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一息ついて
また続いてく
呼吸する店の不思議

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

「カフェって多様性があるんです。友だちとしゃべりに来る人もいれば、仕事する人、一人で本を読む人も来る。メニューも、カフェと言えばこれ!というものがないのがよくて。100人いたら100通りの答えがあるお店にしたいんですよね」

そう話すのは、KAN,MA(カンマ)で働く松本さん。

KAN,MAは、京都・舞鶴にあるスペースです。広々とした庭を囲むL字型の平屋建てで、住宅のショールームとカフェからなっています。

最寄りの西舞鶴駅からは、車で10分ほど離れた立地。ちょっと不便なようにも思えますが、地元の常連さんを中心に、休日は1時間以上離れた京都市内からもお客さんがやってくるそうです。

実は3年ほど前、オープニングスタッフの募集で一度取材する機会がありました。

当時「ここにお店ができます」と案内された場所は、雑草がぼうぼうと生えた1200坪の更地。その後、SNSを通じてお店ができていく様子をうれしく眺めていたところに、スタッフ募集のお知らせをいただきました。

立ち上げから調理を担当してきたシェフが次のステップに進むということで、今回はその後任となる人を募集します。

この3年間を振り返りつつ、これからどんな場所になっていきたいか。じっくりとお話を聞きました。

(新型コロナウィルスの感染拡大を受け、オンラインにて取材を行いました。なお、現地の写真は提供いただいたものを使用しています)

 

指定の時間の少し前に画面をつなぐと、一人、また一人と顔が映し出されてゆく。

今回取材するのはこちらのみなさんだ。

まずは近況を共有するところからスタート。

4月9日現在、お店は対策をしながら営業を続けていて、「ひと昔前のあまりお客さんがついていなかった時期」のような雰囲気だという。

「ぼくは子どもが2人いるので、私塾をひらいて。午前中は塾長として子どもと一緒に勉強して、午後から働くという生活をしてます」

そんなふうに近況を教えてくれたのは、団遊(だん・あそぶ)さん。KAN,MAを運営する株式会社小さな広場の代表のほか、いくつかの会社の経営に携わっている。

いわば経営のプロなのだけど、とても親しみやすい雰囲気の方。

KAN,MAプロジェクトの発起人は、舞鶴で長年さまざまな建築を手がけてきた大滝工務店の3代目、大滝雄介さん。

その大滝工務店が“負の遺産”として抱えてきた1200坪の遊休地を、どのように活かせるか? さまざまな分野のプロフェッショナルが集められるなか、経営面からチームに加わったのが団さんだった。

「舞鶴の人にとって、居心地のいい場所をつくりたいなと思って。それも、ただ単に『いいカフェできたね』じゃなくて、その場所ができたことでいろんな新しいことが起きてるよねとか、もっと舞鶴のことを好きになったとか。そんなふうに思ってもらえる場所をつくりたい、と考えながら活動してきた3年間だったなと思います」

料理やドリンクを提供するだけでなく、庭を使ったイベントや出張コーヒー教室なども開催。

さらには、舞鶴の写真をInstagramで集める「舞鶴写真部」という企画や、近隣の児童養護施設の子どもたちを招いたクリスマスパーティーなど、さまざまなことに取り組んできた。

「KAN,MAは、静と動でいうと静の場所かなと。イベントも、みんなで盛り上がろうぜ!っていうよりは、地元の人も気づかないような舞鶴の表情に出会ったり、ほっと一息ついてリセットしたり。心地よくほっとかれる感じ」

 

普段は東京にいて、月に1、2回舞鶴を訪ねている団さん。

「そのあたりのお店の雰囲気は、彼がよくわかっていると思いますよ」とバトンを渡されたのは、KAN,MAの施設長を務める松本さんだ。

日本仕事百貨の記事を読んで、3年前の立ち上げ時からKAN,MAに関わってきた。

それ以前は、東京にあるインテリアの専門学校に通っていたという。卒業後の進路として、インテリアデザイナーや設計士を目指す人が多いなかで、なぜカフェだったんだろう。

「強い志があったわけじゃなくて。お店をつくるのが単純におもしろそうだなと思ったんです。カフェならイベントもできるし、お客さんのインテリアの相談にも乗れる。自分のやりたいことをいろいろと実現できそうだと思って」

たしかに、カフェって決まった形がない。立ち上げのタイミングだからこそ、自由度もとても高かった。

実際に集まったのは、飲食や店舗運営はほとんど未経験というメンバー。松本さんはホールマネージャーという形で採用された。

「ぼく、あまり接客は好きじゃなくて(笑)」

接客は好きじゃない…けどお店をやりたかった?

「人とコミュニケーションをとるのは好きなんですけど、いわゆる“接客”はしたくない。いらっしゃいませって言ったことないし、45度のお辞儀もしたことない。どうもーとか、ちわーとか、そういう感じで」

「お店も『人』だと思ってるんです。要は、人としか関係性ってつくれないので。『お客さんにイラっとすることもあります』とか、Instagramでも普通に言いますし、言わないでお店っぽくしているほうが、むしろそこにファンはつかないんじゃないかなって」

KAN,MAのブログやSNSを見ると、その言葉どおり、松本さんの考えや価値観が色濃く表れている。

お店のこと、お金を稼ぐことについて、ふと思ったこと…。

ラジオを聴いているみたいに、松本さんの言葉が届いてくる。

「お店の大事なコミュニケーションのひとつに、置き手紙っていうものがあって。テーブルのうえにペンを置いておいて、紙ナプキンにメッセージを書いて残してもらうんです。その返事を、ぼくがInstagramのストーリーに投稿する」

