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職人仕事と聞くと、愚直に一つの技を磨き続けるイメージがあります。一方で、新しい技術や素材が出てきたり、お客さんのニーズが変わったり。流れてゆく時代のなかで、磨いた技術をどう活かしていくか、柔軟に考えることも大切です。
技術の価値をいかに広く知ってもらうか、応用してほかのチャレンジができないか。そんなふうに考えながら、技を磨き続けてきたのがウチノ板金のみなさんです。
屋根や外壁などに使われる薄い金属全般、いわゆる板金を扱う株式会社ウチノ板金。板金加工から取り付け工事、メンテナンスまで幅広く手がけています。
今回は建築板金職人を募集します。
経験は求めません。むしろ、職人以外の経験が活きる環境だと思います。
ウチノ板金がある東京・東村山へは、新宿から西武新宿線で30分ほど。東村山駅から車で5分ほどの場所に、ウチノ板金の本社兼作業場がある。
「こんにちは!今日はいい天気でよかったです」と迎えてくれたのが、ウチノ板金代表の内野さん。
「板金屋さんって、なにをやってるのかよく知られていないと思うんですよね。僕たちも説明するのが難しくて。まずは見てもらったほうが早いと思うんです」
そう言って、事務所の外壁部分を指さす内野さん。縦に溝の入った板金で覆われている。
「あれで言うと、屋根の形に合わせた切断と溝の加工、取り付けの施工までやるのがうちの仕事です。経年劣化してきたら、メンテナンスも行います」
平面に限らず、曲面の板金を扱うこともあるそう。
自転車置き場の屋根とかで、「~」みたいな形の波板が使われているのもよく見ますね。
「そうそう。昔の金属はトタン製なので錆びやすかったり、破れやすかったりするんですが、今は丈夫な素材でつくられていて。壁材として使ってもかっこいい仕上がりになるので、屋根以外の用途でおすすめすることもあるんですよ」
屋根や外壁以外に、雪止めや雨樋を設置したり、ラーメン屋さんの厨房などで見かけるステンレス製の壁をはったりするのも仕事なのだとか。
「簡単に言うと、僕たち板金屋の仕事は『薄い板状の金属を建物に取り付けること』です。仕事の幅は広いんですが、なかなか板金屋さんの存在って知られていなくて。もっと自分たちの仕事を世の中に伝えていかなきゃなと、日々感じています」
内野さんが板金職人の道に入ったのは、24年ほど前のこと。高校を卒業し、お父さんが一人でやっていた建築板金業を手伝い始めたのがきっかけだった。
「高校生のときは、正直どんな仕事をしているのかもわかっていなくて。建築系で、屋根とかやってんだなあっていうくらい。とりあえずやってみようかなって、ほんとそれだけです。ただ、面白いことをしようっていうのは、当時からずっと思っています」
面白いこと?
「板金屋って、いわゆる建設業界のなかにある仕事なんです。この業界ってまだまだ古い世界で、新しいことをやってみようっていう動きが少ない。だからまわりとちがうこと、変わってるって言われるようなことをしたいなと思って、いろんなことを変えてきました」
まず見直したのが、仕事の受け方。それまでは工務店などからの下請けが多かったのを、インターネットが広く普及する前から自社ホームページをつくったり、SNSを黎明期から始めたりと、直接お客さんに知ってもらい、仕事につなげる土壌をつくっていった。
今では、工事案件の7割が地元の人からの直接依頼なのだそう。
また業界の当たり前を疑って、新しいことにもチャレンジしてきた。
「たとえば、ドローンを使った点検は何年も前から始めています。屋根に登らなくても状態確認や見積もりができるので、すごく便利なんですよ。なんでみんなやらないんだろうって思っちゃうくらい」
昨年には全国の屋根屋さんと一緒に、ドローンを使った屋根点検の料金を、自然災害で被害にあった地域に全額寄付するプロジェクトを立ち上げた。被災地支援のみならず、プロジェクトを通して地域の屋根屋さんの存在を知ってもらうきっかけになっているそう。
ほかにも、板金加工の技術を活かし、銅や真鍮で折鶴のプロダクトをつくったり、屋根での現場作業の様子をYouTubeで発信したり。面白そうだと思ったことには積極的に取り組んできた。
「編集の得意な人がいて、動画も社員がつくっているんです。職人の知識と技術があってこそ、わかりやすく伝えるにはどうすればいいかを考えられるし、ここを見せたらお客さんが喜ぶよねっていうところまで想像できる」
「それはお客さんとのお打ち合わせでも、ホームページ制作でも、SNS広報でも同じだと思っていて。現場感があってこそ伝わる、っていうのかな。新しいことをするにも、まずは職人としての軸をちゃんと持つことが大事なんです」
内野さん自身も、職人として20年以上経験を積むなかで、自分の引き出しを広げてきた。新しく入る人も、まずは職人の技術を学んでほしいとのこと。
「職人さんって、言われたことを愚直にやる、みたいな世界がまだまだ当たり前なんです。でもうちは、社内ベンチャーを立ち上げてもいいから、やりたいことはどんどん言ってくれって社員に話してます」
「屋根や外壁という建物の大事な部分を扱う仕事って、今後も長く必要とされると思うんです。そのなかでもずっと同じことをするんじゃなく、面白いことをやっていきたい。家庭を持っている人でも、女性でも大丈夫。性別や年齢は関係ないです。自分の人生経験を活かして、職人の世界に飛び込んでみてほしいなと思います」
