求人 NEW

おいしくなければ意味がない
島の地産地消に
もっと、アイデアを

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

両親につくってもらった料理や、学校の給食。

あんかけ風が苦手だったな、とか、れんこんチップスが好きだったな、とか。好きもきらいも、小さい頃に感じた食の原体験は、不思議と印象に残っているもの。

でもどうせ食べるのなら、大人になってからも『おいしかったなぁ』と思い返せるものがいい。

島根県の沖合に浮かぶ島、海士町(あまちょう)。その名の通り、海に関わる人が多く、定置網漁やイワガキの養殖などの漁業が盛んな島です。

人口2300人ほどのこの島には、地元の漁師さんたちの漁業を支える漁業協同組合があります。

漁船の燃料となる油を仕入れたり、獲った魚を市場へ販売したり。いわゆる漁協の役割のほかに、直売所の運営や独自の商品開発、島の学校給食への食材提供など、新しいチャレンジにも取り組んでいます。

海士町の水産資源をさらに活かし、広げていくために。今回は、加工担当と直売所のスタッフ、ふたつの職種で新たな仲間を募集します。

経験は求めません。おいしいもの好きな人がこの島に住んだら、きっといろんなアイデアが広がると思います。


東京から海士町へは、鳥取・米子空港が最寄りの空港になる。

そこからバスで七類港に向かい、フェリーに乗船。この日は天気にも恵まれて、気持ちのいい船旅になりそうだ。

3時間ほどで、菱浦港に到着。

島に降り立つと、海士町漁協の藤澤さんが迎えてくれた。

「長旅おつかれさまでした。僕ってすごく晴れ男なんですよ。今日も晴れてよかったです」

「漁協のなかでも、自分は幅広い業務を担当していて。まずは見てもらったほうが早いと思うので、直売所に行ってみましょうか」

そう言って案内してくれたのは、港のフェリーターミナル内に併設されているまちの直売所。

その日獲れたばかりの新鮮な魚や、海士町産の野菜やお米が並んでいる。

「ここにあるものは、ほとんどが海士町でとれたものなんです。あそこにある缶詰などの加工品は、僕がつくっているんですよ」

たとえば、と話してくれたのが、「海士の宝」という缶詰の商品。「サザエのアヒージョ」や「真鯛のアクアパッツァ」など、全部で3種類ある。

「お土産やギフト用に、日持ちするものがほしい」という声を受けて、藤澤さんが考案してつくったものなんだそう。

「サザエもいろんなサイズがあるじゃないですか。一番売れるのは、中くらいのもの。大きすぎると身が固いと言われて、敬遠されてしまうんです」

「だからって漁協が仕入れないと、漁師さんは困るし、なによりサザエがもったいない。なので、そのでかいサザエを使って缶詰をつくっているんです」

調理の仕方によっては固さも気にならないし、大きいほうが食べ応えがある。刺身などには向かなくても、缶詰にするにはうってつけだった。

「鯛もおなじで、大きすぎると市場に出しても安くなるから、ほかのサイズと同じ値段でうちが仕入れて、加工しています。売りづらい商品を安く買い叩くのは簡単ですが、それだと僕たち漁協が存在する意味がないので」

加工するぶん、価格は高くなる。保存料や化学調味料は使わず、デザインも人に贈りたくなるよう、こだわった。

ほかにも、地元の小学生からの提案で一緒につくった「ブリナゲット」や、イカを捌くときに捨てられていた部分を使った「イカノコシ」など。いろいろな商品を開発してきた。

「ただものを売るんじゃなくて、地域の人の声や島の漁業者の声を聞きながら、自分で考えたおいしい食べ方を伝えられるのが面白いなって思います」

藤澤さんが海士町に来たのは、10年ほど前のこと。もともとは東京の出版社で営業をしていたという。

「本屋さんと交渉したり、広告宣伝を考えたり。いろいろやっていました。けれど、30歳になったとき、『この仕事を続けた先に、俺の幸せはなさそうだな』って思ったんですよね。会社から求められることだけ続けていたら、自分のやりたいこととは別の方向に進んでいってしまうんじゃないかって」

「そう悩んでたときに、この島に出会ったんです。景色も食もいいし、なにより海士町の人たちは、自分の暮らしを自分ごとで切り拓いている感じがして。一目惚れですね」

漁協で働き始めてからは、本の世界で鍛えた“伝える”力を活かし、新しい加工品の開発のほか、学校給食への食材提供などにも取り組んできた。


「加工は基本ひとりでやっているんですが、給食のことは給食センターの小田川さんと相談しながら取り組んでいて」

「彼女の手書きの献立表が、凄まじくて素敵なんですよ(笑)。ぜひ話を聞いてみてください」

そう紹介してくれたのが、海士町出身の小田川さん。町内の小中学校の給食をつくる給食センターで働いている。

「誤字脱字が多いんですけど…」と謙遜しながら、手書きの献立表を見せてくれた。6月の献立がびっしりと丁寧に書かれている。

「これを色付きで印刷して、各家庭に配っているんです。学校の先生と違って保護者と顔を合わせる機会が少ないので、こういうところで思いを伝えられたらなって」

毎月のメニューは、島の生産者さんと相談し、どんな魚や野菜が使えるか聞いた上で決めているそう。藤澤さんはそれに合わせて魚を仕入れ、加工している。

「給食は当日調理なので、午前中に200人分をつくらないといけないんです。藤澤さんには魚の切り方とかも、いろいろと工夫してもらっていて」

たとえば、6月のメニューにもあったイカの和え物。

加工の段階で輪切りにするのと同時に、皮も剥いてもらうようにしているそう。ボイルしたときにザルに皮がくっついてしまい、見栄えもよくないからなのだとか。

メニューに合わせたきめ細かい加工が、海士町の給食を支えている。

「海士は、学校給食の地産地消率が県内で1位なんです。子どもたちには、できるだけ海士町のものを食べてもらいたい。大人になってからも、『海士の給食はおいしかったなぁ』って思ってくれたらいいなって」

