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自分の思いや気持ちを表現するには、いろんな形があります。
声に出して伝えるのはもちろん、絵を描いたり、踊ったり。楽器を鳴らすのもそのひとつ。
浅草に本社を置く、株式会社宮本卯之助商店。太鼓やお神輿などを職人の技でつくり、日本の伝統芸能やお祭りを陰で支えている会社です。
今回募集するのは、宮本卯之助商店が運営する和太鼓スクール「ヒビカス」の運営マネージャー。
講師や生徒たちと関わりながら、ここでしか生まれない場をつくっていく仕事です。
太鼓の経験はなくても大丈夫。あわせて営業職も募集しているので、太鼓や日本文化に興味がある人は、ぜひ読み進めてみてください。
ヒビカスは、本社のある浅草と横浜、福岡・天神の3ヶ所で展開している。今回は横浜のスクールへ。
関内駅から歩いて5分ほど。ビルとビルの間に、ヒビカスの文字を見つけた。
中に入ると、天井がスカッと高い空間があらわれる。7メートルくらいはあるだろうか。
「変わった建物でしょう。ここはもともと酒屋の倉庫だった場所なんです。音楽スタジオをつくれる建物ということで、探すのにも苦労したんですよ」
そう話すのは、宮本卯之助商店の代表、宮本さん。
宮本卯之助商店の創業は、文久元年。西暦で言うと1861年で、江戸時代の末期にあたる。
「もともとは太鼓づくりから始まって、お客さまの要望に応えるうちに扱うものが広がっていったと聞いています。お祭りのお神輿をつくったり、能や歌舞伎で使う鼓をつくったり。お祭りと伝統芸能に関わるものを軸に、いろいろな商品を販売してきました」
ホームページを見ると、太鼓や笛、神輿、祭り半天、さらにはミニ鳥居まで、さまざまなものを扱っている。
宮本さんが社長を引き継いだのは、今から12年前のこと。それ以前は専務として会社に入っていて、さらにその前はイギリスへ留学していたという。
「実は、イギリスにいたときは帰らなくてもいいかなって思っていたんです。戻るきっかけはいろいろあったんですが… そう伝えたときに、母親を大号泣させてしまったのが大きかったですね。これは人を裏切りすぎかもしれないなと思ったのは、大きなきっかけでした」
「あとは、あらためてこの会社を見たときに、ここでしかできないことがあって面白そうだなって思ったんです。それも戻ってきた理由でした」
ここでしかできないこと?
「たとえば、扱っている商品。日本各地のお祭りで使われるお神輿から、雅楽や能で使うものまで、幅広く横断的に仕事ができる。なおかつお神輿や太鼓を、自社の職人がつくっている。そんなところってほかにはほとんどなくて」
「もう一つ感じたのは、太鼓は言語を必要としないということ。太鼓を打てば、国籍も人種も文化も関係ない。それって、今でいうダイバーシティをすごく体現していると思うんです。人とのつながりが希薄だって言われている時代に、ドンッ!っていう音で一緒になれる。それも面白いところだなと」
文化や言語の違いに関係なく、人と人が太鼓を通してつながる。
2014年に立ち上げたヒビカスも、太鼓の持つ力を活かした場づくりをしたいという思いから始まった。
「生活様式が変わりゆくなかで、お祭りや伝統芸能に触れる機会って確実に減っていて。太鼓を通して、日本人が紡いできた美意識や価値観に触れる機会をつくることには意味があると思っているんです」
「ヒビカスには、太鼓を趣味としてやってみたい人から、プロを目指したいっていう人まで、いろいろなレベルの人がいます。教えている先生は、プロとしてのキャリアを積んだ方が多い。太鼓を起点にいろいろな属性の人が集まる場になっていて、すごく面白いなと思っています」
ヒビカスをきっかけに、日常のなかに日本文化という存在が入り込む。
太鼓を打つうちに、伝統芸能やお祭りに興味が湧くかもしれないし、ジャンルを超えて新しい音楽をつくる人が出てくるかもしれない。それは、これまで受け継がれてきたものを未来へとつなぐ、ひとつのきっかけになる。
今回募集するマネージャーは、その接点をつくる重要な役割。
実際どんなふうに運営しているのか、ヒビカスの事業を統括している伊藤さんに話を聞く。
「大勢での太鼓の合奏を見たことはありますか? 太鼓って、楽器としては歴史が古いんですが、みんなで合奏するっていうスタイルは、まだ始まって50年くらいなんです」
50年… 比較的新しい文化なんですね。
「そうなんです。それ以前は、古くは神社とかお寺さんで神様仏様を呼ぶ合図として。あとは能や歌舞伎、祭囃子でも使われていました。今はそういった伝統芸能やお祭りで接することが少なくなったぶん、合奏スタイルが知られるようになってきましたね」
「ヒビカスで教えているのも、合奏スタイルの和太鼓です。横浜には300人くらいの生徒さんがいて、8割女性で2割が男性。なので、男性はすごくモテるかいじられるか、どっちかです。合唱やオーケストラみたいにみんなでつくり上げるものなので、チームワークが大事になります」
ヒビカス横浜の立ち上げから関わってきた伊藤さん。
前職でも太鼓に関わる仕事をしていて、そこで宮本さんと知り合い、宮本卯之助商店で働くことになったそう。