いま働いているスタッフは、ほとんどが未経験だったそう。今回募集する人も、建設業やものづくりの経験はまったく問わないという。
続いて話を聞いた田中さんも、別の業界で働いていた方。
「今年で3年目になります。前職では電気設備会社の物流センターで商品管理をしていたんですけど、お客さんの顔もわからないし、商品の品番くらいしか覚えるものがないなと思って。転職しようといろいろ探しました」
手に職つけようと、エンジニアや建築関係の仕事を中心に探すなかで見つけたのがウチノ板金だった。
「最初は板金屋さんがなにをしているところなのかもまったく知らなかったですね。すごく覚えてるんですけど、初出社日は雨の日だったんですよ」
「僕らは屋外での作業がほとんどなので、仕事は天気で左右されることが多いんです。その日も現場には行けないってことで、社長が道具の説明をしてくれて。このハサミは柳の葉に似ているから柳刃っていうんだよ、とか。こんなに丁寧に教えてくれるんだなっていうのは、印象的でした」
板金職人の仕事は、材料を準備するところから始まる。
形や大きさの調整が必要なものは、ロール状で納品される板金をハサミなどでカット。機械を使って1枚1枚折り曲げていく。
「淡々とやっているようで、考えることが多いんです。最後に裏表ひっくり返して機械に入れないと目指す形にできない、とか。頭使いますよ。複雑な折り紙をしてるみたい」
加工する板金の厚さは、だいたい0.4ミリほど。
波板のような形に加工したり、断面が錆びて目立たないように数ミリ折り返す“あざ折り”をしたりなど。大小様々な加工を施して、建物に取り付けていく。
「おなじ屋根の張り替えでも、剥がしてみるとさらに修復が必要だったりして、現場ごとに状況が違う。最初は先輩に教えてもらいながらですが、自分から興味を持って学んでいかないと、あとでどんどん大変になると思います」
見て学べ、というスタイルではなく、必要なことは丁寧に教えてもらえる。社員は30代くらいの人が多いので、若い人でも話しやすい環境だと思う。
「最近、初めて現場の責任者を任せてもらって。既存の屋根の上から新しい屋根をかぶせる増し張りと、雨樋の取り付け工事を担当しました」
「作業自体は難しいものではないんですけど、責任者は作業以外のことも考えないといけないので、やる前はすごく不安で…」
まずは現場へ足を運んで屋根の状態を確認し、必要な材料を発注。足場を組む業者に連絡したり、工期を組んで人員配置を決めたり。
目の前の作業だけではなく、工事全体を見てマネジメントしていく視点が求められる。
「気をつけていたんですけど、作業中に材料が足りなくなってしまうとか、道具を準備していなくて作業できないとか、ミスもしてしまって。ああ、そこ見えてなかったなあって、やってみて気づくことがすごく多かったんです」
「初めてのことって、やっぱり不安じゃないですか。正直逃げたくなるときもある。でも怯えながら挑戦してみると、結果的にやってよかったなって思うことがほとんどで。今はできないことにも意識的にチャレンジしてみようって、そう思いながらがんばっています」
最初はできるかどうか不安だったことも、経験を積むことで慣れてくる。慣れると余裕が生まれ、そのぶん視野も広くなって新しい気づきも得やすくなる。
その積み重ねが、技術を高めていくということなのかもしれない。
「先輩たちはすごく視野が広いし、作業の進め方もスムーズで、ほんとすげえなって。こうなりたいっていう憧れが、僕は強いんだと思います。影響されやすいだけかもしれないけど(笑)」
「好奇心さえ持っていればどんどん成長できる環境だと思うので、新しく入る人も、知らないことを面白がって学んでいってくれる人だといいですね」
田中さんのように3年目で現場の責任者を任されるのは、かなり早いほうなのだそう。
「彼はすごく好奇心旺盛なんです。だから、吸収も早いんだと思いますよ」
そう話に加わってくれたのは、隣で聞いていた濱野さん。入社8年目になる方で、お客さんとの打ち合わせや契約を行う現場管理にも携わっている。
「後輩には、ギリギリできなさそうだなってレベルのことを『やってみる?』って聞くんですよ。やらしいんですけど(笑)。最初から最後まで言ってしまうのもいいんですけど、本人が考えて動くことで得られる“気づき”を大事にしてほしいんです」
「その積み重ねで人が育っていくし、働きがいも生まれてくる。仕事をしてるだけで楽しいってなったら最高じゃないですか。この思いが彼に伝わってるかはわからないけど(笑)」
取材中もこんな調子で話が進んでいく。お互いに敬意を持ちつつ、壁はほとんどないような感じ。
濱野さんは、どんな人と一緒に働きたいですか。
「すごく大きく言ってしまうと、好奇心の強い人。好奇心さえあればなんとでもなっちゃうので。そこさえ本人が持っていれば、そこから先のことは、本人次第で勝手に形になると思うんです」
「板金屋ってどんな仕事なんだろうって、好奇心の塊みたいな人が来てくれたらうれしいですね」
なんか面白そうだな。最初はそれくらいの好奇心でいいのかもしれません。
仲間と一緒に、目の前のものに向かって手を動かす。それをじっくり続けていくことで、自らの成長がウチノ板金の発展につながっていく。
そう実感できる仕事だと思います。
(2021/4/15 取材 稲本琢仙)
※撮影時はマスクを外していただきました。