それってアンケートにも似ているけれど、だいぶ違いますよね。

「そうですね。お店って、ご飯を食べる、お金を受け取るっていう“テイク”の関係性になりがちじゃないですか。でもそこで、ちょっとしたサービスとか気配りのある一言があると、お客さんもお金じゃない何かで“ギブ”したくなると思うんです。そのきっかけが置き手紙で」

「感謝の言葉でも、クレームみたいな内容でも、必ず返事を書くんですよ。手紙なので。そうやって返事があると、また行きたいと思ってもらえる。そういうギブの関係性をつくっていきたいなって」

「接客は好きじゃない」と聞いたとき、最初はちょっと驚いた。けれどそれは、素直に人と関わっていたいという松本さんの気持ちの表れだった。

これから仲間に加わる人にとっても、この感覚は大切なもののような気がする。対お客さんだけでなく、一緒に働く人とも素直に向き合うこと。ギブの関係性を築いていくこと。

 

松本さんとともにKAN,MAをつくってきたシェフの杉山さんにも、話を聞いた。

一通、印象的に残っている置き手紙があるという。

「お子さん3人連れのお母さんがいて。子どもたちはいつも、料理の絵を描いたり、たどたどしいひらがなで何か書いてくれるんですけど、あるときお母さんが『お年玉、何に使いたい?』って聞いたら、『KAN,MAのプリンを食べたい』と。『できたらカレーも食べたいけど、お年玉で足りるかな』って、置き手紙に書いてあって」

ああ、それはいいですね。

「率直な子どものリアクションがうれしかったですね。ああ、やっててよかったなと。忙しいときもできるだけ、一人ひとりに向けて料理や空間、サービスを提供していきたいなと感じました」

子どもたちが食べたいと言ったカレーやプリンは、KAN,MAの人気メニュー。

万願寺とうがらしがとれる季節には、スパイスに取り入れてグリーンカレーをつくったり、プリンには舞鶴の山奥で平飼いされた鶏の卵が使われていたり。

地域の食材もたっぷりと使われている。

WebサイトやSNSの写真を見る限り、とってもおいしそう。

もともと料理経験はあったんですか?

「ほとんどなくて。アルバイトでしゃぶしゃぶやカレーのお店の調理補助をしていたぐらい。前職は商社で営業をしてたんですよ。もうちょっと手に職をつけたいなと思っていたときに、松本と同じく日本仕事百貨さんの記事を読んで、ご縁があってこちらに来ました」

未経験から、カフェの立ち上げに関われる。そんなチャンスは滅多にない。

奥さんとふたりで舞鶴に移住し、器選びからメニュー開発、日々の調理まで。ほかのメンバーとも話し合いながら、ひたむきにお店づくりを続けてきた。

「3年間がむしゃらにやってきて。お店の経営も回るようになってきて、心に余裕が出てきたんです。そうなったときに、自分のなかで、もっとほかのお店のやり方も学んでみたいなって気持ちが湧いてきて。これから別のところに居場所を移してみようかな、というところです」

新しく入る人に引き継ぎをしつつ、次のステップを考えていきたいそう。

まずは既存メニューを習得するところから、ゆくゆくは新メニュー開発なども行ってほしい。デザートを担当するパティシエの方もいるので、一緒に新しい形をつくっていけるといい。

「すでに回っている現場に入っていただくことになるので、ある程度調理の経験はある方がいいかなと思います。あとは正直なところ、みんなで皿洗いから接客から、一緒にやりつつ、+αでぼくだったら仕込みや調理をしている現場なので。どちらかというと、キビキビ動ける方に来ていただけたらありがたいなと思いますね」

ほっと一息つける時間を、お客さんに提供するために。裏側では、せわしなく頭と体を動かすことが求められる。

のんびりとしたイメージだけを持っていると、ギャップを感じるかもしれない。

ほかにも、何か大変なことはありますか?

そう尋ねると、団さん。

「意外と松本がめんどくさいっていうところかな(笑)。もちろん歓迎はするんですけど、至れり尽くせり感はなくて。え、来たくて来たんやんな? 何がしたいん? みたいなコミュニケーションが基本なので。自由と責任はセットですよ、みたいなところはあると思います」

そこへ「ぼくもそれ、言おうと思ってました」と重ねる松本さん。

「ぼく、めちゃくちゃうるさいので。すぐ文句も言うし、めんどくさいと思う(笑)」

カフェという箱の寛容さと、松本さんのこだわりと。絶妙なバランスのうえに、このお店は成り立っているんだな。

このあたりの空気感は、本当はお店を訪ねて感じるのが一番なのだけど、難しいうちはぜひブログやSNSの投稿を読んでみてほしい。文章や写真からも、感じとれるものがあると思う。

 

最後に、松本さんがふと口にした理想のお店についての言葉を紹介します。

「なんというか、すごく普通の店がよくて。ふらっと来て、ぼーっとして、コーヒーでも飲んで帰るんだけど、来る前より後のほうがちょっといい気持ちになっていれば、それでいい。その繰り返しが地域貢献にもなると思うので。普通のカフェでありたい、っていうことは思っていますね」

「,」のあとには、文章が続いていく。

まだ3年。これからもじわじわと、着実に、変わってゆくお店だと思います。

(2020/4/9 オンライン取材 中川晃輔)

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