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ぼくらをつなぐ
草の屋根

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

「多様性という言葉をよく聞きますけど、人はそれぞれ違うからと言って、自分たちの気に入らない人を排除するのは本当の多様性ではないんですよ。どんな人が来てもうまくやっていけるようなチームでありたいなと、ずっと思っているんです」

そう話すのは、株式会社くさかんむり代表で茅葺き(かやぶき)職人の相良(さがら)さん。

くさかんむりは、兵庫県神戸市で古民家や文化財などの茅葺き屋根の修復や、現代的な茅葺き建築にも挑戦している会社です。

ほかにも茅葺きのことを広めるために、子ども向けのワークショップやセミナーも開催しています。

今回は、神戸市が独自で企画する神戸版地域おこし協力隊として、くさかんむりに所属しながら、地域にある茅葺きの建物を活用したまちづくりを行う人を募集します。

これまで茅葺き建築や修繕を手がけてきたくさかんむりにとって、建物の利活用まで関わるのははじめてのこと。

地域の人との関係づくりからはじめて、茅葺きの歴史ある建物を現代に活かし、未来へとつないでいく仕事です。

 

新神戸駅から在来線で1駅のところにある谷上(たにがみ)駅へ。東京からだと新幹線で3時間。

さらに車を20分ほど走らせ、くさかんむりの活動拠点のある淡河(おうご)町へ。茅葺き屋根にトタンを張った、昔ながらの家がちらほら見える。

茅葺きの材料となるススキが高く積み上げられた倉庫で迎えてくれたのは、くさかんむり代表で職人の相良さん。

「ここはもともと酒蔵で、これから事務所にしようと計画してるんです。いつになるかなあ」

職人と聞いてイメージする厳格さと違った、柔らかな雰囲気の方。

そもそも茅葺き屋根とは、ススキや稲わらなどを使ってつくった屋根のこと。茅(かや)という植物はなく、屋根の材料となる植物を総称して「茅」と呼ぶのだそう。

昔は日本各地にたくさんあったものの、現代では目にすることもほとんどなくなっている茅葺き屋根。淡河町出身の相良さんは、どうして茅葺き職人になったのだろう。

「20歳のころ、どうやって生きていこうかと考えるなかで、阪神淡路大震災を経験して。食べるものくらい自分でつくれなあかんわ!ということで、お百姓さんになりたいと思ったんです。お百姓さんっていうのは、百個の顔、百個の技を持った人のことなんですけど、僕も百の技を身につけようと、すぐに田んぼと畑をはじめました」

自給的な暮らしを2〜3年続けると、食べものには困らなかったものの、金銭面では苦しくなっていったそう。

そんなときに出会った茅葺き職人の親方に誘われ、現金収入を得るために、冬の間だけのつもりで屋根葺きの手伝いをすることに。

「あるとき仕事しながら、親方に『お前は何になりたいんだ』って聞かれて。『百姓になりたいけど、まだ3つくらいしか技がないから三姓ですわ』って答えたんです。そしたら『茅葺きやったらどうや』って。百の技のうち、10くらいは茅葺きのなかにある。それは君のやりたいことの延長線上じゃないの?っていうことで」

食べものをいかに自給するかという視点で考えていた相良さんは、住む場所を整える技を身につける、という考えを知って衝撃を受けた。

「茅葺きは、草を刈って、それを屋根に葺いて、最後は古くなった茅を土に還して肥料にする。これ自分のやりたいことやんか!って思った瞬間、茅葺きの見え方ががらりと変わりました」

京都で5年間の修行を積んだあと、神戸市の職員の提案で、2008年に相良さんを中心とした任意団体を立ち上げることに。

「最初は淡河茅葺き保存会っていう名前だったんですけど、ダサくて嫌やったんですよ。くさかんむりっていうのは、『茅葺き』と僕の好きな芸術・芸能の『芸』っていう文字に草冠が入っているので、この屋号にしました。このままじゃ茅葺き業界が廃れていく危機感があって、芸術・芸能の持つ力を合わせたら、何か生まれるかなと思って」

民家や文化財の修繕のほかにも、茅葺きの先進地であるオランダの手法や考えを取り入れて、京都の森のなかで行われるアートイベントに出展したり、店舗の内装や什器をつくったり。屋根に留まらず、茅葺きを活かしてさまざまな建築に挑戦してきた。

事業規模拡大に伴って、令和元年に法人化。

相良さんの一人体制にはじまり、その後は弟子をとって、今ではアルバイトも含めると10人の組織になった。

「今は30姓くらいですかね。現場が忙しくて米もつくれてないし、百姓には全然足りてないんです。でも最近は、みんなで百姓できればいいかなと」

みんなで百姓。

「農家しながら茅葺きのバイトに来てる人がいて。その人に堆肥用の茅くずを提供したら、お米になって返ってくるんです。そうやっていろんな技能を持った仲間が集まれば、合わせて百姓になれるし、豊かに生きていける。これは、昔には想像できなかった新しい形だなと思っています」

一人で百姓として完結するのもすごいけど、みんなで合わせて百姓になるほうが、人の数だけ新たな可能性が広がって、なんだか楽しそう。

「僕は今、茅葺き業界のためにできそうなことがたくさんあるので、そっちをやっている感じですね。茅葺きに拾ってもらった男なので、恩返しせなあかんなって」

茅葺きの建物を活かしたまちづくりも、茅葺き業界や地域のためにできることのひとつ。

これから働く人は、実際にはどんなことをするのだろう。

 

