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さまざまな地域を取材していると、「住んでみたい地域はありましたか?」と聞かれることがあります。おいしい食や独自の文化があったり、街並みに歴史を感じたり。いろいろな地域が思い浮かぶなかで、住んでみたいと思ったのは「人」を感じられる場所でした。
相談しやすい雰囲気をつくってくれる役所の方や、困ったときに頼れるお兄さん。新しいチャレンジを続ける企業の人たち。
そんな人たちがいる地域は、やっぱり魅力的です。
福岡県八女市(やめし)。八女茶と伝統工芸で知られるこのまちに、昨年『南仙荘(なんせんそう)』というシェアスペースが生まれました。
「自分たちで面白いまちをつくっていきたい。そんな想いを持った人が集まって、互いの得意を活かしながら新しいことに挑戦していくようなコミュニティを、南仙荘で育んでいきたいと思っています」
この事業のプロジェクトマネージャーである吉田さんは、そんなふうに話していました。
今回は、南仙荘のコミュニティマネージャーを募集します。
施設に常駐し、イベントを企画運営したり、ふらっと訪れた人の話し相手になったり。南仙荘の顔として、地域の人に可愛がられるような人に出会いたいそうです。
(新型コロナウイルスの感染拡大を受け、オンラインで取材を行いました。なお、現地の写真は提供いただいたものを使用しています。)
福岡の南部、大分と熊本との県境に位置する八女市。
八女といえば、なんといってもお茶のイメージがある。今から600年ほど前、明から帰国した僧・周瑞によって伝えられたのがはじまりだとか。
でも、お茶以外にはあまりよく知らないことも多い。どんな場所なんだろう。
「八女は今、気温30度でちょっと蒸し暑いです。最近は大雨が続いていて、さっきも通り雨が降っていました」
そんなふうに現地の様子を伝えてくれたのは、八女市定住対策課の深野さん。
まずは八女市について教えてもらう。
「八女市は、昔は『バナナとコーヒー以外なんでも育つ』と言われていたほど、気候に恵まれた土地なんです。じつは八女茶だけではなくて、さまざまな作物をつくっています」
「もう一つの特徴が、伝統工芸です。手漉き和紙や提灯、石灯篭、金仏壇など、江戸時代から九州の伝統工芸文化の中心地として栄えてきました。今も職人さんが多く暮らしているんですよ」
市内には、大きな商業施設のある中心部と、県内トップの森林面積をもつ山間部が共存している。
車を使えば、福岡市街まで1時間、久留米まで30分というアクセスの良さもあって、移住の問い合わせもここ数年で増えてきているのだそう。
「利便性の高い生活を送りたい人は中心部、田舎暮らしを楽しみたい人は山間部。八女は、どちらのニーズにも応えられるまちなんじゃないかなと感じています」
そんな八女のなかでも、伝統的な建造物が建ち並ぶエリアに、昨年4月にオープンしたのが、今回の舞台となる『南仙荘(なんせんそう)』というシェアスペース。
ちょうど南仙荘にいるという深野さんが、画面を切り替えて案内してくれた。
「ここはもともと料亭だった場所で、地元の建設会社さんに改修してもらいました。50畳を超える広いコワーキングスペースのほか、会議室や個人作業ブースもあります」
いちばんの自慢がこちらです、と見せてくれたのは縁側。
「矢部川を見下ろせて、ヒーリング音楽のように川のせせらぎや鳥の声が聞こえるんです。晴れた日にここでぼんやりするのはとても気持ちいいですよ」
一通り案内してもらったあと、今回の募集についてあらためて伺う。
「僕たちはこの南仙荘を、このまちで何かチャレンジしたいことがある人が集まる拠点にしようと計画しているんです」
八女市では今、20代を中心とした若い世代の転出が大きな課題になっている。
「八女には大学がないですし、福岡市などの都市に近いぶん、若い人が外に行ってしまうんです。僕も八女の出身ですが、『都会のほうがいいから』といってまちを離れる友だちも結構多くて」
「でも何もないわけじゃないんです。このまちを面白くしたいと、熱い想いを持っている方はたくさんいる。南仙荘は、そんな人たちが集まって出会いやコラボレーションが生まれるような場所にしたいんです」
そこで今回募集するのが、深野さんたちと一緒に南仙荘を盛り上げていくコミュニティマネージャー。
イベントを企画運営したり、訪れる人と話したり。南仙荘の顔となる存在だ。
一方、こういったスペースの運営は、深野さんたちもはじめて。具体的なノウハウは、事業パートナーである株式会社あわえの吉田さんから吸収することが多くなると思う。
「今回募集する人も、あわえの所属となります。チームとして一緒に取り組んでいきたいですね」と、吉田さん。
あわえは、徳島県美波町に20社のサテライトオフィスを誘致したり、宮城県富谷市で地域コミュニティの育成をサポートしたりと、全国各地で約100の自治体の地域振興に取り組んできた会社。
吉田さんはそれらの事業の責任者として、東京を拠点に各自治体のサポートをしている。
今回募集するコミュニティマネージャーは、どんな仕事をしていくことになるんでしょうか?
