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熱々のご飯に、柔らかい梅干し。ほっほっと手の中で転がして、おにぎりに。がぶりと頬張れば顔じゅうシワだらけ。舌で果肉をそぎ取り、種を吐き出し、お茶を一杯。ああ、想像しただけで、お腹がすいてきた。
日本の食卓に欠かせない、梅干し。その名産地といえば和歌山県ですが、なかでも南部に位置する、みなべ・田辺地域は全国シェアの半数以上を占めています。

一方で、高齢化や後継者不足により、耕作放棄地が増えているという実情も。
この問題に向き合おうと取り組みをはじめたのが、田辺市の上秋津地区。農家や加工業者を中心に、農業法人「株式会社秋津野ゆい」を発足し、少ないマンパワーで持続可能なスマート農業のあり方を模索しています。
自社の農地を実験場に、新しい機械やシステムを率先して試してみて、その成果を地域の人たちに共有、還元していく。そんな未来の梅栽培に携わる人を募集します。
まずは地域おこし協力隊として、秋津野ゆいに派遣。耕作放棄地を活用した農作業に取り組みます。任期終了後は会社のスタッフとして残ることもできるし、自分で耕作放棄地を借り受けて独立することもできます。農業については、まわりにベテランがたくさんいるので、未経験でも大丈夫。
農業を中心としたまちの未来を、一緒に考えていくような仕事です。
早朝に東京を発ち、眠たい頭で新大阪のホームに立っていると、パンダの顔をした先頭車両が目の前を通過。予期せぬ出来事に、カメラ間に合わず。残念。
ともあれ、この白浜行きの特急「パンダくろしお」に乗り込み、田辺市を目指す。
電車が和歌山に入ると、山側にみかんの段々畑が見えてきた。さらに行くと景色が梅畑に変わる。梅干しの加工場も見える。

駅のそばのコワーキングスペースで、まず話を聞かせてもらったのは、移住者や協力隊の受け入れを担当している市職員の平谷さん。

田辺市が地域おこし協力隊の受け入れをはじめたのは、今から5年前。当初から、民間団体に隊員を派遣するスタイルで、公益的な事業に取り組んできた。
これまで協力隊を受け入れてきた団体は、農業や観光、過疎対策や中心市街地活性化など、さまざまな分野にわたる。
それだけ、まちのなかで地域課題に取り組むビジネスが多様化しているということですね。
「田辺は昔から市民活動がさかんで、50年くらい前にはすでに市民が発起人となり、リゾート開発から岬の景観を守るための募金活動が行われていて。それが日本のナショナルトラスト運動の先駆けとも言われています」
自分たちのまちを、自分たちの手でよくしていく。そんな志が受け継がれてきた田辺市。

そのなかで、農業のスマート化や遊休農地の再生に取り組んでいるのが、秋津野ゆい。詳しい話を聞かせてもらうため、駅前から車で移動する。
川沿いを10分ほど走ると、大きな庭に囲まれた木造の建物に到着。入り口には「秋津野ガルテン」とある。

「僕も、この小学校の卒業生なんですよ」
そう話すのは、秋津野ゆいの役員である柳瀬さん。

最近は、郊外の宅地化が進み、上秋津地区にも若い世帯が増えてきた。一方で、地域の主要産業である農業は高齢化で担い手が足りず、梅の生産量も減少傾向にあるという。
農家のほとんどは家族経営で、担い手を増やすのはなかなか難しい。
「僕も梅の収穫を手伝わせてもらったんですが、とにかく手間がかかるんです。一つひとつの作業をもっと楽にすれば、耕作できる面積も増える。農業をスマート化するために、草刈りなどの工程で機械を導入していけないかなと思っています」

その結果を農家さんに共有し、機械の貸し出しなどのサービスにもつなげていきたい。
秋津野ゆいの農園は、まだ苗木が若いため、今は必要なときにのみ役員が集まって作業をしている。来年からは、新たに農業経験のある常勤スタッフが着任し、協力隊と一緒に梅栽培に携わっていく。
「協力隊の方には、決まった農作業をするだけじゃなくて、ぜひいろいろ試してみてもらいたい。失敗してもいいから、いろいろなアイデアを出して実践できる柔軟な方が来てくれるとうれしいですね」
「農作業のほうは、役員にも農家の人がいますから、未経験でも大丈夫ですよ」
と、優しく言葉を添えるのは、同じく役員の柏木さん。普段は秋津野ガルテンの運営に携わっているので、ここの事務所にいることが多いそう。きっと頼れる相談相手になると思う。

着任後はまず、梅づくりのノウハウを身につけるところから。先輩農家さんから聞く話は、自分自身の勉強にもなるし、それをストーリーとして発信することで、梅づくりに携わる仲間と出会うきっかけになるかもしれない。
未経験だからこそ感じる素朴な疑問から、効率化のヒントが生まれることもあるはず。頭で考えすぎるよりもまずは、足を運んで体を動かしてみるといいと思う。
梅栽培の現場を見せてもらうため訪れたのは、代々農家を営む野久保さんの農園。

「ミツバチの羽音がブーンって耳をつんざくくらいの音量で聞こえるなか、作業していくんです。蜂が活動している時間は巣箱に近づけないので、早朝や夕方、雨の日などに巣箱の周りの草を刈る。除草のための薬剤も使えません」
この畑、結構な斜面ですね。体幹が鍛えられそう。

「みかんの場合は、あらかじめ決めた実を収穫できるんですが、梅は毎日、ぽと、ぽと、って落ちていくのを、ひたすらタモですくう。置いとくと虫がつくから、時間に追われるんです」
収穫後は虫除けと冷却のため、梅を水に漬ける。その後、青梅のまま出荷する農家もいるけれど、野久保さんの家では、梅の塩漬けまでして出荷するので、収穫後の細かな作業は秋まで続く。

と、野久保さんが取り出したのは、グラウンド整備に使うトンボのような形の道具。
「近所の農家さんがつくってくれたんですよ。箒の柄に塩ビパイプとエアコンの羽を取り付けたもので、これを転がしていくと一度に梅がひっくり返せるので、かなり楽になりましたね。僕が小学生のころは、本当に朝4時とか5時から家族総出でやってましたから」

江戸時代から工夫や改良を続けてきた梅づくり。実はまだ、スマート化していく余地があるのかもしれない。
ところで梅栽培って、未経験でもはじめられるものなのでしょうか。
「厳しいとは思うけど、アリだと思います。僕は小さいころからこの環境で育ったので、どの季節に何をするっていう感覚がぼんやりとわかっていた。外から来た人がそれを一から身につけていくのは大変かもしれない」
梅栽培は天候や気候に左右されやすい。同じやり方で、結果が大きく変わることもある。
「正しい情報を得るためにも、閉じこもらず周りの農家とたくさん話したほうがいい。ほんまはライバル同士なんですけど、技術も教えてくれる。みんな自分だけ成功するより、『教えた俺が偉いんや』みたいなスタンスの人が多いから。後輩を放っておかないと思います(笑)」

「全然ゆっくりじゃなかったです(笑)。でも、地域の人たちに引っ張られて、だんだん自分の考えも前向きになってきたような気がしますね。これから入る人も、まずはいろんな農家さんを回って、いっぱい話を聞いて覚えていけばいいと思います」
梅の栽培という共通の目標があることで、地域につながりも生まれる。
その間を、ミツバチのように媒介しながら、声を拾い、課題を見つけ、農業を少しずつスマートにアップデートしていくことが、新しく入る人の役割になるのだと思います。
(2021/9/8 取材 高橋佑香子)
※撮影時はマスクを外していただきました。