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ほんとうの幸せってなんだろう。
調味料を足さなくても、畑から採れたばかりの新鮮な野菜は瑞々しく、そのままで十分に美味しい。
季節によって移り変わる、花や草木を眺めるだけで心が豊かになる。
今回の取材を通して、自分の足元が落ち着く感覚がありました。
“花のある自然で美しい暮らし”をテーマに活動しているのが、タネニハプロジェクト。
環境再生型農業に挑戦する「Taneniwa Farm」を中心に、花屋さん、緑のある暮らしを提案する不動産事業が三位一体となって活動中です。今回新たに、イタリアンレストランの「PIZZERIA GTALIA DA FILIPPO」の代表も参画。
今年の秋ごろに、カフェ・レストラン、物販など複数の機能を持つ施設「La tavola felice de filippo(フィリッポの幸せな食卓)」をオープンします。地元の食材や、無農薬の野菜を使用するなど、花と食が融合する場になる予定。
今回は、そこで働く料理人や店長など、立ち上げメンバーを募集します。
新宿から電車に乗ること40分ほどで東久留米駅に到着。そこからバスと歩きでおよそ30分、建設中の felice de filippoが見えてきた。
手前には農地が広がり、建物の奥には背の高い木々。左手には、青々しい麦畑が広がっている。東京に、これだけ大きな農地があるなんて驚き。
これらの畑もTaneniwa Farmが手を入れている場のひとつ。
すぐ近くに事務所があり、園芸用の花を育てているビニールハウスや、レモンなどの果樹も。サッカーコート3面分の広大な敷地内には、古い蔵や家屋、井戸などもあって、歩いているだけで癒される。
年間を通して100種類以上の花苗を生産していて、ガーデニング愛好家や地域のお店に販売しているのだとか。
300年前に農家としてこの土地を開墾し、代々守りながら豊かに広げてきたのが、秋田茂良さん。となりには奥さんの小森さん。もともと福岡で花屋さんを経営していて、当時から秋田さんの取り組みに共感し、秋田緑花農園からお花を仕入れていた。
3年前に結婚して、現在は一緒に活動しているところ。今回の新店舗は小森さんが主導で進めてきた。明るい雰囲気のふたりと話していると元気が湧いてくる。
「タネニハプロジェクトのはじまりは、2018年。地域の人同士で交流できたり、自然と触れ合える場所をつくりたいという想いで、夫がここにタネニハガーデンをつくったのが1番最初なんです」と小森さん。
農園で育てた花を販売したり、ワークショップやイベントなどを企画したりして、地域ににぎわいを生み出してきた。
また、タネニハガーデンから歩いて15分ほどの敷地では家庭菜園付きアパートを運営。収穫した野菜をそのまま屋外のキッチンで調理したり、お隣さんとシェアしたり。自然と寄り添うような暮らしを実践している。
「タネニハプロジェクトの“タネ”は野菜や花の種、“ニハ”は古語で場所っていう意味」
「だから、『タネから新しい芽が芽吹くように、関わるみんなが花と自然とともに美しい暮らしを感じられる場をつくりたい』という想いが込められているんです」
2024年には、東久留米の駅前に商業施設と居住空間を含む複合施設「kinone(キノネ)」をオープン。東久留米で育った農作物をつかったメニューが楽しめる飲食店、農薬や化学肥料を使わない花を販売する花屋さんなど、オーガニックやエシカルをテーマにしたテナントが多く集まる。
また、kinoneで排出された切枝は、コンポストで腐葉土になり、秋田緑花農園で花や小麦の肥料へ。育った作物をkinoneで販売することで、循環する暮らしを目指している。
園芸、不動産、飲食などなど、その動きの多様さはどこから来ているんでしょう。
「植物の芽が出てきたとか、虫が出てきたとか。日々のそういうことに癒される。花がたくさん売れるとか、事業規模が拡大するとか。経済にばかり乗っかっていても、幸せではないのかもしれないってことに気づいて」
「私たちは農業を続けたい」と小森さん。
「でも東京では、農地を維持するだけでもすごくお金がかかるわけで。そのためにいろいろな事業に取り組んでいるんですね。いまは便利なものがいっぱいあるけど、ほんとうの幸せっておいしくて体にいいものを食べるとか、花を見て愛でるとか」
「日本には古くより、季節の移ろいと共に、その土地にあるものを楽しむ文化があります。今あるそれらのものを感じることが幸せにつながると思うんです」
環境と人に負荷の少ない方法で花を育て、無農薬の野菜づくりも始めている。花と農と食を結ぶことで、より一層多くの人の心に豊かさを届けることができるのではないか。
そこでつくることになったのが、新たなカフェ・レストラン「フィリッポの幸せな食卓」。
タネニハのビジョンに共感して、プロジェクトに参加することになったのが、運営を担う岩澤さん。
練馬区にある人気イタリアンレストラン「PIZZERIA GTALIA DA FILIPPO」のオーナーとして、本場イタリアの規格にのっとったピッツァを提供してきた。
岩澤さんの提供するピッツァは、小麦粉、水、塩、酵母だけをつかったシンプルな生地を薪窯で焼き上げる伝統的なスタイル。2006年世界ナポリピッツァ選手権では、第1位に輝くほどの実力。
何歩先もの未来を見据えて行動している岩澤さん。
たとえば、店の近くの農家でとれる旬の野菜や果物をつかったオリジナルジェラートを開発。収穫量が多すぎて値崩れしてしまいがちな季節の食材を一年中食べられるジェラートにすることで、地産地消の推進と食品ロス削減の貢献に。
