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アートでつながる
まち、人、宿

マニアと言えるほど詳しくはないけど、アートに囲まれた空間にいると心が躍ります。

群馬県前橋市にある、白井屋ホテル。

建築家の藤本壮介が手がけた建物に、レアンドロ・エルリッヒをはじめとする世界的なアーティストの作品が館内の至るところに飾られた、建築やアートの世界に浸れるホテルです。

その特徴は、非日常の空間でありながら、「まちのリビング」として地元の人に開かれていること。アートや食をきっかけに、前橋のまちと、他県からやってきたお客さんがつながる場でもあります。

今回募集するのは、宿泊部門のスタッフ。メインであるフロント業務に加えて、館内のアート作品を紹介するアートツアー、前橋のおすすめスポットの案内など、お客さんが滞在を楽しめるような企画を立てることもあります。

あわせて、マーケティング担当、ベーカリーで働くスタッフ、レストランシェフも募集します。

アートや建築が好き。それ以外にも、自分の「好き」を活かして、まちの魅力を届ける仕事がしたい。そう思う人はぜひ続きを読んでみてください。


東京駅から新幹線で約50分。高崎駅で乗り換えて前橋駅へ向かう。駅前の通りには、大きなケヤキが立ち並んでいる。

ビジネスホテル、銀行、たまに飲食店。通りの先には県庁や日本銀行の前橋支店があるようで、サラリーマンも多い。

15分ほど歩くと、目的地である白井屋ホテルが見えた。

300年続く宿を改装したという壁面には、ポップなアートが。

エントランスへ入ると、その場にいたスタッフが次々に「こんにちは」と声をかけてくれる。1泊数万円という高価格のホテルということもあって緊張していたけれど、若いスタッフの人もたくさんいて、少し気持ちがほぐれた。

客室へ案内してもらい、まず話を聞かせてもらったのは、代表の矢村さん。

「ご縁あってこの仕事をはじめましたが、ホテル業は未経験で。現場のスタッフに支えられてなんとかやってます。僕は雑用というか、何でも屋さんのような立場です(笑)」

白井屋ホテルの前身は、江戸時代から続く旧宮内庁御用達の老舗旅館「白井屋旅館」。中心市街地の衰退もあって、2008年に廃業となり、取り壊される予定だった。

前橋の文化的象徴とも言える白井屋を、なんとか残したい。地元の人々の思いを受けて立ち上がったのが、メガネブランド「JINS」を運営する株式会社ジンズ創業者の田中仁さん。2014年に元オーナーから白井屋を引き継ぎ、ホテルとして再生するプロジェクトをスタートさせた。

そこで白羽の矢が立ったのが、過去ジンズに勤めていてたこともある矢村さん。2020年12月に白井屋ホテルを開業し、ホテルの運営、事業開発のほか、マーケティングなどを担当している。

25室ある客室にはそれぞれ違ったアート作品が飾られ、同じ部屋はふたつとない。4階建ての建物の中心部は吹き抜けになっていて、開放的な雰囲気で気持ちいい。

ホテルにはパティスリーや、地方初出店となるブルーボトルコーヒーがあり、朝早くから地元の人でにぎわう。11月にはベーカリーもオープンするとのこと。また、近くの商店街では若い人がコワーキングスペースやカフェを立ち上げるなど、衰退しつつあった市街地ににぎわいが戻ってきているという。

「僕も前橋に移住しました。仕事終わりに近くの山へキャンプしに行ったり、ワカサギを釣って食べたり、温泉入ったりもしていて。都会と田舎のバランスがちょうどいいところが気に入っているんです」

「『まちのリビング』と僕らは呼んでいますが、外に開かれたホテルを目指していて。ホテルとして訪れたくなる魅力をもちつつ、地元の人に愛される空間でありたい。両方のニーズを満たしたときに、まちをにぎやかにすることができると思うんです」


白井屋ホテルは前橋のまちへお客さんをいざなう、玄関口とも言えそう。ホテルを訪れるうちに、まちへ興味をもつ人もいるかもしれない。

宿泊部長の石切山さんは、何度も訪れたくなるホテルづくりをすすめている方。

ホテル・旅館業ひとすじ20年。ハイアットリージェンシー箱根リゾート&スパでフロント部門のアシスタントマネージャーを務めたのち、伊豆「月のうさぎ」の総支配人を務め、半年前に白井屋ホテルにやってきた。

「宿へはじめて来られるお客さまは、見た目や設備などのハード面で選ぶことが多いんです。一方で、リピートしていただけるかどうかはソフト面、つまりスタッフがどれだけお客さまと親しい関係をつくれるかが鍵で」

箱根のホテルではお客さんごとに担当スタッフをつけて、情報交換したり、まち案内をしたりと気軽に話せるような関係をつくっていた。伊豆の旅館へ移ったときには、石切山さんを追いかけて訪れる人もいたそうだ。

「お付き合いが認められたようで嬉しいですよね。自分自身も仕事しやすいですし、みんな楽しく、モチベーションを高くもって働けると思うので、白井屋ホテルでもお客さまとそんな関係を築きたいと思っています」

一方で、これまでの経験だけでは難しいと感じていることもあるという。

「建築やアートがお好きな、年齢層もさまざまな方にお越しいただきます。これまでのお客さまとは求めるものが違って、戸惑いを感じることもありました」

建築を生業にする人が訪れることもあれば、アルバイト代を一生懸命貯めた学生さんがやっとの思いで泊まりにくることもある。

お客さんのほうがアートや建築に詳しいこともよくあり、日々勉強なのだそう。

「お客さまに興味を持っていただけるような知識があれば、会話が生まれて、また遊びに来ていただけると思うんです。建築やアートに興味のある方にも、前橋のまちを発信していきたいと思う方にも加わっていただけると心強いですね」

