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これからどうなっていくんだろう。
漠然と、そんな想像をする時間が増えました。
仕事も暮らしも、従来のやり方は、たしかに通用しなくなるかもしれない。その一方で、新しいあり方を再構築していけるタイミングでもあるように思います。
群馬県の山奥に位置する温泉街、四万(しま)温泉。その一角に“スパゲストハウス”をつくるという、新たな取り組みがはじまっています。
仕掛け人は、株式会社エスアールケイ代表の関さん。家業だった旅館を継いで、「鹿覗キセキノ湯 つるや」として再生したり、2017年にはグランピング施設「SHIMA BLUE」をオープンしたりと、この地でさまざまなチャレンジを重ねてきました。
今年の10月にオープン予定の施設の名前は、スパゲストハウス「ルルド」。4万の病を治すと伝わる四万の温泉を活かしつつ、既存の“旅館”の枠にとらわれない、新たな宿泊業の形をつくっていきたいそうです。
今回はそんな「ルルド」のオープニングスタッフと、エスアールケイの展開するさまざまな事業に携わる新卒スタッフを中心に募集します。経験は問いません。
(新型コロナウイルスの感染拡大を受け、オンラインにて取材を行いました。なお、現地の写真は提供いただいたものを使用しています)
つないだ画面の先には、今回取材させていただく3名の方が待っていた。
2020年4月30日。例年なら繁忙期だけれど、今年は休業中とのこと。地域のお店もまだまだお休みのところが多いようだ。
まず話を聞いたのは、代表の関さん。
近況をざっくばらんに共有していたら、こんな話をしてくれた。
「実は今、大学院の2年目なんです」
えっと、それはお子さんが?
「いや、わたし自身が。大学時代は文学部だったので、経営をちゃんと学びたいなと思って」
大学を卒業後、旅行会社に勤めていた関さん。30歳のとき、経営難に陥っていた家業の「つるや」を立て直すために戻ってきて、年商およそ30倍の人気の宿へと再生させた。
大人になってから何か学びたいと思うことはあるけれど、それを行動に移せるってすごいことだなあ。経営者としての実績もあるのに。
きっと、新しいことを知ったり、実践したりするのが好きな方なんだと思う。
経営を学びたいと思った背景には、旅館業の厳しい現状も関わっているという。
「まわりの経営者に聞くと、みんな疲弊しているんですよね。“おもてなし”や“サービス”を際限なく続けてきた結果、端的に言えば非常に儲かりづらい形になってしまっている。働いてる人は一生懸命やっていても、高いお給料を払えなくて続かない。そんな悪循環になっていて」
一時期は町会議員や四万温泉協会の会長も務め、まちぐるみで施策を打ってきた関さん。ただ、客足はなかなか伸びず、廃業を迫られる地域内の旅館は増えるばかり。
旅館のあり方を、根本から変えていかないといけない。業界で当たり前とされてきた“おもてなし”や“サービス”について、学問の視点も取り入れながら、一つひとつ見直していった。
「経営を学んでいくと、今まで自分が大切にしてきたことと重なる部分があるんです。そのひとつが『自遊旅設計』で」
自遊旅設計。
「旅館側から一方的にサービスを提供するんじゃなくて、自由に遊び方や過ごし方を設計できるほうが、実はお客さんもうれしいんじゃないかという考え方です。これはうちの会社の理念にもなっています」
そんな発想から2017年に生まれたのが、計7棟からなる「SHIMA BLUE」。四万の自然と温泉を活かしたグランピングスタイルの施設だ。
食事はバーベキューがメインで、お客さん自身で食材を焼いて楽しめるようになっている。オペレーションがシンプルなおかげで、スタッフも少ない人員で余裕をもって働けるようになった。
「ただ、グランピングだと単価が高いんです。もっと気軽に、いろんな楽しみ方ができる場所をつくりたい。ほかにもやりたいことはたくさんあって」
今回オープニングスタッフを募集するスパゲストハウス「ルルド」は、その足がかりとなる大事な拠点。10月のオープンに向けて、準備を進めている。
SHIMA BLUEから歩いてすぐの元湯宿をリノベーション。最大で70名ほどが宿泊できるそう。
関さんは、この場所をつくるにあたっていくつかの戦略を立てている。
「1つめはIT化です。セルフチェックイン・チェックアウトの仕組みを導入して、キャッシュレス化も進めます。2つめがオープンイノベーション。自前の料理人を減らして、地域の飲食店を集めたフードコートをつくろうと考えています」
IT化は想像がつくけれど、地域の飲食店を集めたフードコートって、どういうものだろう?
