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自然に囲まれて、四季の移ろいを感じたり、お客さんと言葉を交わしたりしながら、地域に根ざして働きたい。
そんな人に、届けたい仕事があります。もしあなたが、お酒や発酵の世界に興味があるなら、なおのこと。
福岡県西部に位置する、糸島半島。
福岡の中心街からは車で30分ほど。海あり、山ありの豊かな自然と、おしゃれなカフェや工房が点在するカルチャーを兼ね備え、移住先としても注目を集めるエリアです。
浜地酒造は、糸島で150年以上の歴史を持つ酒蔵。
「杉能舎(すぎのや)」というブランド名を持ち、日本酒やビール、リキュールの製造販売、発酵副産物を活用したパン工房、軽食も楽しめるビアテラスなど、幅広く事業を展開しています。
今回は、築150年の旧酒蔵をリノベーションして、来年の夏にオープンする「酒蔵ガルテン」のダイニングマネージャーと、日本酒やビールの製造スタッフを募集します。
ダイニングマネージャーは、飲食店でのマネジメント経験があればうれしいけれど、なくても挑戦できます。製造スタッフは、未経験も大歓迎。
探しているのは、発酵や循環への「思い」が通じ合う人。
「思い」とは何か。ぜひ読み進めてみてください。
福岡空港から、電車で40分弱。
「九大学研都市駅」で降り、九州大学の学生たちに混ざってバスに乗る。
バスを降りると、少し先に大学のキャンパスが見えた。広い空と緑をバックに、近代的な研究棟が立ち並ぶのを眺めながら歩く。
10分ほどで、浜地酒造の駐車場に到着。
駐車場わきの道は、奥に見える八坂神社の参道に通じる。早めに着いたので、鳥居の前で一礼し、八坂神社へ。
樹齢を重ねた大きな木々。
その葉を揺らし、吹き抜けてゆく風。
なんだかこの土地に、迎えてもらったような気分になる。
いざ、浜地酒造へ。
まずは5代目代表、浜地浩充さんに話を聞く。
浜地酒造の始まりは、江戸時代。庄屋をやっていたころ、年貢を上納するときに余ったお米で振る舞い酒をつくっていたのが起源だという。
「初代は、『いまを楽しめないでどうする』という人だったらしくて。あるとき見せてもらった能の舞台に感動し、帰るやいなや、裏山の杉を切り倒して能舞台をつくったそうなんです」
「それで『杉能舎』が屋号になって。自分たちも、いいと思ったことはすぐやろう、をポリシーにしてきました」
浩充さんが入社したのは、約30年前。全国的にお酒を飲む人が減り、酒蔵が次々となくなっていた時期だった。
もう酒蔵は「つくるだけ」ではいけない。浩充さんはお客さんに足を運んでもらおうと、蔵開きで振る舞い酒をしたり、店頭でお客さんと話したり。手書きでDMを書き続けたこともある。
お客さんの声に耳を傾け、日本酒の技術を活かした地ビールや、糸島産の果実やヨーグルトなどを用いたリキュールも開発。
幅広い商品を生み出すなかで、お客さんの層は少しずつ広がっていった。
「本当にいろんなことをやってきて。失敗も多かったけど、その積み重ねで、いまはたくさんの方がファンとして来てくれるようになりました」
酒蔵のソフト面の改革に、30年。そしていま、ハード面の改革へ。
その集大成が、築150年の旧酒蔵のリノベーション。
数年前、縁あって九大の教授陣や建築グループとの協働プロジェクトが立ち上がり、話し合いを重ねてきた。現在は「蔵の骨格は活かしながら、耐震化して、次の100年につなげられる形で保存する」方向で最終調整中だ。
リノベーション後は、どんな事業が始まるんだろう?
「地域のみなさんが気兼ねなく訪れられる酒蔵として、生まれ変わろうとしています」
それが「酒蔵ガルテン」構想。
ガルテンは、ドイツ語で庭のこと。地域の人々にひらかれた庭に、旧酒蔵の骨組みを活かした半屋外のワークショップスペースや、飲食事業を行う室内スペースを併設する。
「中で買ったビールや料理を外で楽しんでもいいし、べつに買わんでもいいんです。地元の人にも『今日は暑いから、ちょっとあそこ行って涼もう』って来てもらえたら」
「三男がいまドイツでパンづくりの修行をしているので、飲食はパンとお酒が軸になると思います。ほかの料理も、キーワードは発酵。できるだけ、発酵副産物を活用したメニューをつくっていきたい」
募集する仕事の1つが、この事業の中心となるダイニングマネージャー。
仕事内容は、スタッフのシフト管理から、メニュー開発、簡単な調理や盛り付け、イベントの予約管理や運営など。
大学関連の学会やビュッフェ懇親会の依頼が多いため、その対応も担ってほしい。
「ガルテンには、いろいろと果樹を植えようと思っていて。その成長を愛でたり、『そろそろ杏が採りごろじゃないですか?』みたいなことを言ってくれたりする人だと、なおうれしいですね」
自然の循環を意識する。これも、今回のリニューアルで大切なこと。
「上から見ると、ここは糸島半島の中心部なんです。八坂神社の森があって、水をたくさん使う酒蔵があって。ここの水の流れをよくして、土壌をより良くしていきたいと考えています」
ガルテンに先立ちリニューアルした駐車場も、アスファルトで覆うと土に水が染み込まず、周辺の緑に悪影響を与えることがわかり、計画を再考。
環境改善を軸とする造園グループに相談し、石や有機物を重ねる古式の方法で、土壌が自ら水を上下できるようにした。
「土のことまで考えるようになったのは、ここ数年なんですよ」
言葉をつないでくれたのは、浩充さんの妻、智子さん。
