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いい日本酒は
いい米から
酒蔵と歩む農業

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農業に興味がある。でも、つてもなければ、知識や経験もない。そんな自分がゼロから飛び込んで、いきなりやっていけるわけがないか…。

漠然とそんな思いをめぐらせたことがある人にとっては、今回紹介する仕事が一歩を踏み出すきっかけになるかもしれません。

舞台は九州随一の酒処、佐賀県鹿島市。

このまちの2つの酒蔵が共同で立ち上げた農業法人「蔵アグリ・ラボ」で、米づくりや野菜づくりにチャレンジする人を募集します。

蔵元が農業に挑む背景には、まちの未来への思いがありました。

自分で手応えを感じながら、何か新しいことに挑戦してみたい。まちづくりや発信に興味がある。そんな人にも読み進めてみてほしいです。

 

博多駅から電車を乗り継いで、1時間とちょっと。

次第に景色が開け、ゆうゆうとした山並みと田畑が目に入ってくる。

九州のお酒というと焼酎を思い浮かべる人も多いかもしれない。そんななか、多良岳の豊富な水に恵まれ、稲作も盛んな鹿島では、古くから日本酒づくりが行われてきた。

現在も6軒の酒蔵があり、江戸時代から続く伝統的なまち並みは国の重要な保存地区にも指定されているのだそう。

肥前浜駅を出てまっすぐ歩いていくと、その1軒である富久千代酒造が見えてきた。世界的にも人気の高い銘酒「鍋島」をつくる蔵元。

3代目の飯盛直喜さんは、蔵アグリ・ラボの共同代表でもある。

東京で働いていた飯盛さんが、鹿島へ戻ったのは1987年のこと。

低価格の日本酒が増えるなか、「佐賀、さらには九州を代表するお酒を」という志で「鍋島」づくりに奔走。2011年には国際ワインコンテストの日本酒部門で最優秀賞となるまでに育てあげてきた。

また、6つの酒蔵で共同企画した蔵開きのイベント「酒蔵ツーリズム」は、最大10万人ほどが訪れるイベントに成長。

さらに、地元の農家さんと一緒に田植えや野菜の収穫が体験できる「グリーンツーリズム」など、幅広い取り組みを行ってきた。

蔵元でありながら、農業法人を立ち上げたのはどうしてだろう?

「酒米をつくっている農家さんが、年々高齢化していて。これから先もここで酒づくりを続けるために、米づくりの後継者を育てておかなければと思ったんです」

酒米として有名な品種「山田錦」をつくる農家さんは、現在、鹿島に十数人。多くが70代で、跡取りがいるのはわずか3人ほどだという。

地元のお米を使って、地元でいいお酒をつくり続けたい。

そんな思いのもと、同じ市内の矢野酒造と共同で、2年前に蔵アグリ・ラボを立ち上げた。

当初、酒米づくりをはじめたのは広平(ひろだいら)という地区。石垣の棚田が広がる景観に惹かれたそうだ。

ただ、動きはじめると課題も見えてくる。広平は日照時間が短いことに加え、道が狭いため、機械を入れられない。酒米づくりで収益化を目指すのは難しい土地だということがわかってきた。

「広平は景観がすばらしいので、農業体験ツアーなど、観光面で活用する可能性はまだまだあると思っています。ただ、事業として酒米づくりをするには適さないかなと。平地で効率的にお米づくりができる場所を、新たに探しているところです」

今回募集しているのは、平野部での酒米づくりや野菜づくり、広平での観光農業などを含め、蔵アグリ・ラボの主軸を担っていく人。

「企画力があって、情報発信や販路開拓など、いろいろなことを一緒に考えられる人がいいですね。将来は経営的な立場を担っていってほしいので」

飯盛さんたちも全力でサポートするけれど、それはその人のアイデアや熱意があってこそ。言われたことだけをやりたい人には、難しいと思う。

言い換えれば裁量が大きく、自分のアイデアを形にしていける仕事。

チャンスの種はたくさん転がっている。

たとえば富久千代酒造ではこの春、旧商家を改修した酒蔵オーベルジュをオープン。おいしい食用米や野菜ができれば料理に使えるし、宿泊者向けに広平の農業体験ツアーを企画してもいいかもしれない。

蔵元として長年培ってきた発酵の技術や、漬物のノウハウもある。お米だけでなく野菜もつくるのは、酒粕を使っていろいろな加工品づくりにも取り組みたいと考えているから。

「酒米は私たちが責任を持って買い取りますが、それ以外にも収益の柱を持つことは大事かなと。ゆくゆくは農業法人だけでもきちんと利益を出していける仕組みをつくりたいと思っているんです」

農業は未経験でも、「こんなことできるかも?」とわくわくする人には、おもしろい環境だと思う。

もちろん、やってきてすぐに売上をたててほしい、というわけではない。

最初の1年は知り合いの農家さんを訪ねて勉強させてもらったり、田畑を一緒に見て回ったりするのが中心になりそうだ。来年以降は、午前中に農作業をしたあと、午後はSNSでの発信や注文の管理など、事務作業もすることになる。

時期によっては、酒づくりの仕事を手伝うことも。育てた米がどんなふうにお酒になっていくのか知ることは、米づくりにもきっといい影響があると思う。

そうして過ごすなかで少しずつ地元の人々とつながり、商品開発や売り方のアイデアを膨らませてもらいたいと、飯盛さんは言う。

 

飯盛さんに声をかけられ、ともに蔵アグリ・ラボの共同代表を担っているのが、矢野酒造代表の矢野元英さん。

矢野酒造は、江戸時代から200年以上続いてきた酒蔵。

1796年の創業当時は浄水設備が整っておらず、山の水が豊富にとれる山間地で酒づくりを行っていたとか。

その後、城下町の整備に伴ってこの地に移転。今の建物も、すでに築100年以上が建つという。

屋根を見上げると、立派な梁。

…のすき間に見えるあれ、なんですか?