「太鼓って、伝統的なイメージを持つ人が多いと思うんです。でも実は新しくて、自由度も高い。あとはみんなでやる連帯感。ここに楽しさの真髄があると思っていて」
「太鼓というものを介して、みんなが一つの目標に向かって音を響かせる。側から見ていて、その姿はすごく気持ちいいですよ」
現在は伊藤さんがヒビカス全体を統括しているので、新しく横浜のマネージャーになる人は、まず伊藤さんに付いて仕事を学ぶことになる。
具体的には、どういったことをするんでしょう。
「たとえば、講師の先生たちと一緒にレッスンのスケジュールを決めたり、カリキュラムの内容を考えたり。あとは売り上げの管理や、スタッフのシフト管理もあります」
「年に2回、定期発表会があるので、その企画や準備も大事な仕事ですね。太鼓を運ぶ地味な作業もあります。でも一番必要なのは、お客さまや先生たちといい関係性をつくり上げていくことです」
1クラスはだいたい10人ほど。打ち方を教えてもらえる初級クラスから、打法や演目別に学べる中級、上級クラスまで。全部で50ほどのクラスがある。
年齢も経歴もバラバラの人たちが、太鼓を介して一つの目標に向かう。その空気感をつくっていくのも、マネージャーの大きな役割だ。
「オープンしたてのとき、無料レッスンに15人くらい人が来てくれて。さっきの調子で、『太鼓やったことありますかー?』『ないでーす』『太鼓のプロチームって知ってますかー?』『知らないでーす』って。みんな知らないの(笑)」
「それでもその回はすごく盛り上がって、15人全員入会していただいて。8年たった今も続けてくれているんです。みんなすごく仲が良くて、終わったら必ず飲みにいく(笑)。8年やっているから、発表会でもびっくりするくらいの演奏をされるんですよ。それを見てると、やってきてよかったなと思いますね」
ほかにも、発表会でオリジナルの衣装を手づくりするクラスがあったり、八丈島に伝わる八丈太鼓を学んでいるクラスでは、みんなで八丈島に行こうという企画が自主的に生まれたり。
ヒビカスで生まれた関係性が、教室内にとどまらない形で広がっている。
マネージャーはそんな関係づくりを支える存在。伊藤さんが大事にしていることって、なんですか。
「なんでしょう… しっかりとコミュニケーションを交わす、っていうのは大事なスキルかもしれません。サバサバしすぎない、っていうのかな。あとは音楽や芸能に少しでも興味があれば、自分も楽しみながら仕事ができると思います」
「僕らは仕事として、お客さんからお金を頂戴しながら運営しているんですけど、発表会が終わると『ありがとうございました』ってみんなに言われるんですよね。お金をいただいてるのにありがとうって言われる仕事って、そうないと思っていて。それは大きなやりがいだし、うれしいですよね」
最後に話を聞いたのは、ヒビカス事業をともに担当している工藤さん。入社して16年になる方で、年に2回の発表会の企画運営を担っている。
「田舎が秋田なんですけど、小学校のころから太鼓をやっていて、太鼓三昧の生活でした。地元でも働いていたんですが、一度東京に出てみたいと思ってこっちに来て」
「地元で太鼓をやってたときは、宮本のバチって一流の人が使えるもの、みたいなイメージだったんですよ。使おうとすると、まだ早い!みたいな(笑)。だから宮本の名前は知っていて、東京に出たときにここで働きたいなと、飛び込みでアルバイトから始めました」
憧れの場所で働いてみて、どうでしたか?
「うちは工場もあって、職人さんたちが太鼓とかお神輿をつくっているんです。職人さんってこわいイメージがあったけど、みんなあたたかくて。職人さん以外の人も、なにかあるとさっと助けてくれるんですよ」
「あとは神輿を担ぐ人もたくさんいて(笑)。わたしも先輩に連れていってもらって、担ぐぞ!って、初めてお神輿を担がせてもらったりしました。仕事以外でも、人と人のつながりがあたたかいなっていうのは、すごく感じます」
発表会の準備では、楽器を運んだりスケジュールを調整したりなど、裏方の仕事を担当している工藤さん。
「私は毎日ヒビカスにいるわけじゃないんですけど、たまに来るとみなさんすごく仲が良くて、練習もしっかり取り組んでいて。発表会のときは、舞台袖から見てるんです。衣装も凝ったものを準備して、練習してきた成果を出す。それを見ると本当に感動するんですよ」
「みんなからありがとうございましたって言ってもらって、その空間に一緒にいられる。がんばってきてよかったって思うし、達成感はすごくあります」
最後に、どんな人に来てもらいたいか聞いてみる。まずは宮本さん。
「すっごい極端に言えば、一番いいのは人が好きっていう人。太鼓を好きになるのは後からでもいいから、人が好きで盛り上げたいっていう気持ちがある人かな。たとえば常連さんが多いお店で働いていた、みたいな経験があると、すんなり入れるような気がしますね」
続いて、伊藤さん。
「楽しいことや、やったことのない新しいことに対して、面白そうって思える人かな。自分が楽しいと思えるかどうかが大事だし、その気持ちってほかの人にも伝わると思うので」
ヒビカスの名前の由来は、「響く+us」。
太鼓を打ち、音を響かせることで、自分や他人の心を揺り動かす。
その響きを、ともにつくる仲間を待っています。
(2022/3/1 取材 稲本琢仙)
※撮影時はマスクを外していただきました。