続いて話を聞いたのは、淡河町でまちづくりの仕事をしながら、くさかんむりで採用を担当している鶴巻さん。

新しく入る人にとっては、まちづくりに関しても相談できる頼もしい存在だ。

「文化財には補助金がおりるので、ピカピカにきれいになるんですよ。それなのにほとんど使われていない建物が多いのが現状で、葺き替えるなら活用したいよねって。職人さんたちは毎日現場に出ているとなかなかできないので、そこをこれから来る人に取り組んでもらいたいです」

週4日はまちづくりの活動をしつつ、最初のうちは茅葺きのことを知るためにも、週に1〜2日は茅葺きの現場を手伝ってほしいそう。

茅葺きの現場は、淡河町だけでなく周辺エリアにも広がっているので、あちこち移動しながら働くことになる。

まちづくりの担当地域は、淡河町のお隣の山田町。昔ながらの棚田や里山の風景を残しながら、最寄りの谷上駅まで車で10分、三ノ宮の繁華街へも15分で行くことができるまちだ。

その一角に、『箱木千年家』という建物がある。

「現存する日本最古の民家として、重要文化財になっていて。以前は見学もできたのですが、ご当主もご高齢で今は休館中なんです。素晴らしい建物なので、そこを緩やかにでも人が集まる場所にできたらと。たとえば、まずは土曜日だけ小さなマルシェをやってみるとか。もちろん、ご当主の意見を汲みながらですが」

近くにはサイクリングコースや登山道があるものの、あまり認知されていないとのこと。そういったアクティビティの拠点になる余地もありそう。

ほかにも山田町には、農村歌舞伎の舞台や文化財の民家など、活用できる可能性のある建物がいくつもある。

たとえば修繕のタイミングに合わせて、茅葺きのワークショップを開く、とか。耕作放棄地を使って、材料となるススキを育てるところから地域の人と一緒にやるのも面白そう。

都市部からのアクセスもいいので、お試し店舗として整備したり、移住者向けのお試し住宅として活用したりもできるかもしれない。

この建物を使ってこれをしてくださいと、明確に決まっているわけではない。自由な発想で取り組んでほしいという。

「協力隊は3年間はお給料が保証されているので、お金になりにくいことにも挑戦できる。お茶会して『お話聞かせてください』とか、一緒に活動したい山田町の若手を発見してつないでいくとか。そういう役割をしてくれたらいいんじゃないかな」

どんな人があっていると思いますか。

「地域のことを尊重して、知ること・聞くことからはじめられる人がいいですね。本で読んだまちづくりの知識をもってきて、『こうしたらいいですよ』っていうのは、ちょっと違うかな。僕は淡河町に住んでいますが、山田町の人にはよくしてもらっていて、人も場所もとても魅力的なところです。まずは知る気持ちを大事にしてほしいですね」

 

最後に話を聞いたのは、4月に入社したばかりの福山さん。

神奈川県出身で、3月までは大学院で茅葺きの研究をしていた。

今は現場で茅葺きの技術を教わりながら、新しい茅葺きの可能性を探っている。

「大学院では、建築と地域との相互作用から地域課題の解決手法を探る研究室にいて。それを最もよく体現した形の一つが茅葺きだと思ったんです。茅葺きの建物をつくることで農村景観がよくなり、古い茅の循環で農業にも活かせる。コミュニティづくりにもつながります」

茅葺きはかつて、職人だけでなく、家主や近所の人たちが一緒になって取り組む仕事だった。

みんなで汗をかき、いろんな話もしながら、景観をつくっていく。地域のつながりや愛着を、自然な形で生むきっかけにもなっていたんだろう。

「私はこれからの日本に茅葺きをつくり続けたくて、そのためにいま必要なことがデザインだと思ったんです。建物のデザインもだし、茅をどこから調達するのかとか、地域の人とつなげるのも全部デザイン。その役割をこれから担っていきたくて」

まちづくりやデザイン、建築や環境の循環。新しく入る人がどんなバックグラウンドをもっているかによっても、できることの幅は広がっていきそうだ。

そうした経験がなくても大丈夫。手を動かすなかで学べることも多いし、福山さんや鶴巻さんも一緒に考えてくれる。

研究対象だった茅葺きの現場で、実際に働いてみてどうですか。

「思っていた以上に楽しいです。はじめは体力的にも不安だったんですけど、身体の楽な使い方や力を抜く大切さを教えてもらったり。本当に重くて運べないときなどは、周りの人に正直に頼るので、安心してできています」

女性の担い手が少ない茅葺き業界。不安や壁を感じることはどうしても出てくる。そんなときも、くさかんむりのみなさんは意見に耳を傾けて、向き合ってくれる人ばかりだという。

たしかに、取材中も終始和やかな雰囲気で、なんだか風通しがよさそう。

「あとはみなさん、めちゃくちゃ個性豊かですね。得意不得意もそれぞれ違うし、同じ職人であっても目指しているものも、茅葺きに対する考え方も違うのがすごく面白いです」

「基本的に社会不適合者のあつまりなんですよ(笑)」と、代表の相良さん。

「不適合者でいいんです。メインストリームに合わせなくても、その人がその人らしくあれるようなチームをつくればいい。僕も社長ですけど、多動で落ち着きがなくて、どこか欠落してるんですよ。苦手なところは、ほかのスタッフに補ってもらっています。協力隊も何か一つ突出している人だと面白いかな」

みんなで百姓という考え方。この時代にこそ、見直されるべき価値が茅葺きの世界にはありそうです。

もっと知りたいと思ったら、まずは相良さんたちに会いにいってみてください。

(2021/7/16取材 堀上駿)

※撮影時はマスクを外していただきました。



8月26日(木)の19:00からは、くさかんむり代表の相良さんをゲストにお招きして、オンラインしごとバーを開催します。詳細はこちら。ぜひ、あわせてご覧ください。

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