求人 NEW

魚の島の
新しい名物をつくる

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

長崎・五島列島。

九州本土から西の沖合100kmほどに浮かぶ、大小152の島々の総称です。

そのちょうど真ん中あたりに位置する奈留島(なるしま)が、今回の舞台になります。

人口およそ2,100人の奈留島。昔から水産業が盛んで、島に住むかなりの割合の人たちが、海と関わりながら生計を立ててきました。

ところが、近年は漁獲量が減少。かつては16社ほど存在していた船団も、今では3社まで減ってしまったそうです。

この海の幸のおいしさを、もっと多くの人に味わってもらいたい。

そんな想いから、新しく加工品を開発・販売していくことになりました。今回はそのプロセスに携わる人を募集します。

今はイタリアンのシェフと一緒にメニュー開発を進めている段階。女性をターゲットに、今後はSNS発信や販路開拓にも力を入れていきたいそう。

経験は問いません。海に囲まれて暮らしながら、島の新しい名物をつくっていく仕事です。

(取材はオンラインで行いました。現地の写真は提供いただいたものを使用しています)

 

五島列島の名前を、どこかで聞いたことがあるという人は多いと思う。

最近だと、2018年に世界文化遺産に登録された「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」が記憶に新しい。日本でキリスト教が禁じられていた時代、ひそかに信仰を続けた人たちの足跡が五島列島に点在しており、奈留島の江上集落もそのひとつ。世界遺産に登録されると、観光に訪れる人の数も増えた。

古くから水産業でさかえた奈留島。海流や五島列島のちょうど中ほどに位置する関係で、島の東側と西側、それぞれに広がる豊かな漁場に出やすいのが大きな理由だった。

「わたしの小さいころは、島じゅうにイワシがあふれていたような記憶がありますね」

そう話して聞かせてくれたのは、奈留町漁業協同組合の京(きょう)さん。奈留島の出身だという。

「朝の7時くらいに市場で入札が行われるんですけど、マイワシをいっぱいに積んだ運搬船がですね、何十艘も停泊していて。仲買さんがその船を渡り歩きながら、一艘単位で買い付けていく。そういう時代でした」

当時は島内にも飲み屋やスナックがたくさんあって、漁を終えた船乗りたちで賑わっていたそうだ。

ところが近年は、海外からの輸入増や温暖化など、さまざまな要因から魚価が下がり漁獲量も減ってきた。とれたとしても、安定して値のつく長崎の漁港におろされてしまい、島内ではなかなか魚とお金が回らない。

奈留島の水産業はいま、最盛期の5分の1ほどまで縮小しているのが現状だという。

「漁協としても何か特産品をつくれないかっていうことで、平成7年から一夜干しとか、みりん干しの加工をはじめたんです。ただこれもなかなか売り上げが伸びなくて」

一夜干しやみりん干しは冷凍保存が必要なため、その場で買って帰るお土産には向かない。世界遺産に登録されたことで人の出入りは増えたものの、なかなか手にとってもらえないジレンマがあった。

とはいえ、水産業がこの島の主軸であることに変わりはないし、近海でとれる魚の味には自信がある。

この魅力をなんとかして伝えたい。

そこで3年ほど前からはじまったのが、常温で保存できて、手軽に味わえる新商品の開発だった。

 

その開発にあたって白羽の矢が立ったのが、高知のイタリアンシェフ森澤さん。

友人の誘いで訪れて以来、すっかり奈留島に魅了されてしまったのだとか。

「魚のおいしさはもちろんのこと、のどかな雰囲気と、人柄のよさといいますか。小さな島ではあるんですけど、この町のいいものを、ぜひたくさんの人に届けたいっていう熱い想いを島のみなさんから感じたんですね。そこへこの話があったものですから、自分にもその一翼を担えるんじゃないかと思って」

“野菜を野菜で食べる”というコンセプトのもと、これまでも地場の無農薬野菜を使ったドレッシングの開発・販売に取り組んできた森澤さん。

奈留島の魚介を食べて、驚いたことがあるという。

「開発中のメニューのひとつに、ヤリイカのペペロンチーノっていう商品があるんです。最初に試作した段階では、イカのうまみが若干少なく感じられて。味を強めに入れていたんですね」

「ところがだんだんと旬が近づくに従って、それまで食べたことのないようなうまみ、甘さが出てきて。今までのぼくの調理法は間違ってたんじゃないかって思うくらい、おいしかったんですよ。あれは驚きました」

今考えているのは、「漁師のイタリアン」というシリーズ。

ヤリイカのペペロンチーノのほかにも、マダイのアクアパッツァや、タコのバジルソース、アジのオリーブオイル漬けなど。それぞれの食材の旬を考えながら、10種類ほどのメニューを試作しているところだという。

なかにはサバのうま煮や鯛味噌など、和食らしいメニューもある。

「イタリアンに寄せすぎると家庭に馴染まなくなってしまうので、オリーブオイルや香辛料を使って折衷するようなイメージで。手軽に一品、魚料理を加えてもらえたらと思うんです」

