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神道の村で
山とともに生きる

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

日本には約8万のお寺があり、コンビニの数よりはるかに多いんだそうです。

全国を見ても、お寺がない自治体はたったひとつだけ。

それが今回の舞台、岐阜県東白川村です。

明治時代におこなわれた廃仏毀釈によって、村には今もお寺がなく、神道文化が残っています。

そんな神道の村で新しく始まったのが、神事に使う「榊(さかき)」を育てるプロジェクト。

榊が特産品になれば村おこしにつながるのはもちろん、事業の根底には「山に関わる仕事を増やすことで、山への想いを村の人たちに取り戻してほしい」という願いがあります。

事業を進めているのは「一般社団法人 山に生きる会」。間伐材で薪づくりをする活動をしてきました。

今回は、これらの山に生きる会の活動全般に携わる人を募集します。

この村だからこそ、できることを始めている人たちに話を聞いてきました。



名古屋駅からJR特急ワイドビューひだに乗り換え、約80分かけて白川口駅へ向かう。

遠くのほうに見えていた山が、どんどん近づいてくる。駅に着くころには、景色は山の緑でいっぱいにうまっていた。

改札を出たところで「こんにちは」と声をかけてくれたのは、村役場の安江由次(よしつぐ)さん。

東白川村へは、ここからさらに車で20分ほど。村に着くまでのあいだ、由次さんに村について聞いてみる。

「東白川村は、一級河川の白川沿いに集落が集まっています。白川は、水が透明で川底の白い砂まで見えたことから名付けられたんですよ。昔は僕もよく川で遊んでいましたね」

白川の清流では鮎が育つため、夏の時期は鮎釣りをしに県内外から人が多く集まるそう。

車の窓からあたりを見回すと、あちこちに田んぼや茶畑が並んで見える。由次さんによると、お米とお茶はこのあたりの二大農作物らしい。

「村ではほかにも、第3セクターの『ふるさと企画』という会社を中心に、新しい特産物づくりも進めています。今回取材してもらう『山に生きる会』でつくった薪の販売も、ふるさと企画がおこなっているんですよ」

今回募集する人は、地域おこし協力隊としてふるさと企画に所属し、山に生きる会に出向する形になるとのこと。

「僕は地域おこし協力隊の担当もしていて。仕事や暮らしのことで何か困っていることはないか、定期的に面談もしています。悩みごとがあったら、気軽に相談してもらえたらうれしいですね」

話をしているうちに、車は集落から外れ、山道をどんどん上がっていく。ほどなく、山に生きる会の事務所に到着した。

大量の木が積まれたなかを、大きな機械が動きまわっている。

出迎えてくれた代表の安江章吉(しょうきち)さんが、「せっかくなら外で話しましょうか」と木のベンチを持ってきてくれた。

章吉さんは東白川村で生まれ育ち、40年近く地元の森林組合に勤めていた。

「もともと自然が好きで。山って『ここを綺麗にしたい』『こういう山にしたい』って思いながら手を加えてやれば、ちゃんといい山になるんですよ。本当に正直で、素直なんですよね」

「事務所にこもっていて、たまに山での作業が入ったりすると、本当に気分がよかったりしてね。やっぱり自分にとって山は大事なんだなあって」

長年、山に携わり続けてきた章吉さん。

定年間際に感じたのは、人々の山を想う心の変化だった。

「就職した当時は山主たちも元気で、自分で山に入って手入れをしていたんですね。それが高齢化と木材価格の下落で、山に入る山主がほとんどいなくなって」

全国的にも同じ状況が起きており、国は林業事業体の強化に取り組んできた。そのかいあって、森林は急速に整備されつつある。

しかし、森林所有者が自ら山に入る機会は、あいかわらず減っている。

自分で手入れをする必要がないのは楽だけど、そのぶん山への愛着が育つ機会は失われている。

「山とのつながりがなくなってきていると思いますね。地元でも『固定資産税を払わないかん』って、山を持っていることが重荷になっている人が多くて」

「この村は、面積の9割が森林。山に囲まれて暮らしているのに、山がネガティブな存在なのは悲しい。もう一度意識を向けてもらうために、山を生活の一部として感じられるような取り組みを始めたいなと思ったんです」

そのためにまずスタートしたのが、薪づくり。

山を健康に保つためには、密に植えられた木を間引く必要がある。これまで山のなかに放置されることも多かった間伐材を活かそうという取り組みだ。

「山仕事の経験があるお年寄りや、定年退職後で生活に余裕のある人たちに、子や孫と一緒に自宅で薪づくりをしてもらう。そうすることで、山の大切さを語り継いでいきたいと考えました」

楽しそうに薪づくりに取り組むお年寄りの姿、村内のあちこちに薪が積んである様子。何気ない日常の風景のなかにも、山との関わりや想いを感じられるように。

3年前に一般社団法人を立ち上げ、専用の機械も取り入れて、現在は8人の社員と自宅で薪づくりをおこなう内勤パートを30名抱えるほどに成長している。

「昨今、キャンプや薪ストーブがブームになっているおかげで、薪の注文が伸びています。我々のようにひのきを使った薪は、ほかではあまりつくられていないみたいで。今は大手ホームセンター3社ほどに卸していて、全国約300店舗で取り扱ってもらえているんです」

