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酒造り“だけ”じゃない
丹波をまるごと感じる酒蔵

※この仕事は募集終了いたしました。ご応募どうもありがとうございました。

その地域だけでつくられている食材や、歴史ある建物。広く知られていないのがもったいなく感じるような良いものは、日本各地にたくさんあります。

今回紹介するのは、単純に名前を広めるだけでなく、より良いかたちで知ってもらうことを考え続けている人たちです。

兵庫県丹波市で、日本酒を中心に、リキュールや焼酎、ノンアルコールの甘酒ヨーグルトなど、さまざまな商品をつくっている西山酒造場。

今年の夏には、“酒蔵が運営する宿”をオープンします。宿は、日本酒や酒蔵の仕事、丹波地域の魅力をまるごと味わえる場所になるそう。

この宿の企画運営、蔵人やデザイナーなど、いくつかの職種で人を募集します。



西山酒造場があるのは、兵庫と京都の県境にある丹波市。京都から山陰本線と福知山線を乗り継ぎ、2時間ほどで到着する。

最寄りの丹波竹田駅のあたりは、まわりを山に囲まれた盆地のよう。民家が並び、遠くには田んぼが広がっている。

駅から国道沿いに歩いて5分ほどで、西山酒造場を見つけた。

なかに入ると直売所があり、日本酒やリキュールが並んでいる。

そこへ蔵元の西山周三さんと女将の桃子さんが来てくれた。まずは蔵の歴史について、周三さんから聞くことに。

「西山酒造場は今年で172年目になります。僕はここが実家で、もともとテレビ局で営業をしていたんですが、20年くらい前に戻ってきて。6代目として蔵を引き継ぎました」

172年前というと、江戸時代末期。ちょうどペリーが黒船でやってきたころだ。

その後代替わりをしながら明治、大正、昭和、平成、そして令和へ。転機があったのが、3代目・4代目の時代だった。

「3代目と4代目は、酒造り以上に俳句の世界に深く入っていく人だったんです。俳人の高浜虚子先生の弟子になって、作品も多く残していて。先生も西山酒造場を気にかけてくれて、経営が苦しかったときにはお酒の販売をサポートしてくれたそうです。うちの蔵を代表する日本酒『小鼓』も、高浜虚子が名付けてくれたんですよ」

小鼓は、酸度が低いのが特徴のお酒。香りが強すぎず、食中酒として飲みやすいんだそう。

全国新酒鑑評会で金賞を受賞するなど、文化的な付加価値はもちろん、お酒そのものの品質も認められている。

「僕が蔵に戻ったときは、職人気質が強くて日本酒だけにこだわる、いわゆる昔ながらの酒蔵だったんです。“経営と酒造りの分離”って僕は言っているんですが、たとえば一度酒造りが始まったら、社長でも蔵には入れない。そんな世界だったんですよ」

まずは自ら酒造りの現場に入るところから始め、閉鎖的な雰囲気を変えていった周三さん。

若手や女性の採用も増やし、酒造りの感覚的な部分をできるだけマニュアル化。性別や国籍、経験に関係なく、酒蔵の仕事に参入しやすい形を目指したそう。

また、ぶどうや梅のリキュールなど日本酒以外の商品や、米麹甘酒と飲むヨーグルトを合わせた甘酒ヨーグルトなど、酒蔵の強みとさまざまな要素を掛け合わせた商品をつくってきた。

「昔は日本酒の質とブランド力でやっていけたんですが、日本酒の需要が下がっている今の時代は、なにか手を打たないと酒蔵を維持していくことができない。酒造りのこだわりや技術は継承しながら、新しい視点を取り入れて、業界に風を吹かせるのも我々の使命だと思っています」

「杜氏や蔵人とはバチバチ意見を交わしました。僕みたいな改革者と一緒の酒造りはしんどかったと思います(笑)」と、今でこそ笑いながら話してくれるけれど、苦労も多かったと思う。

何度も本音をぶつけあってきたからこそ、「今の西山酒造場は日本一雰囲気がいい」と周三さんは言う。

今回新しく始める宿の事業も、新しい風になりそうだ。



「宿のことは女将が中心になって進めているので、ぜひ聞いてやってください」ということで、女将の桃子さんにも続けて話を聞いた。

桃子さんはもともと大阪の銀行に勤めていたそう。その後、看護師免許を取得して病院で働き、結婚を機に丹波へやってきた。

「最初は一日2時間でいいから経理をちょっと手伝ってくれっていうことで働き始めたんですけど、気づけばフル稼働っていう(笑)」

経理に関わるなかで、蔵の課題や周三さんの改革ぶりを直に感じてきた桃子さん。目についた仕事を手伝っていくうちに、さまざまなことに関わるようになった。

女性を採用していきたいという周三さんの考えから、採用活動や人事に関わったり、古い木造の建物を活かした店舗づくりを提案したり。

ほかにも、忙しい時期に体調を崩しがちな蔵人のために、栄養士と協力して地元のオーガニック野菜や発酵食品を取り入れた社食をつくるなど、周三さんと一緒に蔵をより良くするアイデアを形にしていった。

「日本酒って職人の世界なんですよ。杜氏もミスターストイックって感じで、お酒造りのことばっかり考えている。ただ、それだけだと宝の持ち腐れになると思うんです」

宝の持ち腐れ。

「西山酒造場という資源を活かすには、実際にお酒を飲んでくれる人の目線に立つことが必要だと思っていて。その結果が、いろんな新規事業や社風に表れているんですよね」

今回の宿の事業も、西山酒造場が持つ資源を活かしたいという思いから生まれたものだった。

「高浜虚子の弟子だった3代目が、蔵に文人たちを招くためにつくった三三庵(ささあん)っていう迎賓館があって。4代目の頃までは使われていたんですが、最近はほとんど使われていなかったので、すごくもったいないなと」