輸入食材についても、環境・社会に配慮した良質な食材である、フェアトレード認証のものを積極的に使用。能登半島地震発生後には、練馬区を拠点に支援物資の提供や、輪島市での炊き出しもおこなうなど、環境や社会に対する持続可能な取り組みをおこなってきた。
「便利だからってなんでも買って食べて、病気になったら薬を飲んで。いま少しでもいい食材にお金を払って食べ続けたほうが、結果としての健康寿命も伸びますよね。そういうことに、みんな気がついていない。これだけの自然と資源がある国って世界を見てもそうそうないと思うんです」
「だから食を通して、心が豊かな状態とか、幸せとはなにか、ということを人類に問いたい。自然がなくなってからでは遅いんです」
「フィリッポの幸せな食卓」はどんな場所になるんでしょう。
「この土地で無農薬で栽培した野菜や、季節ごとに生えてくる草木や花をカフェやレストランでも提供したいと思っていて。農業体験をしたあとのお客さんに、実際に自分たちが収穫した食材を食べてもらうことも出来ます」
加えて、物販もおこなう予定で、画材を販売して店のテラスで自然の絵を描いてもらったり、提供している料理につかう食材の苗を販売して、家でも栽培できるようにしたり。
ここでの体験が、自然と食の大切さについて足元から体感でき、その豊かさに気づく場につなげていきたい。
300年も続く土地で、伝統的な日本文化を継承していきたいという思いから、建物は昔ながらの平屋建築を採用。薪窯を備えたり、井戸水を組み上げたりするなど、災害時も地域の人のライフラインになるような場所にもしていく予定だ。
「ほんとうの宝物が眠っているのは、日本の限界集落、里山ですね。人の手ではつくれない、自然が残っている。遊べるし、水もきれいで、食材にも困らない。体にいいものを取り入れるから、病気にもなりにくいんです」
「限界集落に答えがあると思っているけど、遠い。でも、タネニハガーデンは東京にありながらも、自然と共にある豊かな暮らしを実践している。Felice de filippoでの取り組みは、世界にも影響を及ぼせるものだと思っています」
すでに応援したい、働きたいという周りの方も集まってきているそう。
「誰でもいいから人手がほしいとは思っていなくて。僕たちの想いに共感して一緒にこの場所をつくっていける人に出会いたい。アルバイトやスタッフを束ねながら、マネージメントをしてくれる立場の方が見つかるとうれしいですね」
普段から岩澤さんのもとで働く廣瀬さんの話は参考になると思う。今は料理長として働いている。がっしりとした体つきで、存在感のある方。
「料理以外の要求が多いですよね。おいしいのは当たり前で、地域や地球のためになることをしようというスタンスなんですよ」
たとえば、と教えてくれたのは、合同会社シーベジタブルとの共同商品開発。
シーベジタブルは、磯焼けにより減少しつつある海藻を採取して研究し、環境負荷の少ない陸上栽培と海面栽培によって蘇らせ、海藻の新しい食べ方の提案をしている会社。その海藻をつかったイタリアンの商品を開発することになった。
「イタリア料理はぬめりがNGなんです。なので、海藻をどうイタリアンに落とし込めばいいか。ひたすら洗ってぬめりを落としてみたり、揚げてみたり。メニュー開発は難しかったですね」
未利用魚や、世界中で溢れかえっている藻を活かした商品開発も。FILIPPO FELICEで新しく募集するキッチンスタッフも、和食や中華の経験などは大歓迎だという。
イタリアンに関するノウハウは、充分過ぎるほど備わっているため、見せ方やアレンジなどのサポートはいくらでも可能。
新しく入る人には、イタリアンの専門的な知識よりも、タネニハプロジェクトへの共感や、日々新しいことに対して前向きに取り組む姿勢が求められる。
「東京にいながらも、先ほどお話したように地産地消が実現しやすくて、農家さんたちからも喜んで応援してもらえる」
「農家さんの紹介でお客さんが来てくれることもあって。より気合いも入ります。ここで働きはじめたときは、自分のことしか考えてなかった。でも、誰かのために頑張って喜んでもらえることが自分の喜びにもつながるんだって、岩澤が体現してくれたからこそわかってきました」
「地元の人たちに喜んでもらえてるのが、一番うれしいですから」と廣瀬さん。
ホールで11年働くマネージャーの牧野さんも、目の前の人が喜んでくれるところにやりがいを感じている。
教えてくれたのは、お父さんの還暦祝いに初めて来店した家族の話。
「ご本人にはお祝いの気持ちを込めて接客サービスをして、帰り際、幹事役の息子さんに、『今日は良かったです、ありがとうございました』って言われると、やっててよかったなって思いますね」
「技術面としては、おもてなしの心がきちんとあれば、やっていけると思っていて。あとは、スタッフのモチベーション維持ですよね。練馬のお店は60席で、FILIPPO FELICEは120席。スタッフの数も増える分、ひとり一人とどう向き合うかは、大切ですよね。経験者の方でも、常に新しいことが起きるので、勉強し続ける姿勢も重要だと思います」
FILIPPO代表の岩澤さんは、こんなことも話してくれました。
「いまの飲食業界って、お金儲けのために疲弊している状況もあると思っていて。本当は心を豊かにする仕事だと思うし、子どもたちのなりたい職業ランキングでも1位になれるような。そんな転換点になる場を、今回つくっていきたいです」
新たな食文化の未来を、一緒につくっていきませんか。
(2025/04/18 取材 杉本丞)