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「悪口や派閥は、一切ないです。みんなが本音を隠しているだけじゃないの?って思われるかもしれないけど、隠したっていいじゃないですか。本音が人を傷つけることもある。他人に敬意を払うっていうのは、本音を無闇にぶつけないことだと思うんです」そう話すのは、ラフジュ工房の代表、岩間さん。
初対面でも遠慮せず、自分の過去の失敗も含めて正直に話してくれる。
その言葉を、ドライだと感じる人もいるかもしれない。一方で、ややこしい人間関係抜きで、職人の世界で実力を磨きたいと思う人にとっては、いい環境だと思います。

修理やカスタムオーダーなどを通じて、お客さんのライフスタイルに合う家具を提案しています。ネットでの販売をベースにしているので、ユーザーは全国各地に幅広い。
今回は、ここで家具のリペアや製造に携わる職人を募集します。
経験は問いません。アンティーク家具の知識や興味も不問ですが、手取り足取り教えてほしいという人には、険しい道だと思う。ついていけずに離職した人も少なくありません。
県外などから移住して、離職してしまうリスクを減らすため、今回はトライアル入社の制度を用意しました。まずは雰囲気を感じてみてください。
水戸から電車で30分ほどのところにある常陸大宮の駅。年配のタクシー運転手さんに行き先を告げると、やや間があって「ああ、あの家具やってるとこ」と、わかってくれた。
のどかな風景のなかを10分ほど走り、工房に到着。
まずは執行役員の板谷さんの案内で、なかをぐるりと見せてもらう。

「大型の工具は共同の作業場にあって、2階にはレーザーカッターもあります。うち、家具工房としては機材がそろっているので、道具がないから無理ですっていう言い訳はできません」
「作業場は、職人一人ずつの小部屋に分かれています。以前は大部屋だったんですけどね。個室のほうが集中できるし、自分が掃除する区分もわかりやすいでしょう。過去には、この雰囲気が刑務所みたいで嫌だって辞めた人もいます」
え…、刑務所?どういうことだろう。
ストイックな姿勢に少し圧倒されつつ、後をついていく。

もともとラフジュ工房では、自社で仕上げた商品だけを出荷していたものの、2年ほど前から、修理前の状態でサイトに掲出し、お客さんの好みに合わせて色や形もカスタムできるようになった。
そのサービスが支持されて、現在は4ヶ月先まで予約が詰まっているという。

「もともと僕自身は、実はそんなにアンティーク家具が好きじゃなくて。だからこそ、お客さんの視点に立って考えられる部分もあると思っています」
職人として働く人たちは、どんなことを考えているんだろう。入社4年目の奥ノ谷さんに話を聞いた。

未経験で入社した職人がまず任されるのは、オリジナル商品の家具づくり。一通り説明を聞いた後は、素材の切り出しから一人でやる。やりながら、わからないところがあれば質問する、というスタイル。
いきなり急かされたり、ノルマを課されたりすることはない。腕に応じて、次の仕事を任されていく。
「今思えば、新品を1からつくるほうが簡単なんですよ。アンティークの修理はマニュアルがつくれないので、経験が必要です」

きれいに消してしまうか、味として残すか、正解は物によって違う。つくられた年代によって、工法や材質もそれぞれ違うので、パターン化して考えるのは難しい。
「僕も、まだまだ勉強中です。ネットで調べたり、先輩後輩問わず、腕のいい人から情報を仕入れたり。ただ、勤務中は私語禁止なので、休憩時間とか、就業時間後に飲みに誘うとか、それも工夫がいるんですけど」
私語禁止…。技術の共有は仕事の話じゃないんですか?
「担当している家具と直接関係ない技術の話は、しないですね。雑談もないから、隣の人が何をしているかあんまり知らないんですよ。仲が悪いわけじゃないけど、スタッフ同士の距離は遠いほうだと思う。変な会社でしょ?(笑)」
隣の人と気軽に話せる環境だと、何気なく「これどうだっけ?」「こうじゃない?」とやりとりを交わしている間に、大きな判断ミスが生じてしまうこともある。
業務で質問があるときは、館内放送で担当の責任者を呼び出す。呼ばれたほうは、すぐに答えにいくというところまでがセットで、暗黙のルールになっている。