「たとえば、1軒決まっているのはパン屋さん。朝食にサンドイッチとコーヒーのセットを出してもらうとか。あとは町内においしい居酒屋さんもあるんですが、代行車を呼ばなきゃいけないので、ハードルが高い。ゲストハウスのなかに出店してもらえば、その心配もないですよね」
売り上げの一部はゲストハウスに入り、お店としてはいろんなお客さんに出会える。連泊する宿泊客の目線で考えても、個性的な地元のお店の味を日替わりで楽しめるのがいい。
「それから、新しいワークスタイルへの対応も考えています。ここで働きながら滞在したり、企業さんの合宿に使ってもらったり」
外出自粛期間が長引くなかで、リモートワークをはじめる企業も増えた。旅しながら働きたいという需要も今後増えていくかもしれない。
旅人やリモートワーカー、外国人観光客など。多様なお客さん同士はもちろん、スタッフの寮も併設しているので、シェアキッチンなどの場を介してここで働く人とお客さんとの交流が生まれることも考えている。
さらには、アートも大事な要素のひとつ。四万温泉のある中之条町では、2年に一度芸術祭が開かれているものの、会期が終われば町からアートがなくなってしまう。そのことに、関さんはもったいなさを感じていたという。
ルルドに行けば、いつも誰かが展示していたり、滞在制作しているアーティストがいたり。そんな光景をつくれたらおもしろい。
「滞在制作をしながら旅館でアルバイトをしてもらうこともできますし、この土地が気に入って住み込む人も出てくるんじゃないかと思っていて。お店を出したいとか、こんなに人が集まるなら自然体験ツアーを企画しようかとか。働く人も外から来る人も、成長の糧にできるような場所にしていけたらいいのかなと」
かなり盛りだくさんなゲストハウスになりそうですね。
この場所を通じて関さんが実現したいのは、どんなことなんでしょうか?
「“旅館はこうでなきゃ”という固定観念を壊していきたいんです。もしここがうまくいったら、『じゃあうちも夕食なくして、地域のお店で食べてもらおうかな』って旅館さんが出てくるかもしれない」
たしかに、既存の旅館に取り入れられることもありそうです。
「もっと言うと、今やろうとしてることって、全国どこの温泉地でもできると思うんですよ。温泉と自然は共通の資源なので。宿単体として儲けるだけじゃなくて、地域活性のモデルのひとつになれるように、とにかく成功させたいんです」
宿泊業に対する見方を変えたい。
関さんに続いてそんな想いを語ってくれたのは、スタッフの渡邊さん。日本仕事百貨の記事を読んで応募し、昨年の7月から働いている。
「美大を卒業してから14年間、デザインの世界にどっぷり浸かっていて。あまり人には言ってなかったんですけど、20代のころから、いつか宿泊業をやりたいと思っていたんです」
転職のことを話すと、周りからはいろんな声があがったそう。
「お客さんとして宿に泊まるのと、自分で運営するのは違うとか、これまでの経験が活かせないんじゃない?とか。でもデザインだって、締め切りもあればアイデアが浮かばない日もある。どちらにしても大変なことはありますよね」
どうして東京のデザイナーはよくて、地方の宿泊業は反対されるんだろう。渡邊さんにとっては、そのことが不思議だった。
「だからわたしは、宿泊業を憧れの仕事にしたいんです。ちゃんと稼げて、健康的で楽しい仕事にしたい。そのためにやらなきゃいけないことはまだまだあると思います」
入社後は、掃除や配膳、フロントなど、つるやの運営に関わるさまざまな仕事を経験。今年の4月からルルドの立ち上げ準備に携わっている。
今回募集する人も、ルルドのオープンに向けた会議などに参加しつつ、まずは宿の基本的な仕事を覚えることになると思う。既存の仕事を経験するなかで、改善できるポイントも見つけていけるかもしれない。
「もともとデスクワークだったので、最初のうちはよく筋肉痛になっていました。覚えることも多いし、未経験で不慣れなこと、わからないことは結構ありました」
代表の関さんは、どんどん新しいアイデアを出す方ですよね。それに応えていく大変さはありませんでしたか。
「人によってはそうかもしれません。わたしは楽しいですし、むしろ社長から『現状維持で』って言われたら、きっと『辞めます』ってなるタイプなので(笑)。変化をポジティブに受け入れられる人がいいと思います」
宿の立ち上げに関われる機会は、なかなかないもの。渡邊さんのように、いつか自分で宿をはじめたいという人にとっては、貴重な経験ができるんじゃないかな。
最後に話を聞いたのは、新卒で4月から働きはじめた小野寺さん。
大学4年生のとき、友だちの影響で一人旅に行くようになったところから、ゲストハウスが好きになったという。
「ひとりだと、いろんなハードルが下がるんです。銭湯でおばあちゃんとしゃべって、気の向くままに写真を撮って、食べたいものを食べたいだけ食べられる。とくにゲストハウスはその町のことを知れるので、わたしは好きですね」
ルルドを訪れる人にも、四万の自然を味わってほしいという。
「四季の移り変わりを肌で感じられるんです。昨日まで咲いてなかった花が今日咲いてたり。何より“四万ブルー”が本当にきれいなんですよ」
四万ブルーとは、四万温泉のさらに山奥にある奥四万湖の青さを表した言葉。ちょうどこの春に、吉永小百合さんが出演するCMで取り上げられたので、目にした人もいるかもしれない。
カヌーやSUPも体験できるし、一帯が国立公園に指定されていて、さまざまな野生動物も観察できるという。
「ゲームの世界の水みたいですよね。こういう景色を見にきてほしいなと思います」
東京から公共交通機関を使っても3時間ほどで行けるし、車さえあればほかの地域にも足を運びやすい。いろいろと話を聞いて、オープンしたらぜひ行ってみたいと思った。
最後に、代表の関さんがこんなふうに話していました。
「旅館のあり方を変えたい、自分自身も変わりたいという人に来てほしいですね。立場は関係なく、いろんなアイデアを出し合って、一緒にいい場所をつくっていきたいです」
小野寺さんのように、新卒でも挑戦したいという人は歓迎とのこと。まずは自分の想いを、関さんに話してみてほしいです。
(2020/4/30 オンライン取材 中川晃輔)