求人 NEW

柔らかな感性を取り戻す
アートのある温泉旅館

※この仕事は募集終了いたしました。ご応募どうもありがとうございました。

「たとえばここの、窓から見える作品ね。あれ、何に見えます?」

大黒屋での取材中、代表の室井俊二さんから、突然そんなふうに問いかけられた。

動物…でしょうか?

「なるほど、そう見られる方は多いですよ。では、何の動物ですか?」

蛇、キリン…、右の赤いのは動物じゃなかったかな。なんだろう。もしや、この芝生の空間と関係があるもの? あ、向こうにサルスベリの木があるな…。

作品をよく見ようと目をこらすと、今まで背景として捉えていたものまで、なんだかはっきり見えるようになってきた。

アートに触れて新鮮な気持ちになるのは、そんなふうに「今までなかった視点」に気づくからかもしれません。

保養地として有名な栃木県那須塩原に470年近く続く老舗旅館「板室温泉大黒屋」。アートを取り入れた旅館経営で、30年来独自の路線を開拓してきました。

泊まりに行くのもおすすめですが、今回はスタッフの募集です。

今年の春には一時営業をお休みしていましたが、今は営業再開を待ちわびていたお客さんが多く訪れていて、とても忙しい。フロントやショップなどの仕事を通して、この場所の魅力を一緒に伝えてくれる人を探しています。

アートというとどこか難しく感じるかもしれませんが、知識は必要ありません。

どう感じ、どう考えるか。経営の面でも、そのプロセスを大切にしている会社だと思います。



那須塩原駅から大黒屋までは車で30分ほど。このあたりは東京より少し季節が進んでいるようで、秋の風が気持ちいい。

木々に囲まれた道を走っていくと、温泉街が見えてくる。小橋を渡ると、大黒屋の大きな庭へ。木々のなかに、さっそく「おや?」と目を引くオブジェが。

キャプションや説明書きがないから、かえって「あれはなんだろう」と気になる。旅館に足を踏み入れると、そこかしこにいろんな作品がある。

サロンにあるテーブルや椅子も木工作品のような風合いで、アートと実用の境が、心地よく混ざり合っている感じがする。

サロンで休んでいると、スタッフの方たちが和やかに迎えてくれた。

歴史ある老舗旅館だけど格式ばったところがなくて、リラックスできる。

大黒屋が旅館経営にアートを取り入れるようになったのは、現代表で16代目の室井俊二さんの代になってからのこと。

「なぜアートを取りいれたか。簡単に言うと、独自性を高めていくためですよね。旅館というのは生活文化を売り物にする場所だから、文化の最先端って何かと考えたときにアートだと思ったんです」

最近はいろんな地域でアートプロジェクトが行われ、アートを身近に感じる機会が増えているけれど、取り組みをはじめた30年前はきっと状況も違いましたよね。

「そうですね、いろんな苦労がありました。なかには乱暴なお客さんもいて、『こんな訳わかんないもの集めて金を取るのか!』って怒鳴られたこともありましたよ」

そのとき、作品について「説明してみろ!」と言われた室井さん。とっさに、相手の浴衣の模様を指して「これはなんですか?」と問いかけたという。

「相手の方は『絵柄じゃねえか』って答えるので、『そうですよね。この作品も、柄として見てもらえませんか』って言ったんです」

浴衣の柄と、現代アートは同じ?

浴衣の柄もそれ自体に意味や機能はないけど、身につけていると気分や印象が変わったりする。そういう共通点かな。

じっくり考えていくと、逆に「浴衣」についても考えるきっかけになって、おもしろいですね。

「だけど、その方は次の日に『社長、よくわかったよ。だけど俺はもう来ない』って言って帰っていきました」

あら…。

「いや、ホッとしたんです。そのときにわかったのは、芸術作品っていうのは、人の品性をはかるのにちょうどいいということ。芸術作品があるとそういう乱暴な人たちが自然と近寄らなくなる。だからこそ、この路線でつっぱしろうって決めたんです」 

アートを楽しみたいという、同じ目的や興味を持った人たちが集まるから、穏やかな空間をつくれる。

一方で、アートというとまだ少し難しいとか、自分には知識が足りないと敬遠してしまう人もいるかもしれない。スタッフとして働く人は、どんな気持ちで向き合ったらいいでしょうか。

「アートっていうのは、頭でわかるものじゃなくて、肌で感じるもの。たとえば花を生けてくださいって言われたとき、生け花の知識があるかどうかは問題じゃない。何のために花を生けるのかを考えることが大切なんです」

「花を見たら元気になる、力が湧く。そう思ったら、花を一輪摘んできてポンと生けるだけでもいい。この感覚が身につくと、アートが分かるし、その人の武器になりますよ。お客さんにも、ものすごくいいサービスができる」

つまり、自分がものを見てどう感じるか。インプットする感性を育てていくということでしょうか。

「ああ、すばらしい。そういうことです。すぐに答えを求める人には、難しいかもしれないけど、自分も学ぼうとするスタッフはどんどん挑戦できる。心身一如っていう言葉がありますね。この環境に入ると、自然と感覚が身についていく。そういうことだと思います」

