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曼荼羅のある秘境で
終わりのないRPG

※この仕事は募集終了いたしました。ご応募どうもありがとうございました。

今とてもピンチなんです、と天竺温泉の秋山さんから連絡があった。

「人手不足で、このままでは運営する施設のいくつかが開けられないかもしれません」

秋山さんが働くのは、富山の最南端、標高1,000mの山あいにある利賀(とが)ふるさと財団。

「天竺温泉の郷」という温泉宿のほか、春から秋にかけてはキャンプ場の「利賀国際キャンプ場」や国内でも珍しい曼荼羅の美術館「瞑想の郷」など、山をいかした観光事業を展開しています。

利賀といえば、世界的演出家の鈴木忠志さんが40年以上前から拠点を置き、2019年には『シアター・オリンピックス』が開催されるなど、世界中から舞台人や観客が訪れる演劇の聖地。

世界遺産の五箇山の一部でもあり、秘境ではあるけれど、けして「知られざる」土地ではありません。日々お客さんと触れ合う観光の仕事も、地域性に富んだ山の暮らしも魅力的。

それがどうしてピンチになっているんだろう?直接、話を聞きに行くことにしました。

今回募集するのは、利賀ふるさと財団が擁する「利賀国際キャンプ場」と曼荼羅の美術館「瞑想の郷」、それぞれを運営する担当者です。

 

新幹線の停まる新高岡駅から、平坦な道を車で走っていくと、突然山道に入る。

平地とは雪の降り方が明らかに違う。切り立った斜面と雪がつくる絶景は、まるで水墨画のよう。

天竺温泉の郷に着くと、今回連絡をくれた総支配人の秋山さんが玄関まで出迎えてくれた。

「すごいところですよね。冬は雪、夏は雑草や虫。自然と向き合いながら施設を維持して、地域の魅力を知ってもらって、リピーターを増やして。観光業といってもいちげんさん向けじゃなくて、何度も通ってもらえるようにと、人と関わっていく仕事です」

財団が運営する施設のパンフレットをパパパっと広げる秋山さん。キャンプ場、瞑想の郷、天竺温泉の郷、利賀ファームに研修合宿施設のスターフォレスト利賀…

色々あるけれど、そもそも運営元の「利賀ふるさと財団」ってどういう団体なんですか?

「今は南砺(なんと)市に合併されていますけど、ここが利賀村時代にさまざまな施設を建てたんですね。利賀ふるさと財団は、その運営団体としてつくられました。なので、建物は市のもの、運営を利賀ふるさと財団が担っているというかたちです」

今では500人を切る村人も、施設群ができた20年前は1000人以上いた。状況はだいぶ変わっているものの、どの施設も立派な佇まいで、きれいに保たれている。

とはいえ、補助金頼りではいずれ立ちゆかなくなる。

「数字だけ追うのは簡単だと思うんです。でも建てられた当時の想いを汲んで数字に反映しないと、地域のためにはなりません」

地域や村の人のためになるキャンプ場や美術館の運営。具体的にはどういう仕事内容なんだろう?

「イベントの企画・実行が一番期待するところですね。発信して、一緒に楽しんで、リピートに繋げる。まずは利賀を知ってもらわないことには始まらないので」

キャンプ場であれば、各種アクティビティの企画。

過去にやってきたのは、岩魚の掴み取りや、木彫りのスプーンづくり、竹に巻きつけて焼くパンづくりの体験。村の子どもたちを集めて秘密基地をつくったりもした。

コテージや炊事場等の掃除、備品管理などの仕事があるなかで、大変なのは広い敷地内の草刈り。それはもはや「草とのたたかい」と表現したくなるほど。

いっそ草刈りまでアクティビティにするのはどうですか?

「それはちょっと難しいのかな…薪割りは体験にしようとは話していて。林業もある土地なので、林業体験とかも考えられます」

林業からの薪割り、いいですね。雑草も、見方を変えれば食べ物や薬草になるかも。アクティビティのタネは至るところに落ちていると思う。

そして気になるのは、『瞑想の郷』。なかには4m四方の曼荼羅が展示されているという。

なぜここに突然、曼荼羅なんですか。

「利賀は蕎麦が名物で、蕎麦の原産地はネパールなんです。そのつながりから、姉妹都市のツクチェ村からお坊さんを呼んで、2年かけて曼荼羅を描いてもらいました」

なんだかすごくスケールの大きな話!

数年かけて曼荼羅を描いてもらう、そのアイディアを実行した村の人たちはなかなかファンキーだと思う。働く人も自分の個性を抑えず、どんどん発揮していくほうが良さそう。

こちらも重要になるのはイベントの企画と発信で、今は曼荼羅の下で開かれるヨガスクールが好評なのだとか。元お坊さんの料理係だった人に、ネパール料理のランチ会をやってもらうことも。

そのほか庭に花曼荼羅をつくるガーデニング作業や、ネパールへお土産品を仕入れに行く仕事もある。

ネパールへの買い付け出張、いいなあ。

「村の財産はいろいろな形で散らばっているので、それらを結びつけて、小さくても永続的に発信し続けることがほんとうに大事だと思っていて」

「リピートにつなげるには一歩踏み込んだ接客も必要なので、僕はとにかく喋ります。おすすめの場所や名産品、季節ごとの楽しみ方とか、こういうイベントがあるとか」

コンシェルジュのような秋山さんの姿が思い浮かぶ。旅先で何よりうれしいのは、土地の人との関わりだと思う。

 