「うち、基本はきついと思いますよ。直すだけじゃなくて、重い家具を運ぶのも職人の仕事だし。仕事は次々にやってくる。技術が上がれば、難易度の高い仕事を任されるし、続けていくうちに、楽になることはないと思う」
ご自身でも「きつい」と認めながらこの仕事を続けてこられた理由というか、モチベーションはなんですか。
「ええ〜?モチベーションですか。難しいな。モチベーション…」
「もちろん、家族を食わしていかなきゃいけないっていうのもあるけど、この会社、飽きないんですよ。社長の『次は、これやってみたいんだ』っていう一声で、全員が動きだすスピードが異様にはやくて。そこはちょっと、おもしろいですね」
今までやったことのない仕事を任されることは日常茶飯事。ときには、意図がわからないまま動き出すこともあるという。

「僕らは会社のコマなので、使えないって思われるほど、悔しいことはないんですよ。何かやってみようっていうときに、嫌な顔はしたくない。もちろん『あ〜あ』ってため息ついてもいい。だけど、最後には『あ〜あ、やっか!』ってなる人と一緒に働きたいですね」
夏場は特に、力仕事で夕方にはヘトヘト。
「ああ、今日もやりきったな」という達成感で家に帰り、子どもと食卓を囲む。そんな毎日が、奥ノ谷さんには合っているという。
「勤務時間中は、余計なことを考える余裕もない。ずっと己との戦いですよ。私語がないから、悪口もない。人の顔色伺う前に、ちゃんと自分の顔を鏡で見ようって思いますね。今、どんな顔して働いてんのか、眉間にシワ寄せてないかなって」
ほどよい緊張感があるからこそ、お互いに自立して気持ちよく働ける面もあるのかもしれない。
代表の岩間さんが、今の雰囲気をつくりあげるまでには、紆余曲折あった。

「ただ、好きっていう憧れだけでは続けていけない仕事ですよ」
「アンティークっていうエモーショナルなものを扱いながら、俺はすごくロジカルで、会社も成果主義。そういうギャップが原因で会社を離れた人もいます。だから、ちゃんと会社のリアルな、ネガティブな部分を事前にしっかり伝えておきたくて」
ネガティブに感じるかどうかは人それぞれだと思いますが、これまでの話を通じて、この会社独自の文化というか、雰囲気はあるなと感じます。
ちょっとトップダウンに近い体制もあるのでしょうか。
「頭ごなしに指示するわけじゃなくて、反対意見があれば聞きます。ただ、俺もロジカルに詰めるので」
詰める…って、どんなふうに?
「たとえば、なかなか上達しない新人がいて、同僚が『毎日同じ作業ばかりでかわいそう。違う仕事も経験させてあげたら』って俺に言う。それ、お客さんの立場で考えたらありえないですよね。やりたい仕事ができるように、自分で腕を上げるしかない」
なるほど。
ただ、この工房のように個室で仕事をしていると、ほかの人の技を見る機会も少ないし、気軽に相談もしにくいというのが、ネックになっているのでは。

突き放しているように聞こえるかもしれないけど、これまで岩間さん自身、うまくいかないスタッフに寄り添おうと、さまざまな試行錯誤を続けてきた。
本人と面談したり、コンサルを入れたり、人材教育の本を読んで勉強したり。だけど、離職者はあとを絶たなかった。

やることはやった、でも、うまくいかなかった。
自信を持ってそう言えるようになったことで、岩間さんの視線の向かう方向も変わってきた。以前より少人数のチームで、新しい体制をつくろうとしている。

「だけど、今までそんな交流もないから、どうやって声かけていいかわからなくて、板谷くんに相談したんですよ。そしたら『いや普通に、カニ食いに行こうって言えばいいじゃないですか』って言われて『ああ、そうか』っつってね」
自分のことをロジカルでドライだという岩間さん。だけど、このたわいもない余談からは、別の人となりが伝わってくるような気もします。
ここは厳しい職場ではあると思う。だけどそれは、一緒に働く人を思えばこそ、たどり着いたひとつの答えなのだと思いました。
(2021/7/15 取材 高橋佑香子)
※撮影時はマスクを外していただきました。