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大学生のころ、建築学科の友人が図面を描く姿をよく眺めていました。
この平面図から、どんな空間が立ち現れるんだろう。自由な想像を形にできる友人を羨ましく感じたことを覚えています。
この仕事を始めてから、建築はデザインや施工にとどまらないことを知りました。人が過ごす空間をつくるということは、人と人との関わりをデザインする場づくりでもある。
そして建築は、社会や環境と繋がる手段でもある。今回の取材を通してそんなことを考えました。
「エネルギーのこと、経済のこと、コミュニティのこと… すべてをまんべんなく見渡して、この小さな建築がどう寄与できるかを考える。そうして総合的によいと思うものをデザインしてゆきたいと思っています」
ビオフォルム環境デザイン室の山田さんが話してくれた言葉です。
ビオフォルム環境デザイン室は、東京・国分寺の設計事務所です。地産地消の視点から自然素材を選び、日本の風土に根ざした伝統的な技術をベースにしながら空間づくりをしています。
背景にあるのはパーマカルチャーの思想。『自然と人間の双方が、持続的に豊かになるために』という考え方のもと、環境や地域にひらかれた持続可能な建築を目指しています。
今回は、建築設計者を募集します。
山田さんから連絡をもらったのは、数日前のこと。丁寧な言葉づかいが印象的なメールの中に、こんな一文があった。
「よければ、私の自宅でお話しませんか。神奈川県は藤野の、里山長屋というところです」
藤野駅に到着したのは、東京を発っておよそ1時間半経ったころ。そこから車で5分ほど走った先に、里山長屋を見つけた。
気持ちのいい青空と小さな木立に囲まれている空間。
長屋という言葉のとおり、建物が5棟連なっている。落ち着いた色合いの木の壁と瓦屋根、深く突き出した軒。古い町並みのようだな、と眺めていると一人の男性が隣にやってきた。
この方が山田貴宏さん。ビオフォルム環境デザイン室の代表であり、里山長屋を設計した方です。
「この長屋には、僕たち夫婦を含めて4世帯が暮らしています。できるだけ環境に負荷をかけないこと、そして住まい手同士や地域との関係性がある家づくりをすること。この二つを考えてデザインしたものなんです」
よければ見ていかれませんか? というお誘いにのって、まずはコモンハウスという共用棟を案内してもらう。
無垢の木のフレームのガラス戸をカラカラと開けると、ふわっと木の香りを感じた。天井を見上げると、立派な木材が幾重にも組まれている。
「この建物は、伝統的な木組みの構法でつくられていて。お隣の多摩の木がほとんどですが、1割ほどがここ藤野の地元の木です。地元の大工さんが木の特徴を見極めながら組んでくれました」
床は無垢の杉材。壁は土でできていて、手を近づけるとひんやり心地よい。竹小舞(たけこまい)という伝統的な技法が使われていて、細い竹が編み込まれた下地の上に、土とわらを混ぜたものが塗られている。
そして印象的なのが、玄関からさんさんと差し込む太陽の光。小さな土間に下りると、陽だまりの中にいるようでとてもあたたかい。
「パッシブデザインといって、自然エネルギーを活用しているんです。太陽光を取り込んで土や土間に熱を蓄えたり、屋根面で集めた熱を室内に取り込んだりすることで建物が暖まります」
ただ、そのままだと夜には熱が外に逃げてしまう。そのため土壁の外に断熱材をしっかり入れて、窓もペアガラスにしているのだそう。
「夏は、夜のうちに室内に風を通して建物を冷やしておいて。そのおかげでお昼くらいまではひんやりしています。2時ぐらいからはちょっと暑いかな。でも4時くらいになるとまただんだんと涼しくなるから、この長屋にはエアコンがないんですよ」
住まい手皆が利用できるこの空間は、ときに地域の人が訪れることもあるそう。何かの集まりで使うこともあれば、友人を泊めることもある。
「家から人が出てきて交流が始まって、地域の人もやってきておしゃべりをしてゆく。そんなふうに、建物の一歩外側の領域まで含めたデザインをしたいなと考えました」
「環境とコミュニティのふたつに、建築という視点からどうアプローチできるか。この考えはずっと僕の根にあるものです」
山田さんが事務所を立ち上げて14年。
これまでの経緯について尋ねると、大学時代までさかのぼって話してくれた。
「真面目に建築をやろうと思って大学に進学して。だけど当時はちょうどバブルの真っ盛りのころで、建築もポストモダンがもてはやされていました。奇妙奇天烈な建築が世の中に増えてね」
「僕はその建築にすごく違和感があった。何かがおかしい、こんなの100年先も続くはずがないって。建築の原点って何だろうと考えるようになりました」
建築の原点。
「そのなかで、建築って巣の延長なんじゃないかって思ったんです」
「自分たちの生活を守り、ときに太陽や風などの自然の恵みをうまく受け取る。とくに住宅は家族の大切な器です。僕は、その原点を忘れないでいようと思いました」
もう一つ、山田さんに大きな影響をもたらしたのがパーマカルチャーの考え方。
パーマカルチャーを平たくいうと、生態系の仕組みに学びながら、環境や資源を壊さないように暮らし全般をデザインしようという姿勢。そこには、自然はもちろん人や文化への配慮も含まれている。
持続可能な世界をつくる、という言葉で馴染みのある人も多いかもしれない。
「この里山長屋もそうです。単に省エネの箱をつくればいい、という考えではない。あえて非常に手間のかかる伝統的な構法を選んでいるのは、日本の風土に合った建て方がのぞましいと考えているから」
「もちろん環境的な配慮も考えて、接着剤や合板は使っていないし、太陽や風、雨水を活用する仕組みも施しています。ただ、技術ばかり先行するのも違うと思っていて」
どういうことでしょう?
