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400年続く
銅器のふるさと
職人の技を宿から伝える

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

富山県高岡市。

銅器づくりの国内シェア9割を占める、鋳物のまちです。

大晦日に聞こえる除夜の鐘や、小学校などで見かける二宮金次郎像も。その多くが高岡生まれなんだそう。

そんなものづくりのまちで、今年の冬、新しい宿が始まります。

宿の名前は「金ノ三寸(かねのさんずん)」。「鋳」の字を分解したネーミングです。

この宿を手がけるのは、高岡銅器の技術を生かした伝統工芸品やテーブルウェアのブランドを展開する「四津川(よつかわ)製作所」代表の四津川さん。

自社商品をインテリアに取り入れたり、細部に職人技を施したり。宿泊を通じて、鋳物のまちらしさを感じてもらうことを目指しています。

今回は、この宿で接客業務をおこなうスタッフと、朝食の調理をするスタッフを募集します。

宿の仕事に興味がある人はもちろん、ものづくりが好きな人にもぜひ読み進めてほしいです。



東京から北陸新幹線に3時間ほど乗り、新高岡駅へ向かう。

富山駅を告げるアナウンスが聞こえたあたりから、ほんのり雪化粧した立山連峰が見えてきた。

四津川製作所のオフィスは、新高岡駅から車で20分ほど。金屋町(かなやまち)と呼ばれるこのあたりが、高岡銅器発祥の地なんだそう。

オフィスにはショールームがあり、ライトアップされた商品が壁全面に並んでいた。厳かな雰囲気があって、この一角だけ美術館のよう。

「ここに飾っている商品は、『喜泉堂』という名でブランド展開しているものです。主に花器や香炉、茶道具などを手がけていて、最近では海外のお客さまにも人気なんですよ」

そう教えてくれたのは、四津川製作所の代表、四津川さん。

四津川製作所は四津川さんのおじいさんが創業した会社。現在は企画専門の製作所として、高岡の職人さんたちと一緒にものづくりをしている。

「高岡は、約400年前から銅器づくりが盛んなまちです。江戸時代に藩をあげて鋳物師の支援をしたことがきっかけだそうで、明治には万博に出品したこともあります。日本の伝統工芸品として、世界各地の美術館に作品が展示されているんですよ」

金属加工には原型・鋳造・仕上げ・着色・彫金と呼ばれる工程があり、それぞれに専門の職人がいる。

高岡の強みは、これらすべての専門職人が揃っていて、ひとつのまちだけでものづくりが成り立つこと。これは全国的にもとても珍しいのだそう。

「さまざまな製作所や職人さんがいらっしゃるので、つくりたいものに合わせて仕事をお願いしています。喜泉堂は、手間をかけた丁寧な商品づくりを大切にしてきました」

高度な技術力で細工された喜泉堂の商品は、海外でも注目を集めている。

「全国各地、そして海外でも定期的に展示会をさせてもらっています。ただ、一般的な家庭でもよく買われていた昔とは違って、今はどうしても需要が減ってしまっているんです」

現代の暮らしのなかでも、高岡銅器を身近に感じてもらいたい。

そんな想いから、2014年にライフスタイルブランド『KISEN』をスタートし、金属の特徴を活かしたテーブルウェアをつくるようになった。

「たとえばこのワイングラスは、ガラスと真鍮を組み合わせていて」

あれ、ちょっと傾いている…?

「そうそう。これは金属ベースを軸に、ワインをスワリングできるようにしているんです」

一見中身がこぼれそうだけど、金属の重みが支えになって、うまくバランスが保てるんだそう。

ほかにも、木と金属を合わせたカップやお皿など、約100点の商品がある。

「KISENは、喜泉堂の商品を知ってもらうきっかけにもなっていて。やっぱり、職人の技を最大限に発揮できるのは喜泉堂の商品。高岡の誇りとして、これからも守っていきたいと思っています」

「2つのブランドをもっと多くの人に届けたい。そのために、うちの商品を身近に感じてもらえるような場所がほしいなと思って」

ショーケースに飾られた姿ではなく、自宅で使っている様子が想像できるような空間で、商品を見てもらいたい。

路面店やレストラン、バーなど、様々な形態を考えたそう。

その過程で次第に強くなっていったのが、この町に対する想い。

「私は生まれも育ちも金屋町で。ここは、今も大勢の人が住んでいながら、昔ながらの風情ある町並みが残る場所なんです。宿があれば、金屋町へ観光に来てくれる人も、もっと増えるんじゃないかなって」

「とはいえ、宿を経営したこともないですし、なかなか行動にはうつせなかった。そんなときに、富山で宿のプロデュースをしている明石さんと出会ったんです。明石さんのおかげで、やっと宿を始める決心がつきました(笑)」



四津川さんの背中を押したのが、グリーンノートレーベルの明石さん。

明石さんは、もともと東京でまちづくりコンサルタントの仕事をしていた方。

10年前に富山へ拠点を移し、カフェや宿、移住支援拠点やコワーキングスペースなどの企画・運営に幅広く携わってきた。

「自信を持って背中を押しました。初めて商品を見たとき、これを求めている人は絶対いると思ったし、すごく可能性を感じたんです。海外のインテリア雑誌にのっている様子が想像できるなって」

