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手を動かして
ものを直す、心も弾む

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

粉々に割れた壺、大きな傷のついたタンス、色褪せてしまった床など。

株式会社M&Iのサイトには、壊れてしまったさまざまなものの写真が載っています。その隣にはもとの姿をうつした写真…と思いきや、あれ? 壊れたほうがBeforeで、きれいなほうがAfter…?

そう、M&Iのみなさんは、身の回りのさまざまなものを直す補修のプロなのです。その仕事はまるで手品のよう。

今回はここでリペア技術者になる人を募集します。まったくの未経験でも、手先が多少不器用でも歓迎とのこと。

ただ直すのではなく、依頼してくれた人にとってどんなものなのか、気持ちも受け取って直す。そんな考え方に共感できる人に来てほしいそうです。

(取材はオンラインで行いました。写真は一部提供いただいたものを使用しています)

 

小田急線・祖師ヶ谷大蔵駅から徒歩4分。商店街の一角にM&Iの事務所兼工房はある。

まずは代表の荒井さんに話を聞いた。

M&Iは荒井さんが14年前に立ち上げた会社。自作のチラシを地域の不動産屋に配り歩くところからはじめ、少しずつ幅を広げていった。

補修の仕事というと、賃貸物件の退去後や、引っ越し時に業者がつけてしまった傷や凹みの修繕が一般的。M&Iのように、生活雑貨や美術工芸品の補修まで手がけている会社は珍しいという。

「ニッチな業界で、『陶器 修理』で検索すると一番上に出てくるので、全国から依頼があります。去年テレビに取り上げられてからは仕事が倍増していて」

サイトの「補修例」を見る限り、本当にさまざまなものを直していますよね。魔法みたいだなっていうのが第一印象で。

みなさんが直せないものって、あるんでしょうか。

「紙や布、電気回路が関わってくるようなものはむずかしいです。たとえば破れたポスターとか、機械類なんかは直せません。それ以外なら、木製でもプラスチックでも、陶器も石も、素材は問わずなんでも直していこうっていう姿勢の会社ですね」

カーネルサンダース人形の靴のソールを80年代風に変えてほしいとか、某大使館所有の150cmほどの大きな壺が割れてしまったので直してほしい、といった依頼もある。なかには有名人からの依頼も。

ただ、日光東照宮のように文化財に指定されたもの、縄文土器など博物館に収めるものは別なのだとか。それらの修繕には特別な知識や学位が必要、というのも理由のひとつなのだけど、もうひとつ別の理由があると荒井さんは話す。

「一般の人が、『大事なものが壊れちゃったんだけど、誰に頼んでいいのかわからない』っていうとき。その受け皿が必要だと思うんです」

「おばあさんの形見とか、江戸時代の本物の人毛が植わっている日本人形とか。うちに来る依頼って、そういう買い替えのきかない、思い入れのあるものが多いんですよね。それに応えていくのは、うちのひとつの使命だと思っています」

M&Iのスタッフは荒井さん含め5名。異業種から入ってくる人ばかりだという。

今回募集する人も、未経験でも大丈夫。大事なのは、お客さんの心に寄り添うこと。

「壊れているのはものなんですけど、そのことによって持ち主の心も傷ついている。自分たちの技術を使って直して、お返しして、お客さんの心も癒したいと思えるかどうか。そこは重視していますね。多少不器用でも、その気持ちに寄り添える人こそ、最終的にいい技術者になれると思うので」

「自分でも大事にしてきたものがある人だといいかもしれません。なんでもいいんです。プラモデルとか、漫画とか。自分は音楽をやってたので、それこそギターとか。ものが壊れたときの悲しみを、自分の身に置き換えて想像できる人に来てほしい」

お客さんのことを想像して、その気持ちに応えたいと思えば、自ずと技術力も磨かれていく。そんなふうに力をつけて、できることの幅を広げていく働き方はいいなと思う。

14年かけて補修のノウハウを蓄積してきた荒井さん。

昨年からは、新たな取り組みとして、自社で開発した補修剤の販売をはじめた。

「顔料屋さんに行っていろんな調合を試したり、容器屋さんに行ったり、ラベルの相談を印刷屋さんにしたり。アイデア自体は9年前からあったんですけど、日常業務の合間に進めていたので、時間がかかりました」

なぜそこまでして、自社でつくることにこだわったんですか。

「既存の補修剤は有機溶剤を使ったものが主流で、シンナー臭がするんです。毎日嗅いでいると、結構きついんですよ。そこで水性の補修剤を探しても、プロのレベルで使えるものがなかった。だったら自分でつくっちゃおうと思って」

試行錯誤のすえに完成した補修剤は、ほとんど無臭で、使い勝手もほとんど変わらない。とてもいいものができた。

これをまずは同業の補修会社のあいだで広げ、ゆくゆくは一般にも普及していきたい。今回募集する人には、職人として腕を磨きつつ、この補修剤の販売にも携わってほしいという。

ただ、ハードルもある。

「去年、商品案内の冊子をつくって200社ぐらいに送ったんですけど、みなさん今の補修剤が使い慣れているから、なかなか切り替えてもらえなくて。『自分は臭いも別に気にならないし、今のままでいいや』って」

