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その日限りの
「向き合う時間」
をつくる料理

※この仕事は募集終了いたしました。ご応募どうもありがとうございました。

美味しいものを食べると、自然と笑顔になって幸せな気持ちで満たされる。

それが、大切な人と訪れた旅先での食事だったら、より思い出に残る格別なものになると思います。

開湯1300年を超える歴史をもち、志賀直哉の『城の崎にて』の舞台としても有名な、兵庫・城崎温泉。

このまちにある旅館「泉翠(せんすい)」では、宿での食事の時間を大切にしています。

地元の食材にこだわり、素材の良さを活かすため、味付けは最小限。目指すのは、その日一番美味しいものを使った、一日限りの料理です。

今回は、泉翠の料理人を募集します。

即戦力として働ける業界経験者だとうれしいものの、未経験でも大丈夫。なによりも、自分の料理でお客さんを幸せにしたいという気持ちのある人を求めています。


東京から新幹線で京都へ。城崎温泉駅までは、特急きのさきに乗り越えてさらに2時間半ほどかかる。

電車のなかは大きな荷物を持った二人組が多く、早くもビールを開けて旅行気分を楽しむ人も。

駅から旅館までは、歩いて5分ほど。雪がちらつくなか、木造の建物が並ぶ街並みには、タイムスリップしたかのような趣がある。

泉翠があるのは、表通りから一本入った静かな場所。

フロントを訪ねると、「遠いところから、はるばるありがとうございます。城崎は初めてですか?」と社長の冨田さんが出迎えてくれた。

1階にあるレストランに移動し、お話を聞くことに。

「城崎といえば、7つの外湯めぐり。外湯はすべて徒歩20分圏内にあるので、歩いてはしごできるんです。皆さん、ゆかたに下駄でカラン、コロンとまちを歩いていますよ」

ゆかたを着てまち歩きを楽しむ観光客が多く、特に夜は私服で歩いているほうが目立つことも多いそう。

「ゆかたを着て外に出るときに、『あぁ、いいなあ』ってお客さんがつぶやくんですよね。そういうほっと一息つける力がここにはあるというか。全国に温泉街はたくさんありますが、このミニマル感は城崎ならではだと思っています」

城崎温泉には、北但大震災によって一度すべてが壊れてしまった過去がある。

その後、まちを復興するなかで宿った「共存共栄」の精神は、先人から受け継がれ今でも大切にされているという。

「『駅は⽞関』で、その先の『道は廊下』。『宿は客室』『⼟産屋は売店』、そして『外湯は⼤浴場』。城崎では、まち全体を一つの大きな宿にたとえています。みんなでお客さんをお迎えしようという気持ちがあるんですよね」

まち全体に活気があふれれば、最終的にはみんなが潤う。だから、ほかの宿の繁盛も“いいこと”なんだとか。

「僕は京都から婿入りでこの宿にきたので、城崎の横のつながりにはすごく助けられました。3年前の改装工事のときも、ほかの宿に相談して。参考になりそうな書籍や経験談を色々教えてもらったんですよ」

創業50年目を迎えた泉翠。

建物の老朽化が進んでいたこともあり、2018年にリニューアルをおこなったそう。

「工事は、宿のあり方をあらためて考えるきっかけになりましたね。泉翠としてお客さんに何を提供していくのか。そうして出た結論が、向き合う時間だったんです」

向き合う時間。

「うちは二人組のお客さんがほとんど。慌ただしい日常から離れた場所だからこそ、一緒に旅行に来た大切な方と、じっくり落ち着いて話す豊かな時間を提供したい。なので、客室にはテレビを置いていないんですよ」

ラウンジではコーヒーやお酒も用意している。普段は照れくさくてなかなか話せない人とも、旅先でなら心がほぐれ、深い話ができることもあるのだろうな。

料理の時間も、向き合う時間のひとつ。

「夕食はコースでお出ししているので、食べ終わるのに2時間くらいかかるんですね。その間も会話を楽しんで、こんなものが好きなんだってお互いを知るきっかけにしてほしい」

「食事の時間はすごく大切だと思っていて。僕自身、食べるのが好きなんですが、本当に美味しいものを食べたときって『あぁ、うま…』って声が出ちゃう。その瞬間の幸福感ってすごいと思うんですよ」

「料理で幸せを感じてほしい」という想いから、接客スタッフも食事時間の接客に全力であたっているそう。

リニューアル時にはオープンキッチンとカウンターを設けた。

「料理人さんの所作って、すごくかっこいいなと思っていて。ネギを切っているだけでも惚れ惚れしてしまう。料理ができていく様子を間近で見れるカウンター席は贅沢な場所だと思うので、多くのお客さんに体験してほしいですね」

「料理人さんは、旅館の功労者の一人なのに裏方みたいなイメージが強いなと感じていて。自分がつくった料理を食べてお客さんが幸せになっている瞬間を、料理人自身にこの場に立ちながら大いに感じてほしい。オープンキッチンには、そんな想いも込めています」

素材本来の味を味わってもらえるよう、味付けは最小限に。

多少仕入れ値がかかっても、食材や調味料は地元のものを使うようにしている。

「今日一番美味しいものを使ってるから、明日は同じメニューは出せない。その日限りのメニューこそがご馳走だし、理想だなと思っています。泉翠の料理を食べたいから、お客さんが城崎温泉を訪れる。そんな場所を目指していきたいですね」

「そのためには、もっと生産者さんと関わることが必要」と冨田さん。

食材のことを誰よりも詳しく知っているのは、農家さんや漁師さん。産地にもこまめに足を運び、直接コミュニケーションをとっていけば、より美味しい食べ方や旬のものなどを教えてもらえるかもしれない。

「今は朝食と夕食、多いときだと30人くらいの食事を、料理長一人でつくってくれていて。生産者さんを訪ねる時間をつくったり、料理をブラッシュアップしたりするためにも、新しい人を募集したいんです」

となると、すでに経験のある人がいいでしょうか?