「ああ、あれは精米のときに使っていた滑車です。今はあまりやらないんですが、昔はほとんどの酒蔵が自社で精米していて。ここも昔、精米所だったんですよ」

酒づくりは冬に行われることが多いため、古くは農閑期に酒蔵で働く農家も多かったそう。酒造業と農業の関わりや歴史をあらためて見直すことから、新しい売り方・伝え方のアイデアも広がっていくかもしれない。

「鹿島は立地がよかったんです。多良岳の水と平野があって、稲作も盛んで。有明海に面しているから海運もできた。僕が小さいころは、酒蔵もまだ20蔵くらいありました。それが今では6蔵になってしまって」

「そんななかでも、地元のお米を使って、佐賀を体現するようなお酒をつくろうという機運は高まっているんです。だからこそ蔵が主体になって、酒米づくりでちゃんと食っていけるんだ、って証明ができればと思うんですよね」

代々受け継がれてきた土地を、守っていきたい。米づくりや酒づくりを通じて、鹿島や佐賀を盛り上げていきたい。

矢野さんの話を聞いていると、端々からまちへの思いが伝わってくる。

「酒蔵って、地場産業の最たるものだと思ってるんです。僕らは200年以上、地域の方に育ててもらっていて。過疎化や農地の荒廃を食いとめることで、まちに恩返ししたい気持ちも強いですね」

「それに、農業ってこれから先、伸びしろがあると思っていて。そういう楽しさやわくわくも、発信できたらいいなと思っています」

農協に出荷すれば効率はいいけれど、一括で管理されるのが基本。「どういう人が、どんな思いでこの作物をつくり、どういう人に食べてほしいか。そこまで伝えずに売られるのはすごくもったいない」と、矢野さん。

地域でとれた野菜を詰めた「定期便」をはじめたり、道の駅で対面販売をしたり。矢野さんのまわりには、自分たちのアイデアで新たな販路を開拓している若手農家さんたちもいるという。

あるアスパラガス農家さんは、クラウドファンディングを活用してアスパラガスの絵本をつくり、絵本とアスパラガスをセットで届けるなど、発想がユニークでおもしろい。

「そういう、次世代の農業を担っていく人にしかできないことって、あると思うんですよ」

70代を中心とした酒米づくりのベテランと、新しい届け方に挑戦する若手農家たち。そして飯盛さんや矢野さん。

こんな人たちに囲まれながら、酒づくりの文化が根付いた地域ならではの農業の可能性を開拓していってほしい。

矢野酒造では、酒粕を使った奈良漬けづくりも行っている。

奈良漬けといえば瓜が定番だけれど、その瓜も、近年は生産者さんが減ってきているのだとか。

「野菜も自分たちでつくって、一緒に加工・販売していくことができたらいいですよね。地元の酒粕と、地元の野菜を使った奈良漬けというのもまた、佐賀を発信できるツールになると思うので」

瓜にかぎらず、玉ねぎやパパイヤ、クリームチーズなど、漬けておいしいものはいろいろある。新たな野菜や果物に挑戦して試行錯誤するのも、楽しいかもしれない。

「農業はね、未経験でいいと思うんです。地元の方と関係をつくって、いっしょに巻き込んでいける方であれば」

「けっこうみんな、おせっかいですから(笑)。何かをしようとするといろんな人が口出ししてきて『こうしたほうがよか!』『それはやめたほうがよか』って。でも言い方を変えれば、みんな気にかけてくれるんですよ」

面倒見がいいまち、なんだそう。

「外から新しく来た人ががんばっているのを見たら、すごくかわいがられると思いますよ!ああせい、こうせい言いながら、結局は情熱を持って取り組んでいる人を応援してくれる。そんなまちです」

「いやあ、広平でのお米づくり、なかなか難しくて!」「厳しいですねえ(笑)」と腕組みしつつ、それでも米づくりをやめない。飯盛さんも、矢野さんも、このまちのことが大好きなんだなあ。

ゆくゆくは、広平での農業体験ツアー後に休憩したり、食事を楽しんだりする施設もつくりたいそう。その名も広平観測所。農道にテーブルを並べて、棚田の景観を楽しめたら、たしかに気持ちよさそうです。

「お酒ってやっぱり、人と人の距離を縮めたり、つないでくれたりするツールだと思っているので。自分たちがつくったお米、それでつくられたお酒によって、人の輪が広がっていけばいいなあって思うんですよ」

矢野さんがぽつりともらしたひとことが、心に残りました。鹿島でのお米づくりは、人と人がつながるきっかけを生み出していく仕事なのかもしれません。

(2021/3/16取材 渡邉雅子)

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