すでに土台はあるものの、今回募集する人はこの商品の開発段階から関わってほしい。

味のことだけでなく、パッケージデザインや販路のこと、SNSを通じた発信まで。これから進めていきたいことはたくさんある。

商品のターゲットは女性とのこと。お土産に干物はちょっと…という人でも、気軽に手にとりやすいものにしていきたい。

また、加工現場の人員も少し足りてないのが現状で、魚をさばいたり、包装したりする作業にも携わることになるという。

商品をつくって売るところまで。すべての過程に関わることを楽しめるか、そこまでやるんだ…と捉えるかは、その人次第だなと思う。

 

「自分の意見をしっかり言える人がいいと思います」と話すのは、プロジェクトメンバーの一員である吉野さん。

「味のことでも、森澤さんに対して『こうしたらどうですか?』って言えるとか、『女性目線で考えるなら、パッケージはこっちのほうがいいと思う』とか、物怖じせずに言える人。あとは愛嬌ですよね。愛嬌がないと、島で暮らしていくのは大変だと思う」

吉野さんが代表を務める一般社団法人MITは、地域の資源や魅力をみつけ、いかし、つなぐ会社。年に何度かは奈留島を訪ねつつ、普段は拠点のある対馬からリモートでこのプロジェクトに関わっている。

新しく入る人にとっては、客観的な視点をもたらしてくれる相談役のような存在だと思う。商品のことを発信していくフェーズになったら、島外の人たちとのつなぎ役にもなってくれそう。

そんな吉野さんから見て、このプロジェクトはどんなふうに映っているんだろう。

「人口も減少していて、状況的にはピンチなんだけども、それでも希望を持って新しい事業に挑戦していくんだっていう前向きな発信は、すごく大事だと思っていて。これが島全体に波及して、自分たちもがんばろうっていう人が増えたらいいなと思います」

民間の水産加工会社は多いけれど、漁協による商品開発の事例はまだまだ少ない。

全国的に漁獲量の減少や担い手不足が進むなか、新たなモデルケースのひとつとなる可能性もあると思う。

「奈留島に移住して活躍する方も増えてきた印象があります。ハーブを育てている方、港の近くでコミュニティカフェをやっている方、地元の真珠の養殖屋さんと一緒に『いのりのしんじゅ』っていう事業を立ち上げた方、移動販売をはじめようと動いている方もいますね」

集落支援員として活躍する方もいれば、最近では奈留高校存続のためのクラウドファンディングで400万円以上の支援を集めるなど、新しいことにチャレンジする人も増えている。いずれも女性の移住者による取り組みだそう。

今回のプロジェクトにおいても、女性が手にとりやすい商品づくりを目指しているので、みなさんの意見を取り入れたり、たとえば移動販売を通じて島内に流通してもらったり。さまざまな形でコラボレーションしていけるといい。

 

島の水産業の課題解決につながるかもしれないし、自分が開発に携わったものが全国に広まっていくかもしれない。可能性のある、おもしろい仕事だと思う。

ただ、離島で暮らすイメージが湧かない、という人もいるはず。島での生活って、どんな感じだろう?

答えてくれたのは、五島市役所奈留支所に勤める石政さん。

「わたしは隣の福江島出身で、異動に伴ってこちらの奈留島に来たんです。そのときに感じたのは、人が温かいなと」

人が温かい。

「たとえば『どこどこから来ました』っていうだけで、ちょっとした有名人になる。『ごはんでも食べにこんね』って言われることも、あると思うんです。だからやっぱり、これから来る人にとっては愛嬌が大事なのかな」

画面越しにも朗らかな空気感は伝わる。みなさん真面目に話しつつ、何気なく会話にジョークを挟み込んでくる感じ。

もちろん島にはいろんな人がいるだろうし、一概には言えないけれど、身近で働くことになる漁協のみなさんの、この軽やかな雰囲気を心地よく感じる人がいいだろうな。

「このプロジェクトを進めればいいんでしょ、みたいな人ではなくて、そういう地域との関わりも含めたところで事業を進めていってくれる人がいいのかなと思います」

飲食店の数も多くないし、24時間営業のコンビニやスーパーもない。アクセスも決してよくはなく、お隣の福江島でフェリーを乗り継ぐ必要があるので、長崎に出ようと思えば4時間半はかかるという。

一方で、もしも親子での移住を考えるなら、この島の学校はちょっとおもしろいと思う。小中高一貫教育を実践していて、学校行事は小学1年生から高校3年生まで、一緒になって取り組むそう。

不便なところも、おもしろいところも。よくもわるくも“離島ならでは”の暮らしがある。

「島に来る時点でいろいろ覚悟しているかもしれないけれど、まずは実際に島暮らしを経験してみることが大切かと思います。市としても、できる限りバックアップしていくので」

それを聞いていたシェフの森澤さんが、こんな話をしてくれた。

「奈留島で商品開発の会議をしたあとに1時間、釣りをしたんですよ。夕暮れどきの海が最高に美しくて。その時間を思い出すと、もっとおいしいものをつくりたいっていう気持ちがまた湧いてくるんですよね」

「島の生活の美しさのうえに、ビジネスが成り立っていくんじゃないかと思うんです。なのでこれから来る方も、まずは島の人たちと関わりながら、暮らしを楽しんでもらえるといいんじゃないかなと思います」

どうやら、ただ“売れる商品”をつくって販売する仕事ではなさそうです。

島でのいろんな体験が、商品の厚みにつながっていく。まずはこの島でどっぷりと暮らしてみると、つくるべきものが見えてくるのかもしれません。

(2020/8/12 オンライン取材 中川晃輔)

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