「今の南仙荘の目標は、地域の人にたくさん来てもらうことです。そのために開催したいイベントや、進めていきたいプログラムがいくつかあって」
「今年度は僕の指示のもと、イベントの準備や当日の運営、プログラムの実施をしていくのがメインの仕事になります」
一体どんなイベントを考えているんだろう。
例として教えてもらったのが、『起業塾』という取り組み。
これはあわえが自治体のコミュニティづくりをサポートする際に行なっているもので、その地で何か始めたいという人たちが参加する全4回のイベントなのだそう。
「まずは対話会といって、プロのファシリテーターのもと、『八女をよくするために何がしたい? どんなことができる?』と話し合うところから始めます」
たとえば、八女のおいしい食材を使ってレストランをひらきたい、というアイデアがあったとき。
地域のニーズはあるのか、資金はどうするかなど、吉田さんたちのアドバイスをもとに、具体的な事業案を考えていく。最終的には地元の人たちの前でプレゼンテーション。生の声がそのまま返ってくる。
対話を重ねることで、「こうなったらいいな」というアイデアを、「自分もできるかもしれない」という気持ちに引き上げていく。
「あわえがお手伝いしている宮城県富谷市では、『富谷塾』という名前で開催していて。一年ずつ塾生を募集して、現在は3期生が活動しています」
塾では対話会のほかにも、塾生同士の対話の場をつくったり、事業企画やマーケティングなどが学べるセミナーを開催したりしているそう。さらに現在では、塾生自身が“部員”として自主的に活動する、“部活動”も生まれた。
「富谷特産のブルーベリーを国際宇宙ステーションに届けようというプロジェクトを立ち上げた宇宙部や、新しいお土産をつくろうとしているスイーツ部。市民の間で、いろんな動きが生まれています」
「塾生は一年間さまざまな経験をします。卒業後は起業したり、自分のお店をひらいたりと、新たな一歩を踏み出しているんですよ」
ほかにも、地域のママさんや子ども向けのイベントを企画したり、テレワーカーを育成したり、いろんな仕掛けを用意していきたいという。
コミュニティマネージャーは、それらの準備や運営サポートをしつつ、地域の人の相談に乗るなど、日々コミュニケーションをとっていく。
今年度の目標は、南仙荘の顔となること。
「まずは地域のなかで『何かアイデアがあったら、南仙荘に行ってみよう』という雰囲気をつくっていきたいと思います」
コミュニティ運営の知識や経験は必要でしょうか。
「いえ、専門的なアドバイスを求められたときは、僕たちに相談してもらえばいいし、南仙荘の事業をサポートしたいと言ってくれている地域の方もたくさんいます。特別なスキルも、切れ味抜群のアイデアも、必ずしもなくていいんです」
「それよりも、地域の人とのコミュニケーションを通じて、『とりあえず〇〇さんに相談してみよう』と信頼されることが大事で」
ああ、身の回りでもそういう人は思いつきます。いきなり答えは求めないけれど、相談したいことがあるとき、声をかけやすい人。
親しみやすさのある人だといいかもしれませんね。
「相談を受けたら、力になってくれる人につなげられればいいんです。そのために地域内外に味方をたくさんつくるのが、コミュニティマネージャーの大切な仕事だと思っています」
ゆくゆくは先進地である美波町のように、サテライトオフィスの誘致にも取り組みたい、と吉田さん。
「富谷市では、『富谷塾』などのコミュニティに興味をもった企業が次々に進出していて。事業が始まって3年目で、すでに20社を超える企業がサテライトオフィスを構えているんです」
「まちの中の人と外の人が混じり合って、新しい化学反応が始まる。八女でも、そんな熱のこもったコミュニティをつくりたいと思っています」
お二人の話を聞いていると、地域に馴染むことがコミュニティマネージャーの大切な仕事なんだな、と感じる。
ただ、見知らぬ土地に一人で入っていくのは心細いこと。そんなときにサポートしてくれるのが、地域おこし協力隊の染井さんだ。
「醤油屋さんや養蜂家さん、農家さん。今回募集する方にご紹介してみたい方の顔は何人か浮かんでいて。ぜひおつなぎできればと思っています」
八女に移り住んで2年目の染井さん。現在は、南仙荘を拠点の一つにしつつ、空き家バンクの運営などを担当している。
「まちの人が集まって独自にイベントを開催したり、仲間同士で新しい事業を立ち上げたり。八女には面白いことをされている方がたくさんいるんですよね」
たとえば、現役の高校生から社会人までが集まって、まちを盛り上げるアイデアを出し合う「ヤメコン」というイベントがあったり、地元の若手が地域商社を立ち上げて、八女の商品を全国にPRしたり。
染井さん自身も、協力隊や同世代の地域の人と一緒に『NPO法人 八女あきやもり』を立ち上げて、空き家の受け入れや管理、片付け代行サービスをはじめているのだそう。
「ぼくと同世代の人たちが、まちづくりに関心をもっている印象です。30〜40代の有志が南仙荘に集まって『地元をよくしようよ』って話し合いをひらくことも結構あって。ここ数ヶ月は、Zoomを活用し続けています」
八女はすでに、いろんな動きが生まれているみたい。
話を聞いていた吉田さんも、言葉を続ける。
「八女には、自然も、伝統工芸などの独自の文化もあるし、何かやりたいと思っている人もいる。それらが混ざり合ったら、もっと魅力的なまちになるはずです。これからがとても楽しみですね」
まちの人が集い、出会いが生まれ、チャレンジのタネが芽吹く。
そんな場所を目指して、ともに伴走する人を探しています。
(20/07/20 オンライン取材 遠藤真利奈)