「実際に商品ができるまでの工程も見学させてもらって。専門の違う人たちが、想いをひとつに作品をつくる姿勢と、その技術力の高さに感動しました。もっと多くの人に知ってもらいたいと思いましたね」

金屋町のものづくり技術を伝えたい。

そんな想いで企画された「金ノ三寸」は、ちょうどひと通りの工事が終わったところ。

二棟の町家をリノベーションしていて、一棟最大8人まで泊まれるそう。

実際に宿を見せてもらうため、会社のある通りから一本裏の本通リへ。すると昔ながらの町並みが広がっていた。

およそ500mにわたって、石畳の道と格子造りの古い家並みが続いている。この一帯は国の重要伝統的建造物群保存地区にも選ばれているそう。

「ちょっと道を入るだけで、全然雰囲気が変わるでしょう。あ、ここ見てください。石畳に銅板が埋め込まれているんですよ」

ほかにも、側溝のふたや鉄柱など、ところどころに金属が使われている。

鋳物の技術がさりげなく散りばめられていて面白い。

歩いて5分ほどで、宿に到着。中に入ると棚やテーブル、ドアにいたるまで、あらゆるところに銅が使われている。

「銅器のまちだということが感覚的に伝わるように、フロントや共有部分には『やりすぎかな?』と思うくらい金属を用いました」

「喜泉堂やKISENの商品も飾っていく予定です。ドアは高岡銅器の伝統的な着色技術で色をつけていて、照明などは富山の作家さんの作品を使用しています。まずは、金屋町らしく金属感満載で、わっと驚いてもらいたい」

客室に入ると、フロントの雰囲気とは一転、木や畳の落ち着いた雰囲気。

「客室には、この雰囲気に自然と馴染むような喜泉堂の商品を置いています。お値段のする商品も、実際に手にとって見てもらえるようにしているんですよ」

「朝食にもKISENの食器を使うつもりです。日常でどんな風に使えるのか、こちらから提案していきたいですね」

「細かいセッティングはまだまだこれからなんです」と、部屋のなかを見つつ直していく明石さん。

どんなところが気になりますか?

「すごい細かいんですけど、ティッシュボックスやベッドスプレットの位置とか。まだこの部屋には何かが足りないなって考えているところなんです」

「少しずつ動かしながらチューニングしていると、ここだなって決まるときがあって。『これがベスト!』って思える状態までこだわりたい。部屋に入ったときの印象って、ちょっとしたことで全然違ってくるんですよ」

お客さんがどう感じるかを想像するのは、運営スタッフにとってもすごく大切なこと。

「どうしたらもっと良くなるだろうって、探求するのが好きな人が合っているんじゃないかな。あとは、自分に自信がない人。自信がないからこそ、ベストを見つけようと色々試すんだと思うんです」



今回募集する人は、どんな仕事をすることになるんだろう。

再びオフィスに戻り、四津川さんに話を聞いてみる。

「運営スタッフには、まずは基本的な接客や予約管理、SNSなどを通じた広報をお願いしたくて。清掃担当のスタッフも雇うつもりですが、お客さまを迎え入れる最終的なチェックは運営スタッフに任せたいと思っています」

「ゆくゆくは宿のことを広く深く、一緒に考えていけたらと思うけれど、まずはお客さまを笑顔で迎え入れてくれたら十分だと思っています」

四津川さんをはじめ、人手が足りないときは製作所のスタッフも応援に来てくれる。ただ、基本的には一人で運営していく場面も多い。経験がなければ、不安になることもあるかもしれない。

心強いのは、明石さんの存在。

「金ノ三寸」は、明石さんが運営する新湊の「水辺の民家ホテル」と姉妹宿になるそう。そちらのスタッフから基本的なノウハウを教わり、相談に乗ってもらうこともできると思う。

「この宿をきっかけに、金屋町をもっと盛り上げていきたいですね。朝食以外の食事はお客さん自身でとってもらうことになるので、外食できるお店やスーパーの紹介マップをつくりたくて」

「それに、せっかくならものづくり体験も紹介したいです。近くにある体験工房とも連携していきたい。私たちの製作所でも、ものづくりプログラムを考えているところなんですよ」

四津川製作所では、金槌などで叩いて銅板に絵を浮かばせていく体験ができる。指導や仕上げは国家資格をもった伝統工芸士さんが担当してくれるそう。

「富山湾にのぼる朝日を見にいくとか、金屋町全体をライトアップするとか。朝や夜に楽しめるものも必要ですよね。住民の方に協力してもらって、まちぐるみのイベントも企画していかんと」

たくさんのアイデアを話してくれる四津川さん。まちづくりに興味のある人だったら、一緒に知恵を出しながら形にしていけると思う。

「高岡銅器のことを知らない人も、その魅力や奥深さを知ったらきっと好きになってもらえるはず。だから、今は知識がない方も気にせずに、ちょっとでも興味をもってもらえたらぜひ応募してほしいですね」



取材の帰りに、職人さんの仕事風景を見学させてもらいました。

この道50年という職人さんの手仕事は、ものすごく細かい。さきほどの商品一つひとつにかけられた時間と手間を、あらためて実感しました。

このまちで古くから受け継がれてきた、職人さんの技。

鋳物のまちらしさを、宿のスタッフという立場からたくさんの人に伝えてほしいなと思います。

(2020/10/19 取材 鈴木花菜)
※撮影時にはマスクを外していただいております。
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