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たかが1年、されど1年
すこし歩みを止めて
地域の暮らしを体験する

このところ、自分の暮らしを見つめ直す時間が多くなりました。

今の仕事も楽しいけれど、じつはほかにやりたいことがある。都会で暮らすのもいいけど、地域での暮らしにも興味がある。

そんなふうに考えている人がいたら、1年間地域に飛び込んで暮らすなかで、見えてくるものがあるかもしれません。

今回紹介する緑のふるさと協力隊は、そのきっかけになるような活動です。1年間、地域に派遣されて、生活費や住宅などのサポートを受けながら、さまざまなボランティア活動を行います。

雇用関係が発生する地域おこし協力隊とは異なる、ゆるやかな関係性。

こんなことがしたい、と決まっていなくても大丈夫。まずは飛び込んで、そこでの日々を体感することが重要なのだと思います。



向かったのは、東京・八重洲。東京駅八重洲口から歩いて5分ほどの場所に、緑のふるさと協力隊を運営する特定非営利活動法人地球緑化センターの事務所がある。

地域にどっぷり浸かる仕事の取材で、都会のど真ん中へ向かうのもちょっと不思議な感じ。

ビルの3階にあるオフィスで、事務局の山岸さんが迎えてくれた。

地球緑化センターは、1993年に設立された組織。中国での植林活動や日本での森林ボランティアなど、環境問題に対してできることをしよう、という思いからスタートしたそう。

緑のふるさと協力隊も、その活動のひとつ。地域と若者がつながることで、都会の生活だけではない多様な生き方や暮らし方に触れる機会をつくりたい、という思いから始まった。

活動が始まってから、今年で29年目。

北は岩手から南は沖縄まで。派遣される地域は本人の希望と適性にあわせて事務局が決めており、今年は12の自治体で15名の隊員が活動している。

「去年と今年はとくに、派遣する私たちもいろんな迷いを抱えながら試行錯誤してきました。移動が制限されるなかでも、隊員が来ることを待っている地域もありましたし、隊員たちも現地に行かないことには何も始まらない。対策をしながら、去年も今年も、地域のみなさんのご理解もあってなんとか無事に活動を続けています」

進路に悩む大学生や、今の働き方に疑問を持った社会人など。主に20〜30代の人たちが参加している。

隊員には月5万円の生活費が支給され、住宅や車、光熱費などは自治体が負担してくれる仕組みになっている。

自治体にとっても、地域に若い人が増えることで活気が出るし、任期後そのまま移住する人もいる。隊員も地域も、お互いに成長し合うような取り組みだ。

「協力隊として活動するなかで、いろんな出会いや経験から、自分自身の可能性とか価値観を広げてもらいたいなと思っています」



実際にどんな活動をしているのか。まず話を聞いたのは、昨年4月から今年の3月まで沖縄県の東村(ひがしそん)で活動していた、協力隊OBの伊藤孝幸さん。

「基本的に、自分でなにかやりたいっていう考えがなかった人間なんです。高校を卒業してからも、安定しているからという理由で地元の会社に就職して、12年勤めました。ちょうど30歳になる年に部署異動があって、それまでと違う仕事を担当することになったんです」

異動先での仕事は、それまでと勝手が違い、うまくいかないことも多かった。この先もおなじ仕事を続けていくことに疑問を感じた伊藤さんは、退職することを決めたという。

「ちょうどそのときに、日本仕事百貨で募集の記事を見て… 刺さったんですよね(笑)。地元に残ったまま、別の仕事を探すということもできたんですが、住む場所も、人間関係も、ガラッと変えてみることで、自分自身もなにか変われるんじゃないかって。そういう期待から参加することにしました」

派遣先に決まったのは、沖縄の東村。初めての土地で、1年間伊藤さんの新たな生活が始まった。

「知り合いもまったくいないので、役場の人と一緒に地域をまわって、自己紹介するところからスタートでした。この曜日はこの農家さんのお手伝い、という感じで、最初は役場の方に予定を組んでもらって、徐々に自分の興味があるところに連絡をとって手伝わせてもらう、という感じでしたね」

東村は、パイナップルの生産量が日本一。伊藤さんもパイン農家の手伝いを軸に、ゴーヤーやかぼちゃ、海ぶどう、コーヒー園など、さまざまな作業を経験した。

「パインの生産とか、知らないことばっかりなんですよ。収穫は5月から8月で、品種によって時期がずれているんです。パインの木って、アナナスとも言うんですけど、知ってました? 腰の高さくらいの木で、一番上にポコンと実ができるんです」

「植えて2年で実が収穫できて、品種ごとに50〜80%の確率で、次の年も収穫できる。初めて知ることばかりで、面白かったですね」

地域の人にとっては当たり前のことも、外から来た人には初めての経験。炎天下のなかで芋を掘り続けるなど、ときには体力的にきつい作業もしながら、沖縄ならではの体験を重ねていった。

そのなかでも、伊藤さんはある農家さんの話が印象に残っているという。

「お世話になったパイン農家のおばちゃんがいて、あるときご飯食べにおいでって誘ってもらったんです。行ってみるとすごく立派なお家で、話していたら『この家は私がつくったんだ』って」

え? そのおばちゃんがつくった、ということですか?

