求人 NEW

品のなかに感じる、柔らかさ
さわって、目で見て
たしかめて

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

「家具をつくるとき、ほんの数ミリの差で印象が大きく変わるんです」

これは、家具会社のiwakagu代表、岩﨑(いわざき)さんの言葉です。

家具を使う人は、パッと見た目の印象で選ぶかもしれないけれど、つくり手は、それだけ細かいところまで気を遣っている。

ものづくりの世界は奥深いと、あらためて実感しました。

iwakaguは静岡にある木工家具の工房。

住宅でつかう椅子やテーブル、スプーンやお皿、トレイなどの小物類。さらには、商業施設や公共施設の什器まで。主に、無垢材を使ったオーダー家具やオリジナル商品などをつくっています。

メンバーは、代表の岩﨑さんを含む4名。受注から製作、納品まで一貫して行っています。

今回募集するのは、木工家具の職人。まずは基本的な作業から、徐々にできることを増やして、一から家具をつくれるようになってもらいます。

家具づくりを学びたい人や、将来は木工家具職人として独立したい人も。実務経験があるといいですが、強い想いがあれば挑戦できる環境があります。


東京から新幹線に乗って、静岡駅へ。来た道を戻るように、駅からバスに乗り換えて30分ほどの場所。住宅街のなかに、落ち着いた青色の建物が見えてきた。

ここがiwakaguのショールーム。外観の撮影をしていると、中からiwakaguのみなさんが顔を出して、出迎えてくれる。

さっそく中に入って、まずは代表の岩﨑さんに話を聞く。

「小さいころは、体育と図工・美術だけ成績がよかったですね。高校まではサッカー部に入っていて。すごく楽しかったんですけど、将来を考えたときに図工・美術のほうが向いているかなと思って」

そこで、大学はデザイン学科を選んで入学。プロダクトデザインを専攻し、椅子やテーブルなどのものづくりを学んでいった。

「いろいろ授業を受けるなかで、設計するだけより、自分で手も動かしたほうが納得いくものができると気づいて」

「素材も、木のほうが納得できるっていうんでしょうか。金属とかほかの素材もあったんですけど、一番身近に感じられたのが木だったんです」

大学卒業後は、木工をさらに深く学ぼうと東京藝術大学の大学院へ。3年間学び、修了後は、地元の静岡に戻って作品づくりを続けていった。

さらに、親や知人の紹介で少しずつオーダー家具の依頼も引き受けるようになり、2009年にiwakaguを立ち上げる。

実際に、岩﨑さんはどんな家具をつくっているんだろう。

印象に残っている作品を聞いてみると、少し考えてから、ブナの木でつくった子ども用の椅子について話してくれた。

13年ほど前に、姪っ子の誕生を祝ってつくったものなんだそう。

「この椅子は、背もたれが薄いんです」

どうしてでしょう。

「子どもを想像したときに、ゴツいのはいやだなと。それと、子どもが少し大きくなったら椅子を運ぶ機会もあると思って。薄くすることで、持ちやすくしました」

「座面も、あえて平らにしています。洗面台の前に移動して、踏み台として使うかもとか。座っていないとき、テーブルとしても使えるだろうなとか」

子どもが成長するなかで、一緒に使っていけるような椅子なんですね。

「自分が子どものとき使った椅子を、自分の子どもにも使ってもらうのが理想なんです。その間使わなかったら、花瓶を置くような飾り台として使ってもらうのもいいと思っていて。そんな椅子になっていればうれしいですね」

実はもう一つ、iwakaguのサイトで気になっていたのが「八角トレイ」。

家具と並んで大きくピックアップされているのを、なんだか不思議に感じていた。

これは、どんなふうに生まれたんでしょう。

「底板に無垢材を使ったトレイを10年くらい前につくっていて。お客さんからどんな反応をもらえるか確かめようと、イベントに出品したんです。ただ、当時はまだ材料の選択がうまくできなくて。会場に置いていたら、トレイの形が変わってしまったんです」

無垢材は、天然木から取り出した木を一枚の板に加工した自然素材。木の温かみや重厚感など、素材本来の味わいを感じられる一方で、乾燥や湿気に弱い。展示会場の環境に耐えられず、トレイが割れてしまった。

「この状態で商品として販売するのは難しいと思って、一度やめて。そこから4、5年ぐらい経ったあとでしょうか。いままで無垢材でつくっていた底板を、突板っていう薄い木を貼る製法に変えたらうまくいって。そこから販売をはじめたんです」

トレイというと、四角や円形が多いイメージ。八角形にしたのは、なにかこだわりがあったんでしょうか。

「そこは本当に理由がなくて。意識していたのは、とがっている部分を削ることくらい。抽象的な話になるんですけど、もともと、とがっているものはあまりつくりたくないというか。一方で、柔らかすぎるものもつくりたくない」

「なので、張りのある形にしながら、少し柔らかいところも残せるように形をつくっていった結果、この形状になった。っていうのが正直なところなんです」

たしかに、縁に丸みがあって柔らかさも感じますね。

「もう削るとこがないくらいまで、加工できたかなって。外側は手で持ちたいから、指が少し引っかかるようなバランスを意識しつつ、まとめられたと思います」


「岩﨑さんがつくる家具って、心地いいと思うんです」

隣で話を聞いていたデザイナーの西田さんが話を続けてくれる。

「つくるものに品があって穏やかなんですよね。それって、実はすごく逆行することで。丸いとか柔らかいとかって、幼く安く見えやすい。でもそうじゃないんです」

「高級感がありつつ、使ってみるとすごく穏やか。その両方を内包するバランスがすごく上手な印象で。だから多分、家の中に入ってもすぐ馴染む家具ばかりだと思うんです」

西田さんは、OTHER DESIGN事務所の代表。以前務めていたデザイン事務所で岩﨑さんと知り合い、独立後も関係が続いている。今年で3年目の付き合いで、業務委託としてiwakaguのデザインに携わっている。

