求人 NEW

日々を整え
1800年の歴史をつなぐ
ただ、それだけ

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

長く受け継がれているものには、理由がある。

古い建築物や家具など、形あるものだけでなく、伝統文化や慣習といった形のないものも。変化が激しい時代でも変わらず残るものには、「繋ぎたい」と思わせる何かがあるのだと思います。

福岡県北九州市にある和布刈(めかり)神社。ここで、神主見習いとして働く人を募集します。

なかなか見ない求人。そもそも、一般の人が神社で働けるの?と思う人も多いと思います。

多くの人が知らない世界だからこそ、外からの視点が大きな意味を持つ。遠い世界のように感じている人も、ぜひ一度読んでみてください。


小倉から在来線に乗り換えて、門司港駅へ。和布刈神社は、門司港駅からバスで10分、歩くと40分ほどの場所にある。

この日は気持ちのいい秋晴れ。駅から海沿いの道を歩いて向かうことにした。

広がる海と空に、関門橋。遠くに見えていた橋へと近づき、見上げるような位置までやってくると、和布刈神社の門が見えた。

「遠いところをようこそ」と迎えてくれたのは、神主の高瀨さん。

まずは周辺を歩きながら、この場所の歴史について聞かせてくれた。

「ご神殿の後ろにある大きな磐座(いわくら)がご神体なんです。西暦200年に、神功皇后さまが三韓征伐勝利の感謝の意を込めて、ここに月の神様をお祀りしたのが始まりだと言われています」

西暦200年というと、弥生時代。そんなに昔からある場所なんですね。

「今でこそ関門橋があったりしますが、昔はご神体の磐座以外、林が広がっていた場所で。参拝される方も船で海から来られていたんです。だから参道も鳥居も海に面しているんですよ」

社殿の正面には、関門海峡が広がる。鳥居越しに見える巨大な橋に、対岸のまち。なんだか不思議な光景だ。

「和布刈」は、わかめを刈るという意味だそう。

わかめは昔からの縁起物。和布刈神社では、一年でもっとも水が引く2月頭の午前2時半ごろ、神社の目の前の海に自生するわかめを刈り、神様にお供えする和布刈神事が毎年行われている。

神楽も奉納され、地域の人だけでなく外国からの参拝客も増えているそう。特別な神事に注目が集まる一方で、高瀨さんは日常の神社を伝えることも大切にしている。

「たとえば…お賽銭の上にしめ縄がありますよね。あれは何をイメージしているか、わかりますか?」

しめ縄…お正月のしめ飾りで見たりするけど、どういう意味なんだろう。

「あれは、雲と稲妻をあらわしているんです。春に田植えをした稲が、夏の終わり、雷が鳴るのを合図にぐっと成長する。そして秋の収穫を迎えることができると昔から考えられていて。なので、雷は稲の妻と呼ばれているんです」

「豊かな実りをもたらす神聖な存在を神社に掲げることで、ここは神様の領域だということを示している。何気なく目にするものも、一つひとつ、日本人の思考と知恵が詰まっているんです」

ほかにも、神社にある鈴は“呼び鈴”のように使われているけれど、本来は祈願を受けた人に対して巫女さんが鈴を振り、その音色で神様の御神徳を分け与える、という意味があるそう。

足元にある砂利は、じゃりっじゃりっという音で五感を研ぎ澄まし、あえて歩きにくくすることで、俗世界とは別の領域であることを演出している。

意味を知ると、お参りする気持ちも変わる気がします。

「知ってもらうことで、地域に神社がある理由や、身近にある日本文化に気づいてもらう。気づく人が増えることで、神社が未来に残っていく」

「私の代だけじゃなく、これから百年先、千年先も神社は続いていきます。今の時代を生きる私たちは、継がれてきたものを日々整えて、より良い状態で次にバトンタッチする。それだけなんですよね」

淡々と、まっすぐな言葉で語る高瀨さん。

お父さまから和布刈神社を引き継いだのは、11年前のこと。当時はお正月しか参拝者がいないような神社だったのを、少しずつ整備し、変化させていった。

途絶えていた神楽を復活させたり、愛用品の供養を行う「思物供養」や遺骨を海へ還して供養する「海葬」を始めたり。神社の運営を安定させると同時に、時代に合わせた要望にも応えてきた。

2年前からは、日本の伝統工芸の再興に関わってきた中川政七商店のコンサルティングのもと、決算書や人事制度など、まずは内部の仕組みを整えたそう。

“和布刈神社を在るべきすがたへ”というビジョンのもと、昨年12月には授与所のリニューアルも行なった。

月の神様が御祭神であることから、光の陰影を内装で表現。中央は小上がりのようになっている。

真ん中にある岩は、御神体の磐座が欠け落ちたものだそう。

「お守りをお渡しするときは、一つひとつ御神体の上に乗せて、鈴を振る。御神徳を振り与えるということですね。生産性は落ちてしまいますが、この場所でお守りをいただく意味を大切にしたかったんです」

シャラン、という音が響き、ひとつずつ丁寧に手渡されるお守り。参拝者は、参拝本来の意味に立ち返る。

「神社のあるべき姿って、明確な答えはないんですよ。ただ、弥生時代から今日まで積み重ねられてきた結果が、今の姿になっているんです」

「未来まで受け継いでいくためには、これまでの伝統を理解した上で、時代に合わせて変化することが必要だと思っていて。そのためにも、今回募集する人には、恐れずにいろいろな提案をしてほしいなと思っています」