今回募集する宿泊部門のスタッフも、積極的にお客さんと話してほしい。過去には、ホテルの仕事は好きだけど、建築やアート、まちの魅力発信に興味がもてず、辞めてしまった人もいたそう。

自分の興味とお客さんが求めるもの。ふたつが重なっていると、お互いにとって楽しい時間をつくれると思う。

ここで再び矢村さん。

「作品についてすでに詳しい必要はなくて、『好き』という気持ちが大事と思っています。なぜなら僕らのように四六時中、作品とともに過ごす人はいないわけです。まちもそうですね」

「たとえば、『朝陽に照らされたこの作品が好き』というスタッフがいたとして。お客さまが翌日、早起きして作品を見ようと行動を起こしたら、それが唯一無二の体験になると思うんです。アートや建築、前橋が好きな人は、そういう瞬間をたくさん感じられると思っています」


白井屋ホテルへ訪れるお客さんが求めるものは、ホスピタリティ以上に、ここでしか得られない刺激や体験。それはスタッフ一人ひとりの実感のこもった言葉から生まれるんだと思う。

フロントスタッフの大前さんは、まさにそんな体験を届けてきた人。今回募集する人にとっては、直接仕事を教わるいちばん近い先輩になる。

群馬出身の大前さん。高校卒業後も県内で働いているけれど、地元が好きというわけではなかった。

「実は、小さいころから田舎に生まれたことがコンプレックスだったんです。手に届く範囲が世のすべてと錯覚してしまう環境が嫌いで。選択肢の豊かな都会に憧れがありました」

「ただ、家族のこともあって群馬で就職して。死ぬまでここで生きるなら、自分自身で豊かにするしかない、と覚悟を決めましたね」

まずはローカルの良さをいろいろな角度から知ろうと、地方のゲストハウスで地元の人におすすめスポットをたずねて回った。そのうち、まちの見方が変わっていったそう。

「地域の人と話すなかで見えてくるまちの姿や、得られる楽しみがあるなと感じて。前橋も、ローカルな情報があればもっと楽しんでいただける場所なんじゃないかと思ってます」

「うちに来られるのはハード面に興味のある方が多いので、どうしたらまちのことまで興味を持っていただけるか、考えて仕事するのが楽しいです」

お客さんとの会話のきっかけのひとつが、館内をめぐるアートツアー。

「館内の作品や空き部屋を紹介して回っていると、会話が弾んで『明日どこへ行こう?』という話になることも多くて。おすすめのスポットや新しくオープンしたお店をご紹介しています」

もともと特別なお客さん向けにこっそり開催していたツアー。大前さんたちフロントチームの提案もあり、今年4月から希望するすべてのお客さんへ提供するようになったのだとか。

「説明があるかどうかで、同じ滞在時間でも感じ方がまったく異なると思っていて。白井屋ホテルに宿泊するのって正直、値が張ります。そのぶん、滞在の密度を濃くできたら」

お客さんからの反応もよく、滞在後もメールや手紙のやりとりをするほどの関係性になることもあるのだとか。

「オープンしたてということもあり、うちにはマニュアルがありません。そのぶん、接客するうえで悩む場面があれば『お客さまが喜ぶほうを選ぼう』と言っています。スタッフ一人ひとりの裁量は大きいですね」

基準が「お客さんに喜んでもらうこと」だから、上下関係なく意見を言い合える環境になっている。いいアイデアがあればすぐに取り入れていけるのも、小さな組織ならでは。

「白井屋ホテルの最終的な目標は、前橋のまちがにぎわうこと。滞在してくださるお客さまをまちにお繋ぎする役目も担っているので、自分の言葉でまちの魅力を語れる人がいいですよね」

「まちの良さは、みずからの足や舌で楽しんでこそ伝えられるもの。それ自体に興味関心がない人の言葉は、お客さんにとって嘘になってしまうと思うんです」

逆にいえば、ホテルに勤めた経験がない人でも、アートや建築に限らず、前橋の食や自然など、何かひとつに興味をもてばチャレンジできると思う。

先月からは、農業体験つきの宿泊プランがはじまった。お客さんは榛名山(はるなさん)のふもとにある契約農園で野菜を収穫し、ホテルで食べることができる。土づくりから学ぶ機会もあり、五感をフルに使って前橋を体感できる。

基本のフロント業務がしっかり身につけば、アイデアをどんどん発信していける環境だと思う。自分のものの見方がコンテンツになるのは緊張感のあることだけど、お客さんとの交流のなかで磨かれ、世界も広がっていく。


取材のあと、チェックインをしたら「お部屋をご案内しますよ」と大前さん。一通り説明を受けた後、「お気に入りのスポットがあるんです」とベランダへ。

「ここ、ホテル全体が見渡せて気持ちがいいんです。日付が変わる前の30分、お疲れでなければベランダへ出てみてください。ライティング・パイプスが赤から青にゆっくり変わって、幻想的ですよ」

23時半、一息ついてベランダのソファーに座る。

虫の声を聴きながら、じんわり色を変えていくパイプをぼうっと眺める。ただそれだけなんだけど、心穏やかな夜でした。

肩肘張らずに過ごせるアートホテル。等身大で接する人がいてくれるから、ホテルのことも、このまちのことも知りたくなるんだと思いました。

(2021/9/7取材 阿部夏海)
※撮影時はマスクを外していただきました。

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