「ものづくりの職人さんってすごく忙しい。静岡の場合、個人の方が多いので、メールの返信もしますし、注文が入れば梱包して発送もする。ものづくり以外の仕事がすごく多いんです」

目の前のことで手一杯になった結果、新しいことになかなか挑戦しづらい。そういった静岡全体の職人の状況をどうにかできないか。これまでの知識や経験をもとに、模索している西田さん。

いまは、どんなふうに関わっているんでしょうか。

「オンラインストアの運営をしたり、SNSに載せる写真の撮影をしたり。ほかにも、イベントへの出展企画とか。iwakaguさん全体の方向性を定める、みたいなところをお手伝いさせてもらっています」

「iwakaguさんはざっくり言うと、何でもできるんです」

何でもできる。

「飲食店でたとえると、本場イタリアのシェフがつくるような料理から、いつ、どこでも同じ味が出せるチェーン店の料理まで。一点もののオーダー家具と量産家具、両方つくることができます」

たとえば、建築家から依頼が来たとき。

空間に合わせたこだわりの家具や什器をつくるには、複雑な技術が必要になる。ところが高度な技術、機械をもつ家具メーカーは、ある程度の注文ロット数を求められる。そのため、予算内におさめるのがむずかしい。

「iwakaguさんは家具製作で培った高い技術がある上に、小ロットでも引き受けてくれる。僕らデザイナーからすると、個人でこんな工房ってなかなかない。ほんとすごいんです」

iwakaguがこれまで手がけてきた商業施設のなかには、NEWoManや富士山静岡空港もある。高い技術を認められて、天皇陛下が使用する椅子の製作プロジェクトにも携わった。

「ただ、何でもできるからこそ、結局どういう工房なのか、外の人に伝わりづらい面もあって。iwakaguさんの家具の心地よさやものづくりの技術を認めてくれる人と、もっとコミュニケーションをとっていきたいと思っています」


今回、募集するのはiwakaguの家具をつくる木工職人。職人のひとり、青木さんにも話を聞く。

もともと岩﨑さんと同じ大学で、2つ下の後輩だったという青木さん。

もっと家具づくりを勉強したいと仕事を探しているときに、岩﨑さんからiwakaguで働かないかと声をかけられた。

iwakaguで働きはじめて1年ほど。現在は、加工された材料の研磨や、塗装前の家具のちり払いなど、鑿(のみ)や鉋(かんな)などの道具を使い、基礎的な作業から学んでいる。

「加工とかは熟練の職人さんにやってもらっているので、その後ですね。塗装前に綺麗に研磨したり、材料を接着剤でくっつけたり。まだ慣れていない部分も多いので、わからなかったらすぐ聞くようにしています」

働いてみて、いかがですか。

「納品したときに、お客さんがすごく喜んでくれるのが印象に残っていますね。リピーターの方もいて、お客さんが本当に気に入ってくれる、満足できるものをつくって届けてきたんだなと実感しています」

「あとは納品する直前に、岩﨑さんが心配そうにしているのも印象的ですね(笑)」

すると、ここで再び岩﨑さん。

「ものづくりって正解がないものですから。お客さんの意図を汲んで形にしていると思っているけど、お客さんの反応を見るまではやっぱり心配で。細かい処理の差で家具の見え方が変わってしまうからこそ、最後の最後まで気を遣っています」

最近のお客さんで、印象に残っている方がいるそう。

「オーダー家具の製作を依頼していただいたご夫婦がいて。旦那さんが陶芸家で、ものを見る目が肥えていらっしゃる方だったんです」

任せられたのは、脚がまっすぐなテーブルと椅子。大まかなイメージは決まっていたけれど、「細かい調整はお任せします」とのことだった。

「まっすぐな形って、DIYでもつくりやすいんです。だからこそ、細部の仕上がりひとつで印象が変わってくるし、理想の形にするにはミリ単位の調整が必要で。いつも以上に緊張したんですけど、お渡ししたときにすごく喜んでくれたので、記憶に残っていますね」

岩﨑さんは、どんな人と一緒に働きたいですか?

「手先が器用だったり、木工の知識があったりする人であれば大歓迎です。それがなくとも、家具をつくりたいっていう気持ちがある人だといいのかなと。そういう人は、技術も知識も、素直に覚えて伸びていくと思うんです」

「販売会での接客も、大切にしていただける人だといいかもしれません。ものづくりって自分だけで完結できないものですから。僕自身、販売は苦手なんですけど、お客さんの意見や反応を知ることで、一つひとつの作業に納得感をもてる。これは、仕事を続けていくうえで大きいことだと思っています」


手で確かめながら形づくっていくことも、お客さんの声を聞くことも。すべては、ものづくりを自分ごとに感じることへ、つながっているんだと思います。

こだわりが詰め込まれたiwakaguの家具たち。つくり手の熱量が詰まった家具たちからは、きっと伝わるものがあると感じました。

(2022/2/28 取材 杉本丞)
※撮影時はマスクを外していただきました。
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