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日本ではキイチゴ、フランス語ではフランボワーズとも呼ばれるラズベリー。
甘酸っぱくて赤い実は、ケーキの上に乗っていたり、ジャムやお菓子に使われたりと、いろんなところで見かけます。
けれど、そのほとんどが海外から輸入したものなのだそう。
「もともとヨーロッパで自生するラズベリーは、日本の風土ではうまく育ちません。だけど、日本の風土に合うよう苗からつくってしまえば、国産ラズベリーの基盤がつくれる。日本の食文化にも、もっと馴染んでいくかもしれません。そういう意味でも、可能性が大きい事業だと思います」
そう話すのは、福島県矢祭町で花農家を営む金澤さん。
17年かけて、日本の風土に馴染むラズベリーの新品種をつくった方です。その品種は従来のものと比べて3倍の収穫量があり、甘みが強いため、ジャムなどの砂糖の使用量を減らせるそう。
2年前からは専任の地域おこし協力隊も入って順調に生産量も上がり、ラズベリーを使った加工品づくりにも着手しています。
今回は、このプロジェクトに関わる地域おこし協力隊を募集します。ラズベリーの生産をしつつ、販路の拡大や加工品の企画開発など、自分の得意なことで広がりをつくってもよいそうです。
矢祭町は福島県の南端にあり、まわりを山々に囲まれた静かな町。まちなかを久慈川が流れ、一帯には田んぼが広がる。
お米とこんにゃくづくりが盛んで、ゆずやいちごなどの果樹も有名だ。
水戸駅から水郡線に乗って1時間半ほど。町の中央に位置する東館(ひがしだて)駅に着いた。
駅を降りて通りを歩くと、スーパーやドラッグストア、コンビニが並んでいる。新しい小学校やこども園もあって、小さな町ながら活気を感じる。
観光案内などの機能がある「まちの駅」で待ち合わせたのは、矢祭園芸の金澤さん。新品種のラズベリー苗をつくった方だ。
金澤さんは、もともと花農家さん。47年前に施設園芸の会社を立ち上げ、花の栽培と、新しい品種をつくる“育種”に積極的に取り組んできた。
品評会などでも入賞するほどの育種の実績を見込まれ、ある果物輸入会社から「ラズベリーを栽培してみませんか」という話が持ち掛けられたのが、17年前のこと。
「1000トンを超える国内のラズベリーの年間消費量のうち、国産は10トン以下。ラズベリーは足が早いですから、生食での輸入は難しいし、海外産のものは農薬履歴も追えません。日本でも生産しようと試みたそうなんですが、海外から取り寄せた苗は3年ほどで枯れてしまったらしくて。日本の風土でも育つ苗をつくってほしいというのがはじまりです」
30種類もの苗を買い集め、交配を重ね、改良してきたという。17年にも及ぶ試行錯誤のすえ、実をたくさんつける、丈夫で味の良い品種ができた。
「とくに、地元にあった野生のナワシロイチゴというキイチゴとの交配種は、非常に豊産型です。夏になる前に実をつけるので、虫や病気にもナーバスにならなくていい。ハウスを使わない露地栽培ができるので、コストも抑えられます」
「町をあげてつくれば一大産地になれるのでは」と考えた金澤さんが町に相談したところ、町としてもうれしいとの返事が。
さっそく地域おこし協力隊を招く準備が整い、2年前に一名、昨年にはさらにもう一名が加わり、生産がはじまった。
「一昨年は300kg、昨年は900kg。昨年は実がいっときに成りすぎて収穫が追い付かなかったんですけど、もう少し調整していけば今年は1400kgくらいは採れると思います。この調子で増やしていけば、数年以内に日本で一番の生産量になる予定です」
着々と進んでいるんですね。
「この1年だけでも、いろんなことがありました。もともとラズベリー市場は海外輸入がベースになっていて、現状では取引先や流通のルートがありません。生産できるようになって動いてみたら、いろいろ見えてきました」
どんなことがあったんですか?
