求人 NEW

染めて、しゃべって
暮らして、染めて
小さな町の工房でできること

※この仕事は募集終了いたしました。ご応募どうもありがとうございました。

「こうやって指先で少しずつ生地を手繰りながら染めていく、この感覚が私は好きなんです。みんなとしゃべりながら、体を使ってものをつくるのが楽しくて、この仕事をしています」

藍が入った濃い青緑の液体に生地をつけて、たわいもない話をしているうちにタイマーが鳴り、生地を引き上げる。

その時点では緑色の生地を、真水にさらすと、徐々にきれいな青の色が表れてくる。

おお…。

目の前で美しく発色するさまに、思わず声が漏れる。

兵庫、岡山との県境にある鳥取・智頭(ちづ)町には、「ちずぶるー」という藍染工房があります。もともと地域にあった藍染文化を復興させる形で活動していて、今は、現代のライフスタイルにも合う洋服や雑貨の製作販売をしています。

今回は、ここで染色担当のスタッフを募集します。

ひとつ大切なポイントは、報酬の仕組みが少し変わっていること。おそらくこの収入だけで一人ぐらしの生計を立てるのは難しいので、藍染と何か別の仕事を組み合わせていく必要があると思います。

智頭町でどんな暮らし方、働き方ができるのか。チームのメンバーと一緒に考えるような形で話を聞いてきました。



姫路から急行に乗り換え鳥取方面へ。1時間もしないうちに到着したのが智頭のまち。

駅から歩きはじめてまもなく、澄んだ川の流れが見えた。古くからの宿場町のようで、趣のある木造建物も多い。

春先の陽気も気持ち良く、のんびり歩いているといつの間にか約束の時間が迫っていた。もう近くまで来ているはずなのに、それらしき建物が見当たらない。

たまたま通り掛かった少年に助けを求めると、「ちずぶるー? 友達のお母さんが働いているところだと思う」と、近くまで付いてきてくれることに。

ほどなく見えてきたのは、ちずぶるーという木の看板のかかった古民家。少年にお礼を言って、扉を開ける。

町屋のような細長い土間はシーンとしている。

「ごめんください」と声をかけると、奥から「はーい!」と明るい声が返ってきた。

どうぞどうぞ、と促され土間を進むと、突き当りは昔ながらの台所。ここを染めの工房に改装しているらしく、藍のどろっとした染液が入った浴槽がいくつか置いてある。日当たりのいい中庭には物干しが設置されていて、なるほど、ここで染めたものを干すのか…。

きょろきょろ様子をうかがっているうちにお茶の用意が進んでいて、ちずぶるーのみなさんも茶の間へ。

私が荷物を降ろしている間に、テキパキとカフェオレが配られ、お菓子の缶を開ける人もいる。私の席にもいつの間にかクッキーが置いてあった。

甘いもの沢山の大きなテーブルを囲んで女子4人。なんだか小学校の友達の家に遊びに来たときみたい。

ちずぶるーはもともと、現在70代になる地元の女性たちがはじめた取り組みで、そのうち最後の2人の“師匠たち”もこの3月で引退することになり、本格的に新しい体制づくりを進めていこうとしているところ。

そのバトンを受け取って代表を務めているのが、西山さん。

「私は、大学卒業後に地域おこし協力隊としてこの町に来て。ここからすぐのところに『石谷家住宅』という、重要文化財に指定されている建物があって、そこで活動していました。藍染に出会ったのはそのころです」

もともと藍染は、このあたりの地域で古くから行われていた。ただ、継承者がいないことから長く途絶えていて、資料も残っていなかった。

ふたたび藍染で「智頭らしいものづくり」をはじめようとしたのが、ちずぶるーのはじまり。

一般的に広く知られているのは濃紺一色に染め上げる藍染。対してちずぶるーは、明るく鮮やかな青の染物を中心につくっている。

「もともと智頭独自の伝統技法があるわけではなかったんですけど、今は地域の自然を想わせるような色や模様を出していこうといろいろ工夫していて。この青は智頭の空の色。のれんなどに使っている三角の模様は、杉山を表したものなんです」

先輩方から教わりながら染めの製品づくりを進めてきた西山さんたち。

じわりと滲むような風合いは、絞り染めによるものだ。

手芸のイメージを越えて、「もっと若い人のライフスタイルにも合う藍染製品を」という思いから、最近は服や雑貨をオリジナルで製作するようになった。

デザインイメージをスケッチして、縫製は業者に依頼。出来上がった製品を手作業で染め、展示会やオンラインで販売している。

取材に訪れた4月はちょうど、藍の種を蒔く時期。近くにある智頭農林高校の生徒と共同で農場を管理しながら、自分たちで原料を育てている。

「やっぱり今の課題は、つくれる量が限られていることなんですよね。藍の生産量もそうですし、製作にかけられる人手も足りない。もっと売上を増やせるように考えていく必要はあるなと思っています」