あらためて献立表を見てみると、サザエご飯やヒラマサのアクアパッツァ風包み焼きなど、おいしそうなメニューが並んでいる。

「子どもに好まれる献立だけを出すことほど、罪深いものはないと思っていて(笑)。地元の、いろんなものを食べてほしい。それは子どもたちにとって意味あることだと思うんです」

小田川さんが栄養士を志したのは、海士町の給食が大好きだったから。「今でも毎日給食を食べたいし、出張とかで食べられないときはちょっとブルーになるくらい」と微笑む。

食は、たしかに大事な原体験のひとつかもしれませんね。

「自分が食べたいと思う給食をつくりたいし、子どもたちにも食べてもらいたい。新しく入る漁協の人も、そういうところまでイメージしてくれる人だといいのかなって」

隣で聞いていた藤澤さんもうなずいている。

「イカを切るのも、イカの切り身をつくろうと思ってるわけじゃなくて、メニューを想像しながらつくってますもん。調理する人と、役割分担してる感じ。食べてくれる人をイメージできるっていうのは、モチベーションにもなりますよね」

「よりおいしくする方法を考えるとか、新しいメニューにチャレンジするとか。そういうことに、我々はテンションが上がるんです。人手があればもっと面白いこともできると思うので、新しい人も、いろんなアイデアを出してくれたらうれしいですね」

関わる人の顔がよく見えて、自分の働きが地域の未来にダイレクトにつながっていく。

それは、島という環境ならではのことなのかもしれない。


取材がひと段落して、この日は島で一泊。

翌朝、漁港も見に行きませんか?と、藤澤さんが魚の仕入れに連れて行ってくれた。

時間は午前9時。港では、魚屋さんや近所のおばちゃんが船の帰りを待っている。しばらくすると、ゴーッという音とともに、漁船が帰ってきた。

船の周りには鳥が飛び交い、魚のおこぼれを狙っている。

日によって船が帰ってくる時間はちがうそう。降ろした魚は、その場で地元の人が購入できるようになっていて、残りは本土側の市場に出荷され、翌朝のセリにかけられる。

掛け声とともに船から降ろされる魚たち。この日はイワシが大漁だった。

地元の魚屋さんや漁師さんと世間話をしながら、目当ての魚を探す藤澤さん。

今日はなにを仕入れるんですか?

「給食用のシイラを仕入れたいと思っています。シイラって、市場ではあまり売れないみたいで。今度給食で、シイラの香草焼きっていうメニューにしてもらう予定なんです」

大きいほうが身がたくさん取れるため、とくにサイズの大きなものを3匹。藤澤さんひとりで捌くので、扱えるだけの量をコツコツ仕入れている。

そのまま、直売所から車で15分ほどの加工場へ。藤澤さんは普段、ここで作業していることが多いそう。

お気に入りのポッドキャストを流しながら、まずは血抜きから。尾ビレを根本から切り、エラの隙間に包丁を入れる。

ホースをエラの中に突っ込んで水を流すと、切った尾ビレのほうから血がピューっと出てきた。

「この血抜きの方法は、宮崎の魚屋さんが開発したんです。エラのほうから水を入れることで、血管の圧が高まって、血が抜けていくっていう。ホース1本でできるので、すごく簡単なんですよ」

水を流しすぎると身に水分が入ってしまうため、ほどほどで止めるのがポイントなんだとか。

3匹分の血抜きをした後は、内臓を取り出していく。

「この小さいのが心臓です」「こいつはトビウオを食べてますね、胃袋のなかで消化中だ」などなど。手を動かしながら、丁寧に魚のことについて教えてくれる藤澤さん。

新しく入る人は、魚の加工経験はなくても大丈夫。基本的なことは藤澤さんが教えてくれるし、藤澤さん自身も勉強しながら引き出しを増やしている最中なので、一緒に学んでいけると思う。

また、新しいアイデアだけでなく、ひとりでは気づかないような改善点も積極的に教えてほしい、と藤澤さん。

内臓を取り出したところで、シイラの処理は一旦終了。このあと少し時間をおいて、身が固くなってから切り身にして冷凍するそう。

「島でとれるものを使う、っていうのは大事なんですけど、おいしくなければ意味がないと思うんですよね。地域経済のための地産地消って、大人の理屈じゃないですか」

「子どもたちにとっては、“おいしい”につながっていることが大切で。そこは一番こだわっているところですね。やっぱり、自分自身もおいしいものを食べたいし、人にも食べてほしいって思えることは、ここで働く上ですごく大事なことなんだと思います」


取材が終わり、帰りのフェリーに乗る前。藤澤さんが、「これを見て島で暮らそうと思った」という景色の見える場所へ連れて行ってくれた。

海と空の青と、島の緑。そして、島で生きる人たちの暮らしの色。

今回は海の話がメインだったけど、島にはほかにもさまざまな暮らしを営む人たちがいます。その人たちと知り合うなかで、新しいことがはじまるかもしれません。

魚や食に興味がある人も、漁業をもっとよくしたいという人も。もっと単純に、まずはこの景色を見に行きたい、というだけでもいい。

興味を持って訪れたら、藤澤さんたちと一緒に、いろんなことにチャレンジできると思います。

(2021/6/22 取材 稲本琢仙)
※撮影時はマスクを外していただきました。
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