どこか哲学的なところがある、室井さんのお話。今度あらためて、ゆっくり話を聞いてみたいな。



一緒に働いている人たちは、どんなことを感じているんだろう。

続いて話を聞いたのは、フロント担当の相馬さんと綱渕(つなぶち)さん。

まずは、左側に座っている綱渕さんから。

「大学時代に授業の資料として読んだ本で、大黒屋のことは知っていて。実際に働いてみると、フロントは結構マルチタスクですね。予約管理やお客さま対応だけでなく、夜の配膳のお手伝いもするので」

お客さんとの接点が多いから、食事の要望を聞いて調理場に伝えるなど、ほかの部署との連絡役として動くことも多い。

「宿泊業は未経験だったので、知らなかったことも多いです。入社してから4年間、あっという間でした。もともと接客が好きだったこともあって、思ったより自分に合っていたのかな」

大黒屋には、ゆっくりアートを楽しみたいという気持ちで訪れるお客さんが多い。

館内にあるアートが会話のきっかけになることもあるし、那須塩原の自然や季節のことで話が弾むこともある。

一緒に話をしてくれた相馬さんは、自然好きが高じて、お客さんにネイチャーガイドのツアーをしている。

「これは仕事じゃなくて、趣味の延長みたいなもの。蛍の季節にナイトツアーをしたり、山歩きをしたり。お金をかけずに、お客さんを喜ばせることができるって、いいでしょう」

子どものころから天気や歳時記に関わることを調べるのが好きだったという相馬さん。「ビュッと風が吹くと、これは寒冷前線だ!ってわかるんですよ」と、楽しそうに話してくれる。

それだけ自然が好きだと、館内で仕事をするより外に出たくなりませんか。

「私は表の仕事が多いんですよ。お客さまのお見送りをしたり、庭掃除をしたり。仕事をしながら、自然を観察して、それをまたお客さまに伝えてね」

与えられた仕事だけでなく、好きなこと、興味のあることを生かしてどんなサービスにつなげていくか。自分で考えるから、楽しいし、工夫もできる。

一方で、チェックインなどで忙しい時間は、みんなで協力しながらテキパキ進めていく必要がある。

「忙しいときは、定時に帰れないこともありますよ。新しい人が入ってくれると、そこも今よりうまく回っていくと思うんですが」

スタッフの人手が足りないなかで、どう現場を動かしていくか。

閑散期には休館日を増やして、みんなでミーティングをする時間を取るなど、少しずつ改善を進めているところ。



夕方の忙しい時間が少し落ち着いたころ、フロントとショップそれぞれの主任を務める池田さんと伴内さんにも話を聞いた。

ふたりとも勤続約30年のベテラン。「一緒にいると、双子ですか?って言われるのよね」と、笑いあう。

たしかに雰囲気は似ているけれど、着ている洋服やアクセサリーなど、それぞれの装いにはさりげない個性が。

「うちは制服じゃなくて、みんな私服なんです。毎月服装手当をいただいて、自分で選ぶのは楽しいですよ。ショップでものをお包みするときは、手元を見られるでしょう。だから、ちょっとネイルをきれいにしてもいいしね」

この決まりに従えばいいというルールはなく、どんな装いが場に合っているか自分で考える。

仕事に関するマニュアルも少ないというのは、そのぶん自分で能動的に考える必要があるということ。

特にショップのスタッフは、サロンで開かれる展覧会やコンサートなどのサポートに入ることも多いので、工夫しながら動いていく。

「展覧会が始まる前には、自分でも作家さんのことを調べますし、打ち合わせのときにちょっとお話しすることもある。そうやって積極的に参加したほうが仕事っておもしろいし、お客さんへの伝え方も変わりますよね」

解説をするというよりは、自分も楽しみながらお客さんに共感する気持ちで。

静かに過ごしたいお客さんには、快適な距離感で。

「新しく入ったスタッフにはよく、『相手の身になって考えてね』っていうことを話します。うまく見極めるのは、なかなか難しいですけどね…」

立場上、ほかのスタッフを指導する場面もあるというおふたり。

伴内さんが注意したときは池田さんがフォローをし、その逆もある。ふたりでうまくバランスをとっているのだそう。

「若い人からしたら、私たちは年齢的にもお母さんくらいだし、面倒見るから心配しないで。わからないことは、素直に『どうしてですか』って聞いていいからね」

新しく入る人にとっては、きっとすごく安心できる言葉。

そんなふうに、自分の職場や仲間に対して愛着を感じながら働けるのはどうしてだろう。

「社長からよく『自分の仲間に思いやりを持てなかったら、お客さんに対しても持てない』って言われるんです。だから調理場の人たちもよく『みんな、今日なに食べたい?』って聞いてくれる。仕事だからじゃなくて、いつでも思いやりを持って接することができたらいいですよね」

みなさんの言葉を振り返りながら、夜、部屋での時間を過ごしていると、フロントの相馬さんが「今日は火星がとってもきれいに見えますよ」と知らせてくれた。

業務だからじゃなく、相手がよろこんでくれることを、自分で考えて行動する。

アートと自然に囲まれたこの環境なら、心動くきっかけをたくさんみつけられる気がします。

(2020/10/5 取材 高橋佑香子)
※撮影時にはマスクを外していただいております。

この企業の再募集通知を受ける

おすすめの記事