商品は、間伐材を機械で適当な長さに切り、3ヶ月ほど乾燥させたのち出荷。

機械を使った作業はほかのスタッフも分担しているものの、出荷業務はほとんど章吉さんがおこなっている。

ほかにも工程管理やシフト作成、経理業務や報告書の作成など、章吉さんの業務は多岐にわたる。

「好きでやっているから、それほど苦ではないんだけどね、やっぱりこの歳になって体にきてる部分もある。この夏に少し体を壊してしまったんです。それで、私の仕事を手伝ってくれる人がいてくれたらなと考えるようになって」

今回着任する人は、まず3年間は地域おこし協力隊として出向し、その後も希望があれば引き続きここで働くこともできる。

「余った資材でつくった焚付用の小さい薪や、ひのきの葉も商品化しています。通常業務に慣れてきたら、山の資源を活用した新商品の開発にも、どんどん取り組んでくれたらうれしいですね」

山と人の接点を増やしていくため、章吉さんの挑戦は続いている。

昨年には新しく「榊づくり」が始まった。

明治時代に廃仏毀釈が徹底的におこなわれた東白川村。現在も神道文化が根付いており、神事に使われる榊は村人にとって馴染み深いもの。

「村には榊が自然に生えている場所が結構あったんですよね。だけど、ほかの地域で使われている榊は、ほとんど外国産のもの。神道の村から、国産の榊を届けたらどうかって思ったんです」

まずは自生のものを販売してみたところ、生産量が足りないことがわかった。

そこでクラウドファンティングで資金を集め、山に榊の圃場をつくり始めている。

「今は、自生している榊の販売を進めながら、圃場の整備や榊の苗木の栽培に取り組んでいます」

「榊も森林資源。榊の産地をつくれば、山を守ることにもつながります。それに、榊の栽培が専業として確立されれば、村の活性化の一助にもなるんじゃないかな」

榊が新たな特産物になれば、村を知ってもらうことにつながるし、就労を通じて山に関わる人も増やせるかもしれない。

薪も榊も、事業としては順調なところ。

一方で、章吉さんの目指すように「山への想いを取り戻す」ためには、まだまだ時間がかかりそうだという。

「自宅で薪をつくる人を、もっと増やしたいんだけどね。もともと森林に関わっていた人や私くらいの歳の人なんかは、共感して活動してくれているんだけど、もうちょっと若い人たちにどうしても広めきれていない部分があってね」

「伝えていくには、地道なコミュニケーションしかないと思っていて。まずは、薪や榊に触れてもらう機会をなんとかつくっていきたい。新しく来てくれる人には、地域の人と関わって活動を広めていく部分を期待したいし、そこが一番難しい部分になるんじゃないかなって思いますね」



地域に入ってコミュニケーションをとる。それは、仕事はもちろん日々の生活においても、大切なことだと思う。

協力隊のOBとしてふるさと企画で働く中野さんは、「仕事以外でもやりたいことを見つけてほしい」と話す。

もともとは都心で自動車部品の開発をしていた中野さん。

子どもが生まれ、自然豊かな場所で子育てをしたいと考えていたとき、仕事百貨の記事を見つけて東白川村を訪れた。

「車を走らせていると川の音が聞こえてきて、山がすごく近くまで迫ってくるような感じもしてきて。そんな村の自然風景が僕には新鮮で、直感的に『あ、ここいいな』って思ったんですよね」

「この村に住み始めて5年たちますが、やってみたいことがまだまだたくさんあるんです。今は狩猟や釣りに挑戦してみたくて。地域の人にそういう話をすると、『これは興味ある?』っていろいろ連れだしてくれるんですよね」

「今まで知らなかったことに出会うたび、すごく得した気分になります。夜明けの月の綺麗さや、冬の夜空の星の輝きには、本当に感動しました」

ほかにも、野菜づくりをいちから手伝ったり、蜂の子をとって食べてみたり。村の人から教わって一緒に体験していくなかで、少しずつ村にとけこんでいった。

これから来る人も、いろんなことに興味を持って行動してみることが、地域でコミュニケーションをとるきっかけになっていくかもしれない。

「地域の手伝いをすると、すごく感謝してもらえるんですよね。力仕事やネット関係とか、やっているのは些細なことでも『あんた、ここにずっとおってよ』って言ってもらえて。ここで築いた関係性を絶ちたくないっていうのが、村で暮らし続けている一番の理由ですね」

「この村で何をしたいのか。それはその人次第でいいと思うんです。子育てや自然遊び、山登りでも。地域の人とのコミュニケーションを楽しみながらも、自分がのびのびといられる場所になったらいいですよね」



山と、人と、関わりながら暮らす。

その方法を、この村の人たちと一緒に探ってみてください。

(2020/9/15 取材 鈴木花菜)
※撮影時にはマスクを外していただいております。
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