求人 NEW

ともにつくり、ともに学ぶ
やってみたいを
形にする学び舎

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

塾の先生や、教育実習のお兄さん。学生時代、学校以外の世界を教えてくれる大人に憧れた記憶があります。

親や先生には言えなかったことも、何気なく話せる。そんな大人の存在は、思春期の子どもたちにとって貴重なのかもしれません。

愛媛県西予(せいよ)市。山と海に囲まれたこのまちには、3つの県立高校があります。

今回募集するのは、この3つの高校にそれぞれ設置される公営塾のスタッフ。地域おこし協力隊として赴任します。

地域の人と学校をつなぎ、生徒が地域に愛着を持てるようなプログラムをつくったり、進学のための指導をしたり。地域に根差しながら教育にかかわる人を求めています。

教育の経験は問いません。このまちで、仲間とともに。なにより、生徒とともに。まちの未来への種まきをするような仕事です。


羽田空港から飛行機に乗り、松山空港へ。目指す西予市は、空港から車で1時間ほどの場所にある。

向かったのは、野村高校。校長の松永先生が迎えてくれた。

西予市には、野村高校、宇和高校、三瓶(みかめ)分校という3つの高校があり、現在は野村と三瓶に公営塾が設置されている。

「ここ野村に設置されている公営塾は、あやぐも塾といいます。地域と協働した探究型の授業を行ったり、進学のための志望理由書の添削や面接対策をしたり、というのが主な取り組みです」

公営塾設置のきっかけとなったのは、野村を含めた3つの県立高校で入学者の定員割れが続いたこと。

まちの学校がなくなれば、子どもたちが地域外に出て行くだけでなく、その家族も含めた暮らしの選択肢から外れやすくなる。財政的にも、将来世代の育成という面でも、高校の存在がまちの未来に与える影響は大きい。

そこで西予市では、全国各地の高校魅力化プロジェクトに伴走している株式会社Prima Pinguinoのサポートを受けながら、地域の特色を活かした魅力ある高校づくりに取り組んでいる。

野村高校のあやぐも塾は、今年の7月から始動。学校とは異なる学びの場ができたことに、松永先生も期待しているそう。

「今は学校で、地域の人と一緒にまちの課題解決に取り組む地域学という授業をしています。今後は塾のほうでも、独自の探究授業をどんどんつくっていってほしいと思っていて」

地域学では、近くの川沿いのエリアに菜園をつくるという活動をしているそう。野村では3年前の豪雨災害からの復興を目指し、とくに被害が大きかった川沿いを中心に住民によるまちづくり活動が進められていて、そこに生徒が加わるかたちで授業が行われている。

「そのためにも、塾スタッフには地域のことをよく知っていただきたいですね。地元に溶け込んでいくなかで、生徒と地域がつながるきっかけもつくっていけると思うので」

先生から見て、どんな人だったら地域に溶け込んでいけるでしょう。

「そうやね… 野村は人口が減っているエリアなので、外からの人を歓迎してくれる雰囲気はあると思います。あとは、ここらの人はお酒好きが多いから、お酒が好きだったらいいかもしれないですね。飲まなくても、そういう明るい場が好きな人だったら溶け込みやすいと思います」

「西予は自然が豊かでジオパークに認定されていたり、野村地域には相撲文化があったりと、掘ればいろんな魅力が出てくる場所なんです。西予市での暮らしを楽しんで、生徒にもその魅力を伝えてほしいなと思います」


まだ公営塾が設置されていない宇和高校でも、2022年度中に新設される予定。今回募集する人のうち2名は宇和高校に、もう1名は野村高校に軸足を置きつつ、ほかの2校にも関わることになる。

どんな人が働いているのか、公営塾のスタッフに話を聞くため、野村高校から車で1時間ほどに位置する三瓶分校へ向かった。

現在は三瓶と野村で塾をひらく曜日をずらしているそう。この日は昨年からスタートしている三瓶の公営塾「C-LAB」のオープン日だった。

「今日はよろしくお願いします! まだ生徒が少ないので静かですが、もうちょっとしたらぞろぞろと集まってくると思いますよ」

明るく迎えてくれたのは、公営塾スタッフの土居さん。民間企業や役場勤めを経て、今年の4月から着任している。

「スタッフは3人いるんですが、私は地域の人や学校の先生との関係性をつくって、新しい探究の授業をつくるコーディネーター的な立ち位置での仕事が多いです。正直自分でも、何をやってるかって言い表すのはむずかしいんですけど」

「学校ってちょっと、閉ざされたイメージがあるじゃないですか。地域の人も先生方も、お互いどう関わっていっていいかわからないこともあって。そこの間にちょっと入らせてもらって、あいだをつなぐ。そんなことをしていたら、気づいたら仕事が増えていきましたね」

たとえば、野村高校で行われている地域学。土居さんは、地域の人との予定調整をしたり、生徒と一緒に川岸に植物を植えたりと、裏方から授業に伴走している。

今後は、そこで生まれた地域との関係性を、塾での活動にもつなげていきたいと考えているという。

土居さんは、どんなふうに地域の人や先生たちと関係性をつくっていったんですか?