「秋山さんはほんとによくお客さんと喋るんです。だからなのか、お客さんからもよく話しかけられます」

そう話すのは、地域おこし協力隊として利賀ふるさと財団に所属している磯村さん。

昨年の夏から農業支援施設「利賀ファーム」に着任し、雪のために施設が閉まる冬は天竺温泉の郷で働いている。

立場的には、今回募集する人の同僚になる人。

「お土産品が全然なかったので、商工会のつながりで新商品を仕入れることにして。客室清掃もやるし、チラシもつくります。いろいろな仕事があるので楽しいですよ」

磯村さんは愛知県出身。利賀に来たのは風景のきれいなところに住みたかったのと、山で自分を鍛えたかったからだそう。

「雪かき、水路の共同管理、虫対策…暮らしのなかでやらないといけないことは多いけど、そのぶんできると自信になります。村の人は何でも当然のように飄々とやって、誰かを責めたりはしない。すごく良い影響を受けています」

村には猟師さんも何人かいて、猪、穴熊、熊といったジビエの文化がある。天竺温泉の郷でも地元の熊肉をつかった熊鍋が食べられる。

磯村さんはつい最近、もらってきた蜂の子をフライパンで炒って食べたという。山菜、五箇山豆腐、栃餅、なんば味噌といった郷土食も、職場や近所の人が教えてくれる。

民謡保存会の練習に参加したり、春には獅子舞があったり。食文化も伝統行事も、山の暮らしに根ざしている。

「人と人の関係性が濃いので、村に馴染めないと生活は難しいと思います。コミュニケーション能力は都会以上に必要です」と秋山さん。

「とにかく集まりに誘われるので、都会よりも出て行きやすいです。誘いを面倒臭がらなければ大丈夫」と磯村さんが言葉を重ねる。

村外の人との交流の機会もある。2019年の夏に行われた演劇の祭典『シアター・オリンピックス』には世界中から2万人を超える観客が集まり、天竺温泉の郷は関係者や演者の宿泊で貸切状態に。

今年の4月から南砺市の事業で、全国から集まった子どもたちが1年間、財団で管理する施設の「スターフォレスト利賀」と民家に泊まり、村内の学校で学ぶ「山村留学」も始まる。

それでなくても観光業は、色々な人と出会える仕事。知らない世界を教えてくれる人が向こうから来てくれる。

里まで降りるのに車で40分とはいえ、そこから富山や高岡といった都市まで30分、金沢まで1時間。飛騨高山や白川郷もほど近い。

村の最奥部には昨年末、富山屈指の人気フレンチレストランが富山市から移転オープンした。利賀で手に入る食材の魅力が場所選びの決め手だったという。

自然の恵みはもちろん、文化的な刺激にも触れられる利賀。

楽しめる人にはこの上ない環境だと思うのだけど、どうして人手不足なんでしょう?

「長い施設運営のなかで、約2年前から財政的な立て直しの業務が始まって。収支のことなど、新しい目標設定が増えたこともあって、それまで主軸で働いていたスタッフが辞めてしまったんです」

とはいえ、現在は運営的には悪くない状況だという。コロナ下でも、南砺市独自の宿泊キャンペーンや富山県主催の宿泊キャンペーンにより県内の来客が増えたり、Gotoトラベルの恩恵を受けて、キャンプ場には目標の約2倍のお客さんが来たりと、多くの来場があった。

ただキャンプ場と瞑想の郷を開けるための人手がない。今回募集したいのは、それぞれに正職員を2人以上。

「十分に人が来てくれれば、色んなことに挑戦できるし、休みもしっかりとれる。畑のある古民家に住んで、自給的暮らしをすることもできます。そのためにも人数が必要なんです。個人で空き家を借りるには時間がかかるかもしれませんが、じっくり腰を据えれば可能性は広がる環境だと思います」

今回募集するスタッフも、春から秋には各施設を担当しつつ、冬は全員が天竺温泉の郷に集合する。雪深い時期は客足も遠のくため、冬のイベントを企画・開催をしたり。みんなで春以降の作戦を練ったり、少し手間をかけた大きめの企画の仕込みをしたり。季節ごとのメリハリをもって働けそう。

「イグルーをつくって冬キャンプとかもやりたくて」

とにかくアイディア豊富な秋山さん。目標管理はきっちりやるけれど、無理なノルマを押しつけることはない。収支が合わなければ存続できないのだから、数字意識を持つのは普通のことではある。

「今のふるさと財団には、主軸に地元の人がほぼいないんですね。村の集まりには誘っていただくんですが、業務に追われて顔を出せないことも多くて。そういう意味でも人数的に余裕があれば、もっと村にも溶け込めると思うんです」

 

磯村さんは、最後にこんなことを話してくれた。

「山の暮らしをゲームみたいな感覚って言っていた人がいて。このトラブルはこの人、こういうときはこの人って、いろんなキャラクターと関わりながら地図を埋めていくというか」

「切羽詰まらずにやるのがいいと思います。顔をあげれば、いつもきれいな風景が広がってる。楽しみ方はいくらでもありますよ」

たしかにここは、RPGのように想像力で展開していく実世界なのかも。

森に囲まれたフィールドで、いろいろな年齢や文化的背景を持つ人と関わりながら企画発信、疲れたら温泉でひとやすみ。そうするうちに「生きる力」がついていきそう。

仕事を通じて、豊かに生きる力を身につけたい人。利賀はおもしろいフィールドだと思いますよ。

(2021/2/4 取材 籔谷智恵)
※撮影時はマスクを外していただきました。

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