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「まちを変えるには、結局、人に働きかけていくしかないんだよね」関内イノベーションイニシアティブ(Kii)での取材の終わり際、ポツリと出てきたその言葉が印象に残っています。
Kiiは、地域や社会の課題に向き合おうとする市民の活動をサポートしてきた会社。
市民一人ひとりが意識を持って動くことで、まちのなかに健全な循環が生まれていく。そう信じて、人材育成やまちの活性化など、さまざまな取り組みを重ねてきました。

まずは地域のなかで自分の経験や強みを生かしながら、将来的には大きな挑戦ができる環境だと思います。
合わせて、事務スタッフと学生インターンも募集しています。
横浜駅から桜木町方面へ電車を乗り換えるとすぐに、横浜のランドマークでもある大きな観覧車が見えてきた。
そこから5分足らずでJR関内駅へ到着。

ビルの1階と2階にコワーキングスペースとシェアオフィス、ワークショップスタジオを備えていて、入り口に近いワークショップスタジオでは仕事をしたり話したりしている人がいる。
中央のテーブルで待っていると、代表の治田(はるた)さんが「横浜までわざわざありがとうございます」と明るく迎えてくれた。

関内というのはもともと、貿易で栄えた横浜の治安維持を目的に設けられた、関門の内側のエリアのことで、横浜の歴史や文化と関わりの深いスポットも多い。
「関内は、クリーニング屋さんや牛鍋、電話、いろんな文化や技術が入ってきて日本の発祥地になったまち。そういう背景があるからか、新しい人や取り組みを受け入れてもらいやすい土壌はある気がしますね」
「一方このエリアの経済的な地盤沈下が地域課題として叫ばれてきた期間が長くあります。10年前、横浜市の都市整備局によってエリア再生のためのモデル事業が募集され、それにエントリーする形でこの会社を立ち上げたんです」
人材育成やコンサルティングなど、Kiiの役割をひとことで言い表すのは難しいのだけど、当初から続けている活動のひとつが起業家支援の取り組み。

横浜市からの委託事業として行っているので、受講料は無料。そのためか、幅広い層の人が集まってくるというのも、Kiiの取り組みの特徴的なところ。
「10代から80代まで年齢もさまざまだし、一部上場企業に定年まで勤めた方もいれば、家族の病気のことで人生を考えている人、自身が課題を抱える当事者もいる。そういう多様な人たちが同じ場所で、一緒に起業について学ぶっていうことに意味があると思います」
モチベーションや経験もさまざまな受講生のうち、実際に起業家となる人は15%ほど。

「起業家を輩出することだけが目的ではなくて。起業の大変さを知って、自分には無理だと思うことにも意味がある。そこから、じゃあ自分は応援団になろうとか、寄付をしようとか、イベントに行ってみようとか、いろんな関わり方を考えるきっかけになればいいなと思っています」
小さな力であっても、一人ひとりが自分で考えて、意思を持って動くことの大切さ。
この春からのコロナ禍を経験して、そのことに目覚めた人も多い気がする。
90年代から業界で活動を続けてきた治田さんが、もともと市民活動やソーシャルビジネスの可能性に注目するようになったきっかけは、どんなことだったんですか。
「それがよくわからないんですよ(笑)。だけど、この仕事を通して出会った人はみんなすごく自由だし、自分のためじゃなくて人が喜ぶ顔を見たいっていう一心で行動するエネルギーを持っていて。それに共感してしまったのかな」
「やっぱり、地域経済を持続可能にしていくためにも、一人ひとりがそういうエネルギーや意思決定の姿勢を持ってまちに関わることは必要だと思います」
市民活動を支える立場のKiiもまた、10人ほどの小さな組織でありながら、市から委託を受けてさまざまな事業を担っている。

空き店舗を活用していくために、起業希望者とのマッチングをしたり、先進事例を学ぶトークイベントを開催したり。
「空き店舗って難しいんですよ。たとえ商店街の真ん中のお店が休眠状態でも、オーナーが人に貸すつもりがなければ空き店舗じゃない。さらに、空き店舗でお店をやってみたいっていう人が出てきても、商店街と関わるメリットはあるの?って懐疑的な声もあって」
「一方で、商店街関係者が『じゃあ、うちが開業準備を応援するよ』っていう声を発すると、周りの反応が変わるんですよね。私はそうやって、人の表情や姿勢が変わっていく瞬間を見るのが好きなんです」