「まず、昨年初めにいろんなメディアに取り上げていただいて、たくさん声をかけていただきました。たとえば、福島物産館『コラッセ』の桜田館長の目にとまって、ラズベリーフェアを開きたいと申し入れがあって。県内の27店舗のお菓子屋さんで、ラズベリーを使ったお菓子の展示即売会をしたんです。開店前から並ぶ人もいて、好評をいただきました」
「あとは、こだわりのワイナリーから国産ラズベリーを使いたいと問い合わせがあったり、クラフトビールに使いたいということで納品したり。お菓子だと、チョコレート屋さんからのご依頼が2件、うち1件はバレンタインに向けて商品化が進んでいます」
地元のガストロノミーのイベントでフレンチに使われたり、素材にこだわるケーキ屋さんからの注文があったり。国産ラズベリーの注目度の高さがうかがえる。
とはいえ、これらは多くても一件あたり100キロほどだそう。せっかく首都圏にも生食が届けられる距離だから、大きな流通にものせたい。
「実は、大手流通企業の本店からバイヤーが来ました。だけど、どの時期にどのくらいの数が出るのか、必ず分からなきゃいけないところがあって。新しい品種だから栽培体系も確立してなくて、平均値をお答えできなかったんですよね。次年度は、データを蓄えながら、栽培マニュアルを更新していきたいと思っています」
売りたい気持ちもあるし、買いたい人たちもたくさんいる。お互いをより繋げていくための、具体的な目標が見えてきた。
「品種はこれから選び直そうと思っています。というのも、国産ラズベリーは生食が卸せること、農薬履歴が分かるという点で優れていますが、輸入ものとの値段の差が大きいんですね。そのあたりも考えて、形は不揃いでも量産に向く苗、生食に卸せるきれいな実のなる苗、それぞれの生産量を調節していこうと思います」
「市場のボトムからつくっていくような感じですね。国産ラズベリーが広まっていけば、気軽に食卓に並ぶかもしれないし、加工品も増えるかもしれません。苗からつくるって、食文化をつくることでもあると思うんです。そういう意味でも、可能性は大きいと思っています」
金澤さんの視点は、小さな苗から遠く遠くへと広がっている。
手探りの状態から、金澤さんとともに走ってきたのが、昨年着任した協力隊の長友さん。
もともと大学で農学を専攻したり、休日にはお米づくりをしたり、農業が好きだったそう。
「転職の際にやっぱりそういうものに関わりたいなと思って。いろいろ調べたなかで、ラズベリーが面白そうだったので来ちゃいました」
最初は栽培体系も販売ルートも確立していない、一からのスタートだったんですよね。
「以前は障害者支援をしているベンチャー企業に13年勤務していたんですけど、そこもはじめは何もなくて。事務所の椅子とテーブルを買いそろえるところから始まって、全国に支店を持つようになりました。ここに来たときもいろんなものがこれからという状態で、ただ、面白いなと思いました」
言葉は少ないけど、尋ねたら丁寧に答えてくれる方。金澤さんも、「彼は、能書きは語らず実行あるのみ、っていう感じなんですよ」とにこにこしている。
長友さんは、生産のかたわら、ラズベリーを使った商品開発も行っているそうだ。
「これは、ラズベリーの葉っぱを使ったリーフティーの試作です。間引きや剪定のときにかなりの量を捨てるんですけど、もったいないなーとずっと思っていて。ネットで検索したらけっこう販売されていたので、ちょっとやってみようかなって」
ヨーロッパでは「安産のハーブ」として古くから妊婦さんに親しまれているリーフティー。鉄分補給など、女性にうれしい効果がたくさんあるそうだ。
「試しに矢祭園芸のパートさんに飲んでもらって感想を聞いたら、みなさん美味しいねってよろこんでくれて。『色的にドライラズベリーを入れたらいいんじゃない?』ってアイディアをもらったので、またつくってみようと思っています」
さらに、加工したものを販売できるよう、食品衛生の免許も取ったという。
「福島物産館でのフェアのときに、『テレビで観たから買いに来ました』って来てくれる方が多くて。つくったものを実際に手に取ってもらえるとうれしいですね」
気になったらサクサクと手を動かしてしまう長友さん。今回募集する人もラズベリーの生産をメインにしつつ、マーケティングや広報など、得意なことがあれば活かしてほしい。
ところで、日々の作業はどんなことをしているんですか?
「ハウスが6棟と小さな露地があるので、そちらを回ります。基本的には、私ともう一人の協力隊の2人で、水やりや雑草引きなど、日々細々したことをやっています。月に一回くらい金澤さんが来て、今年は剪定の位置を高くしてみようとか、ハウスの空気の入れ方を調整してみようとか、新しいやり方の指示があれば、それをやってみる感じです」
「今年は夏の収穫時期が大変でしたね。大量に実る品種が、8月9月にまとめて成ってしまったんです。町民の方も収穫の手伝いに来てくれましたが、朝から晩まで忙しい日が続いて。ちょっと帰りたいなって思いました(笑)」
次年度は剪定や水の量などを調整して、ハウスごとに実の成る時期をずらす予定。重いものを運ぶわけでもないので、体力がすごくあるわけじゃなくても、女性でもできる仕事とのこと。
栽培の研究に没頭するのもありだし、長友さんのように商品開発に力を入れてもいい。どの分野でも、確立しているものがないからトライアンドエラーも多いだろうし、そこが面白さでもあると思う。
任期の明ける3年後は、ラズベリー農家として独立することもできる。今、独立に向けて土地探しをしている協力隊もいるそうだ。
どんな人に来てほしいですか?と聞くと、金澤さん。
「あまり力まず気負わず、軽いタッチで入られたらどうかなって最近思います。ただ、こうしていきたいとか学びたいとか、自分なりにやりたいことや目標があると、3年間という時間が充実するんじゃないかな。自分をしっかり持って、ここで研鑽してほしいなと思います」
面接時に2泊3日の研修を予定しているので、まずは来てみて、少し体験してみるのでもよいそうです。
国産ラズベリーの黎明期を、つくってみませんか。
(2021/12/21 取材 倉島友香)
※撮影時はマスクを外していただきました。