、知恵を貸してくれる環境はある。

お風呂につかるお客さんの顔を見て、ぽかんと湧いてくるような、やわらかなアイデアを膨らましていくとよさそうだ。遊び心があるほうが、参加するほうも楽しい。

チェーン店などでの店舗運営をイメージすると、ギャップが生まれやすい。むしろ、店舗運営や接客業の経験がない人が飛び込んでもおもしろいかもしれない。

「私も匠宿の責任者として、エリア全体が盛り上がるように企てたい。一緒に楽しめるような人が来てくれたら、すごくうれしいですね」

 

最後に話を聞いたのは、ふきさらし湯の企画広報と現場運営を兼務している白石さん。

入社2年目で、神奈川県からの移住組。もともとはホテルや観光施設で働いていた。

ふきさらし湯のInstagramによく登場していることにこちらが気づくと、照れくさそうに笑う。

今のふきさらし湯のスタッフは、社員とパートあわせて10名ほど。

白石さんは、SNSでの発信やイベント企画といった広報業務のかたわら、お風呂の清掃や受付などの現場業務もこなしている。

「現場のスタッフは、みんなすごく意識が高いです。『ここの水垢が気になる』とか『お客さまにこう声をかけよう』とか、自分たちのお店だというプライドを持って働いてくれています」

だからこそ、新しく入る人は、そうした現場の細部を大切にしてほしいという。

「オープン前にはお風呂掃除をして、薪ストーブの管理をして、脱衣所を整えて。華やかな企画だけじゃなく、そういう地味な作業も大切にできる人でないと、スタッフからの信頼は得られないと思うんです」

白石さん自身、最初は企画職としての採用だったけれど、現場に入ってみて気づくことがたくさんあった。

「お客さんの様子を見てサウナの温度を上げたり、サウナに人が少なかったらゲリラで熱波をしたり。現場にいないとわからない空気感ってあるんですよね」

ふきさらし湯の1周年イベントでは、お茶をテーマにしたロウリュを開催し、オリジナルのサウナハットも制作。現場の熱量をそのまま企画に落とし込んできた。

一方で、どうしても日々のオペレーションを回すことに精一杯になってしまっている現状もある。

「本来なら中長期的な視点で方向性を定めないといけないのに、どうしても毎日のシフトをどうするかで頭がいっぱいになってしまって」

全体を指揮する責任者が加われば、みんなの視線をもっと上げることができる。オペレーションが安定すれば、もっとおもしろいことを生み出せる。

近隣には競合となる温浴施設もあるけれど、ここには“工芸”という独自の文脈がある。

「お風呂上がりに、工芸品のグラスでドリンクを出したら、おもしろそうだな」

ぽつりぽつりと、湧いているアイデア。遊び心をもって、企みごとに変えてみる。この場がいい湯加減になっていく。

好きだからできることも、ひとりではないから実現できることも、両立できる場所だと思います。

(2026/1/22 取材 田辺宏太)

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