やっぱり、「人が好き」という感覚が必要なのでしょうか。
「うーん。それはあんまり正確じゃないかもしれない。最終的には市民一人ひとりに『自分で状況を変えていくんだ』っていう自覚を持ってもらいたいという想いがあるから、あんまり人と近すぎてもいけない」
「ただ、普通のコンサルだったらドライにできるんですけど、私たちはこの横浜のまちにいますから。何かあれば、いつでも来てくださいねっていう距離感で、バランスを保っているんだと思います」
いろんなことを、包み隠さずにさっぱりと話してくれる治田さん。
この春から一緒に働きはじめた遠藤さんにとっては学びの多い環境だという。

進行中のプロジェクトのバックオフィス業務を横断的に担いながら、最近はファシリテーターのような役割でヒアリングなどに関わることも増えてきた。
「全体としてはマルチタスクなんですけど、みんな同じように仕事ができなくてもいいというか。それぞれが強みや経験を生かして分担していける環境なのかなと思っています」
もともとの興味や経験を結びつけることで、より自分ごととして仕事に向き合っていける。

保健師として働いていた当時は、高齢者に介護予防や地域活動を呼びかけていたものの、定年退職を控えている世代、つまりこれから地域へデビューする年齢層の方が取り組めるきっかけがないかと模索していたという。
今、地域のプロジェクトのファシリテーションに携わるなかでその課題に対する、糸口が見ることも。
「今、地域の人が持っているスキルを、NPOの活動のためにマッチングしてプロボノという取り組みを進めています。様子を見ていると、自分の経験が社会に貢献するために生かされるっていうのは、すごく精神的な充足感にもつながっているんだなって思います」
「そうやって社会との関わりを通じて高齢者の健康維持を実現することもできるのかなと思うようになってきて。そういう発見もおもしろいです」
遠藤さんが最後に話してくれた「プロボノ」というのは、現在、青葉区の次世代郊外まちづくり事業の一環として進めている取り組み。
プロジェクトを一緒に進めている高瀬さんに、詳しい話を聞かせてもらった。

今回は、地域のNPOが抱える課題に対して、市民のスキルをマッチングする形で解決を目指していく。
「スキルといっても、“デザイナー”や“建築士”のようなわかりやすいスキルを持った人はそう多くありません。集まった人どうしの知恵や経験を合わせて、課題の解決策を探っていきます」
今回支援するNPOのひとつは、若年性認知症患者のためのデイケア施設。
どうすれば利用者の仕事先を確保できるか?というテーマが切り口になった。
「プロボノの方々に課題を共有したとき、はじめは『収入が必要なら、こうやってお金を集めればいい』っていうアイデアがたくさん出てきて。仕事を通じて求めているのはお金ではなく、社会と関わる機会なんだっていう認識を共有するところからのスタートでした」
同じ地域に暮らしていても、はじめて向き合う課題に戸惑う人は多い。

最後まで目的を共にできなくても、そこで感じたギャップや得た感覚が、後になってその人の行動変容につながることもある。
成果だけでなく、そのプロセスにも丁寧に寄り添っていく。
「さまざまな活動を続けてきたことで、まちのネットワークが育ってきているのはすごく感じます。講座の修了生も1,000人を超えて、あの人とあの人が知り合いみたいなことが、日々当たり前になってきた。イベントの集客もすごくスムーズになっていると思います」
実は高瀬さん自身も、もともとは5年前にこのKiiの起業講座で学んだ修了生のひとり。
今は業務委託の形でKiiのプロジェクトに携わりながら、個人事業主としても教育系の事業に取り組んでいる。
「Kiiに入ったとき、治田さんから『会社の名前を使って、自分がやりたい仕事を取ってきていいよ』って言われてすごくびっくりしました。でも、そうやって主体性を持ってまちづくりに関わりたい人なら、大きな可能性のある環境だと思います」
「もともとこの関内っていうエリアは、歴史的に見ても、自分で何かやりたいっていう意欲が賑わいを支えていて。このまちのなかで、社会課題に対して、自分から主体的に動ける人を増やしていくことが、私たちの仕事だと思います」

取材から1週間後、代表の治田さんからこんな連絡が来た。
「次の野望は、まちづくりと起業支援を両立するファンドをつくること。今、その方法を模索中です」
このチームは、こうしてまた、どんどん進化していくんだなあという予感がします。
(2020/9/8 取材 高橋佑香子)
※撮影時にはマスクを外していただいております。