「年月を重ねるなかで、この土地に感謝して。できるかぎり汚さずに、次の世代につなぎたいと思うようになって」
“ここにある恵み”にちゃんと気づいていたい。
お酒づくりの発酵副産物を活用した商品づくりも、智子さんが始めたこと。
「発酵関連のものがいっぱいあるんですよ、酒蔵って。麹やビール酵母もあれば、酒粕やビール粕もある。それをどう活用するか、近所のお母さんたちと、ああでもないこうでもないって言いながら、形にしてきて」
酒粕ベーグルに地ビールパン、甘酒ソフトクリーム。
リキュールに使う甘夏の皮も、ベーグルに入れたり、ジャムにしたり。
ガルテンでも、木を剪定すれば枝や葉などの“副産物”が出る。
「葉からはエッセンシャルオイルが採れますし、染色も、お茶をつくることもできます。身のまわりのものをうまく循環させて、お客さんにも楽しんでもらうことに、喜びを感じるような人が来てくれたら」
そんなふたりの長男で、6代目として後継が決まっている、真太朗さん。
製造部長を務めながら、少しずつ会社全体のことも見始めている。
「初めて日本酒を意識したのは、小学生のころ、顕微鏡で麹カビを見たときですね。いまも理科や生物が大好きで」
東京の農業大学では、酵母菌について研究。科学の観点から、酒づくりのおもしろさにのめり込んだ。
卒業後は、ビールを学びにドイツへ留学。
「ドイツを選んだのは、原料を大事にするビールづくりをする国だから。各地域にビアマイスターがいて、うちの水はこうだから、うちの麦はこうだから、って原材料を120%理解したものづくりをしているんです」
ビールの原料を大麦、ホップ、水に限定する法律があるのも、ドイツの特徴。
「限られた原料で、いろんな味が表現できるのがおもしろくて。杉能舎の精神も、そこなんです。地元の水を理解し、地元の麦を使って、やっと出せる味わいがある」
たとえば浜地酒造で使う水は、脊振山系の伏流水。お酒を醸す酵母菌の発酵に必要なミネラルがバランスよく含まれているそう。
「流行を追いすぎず、この水と麦に一番合うやり方はなんだろう、と考え続けていて。ドイツから学んだことですね」
新しく入る人は、真太朗さんや同世代の社員と話しながら、次の浜地酒造をつくっていくことになると思う。
真太朗さんは、どんな人と働きたいですか。
「発酵やそのまわりのことに興味があって、こういう商品をつくってみたい、と自分から思える人。口下手でも、ちゃんと信念があって、伝えたいことを伝えられる人と仕事がしたいです」
最後に話を聞いたのは、入社して1年ほどという製造部の森さん。
日本酒の製造から接客販売、SNS発信まで、幅広く関わっている。
以前は人材派遣会社の営業をしていて、その後は海外へ行ったり、SNS等での発信活動をしたりしていたそう。
友人の日本酒バーを手伝ったのを機にお酒に興味を持ち、「自分で0から1をつくれる仕事がしたい」と、未経験から酒づくりの世界へ。
1年働いてみて、どうですか。
「すごく楽しいです。酒づくりだけじゃなくて、販売に入ってお客さんの声も聞けるし、一人三役、四役が普通。僕はそういうのが好きなので」
酒づくりの工程を音声入りの動画にして、SNSで配信するようになったのも、森さんの得意なことを活かしたアイデアだとか。
製造の現場はどうでしょう?
「1袋30kgのお米を運んだりもするので、体力はいりますね。僕は体を動かすのが好きなので、仕事で体を動かせるのいいなと」
「少人数なので、任せてもらえるスピードは早いです。入社半年ほどで甘酒の担当にしてもらえたり、日本酒も1年ちょっとで『じゃあ自分でつくってみようか』と言ってもらえたり」
そんな森さんが興味を深めているのは、クラフト酒(サケ)。日本酒をつくる過程で、果汁やハーブなどの副原料を入れ発酵させたもの。
「これに杉能舎としてもチャレンジしたいねと話していて。僕も日々研究して、よく朝礼でみんなに試飲してもらったりしてるんです」
今年の蔵開きには、赤紫蘇を使ったピンク色のクラフト酒を限定販売し、完売。いまも次なるクラフト酒に向け試行錯誤中だ。
「『やってみて』と任せてくれる空気があって、いちスタッフでもアイデアを実行できる環境がある。そういう会社だなと思います」
事務所を出て、旧酒蔵を案内してもらう。
かつて使われた、お酒を絞る機械。
改修後、この部屋は建物の骨組みと機械の土台だけを残し、室内とガルテンをつなぐ半屋外のスペースになる。
染め物ワークショップをしたり、お酒を竹に入れて焚き火で温める「かっぽ酒」をしたり。
いろいろなアイデアがあるし、新しく入る人の意見も聞いてみたい。
蔵を出ると、智子さんたちが奈良漬用の瓜を干していた。
「季節の仕事も、裏の作業ではなくて。うちの風景の一部なんですよ」
隣のビアテラスでは、外国の方を連れた学生グループが談笑中。
「九大は留学生も多いので、外国の方もしょっちゅう訪れます。英語は気にしなくても大丈夫。おーけーおーけー!って、笑顔と身ぶりでコミュニケーションをとれる人なら」
自然豊かな場所で、外のものを受け入れることに慣れている。移住してくる人にも、居心地がよいと思う。
いろんな風が吹き抜ける。大学の風、八坂神社の風、さまざまな土地から来るお客さんの風。
土地や技術を受け継ぎつつ、風とともに、変わってゆくものもある。
人と、地域と、地球とともに。次の100年へ。
なんだか気になる人は、その直感を大事にしてほしいです。
(2024/07/05 取材 渡邉雅子)