「たとえば、断熱性のことを考えたら窓は小さくするほうがいいんです。けれども僕らは風景をちゃんと見たいし、自然の空気感も味わいたいじゃないですか」
そのため山田さんの住宅は、窓を大きく取っている。断熱性はペアガラスや障子、ペレットストーブなどで総合的に高めているという。
「伝統的な方法にこだわりすぎずに、現代の技術もうまく使いこなしながら。たとえ断熱性が満点でなくとも、総合的によい状況をつくれていることのほうが大切だと考えています」
そして山田さんは、建物をつくるまでの過程や、完成後にどんな関わりが生まれるかも考えている。
「地元の職人さんと木を選んだ理由の一つは、地域の中で経済を循環させるため。家の前の小さな畑やコモンハウスは、隣人との交流が生まれるようにつくりました。豊かに暮らしてゆくために必要なことだと考えています」
「周りの環境とどう繋がるかを考えることは、地域や街、隣人とコミュニティとの関わり方を考えること。自然環境とコミュニティ、根は一緒だと思います」
日本の風土に根ざした空間づくりと、コミュニティが育まれる場づくり。
その両面を大切にすることで、100年や200年先も大切に受け継がれる“現代の民家”を設計したい、と山田さんは考えている。
ふむふむ、と聞いていると「ただね」と山田さん。
「僕らが理想とするもの、たとえば大工さんの木組みや土壁なんかは、やっぱりお金がかかる。実際の仕事となると、お客さんのご予算にあわせて、僕らの理想を少しずつ削ってゆくわけです」
木組みの代わりにプレカットを使うこともあるし、漆喰壁の代わりに和紙クロスを貼ることも多いという。
「だからこそ、基本姿勢は守りたいなと思っています。ビニルクロスや新建材の類はほとんど使ったことがないし、地元の職人さんと木の家づくりをすることにもこだわってきました」
「かといって、コンクリートを全く使わないかというとそんなことはない。だからうちに興味を持ってくれた人にも、そのバランス感覚はしっかりとお伝えしたいです」
今、事務所で働くのは山田さんのほかに10人。常勤と週に3~4日勤務の設計者がいる。
進行中のプロジェクトは15件ほどで、木造住宅と大型施設およそ半分ずつを、分担しながら進めている。
「僕らの考えに共感して依頼してくれているので、できるだけ応えたい。そう思っているうちにこんなに忙しくなってしまって… お客さんにも迷惑をかけてしまうので、人を募集しようと考えたんです」
今回募集するのは、建築設計者。ある程度プロジェクトを回せる力量のある人に来てほしい、と考えている。
「設計者には、基本的に最初から最後まで任せています。建築系の学校を出てある程度実務経験があれば、技術的には問題ないと思う。むしろ図面を引く以外の仕事のほうが肝になるんじゃないかな」
お客さんとの打ち合わせや、人や資材の手配。施工が始まればトラブルを浅いうちに解決して、最後は電卓を叩いて工事費を清算する。こうした設計作業以外の仕事が半分以上を占めるのだそう。
「そしてプロジェクトの進行者として表に立つということは、やっぱりタフさも必要です」
お客さんを待たせないように夜遅くまで仕事をする日もあるし、工務店と金額のやりとりを重ねることもある。
指示をもとに動きたい人や、ずっと図面を描いていたいという人には厳しい職場だろう。常に先を見ながら、今何をすべきか? と考える仕事になるはず。
「こうした建築に意義を感じる人がいたらぜひ一緒に仕事をしたい。それに最近は環境やコミュニティに配慮した場づくりの依頼も増えてきているから、期待には応えられるんじゃないかな」
「たとえば徳島県の神山町で進めている集合住宅のプロジェクトも、その一つです」
新たに生まれるのは、地元神山の木を使った20世帯分の環境配慮型住宅と、熱供給の建屋、地域の人も使えるコモンハウス。今まさにまちの職人さんが建てているところだそう。
「20世帯が安心して、地域とも関わりながら環境にも配慮しながら仲良く暮らせる状況をつくり出す。建築は、その場、その価値が育ってゆくための下地づくりなわけです」
「僕たちの手を離れても、住まい手たちがその価値をずっと大切に温め続けられるように。これからも下地を丁寧につくってゆきたいと思っています」
この工事の発注側の一人に、働き方研究家の西村佳哲さんがいます。
私たち日本仕事百貨のコントリビューターも務めてくださっていて、実は山田さんとは古くからのご友人だそう。今回の募集にあたって、こんなコメントが届いています。
「出会ったのは30代前半、慶良間のシーカヤック・ツアー。2泊3日の無人島めぐりでタンデム艇の前と後ろに。焚き火をはさんで、山登りやハンググライダーの体験談を聞かせてくれた。自然の摂理やその力で動くものが好きなんだな。カヤックもそうだし、建築も。風通しのよさに敏感な人だなと思う。あと、よく笑ってますね。(笑)」
山田さんとともに、建築に取り組んでみたいと思った方。ご連絡、お待ちしています。
(2019/05/07 取材、2021/04/19 更新 遠藤 真利奈)