「地域のいろんな団体の集まりに参加して、まず顔を知ってもらう、という感じでしょうか。あと野村はすごい飲み会が多くて(笑)。よく一緒に飲みに行って話をしますね。明るい場でいろんな話をするのが好きな人だと、入りやすいかもしれないです」

「先生との関係性で言うと… 今振り返ると、最初は正直分かり合える気がしなかったくらい、コミュニケーションがむずかしかったですね」

え、どういうことでしょう。

「私もなにから始めたらいいかわかっていなかったし、先生も『協力隊の人が来たけど、何をするんだろう』って、お互い探り探りの状態で。学校の職員室に席を用意してもらったんですが、先生方はみんな忙しそうで話しかける隙もなく… 私の存在はないも同然でした(笑)」

「こんな感じかぁって、最初それでちょっと心折れちゃったりして。でも、進路指導について相談したり、授業の進度を聞いたり。ちょっとずつコミュニケーションを重ねていくと、生徒のためにがんばっていることが伝わってくるんですよね。学校あっての公営塾なので、うまく協力し合える関係性をつくっていきたいなと思っています」

今や高校魅力化プロジェクトは全国に広がっているから、参考になる前例はだいぶ増えてきた。

とはいえ、その土地ならではの学びに正解はない。根っこの思いをたしかめながら、地道にコミュニケーションを重ねていく姿勢が欠かせないのだと思う。


続けて話を聞いたのが、同じく公営塾スタッフの齊藤さん。大学卒業後、新卒で今年の4月からスタッフに加わっている。

「野村と三瓶では、生徒の雰囲気もちょっとちがいますね。野村の生徒は、塾へ勉強をするために行く、という感じが強い気がします。三瓶はもっとゆるやかというか、勉強しに来る子もいるし、ふらっと話しにくる子もいる、っていうイメージでしょうか」

「夏にバーカウンターをつくったんですよ。生徒たちと話して、勉強するスペースだけじゃなくて、リラックスして話せる空間があったらいいよねってことで、カフェをイメージして。本当は4日間くらいでつくる予定だったんですが、2ヶ月かかりました(笑)」

三瓶のC-LABでは、学習指導や進路相談以外にも、生徒たちのやってみたいことを引き出し、形にすることに取り組んでいる。

たとえば最近だと、齊藤さんがある生徒から「休みの日にバッタを獲りに行きましょう!」と誘われたことから、話が広がっているところ。

「その子は昆虫食に興味があるみたいで。趣味で、自分で獲ったバッタを調理して食べたりしているらしいんです。それをほかの人にも伝えてみたいって、僕らに話してくれたんですよね」

「最初はもちろんびっくりしました(笑)。せっかく興味のあることを伝えてくれたので、まずは市販のコオロギラーメンから試してみようと話していて。最終的には、昆虫採集から料理までやるワークショップができたらいいねって」

ほかにも、オリジナルTシャツをつくりたいという話からデザイン会議を開いたり、三瓶分校のことを中学生に知ってもらいたいと、自分たちでプレゼンを考えたり。

やってみたいことを声にして、それを形にする。小さな成功体験を積み重ねていくのも、公営塾の役割のひとつなのだと思う。

「生徒から刺激をもらうこともすごく多いんです。最近、制服の校則を変えたいっていう話をしてくれた子がいて」

制服のことで悩んでいる友達の力になりたい。女子生徒でもスラックス可にできないかと、齊藤さんたちに相談したという。

「その子は3年生なので、もし変えられたとしても、自分たちの代には直接影響しないかもしれない。それでも、なにか目の前に課題があったとき、誰かのために解決したいと思える。その姿勢がすごいなって」

「僕自身、公営塾スタッフとしてなにから始めたらいいんだろうって悩んでいたタイミングだったんですけど、その姿を見て、自分もがんばってチャレンジしようって思えたんですよね。そんなふうに学ばせてもらうことがあるのが、すごく面白いし刺激的です」


ふたりの話をうなずきながら聞いていたのが、スタッフの岡島さん。

昨年の公営塾立ち上げ時からのメンバーで、1年間、三瓶の生徒たちを見守ってきた。

「去年の9月ぐらいからバタバタと始まって、最初に入ってきてくれた子たちの進路が徐々に決まり始めているんです。その姿を見ていると、卒業していくんだなって、しみじみ感じるんですよね」

「将来こんなことをしたいって語ってくれる姿を見ると、うれしいというかなんというか… 言葉にするのはむずかしいんですけど、おお、そうか… って。ここで過ごしていると、そういう気持ちになるんです」

新しく来る人も、3年間、いろいろな出会いと別れを経験することになる。

子どもたちの成長や変化を間近に感じることができるのは、塾スタッフの醍醐味なのだろうな。

「僕自身、募集を見るまで、こういう仕事があるっていうことすら知らなかったので。ちょっとでも興味があるとか、面白そうとか。そう思ってくれる人だったら、どんな経験を持っている人でも歓迎したいです」


話がひと段落した頃合いで、たくさんの生徒たちが教室にやってきた。

それぞれ勉強したり、スタッフの人とおしゃべりしたり、校則をどうしたら変えられるかについて、真剣に議論したり。

ひとりの生徒に、塾はどう?と聞いてみたら、笑顔でこんな答えが。

「自分のペースで勉強できるし、やりたいこともできる。だから後輩が来ても、ぜひ入って!って、自信を持ってすすめられます」

それぞれの未来へ進んでいく生徒たち、一人ひとりに寄り添う。

スタッフとして、こんな言葉を言ってもらえる環境というのは、とてもありがたく、うれしいものだと思います。

西予市では、これから新しくできる公営塾も含めた3つの塾を、地域の人と共につくり、学ぶ場にしていきたいと考えているそう。

このまちでどんな学びがつくられていくのか、今から楽しみです。

(2021/11/8 取材 稲本琢仙)
※撮影時はマスクを外していただきました。

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