今、ちずぶるーでは「役員報酬」という形で、スタッフの活動に対して月々5万円の手当てを支払う仕組みで運営している。

子育てや家事と両立しながら働くメンバーも多いので、週5でフルタイムというよりは、パートタイムのような形で、それぞれがライフスタイルとのバランスをとりながら活動を続けている。

同じような境遇の人ならば柔軟に働けるメリットもある一方、単身で生計を立てようと思ったら、ほかの仕事と兼業するような働き方になる。

仮に一人で移住してくる場合、どんな働き方ができるだろう。



その疑問に答えてくれたのは、西山さんと同時期にちずぶるーの活動をはじめた柴田さん。

「智頭は若い移住者がやっているカフェが多くて、バイトを募集していたりもします。あとは、おじいが畑仕事手伝ってほしいって言っているとか、そんな情報は結構あるので、私たちから知り合いにつなぐことはできると思いますよ」

なるほど。半農半X的というか、マルチワーカーみたいな働き方もできるんですね。

もしも自分でものづくりをするような人なら、作家活動と工房での仕事を掛け合わせることもできるかもしれない。

智頭町内でほかにも個人でものづくりをしている作家さんは、ちらほらいるらしい。共同でイベントやマルシェを企画するなど、“ものづくり”の文脈を共有できる人、あるいは創作経験がなくても、キュレーションや企画などの経験がある人は活動しやすいのかもしれない。

特に染色方面でアトリエを探している作家にとっては、設備はあるし、町の水もきれいで環境は整っている。

ちなみにアルバイトの情報を教えてくれた柴田さんは、ちずぶるーの染師、兼、ランチ担当だという。

ランチ担当といっても、まかない飯をつくるのではなく、近隣のカフェにランチに行って、いろんな人とコミュニケーションをとる広報部長のような役割。

「智頭は最近移住者も増えて、新しいことに興味を持ってくれる人も多くて。町でちずぶるーの服を着てくれている人に出会うことも増えました」

「最近は、町で青い服着ているだけで『あ。それ、ちずぶるー?』『いや、違う違う。化学染料です』みたいな会話もよくあります(笑)。藍染って敷居が高かったけど、案外自分の普段着とも合わせやすいんだね、とか言ってもらえるようになって。うれしいです」

こうしていつも和気藹々と、おしゃべりをしながらものづくりをしていることを知ると、なおさら服にも愛着が湧く。

楽しい気持ちでつくられたものなんだな、という安心感もありますね。

「私はちずぶるーって、一人で黙々と作業に熱中するんじゃなくて、みんなと一緒にやるっていうことに意味があるのかなと思います。本当に年齢とか性別関係なく、誰かと話すのが好きだっていう人に入ってきてほしいです」

智頭での暮らしや工房での活動を楽しそうに話してくれる柴田さん。メンバーのなかでは唯一、この智頭町で生まれ育った人でもある。

それなのに、町の人からは「あんた移住者みたいやな」と言われるという。

「地元民みたいな移住者」は聞いたことありますけど、逆は珍しいですね。

「私はもともと智頭が大嫌いだったんですよ。田舎の閉鎖的な感じとか、古い家族観とか。それで高校を出て、大阪の専門学校に進んで結婚して、都市で子育てをしていました。あるとき両親から、『智頭に面白い幼稚園ができたぞ』っていわれて。それが森のようちえんだったんです」

「山で遊ぶって、私にとっては当たり前だったんですけど、見学に来てみたらうちの子、山に登るとき地面に手をつくのを嫌がるんですよ。3歳にもならない子どもが、自然を汚いものだと思っている!って、結構ショックで。これはあかんわって思って、家族でこっちに帰ってきたんです」

最近は森のようちえんがあるなら、と智頭に移住する子育て世代も増えていて、多様な価値観を持つ仲間も増えてきたという。

「帰ってみたら、智頭の町自体がすごく変わっていて。あれ、智頭町ってこんなとこだったけ?みたいな。新しい風がどんどん吹いているような感じがあってワクワクしました」

地元の人とも積極的に話すようになり、今まで自分が智頭のいいところを見逃していたことにも気づいたという。

最近は町にある古くて良いものを残していこうと、街並み保存会などの活動も盛んになり、ちずぶるーでも高校生と共同で、町ののれんづくりなどにも取り組んでいるという。

「やっぱり田舎は田舎なので、ここもおばあとかおじいとか、普通に入ってきてめっちゃ声をかけてくるけど、それも別に監視しているとかではなくて、地域のコミュニケーションなんだって思って楽しめるといいのかもしれないですね」

ワイワイおしゃべりが弾む工房だからこそ、地域のコミュニティスペースとして何かできるような気もする。外の人も関われるワークショップとか、楽しそうだなあ。

藍染をつくって売るという役割にとらわれず、ものづくりを通じて人の輪を広げることを意識すれば、仕事の幅も広がりそう。

子育てと藍染。カフェと藍染。いろんなライフスタイルと組み合わせながら、自分らしい生き方をつくっていける工房なのかもしれません。

(2021/3/26 取材 高橋佑香子)
※撮影時はマスクを外していただきました。

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