たとえば授与所の前に並ぶススキは、「神社は四季を感じる場所なんじゃないか」という職員の声がきっかけだったそう。四季をデザインし、その“しつらえ”を行うことも大切な役割だ。

それぞれの視点や経験、得意なことを生かしてほしいと話す高瀨さん。

「自分の価値を出して、提案から行動までしてくれる人がいたら、とてもありがたいなと思ってます。社会人経験があって、成長していくためにどんなことが必要か、一緒に考えてくれる、そんな人がいいですね」

「授与所も新しくなって、これからさらに神社の可能性を広げていきたいと思っているんです。私たちは変わらないために、変わり続けていかないといけない。和布刈神社をより良いかたちで受け継いでいくためにも、一緒にチャレンジしてくれる人が来てくれたらうれしいですね」


経験を生かして、神社に新しい視点を持ち込む。

1年前に神主見習いとして入社した三笘(みとま)さんは、まさにそんな人だ。

以前は不動産賃貸のベンチャー企業で、営業やマネジメントをしていたそう。

「不動産の営業で、しかも立ち上げたばかりのベンチャー。仕事は大変でしたが、給料を上げたいとか、肩書きをつけてもらいたいとか、そんな思いでバリバリ働いていましたね」

10年ほど働き、経験を重ねていった三笘さん。仕事にのめり込む一方で、ストレスから体調を崩すこともあった。

仕事について見つめ直したいと考えていたのが、ちょうど1年前のこと。

「たまたま寝る前に日本仕事百貨を見て、和布刈神社の記事を見つけたんです。神社とか日本の歴史文化に興味があったので、なんとなく目に留まって」

記事を読み終わったのは、募集最終日の夜中。あと10分で募集終了というタイミングだった。

「こんな募集があるんだってびっくりして。しかもあとちょっとで募集が終わっちゃう。このタイミングで見つけたのは、絶対なにかの巡り合わせだと思って、応募したんです」

神社に興味があったとはいえ、神職のことはほぼ知らなかったという三笘さん。やってみたい気持ちと同じくらい、不安も大きかった。

「面接のとき、高瀨さんに言われて衝撃だったんですけど、『ものがちょっとずれていたら、まっすぐにするのも大事な仕事です』って。お守りやお札から、参拝者には見えないバックスペースのものまで、きれいに整える。それに対して、ちゃんと時間を使う」

「最初は、えっ?そんなに時間をかけていいんですか?って、信じられなかったです。でもそれが逆に心地よかったというか。コストとか効率ばかり考えていたときとは、また別のやりがいを感じました」

神主にとって大切なのは、その人が醸し出す凛とした雰囲気や空気感。

小手先の言葉を身につけるよりも、まずは身の回りのものをきれいに整える。誰かがやってくれるではなく、気づいた自分が手を動かす。

その積み重ねが、自分の内面を整え、言葉に表せないその人の雰囲気をつくり出していく。

一方で、ベンチャー企業で培ってきた経験は活きていると話す三笘さん。

データの管理や表の作成を、エクセルでわかりやすく効率的に行えるようにしたり、事務作業を簡略化する仕組みを整えたり。

ほかにも発注先の管理など、高瀨さんだけが把握していた仕事を切り分けて、高瀨さんの不在時もスムーズに仕事が進むようにするといったマネジメントもしている。

「前職で人事にも積極的に関わっていたっていう話をしたら、入社して2ヶ月でアルバイトの面接も任せてもらって(笑)。人をちゃんと見て仕事を任せてもらえるのは、すごくありがたいです」

神主見習いの一日も教えてもらう。

朝は8時ごろ出勤して、着物に着替えるところから。8時半からは、神様に祝詞とお供え物をあげる朝拝が行われる。

その後は境内や授与所の掃除。葉っぱの一枚も残らないように、毎朝丁寧に手を動かす。

掃除は清掃会社以上にプロでなくてはならない、というのは高瀨さんの言葉。神聖な場所だからこそ、毎朝の掃除をとても大切にしている。

9時半に授与所が開いたあとは、御朱印やお守りなどの参拝者対応が中心。三笘さんは海葬も担当しているので、申し込み対応から出港の手配まで携わっている。

「海葬は、人の死に関わることである。ある意味苦しくて重い仕事だなって感じることもあります。泣きながら骨壷を撫でている方もいて… それをお預かりする立場って、すごく責任ある仕事だと思うんです」

「安心して来てもらえる場所であれるように、掃除はもちろん、普段の姿勢とか、細かいところにも気をつけるようになりました。日々、身が引き締まる思いですね」

現在は、神職の資格取得のための準備を進めているという三笘さん。

神社を訪れる人の思いはさまざま。観光目的で来る人もいれば、悩みを抱えすがる気持ちで訪れる人もいる。

喜びも悲しみも、願いも悩みも。いろんなものが集まる特別な場所。

「前まではお金とか名誉とか、自分のために仕事をしてたんです。でも自分はもういいなって思うようになったんですよね。誰かの役に立つとか、日々を丁寧に積み重ねる。それが今はモチベーションになってます」

「変化を恐れない、柔軟な方がいいですね。自信は自然とついてくると思うので、まずは自分の強みを出して、謙虚に取り組んでくれたらいいなと思います」

1800年の歴史を、より良い形で未来へつなぐ。

その重さはもちろんあるけれど、大切なのはまず目の前のことに淡々と向き合うこと。

その日々を積み重ねていくことで、神社も、そして自分も整ってゆくのだと思います。

(2020/10/21 取材 稲本琢仙)
※撮影時にはマスクを外していただいております。
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