「もちろん、経験者であればうれしいのが正直なところです。調理を一人でお任せできるくらいの即戦力になる人がきてくれたら、時間ごとに分担ができるなと思っています」

「ただ、未経験でも『自分の料理で誰かを幸せにしていきたい』という想いが強い人だったら、ぜひ歓迎したい。料理長のもとで一から学んでもらえたらと思います。経験以上に、うちの志に共感して、やりがいを感じてもらえる人に来てほしいですね」


現在、料理長を務めているのが入社2年目の三原さん。

「高校を卒業してからは、ホテルや旅館の厨房で働いていました。カウンターのある居酒屋で仕事をするようになったとき、初めてお客さんが自分の料理を食べている姿を見て。顔が見えるっていいなと思ったんです。そんなタイミングで、前料理長の大西さんに声をかけてもらいました」

「入社してすぐ、取引先の農家さんのもとに研修に行きました。畑にあったルッコラをその場でちぎって食べたんですが、自分の知ってる味とは全然違くて。野菜の味ってこんなに違うんだって、衝撃を受けましたね」

リニューアル後は、大西さんと二人でカウンターに立っていたそう。

「立場は同じだから、一緒に立ってほしいって言ってくれて。大西さんの料理への想いを聞くうちに、泉翠が目指す料理を僕もつくりたいって思うようになりました」

ふたりでもっと技術を磨いていこうと思っていた、昨年の9月。大西さんが突然の病で急逝した。

「社長から、料理長をやってくれないかと話をもらって。自分には経験や実力が足りていないと思いましたが、信頼してくれた大西さんや社長の想いを考えると、断る理由はありませんでした」

料理長になってからは、朝食と夕食の仕込みや調理を一人で担当し、奮闘してきた。

「Go Toトラベルの期間中は、満室が続いて大変な時期もあって。毎日同じメニューをつくるのでやっとな状況でした。メニューは、社長にもアドバイスをもらいながら、自分でいろいろ調べたり聞いたりして、考えて。まだまだ勉強中なので、いろいろ挑戦していきたいですね」

泉翠が目指す料理を実現するためには、常に新しいメニューを考え、自分のスキルを向上させていく挑戦が大切になる。

生産者訪問や調理方法の研究、他の料理人さんとの情報共有など、追求すればするほどやれることはたくさん出てくるはず。

経験がなくても大丈夫とのことだったけど、高いレベルをともに目指していく覚悟は問われると思う。

「大西さんとはいつも、この素材がもっと美味しくなる調理法はなんだろうって話していて。素材の味わいを、どういう形で表現するのか。現状に満足せず、常に上を目指す姿勢を学ばせてもらったので、僕もそういう料理人でありたいと思っています」


話を聞いているうちに、日が暮れてすっかり夜になっていた。そのまま宿で夕飯をいただくことに。

せっかくなのでカウンター席をお願いすると、そこにはメッセージカードが置かれていた。手書きのフォントに心がほっこりする。

メッセージを書いてくれたのは、台湾からきた接客スタッフのユケさん。

城崎温泉でおすすめの外湯やお土産などを、観光マップに書き込みながら楽しそうに教えてくれた。

「お客さまの笑顔が好きなんです」と話すユケさん。お客さんに紹介できるよう、自宅でも泉翠のレシピをまねて食事をつくり、なんのドリンクがあうか試しているそう。

お客さんのためにという想いは、立場を問わず泉翠で働くスタッフ全員が持っているものなんだろうな。

ユケさんと話すあいだも、カウンターの向こうで手際よく準備を進める三原さん。

地元の野菜や魚を使った前菜、お造りをいただいたあとに出てきたのが、今が旬の津居山ガニ。

城崎温泉から車で10分ほどに位置する津居山港で水揚げされたカニは、最高の鮮度で提供できるんだとか。

「まずは、生で食べてください」と三原さんに促され、初めてカニのお刺身を食べてみる。

ぷりっとした食感にほんのりとした甘味が広がる。「おいしい…」とつぶやく私を見て、笑みを浮かべる三原さん。

「やっぱり、カウンターがあると生の反応を見れるのが本当にうれしいですね。お客さんの好みに合わなくても、その声を直接聞けるので、調整もすぐにできる。その良さはすごく感じています」

三原さんと話しながら、しゃぶしゃぶ、茹で、焼きと、いろいろな食べ方でカニを堪能しているうちに、あっという間に2時間が経っていた。

夕飯後は、旅館の貸切風呂に入り、心も体もほかほかしたまま就寝。次の日、レストランに向かうと、朝ごはんが用意されていた。

野菜がたっぷりで、出汁の風味を活かした優しい味。

チェックアウトの時間には、本格的に雪が降っていた。「駅前の観光センターで返却してくれたらいいですから」と、長靴と傘を貸してもらう。

外湯の温泉につかり、ユケさんがオススメしてくれたお土産を買って。電車が出発するギリギリまで城崎温泉を堪能しているあいだに、冨田さんの言葉を何度か思い出した。

「もしちょっとでも悩む気持ちを持ってくれたら、まずは一度城崎に来てみてほしくて。そしたら、感じるものがたくさんあると思うんですよ」

城崎のまちで過ごして、何を感じるのか。結論を出すのは、そのあとでもいいのかもしれません。

(2021/1/8 取材 鈴木花菜)
※撮影時はマスクを外していただきました。

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