「そうなんです(笑)。え?って思うじゃないですか。聞くと、大工仕事が好きで、趣味でやるうちに技術が身についたと。それで家を建てるとなったときに、じゃあ自分で建てようと。大工の人に協力してもらって、基礎から内装まで全部やったって」

「それを聞いたとき、純粋にすごいなと思ったんですよね。『伊藤くんも、自分はなにがしたいのかって考えることもあると思うけど、好きなことをやったほうがいいよ』って言ってくれて。今、世の中にそういう言葉が溢れてるけど、好きから自分の住む家をつくっちゃった人の言葉って、重さがぜんぜんちがうなって」

自分がやりたいことがなにかわからないまま、それを探すために参加した協力隊。伊藤さんにとって、あらためて自分が好きなこと、やりたいことを考えるきっかけになった。

「前から、なんとなく農業をしたいと考えていたんです。でも、作業とか、農家同士の人間関係とか、卸先を探すとか。やってみてそれがすごく大変だということがわかって」

「やりたいことにばかり目を向けていたけど、逆にやりたくないことを選ばないようにしていったら、やりたいことに近づくんじゃないかなって。協力隊の経験を通して、そんなふうに考えるようになりました」

伊藤さんは活動を終えた後、地元に戻る選択をした。やりたいと思っていた農業は一旦心のなかに置き、自分の手の届く範囲でできることを模索しているところなのだそう。

「自分を変えたいって思う人に参加してもらえたらいいのかなと思います。今いる環境の延長線上で新しいことをするんじゃなく、環境をガラッと変えて、地域に身を投じる。予想外なことばかりな日々を過ごすなかで、その人自身も変わっていくんだと思います」



続けて話を聞いた柳田さくらさんは、今年の4月から活動している現役の隊員。派遣先である岩手県一関市の室根町(むろねちょう)からオンラインでつないでくれた。

「私も自分が今いる状況を変えてみたいっていう思いから参加しました。もともと福岡で看護師をしていたんですが、職場で患者さんの不幸が偶然重なった時期があって。そのときに、死とか人生についてすごく考えるようになったんですよね」

死を身近に感じたことで、今こうして生きていることに目を向けるようになった。

「明日も普通に生きてる保証ってない。それなら、本当にやりたいことをやるしかないんじゃないかって。大学時代にアグリスクールという農業体験サークルに参加していて、そこでの活動に熱中していたんです。それで、農業とか地域での活動を仕事としてやってみたいと思って、いろいろ探しました」

「そのときに緑のふるさと協力隊の募集を見つけて。1年間とはいえ、ぜんぜんちがう環境に飛び込むことに最初は迷ったんですが、友だちが『どんな経験ができるか、行ってみないとわからないんだから、まずは行ってみて、そこで覚悟を決めればいいんじゃない?』って言ってくれて」

それは… すごくいい友だちですね。

「そうなんです。そうかもしれないな、行ってから考えようって。思い切って応募することにしました」

派遣先に決まったのは、岩手県の南部、気仙沼に隣接する一関市室根町。それまで暮らしていた福岡とはまったく違う環境で暮らしている。

「昨日も稲刈りがあって、全身筋肉痛なんですよ。毎日いろんな農家さんとか、地域の団体のお手伝いをさせてもらってます」

農作業以外にも、搾乳を手伝ったり、道の駅で販売するお弁当づくりをしたり、まちの特産物をつかった商品開発のチームに入ったりなど、日々いろんなところに顔を出している。

「派遣前は、楽しいことしかないでしょ! くらいの気持ちでいたんです。でもやっぱり、農作業がしんどかったり、悩んだりすることもあって。その浮き沈みも含めて、経験なのかなと思っているところです」

「最近も人間関係で悩んでいたことがあったんですけど、信頼している農家のおじさんにそのことを話したら、すごくいい言葉をかけてくれて。この人なんですけど」

画面越しにうれしそうに見せてくれた写真には、麦わら帽子をかぶった農家さん。ワイルドな雰囲気の方ですね。

「すごくかわいらしい人なんですよ(笑)。この麦わら帽子のなかには、保冷剤をぶっこんでいるんです。人間関係で悩んでるって話したら、『どこにいてもあれこれ言ってくる人っているから。そんなことよりも、ここでさくらさんが初めて知ったこととか、驚いたこととか、勉強したこと。そういった大切なことを思い出しなさい』って言ってくれて」

「それ聞いた瞬間、すーっと落ち着いて、次の日には超元気でした(笑)。私はちょっとした言葉も気にしちゃうことが多いんですけど、そうやって切り替えたらいいのかって」

農家さんにとっては、何気ない一言だったのかもしれない。でもその一言が、人生や価値観を変えるきっかけになることもある。

地域で過ごす一年間には、そんな瞬間がたくさん転がっているのかもしれない。

最後に、柳田さんにもどんな人が参加してほしいか聞いてみた。

「ぼんやりとでも、今の自分を変えたいって思う人だったらいいんじゃないかな。新しい環境のなかで、なにかヒントが見つかるかもしれないし、人生の師匠と出会うかもしれない」

「やってみて、田舎暮らしが合わないとか、想像と違ったとか。それはそれでいいと思うんです。地域の面白いところも面倒なところも、まるっと経験する。事務局の人や自治体の方もサポートしてくれるので、少しでも引っかかったら、勇気を持って飛び込んでほしいなって思います」



たかが1年、されど1年。

この経験が、あなたの人生にとってひとつの転機になるかもしれません。

(2021/9/24 取材 稲本琢仙)
※撮影時はマスクを外していただきました。

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