和室と洋室があり、広い庭も備わっている。ここを活用して、西山酒造場でしかできない体験を提供していきたいそう。

現在は全国各地で古民家活用に取り組むNOTEもチームに加わり、改修作業を進めているところ。高浜虚子ゆかりの品々も展示し、文人の歴史を感じられる一棟貸しの宿として夏頃にオープンする予定だ。

「食事は、いま提供している社食が布石なんですが、丹波産のオーガニック野菜と発酵食を使った料理を出したいと思っていて。社員にも食べてもらいながら、メニューを考えているところなんです」

お酒を飲めるバーや、酒蔵での体験アクティビティも考えているところ。

搾りたてのお酒が飲めるのはもちろん、田植えの時期には酒米用の稲を植えたり、蔵人とお酒の仕込みを体験したりなど、蔵での仕事がそのままプログラムになる。

宿の事業に携わる人は、桃子さんと一緒に宿泊事業全体のプランニングや、体験アクティビティの考案、さらには稼働後のオペレーションにも関わっていく。

盛りだくさんのようにも見えるけど、一棟貸しなので日常業務はそれほど多くない。ネットショップや直売所の運営、総務や人事など、その人の経験やモチベーションを活かして、ほかの仕事にもチャレンジしてほしいとのこと。

「社員には『この丹波で西山酒造場を引き継いだ使命がある』ってよく言っていて。代々渡されてきた西山酒造場のバトンを次の世代につなぐことは、私たちの大事な役割。そのためには、西山酒造場だけじゃなく、丹波の地域全体が良くなることをベースに考えなければいけないと思うんです」

「宿の事業も、丹波と西山酒造場の魅力を世の中に広めていくための方法のひとつ。目的ではないんですよね。なので、宿の運営“だけ”をしたいって人は合わないと思っています。自分の得意なことを活かして丹波の地域や酒蔵を盛り上げたいって、ワクワクしながら働いてくれる。そんな人が来てくれたらうれしいですね」

酒米をつくりながら宿をしてもいいし、身体に優しい食に関わりながら宿をしてもいいかもしれない。しぼりたてのお酒に、発酵やオーガニックの食など、たくさんの魅力をうまくつなぎ合わせて酒蔵のファンを増やしていくことができたら、自ずと地域も元気になっていくのだと思う。



最後に話を聞いたのは、6年前から営業担当として働いている土師(はぜ)さん。

地元はお隣の福知山市だそう。事務の仕事をいくつかしたのち、ワーキングホリデーでオーストラリアへ。外国人から見た日本の魅力を聞くなかで、あらためて日本の文化や歴史に興味を持ち、西山酒造場に応募した。

入社後はまず、社内のさまざまな部署で研修を受けたそう。

西山酒造場の仕事は、大きく分けると製造・出荷・営業の3つ。社員として入る人は、最初にいろんな部署で研修を経験することになる。

「製造のときは体力がきつかったです。仕込みの工程では、櫂棒(かいぼう)っていう木の棒でタンクの中をかき混ぜるんですよ。何人かで交代しながら、長いときには2時間くらいずっと。しんどいなあって思ってたら、手伝いに来てくれた人が軽々とやっていて、全然ちがう!って(笑)。長年積み重ねてきたコツがあるんでしょうね」

実際に手を動かして経験することで、知識だけで知っていたことがより立体的になる。目の前の作業がどんな意味を持つのか、理解していく過程が楽しかったと話す土師さん。

製造部門で働く蔵人は現在6人で、半分は女性。

作業によっては体力も必要だけど、機械を積極的に導入したり、力仕事を分担する仕組みをつくったりと、現場で工夫を重ねている。

外国人の従業員や若い蔵人もいて、杜氏を含め率直に意見を言い合える雰囲気があるという。

現在土師さんが所属する営業2課は、蔵にある直売店やイベントを担当している。

ネットショップや卸売りの部署と異なり、お酒を口にするお客さんと直接話せるため、酒造りのこだわりを伝えて、その反応を直に受け取れることが楽しいそう。

「タンクのなかで醪が発酵すると、ボコボコって泡がわいてくるんですよ。それを見ると、ああ、お酒って生きてるんだって、感動するんです。そうやって製造に関わるなかで感じたことをお客さんに伝えると、すごく驚いてくれる。それはうれしいし、自信になります」

土師さんは、どんな人と一緒に働きたいですか。

「そうですね…明るい人がいいです。あとは、いろんなことに興味を持って、やってみようって考えられる人かな。いっぱい相談してくれて、物事を前向きに捉えてくれる人だといいなと思います」

「入社して最初の頃、『ずっと同じ場所にいたら当たり前が増えて成長が止まる』って、社長が言っていて。新しい人だからこそ気づけることもあると思うんです。その気づきを伝えてほしいなって。それが私たちにとってのチャンスになると思うんですよね」



西山酒造場で大切にしている言葉のひとつに、「和醸良酒」というものがあるそうです。良い雰囲気のなかで造るお酒はおいしくなるし、おいしいお酒は良い雰囲気をつくる。

これからはじまる新しいチャレンジも、そんないい循環を生み出していくような予感がしました。

(2021/2/15 取材 稲本琢仙)
※撮影時はマスクを外していただきました。

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