たしかに、“慣れ”はありますよね。実際には大した手間をかけずにメリットを得られるとしても、「なんとなくめんどくさい…」と思ってしまう。

「1〜2年は問題ないんですよ。でも10年、20年先の健康被害につながるリスクを考えてもらいたくて。そういう視点からの提案もしていきたいんですよね。もしかしたら、補修をはじめてやるような人のほうが、すんなり受け入れてもらえるかもしれません」

たとえば、使い方の解説動画をつくってアップしたり、一般のユーザー向けの補修キットを企画販売したり。ただ商材を売るのではなく、使い方もあわせて伝える工夫が必要そうだ。

荒井さんは新しいことにも挑戦していく人なので、同じ歩幅で進んでいける人だといい。

 

続けて話を聞いたのは、3年前の募集で入社した木内さん。

「入社前は大学生で。空間デザイン系の学科にいたんですけど、正直、まじめな学生ではなく(笑)。手仕事に興味があったんです。どんどん新しいものをつくっていく時代に生まれたなかで、すでにあるものを大事に使っていく補修の仕事はおもしろそうだなと思って」

「何を」やるかに加えて、「誰と」やるかも大事だった、と木内さん。

日本仕事百貨の記事を読むなかで、M&Iで働く人たちのポジティブな雰囲気に惹かれたという。

「入社してからも、その通りだなと思ったエピソードがありまして。夜遅くまでやってもなかなか直らない、むずかしい現場があったんです。そこへ社長がいらして一言、『いやー、豊かだなあ』って」

「豊かってどういうことですか?と聞いたら、『うちではむずかしい傷ほど、豊かだなって思いながら修繕するんだよ』って言われて。すごいなと思いました。そういう姿勢で仕事することの大事さは、自分も働くなかで痛感しています」

入社したら、まずは先輩に同行して経験を積むことになる。

道具の使い方やお客さんとの関わり方、そして仕事との向き合い方。荒井さんの一言のように、何気ない会話から学ぶことも多いと思う。

美術工芸品や複雑な壊れ方をしたものは直すのがむずかしいので、まずは住宅の壁や床など、出張しての現場が多い。損傷の具合にもよるものの、平均して一日2〜3件を回るのだとか。

そして3ヶ月ほど経ったら、ひとりで現場を回る。木内さんは最近になって、工芸品の補修にも取り組みはじめているという。

はじめのころ、苦労したことはありますか。

「色を合わせるのが大変で。材質や光の当たり具合、見る方向によっても見え方は変わりますし、最終的には主観の判断になるので。そこにどれだけ寄り添っていけるかはむずかしいところですね。お客さまがどうしたいのか、聞きながら直すのを繰り返すうちに、少しずつ感覚が身についていくような感じです」

いわゆる“ホウレンソウ”を怠って自分の判断で進めると、ミスにつながりやすい。木内さんも、わからないことは素直に先輩に聞きながら進めるようにしているという。

「ひとつ聞いただけでみなさん3、4個の答えを返してくれますし、失敗しても、何がいけなかったのか、次はどうしたらいいか、こちらが申し訳なくなるぐらいフォローしてくださるので。若い人も働きやすい職場なんじゃないかと思います」

お客さんからも、直接「ありがとう」と反応をもらえることも。

日々の作業はものと向き合う時間がほとんどだけど、一緒に働く仲間やお客さんなど、人とのうれしい関わりもある。それってもしかしたら、この補修という仕事ならではのことかもしれない。

 

最後に、入社5年目になる田村さんにも話を聞いた。

もともとは住宅のコンサルティングの仕事をしていた方。なぜ補修の世界へ?

「注文住宅の土地探しから引渡しまで、全部プロデュースするような仕事でした。そこで補修の職人さんと関わることが多くて。自分でもやってみたいと思ったときに、この会社をたまたま知って応募したっていう経緯ですね」

職種としては結構な方向転換だと思うのですが、手仕事には興味があったんですか。

「とくに、そういうわけでもないですね。傷が魔法みたいに直るのを見て、一気に興味を惹かれて」

今では工芸品も含め、幅広い補修を手がけている田村さん。

もうすぐ5年になるけれど、飽きることはないという。

「毎回違うものを扱いますし、技術はどこまでも磨いていけるので、終わりがないんです。興味が湧いて調べたら、結構有名な作家さんの作品だったりして。調べなきゃよかった…って思うこともあります(笑)」

たとえ同じ製品であっても、持ち主との歴史はそれぞれ。メールやLINEで届く言葉が毎回励みになるそうだ。

どんな人と一緒に働きたいですか。

「やる気があれば、どんな方でも。柔軟にいろんなことを吸収しながら、技術者として腕を磨いていきたいという人がいいですね」

自宅で金継ぎをやってみたり、引っ越し時に自分で傷を補修したり。日々の生活でも身につけた技術を活かしている田村さん。最近は出先の現場へと早めに向かって、近場のパン屋さんを開拓することにハマっているそう。

そんなふうに、自分なりの楽しみを見つけられる人は向いている気がする。

 

壊れてしまった大事なものが、直るということ。

それはマイナスから±0の状態に戻すだけでなく、プラスに転じていくようなことだと思います。はたから見ても「魔法みたい」と感じるのだから、依頼したお客さんは本当にうれしいと思う。

新しいものをつくるわけではないのだけど、その仕事は驚きを生み出すクリエイターのように感じました。

(2021/2/9 オンライン取材 中川晃輔)

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