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手を合わせて、右手でお香をつまんで。
炭にパラパラ落とすと、煙と香りがフワッと立ち昇る。
お香を焚くと、不思議と気分が落ち着きます。
焼香の製造や線香の原料を販売している、長川仁三郎商店(おさがわにさぶろうしょうてん)。江戸時代より160年以上続く歴史ある会社で、最近では広く日用品として使えるお香商品も販売しています。
今回は、商品の製造や、線香の原料の選別、出荷を担当するスタッフを募集します。
従来の伝統を引き継ぎながら、新しいチャレンジにも取り組んでいる長川仁三郎商店。お香や日本文化に興味がある人にとっては、面白い仕事だと思います。
長川仁三郎商店があるのは、大阪・森ノ宮。大阪城公園のすぐ近くに本社兼工場を構えている。
近くまで行くと、ふわっとお香の香りがしてきた。そして入り口には、一回500円のお香のガチャポンが置いてある。
興味を惹かれながら中に入ると、社長の田中剛史さんが迎えてくれた。
「いいでしょう、あれ。業界初になるかもしれないお香ガチャです。帰りにぜひ引いてみてください」
なんでも、ある展示会で知り合った人とのご縁がきっかけでつくったものだそう。スタンダードなお香に加え、お財布に入れて香りをつけるお香なども入っている。
長川仁三郎商店を取材するのは、今回で2回目。以前伺ったのは3年前でしたね。
「そうです、コロナが流行する前ですよね。この2年でいろんなことが変わってしまって。まず僕が先代から社長を引き継いだっていうのもあるし、商品の売り方やラインナップも変わったんですよ」
「やっていることは変わらなくて。ただひたすらにいいものをつくりたい。その気持ちは変わらずに、新しいことにもチャレンジしてきました」
長川仁三郎商店の創業は、江戸時代の安政元年。160年以上にわたってお香の商売をしてきた。
線香も焼香も、原料は香木と呼ばれるもの。特定の木に含まれる樹脂などが長い年月をかけて熟成し、香りを発するようになる。沈香(じんこう)や白檀(びゃくだん)などの有名どころは、お香に馴染みのない人でも聞き覚えがあるかもしれない。
香木のほか、樹脂が固まったものや漢方などもお香の原料として使われる。長川仁三郎商店では、それらの原料を砕いて粉末状にして、線香メーカーなどに出荷している。
また、自社で調香したオリジナルの焼香も販売。主な販売先となっているのは、お寺や仏具店、葬儀社などだ。
そして最近では、日常使いできる商品も積極的に企画・販売している。
たとえば、らくらく塗香(ずこう)。
塗香とは、パウダー状のお香のこと。通常は塩を入れるような容器が一般的だけれど、必要以上の量がドバッと出てしまうのが課題だった。
そこで田中さんが着目したのが、化粧用のパフ。これを塗香用に改良し、使用量をコントロールしやすくなったことで、人気の商品に。
「この2年は、会社の軸になっている線香の原料と焼香の販売が苦しい状況が続いていて。お葬式とか法事が小規模になったので、焼香や線香の消費量が減ったんですよね」
「これまでと同じことだけをしていたらあかんと。そこで去年、『雑貨EXPO』っていう展覧会に初めて出展したんです」
文具やインテリアが多いなかで、お香の会社が出展するのはめずらしく、反響も大きかった。
「これまで表に出てなかったから、僕らの存在があまりにも知られてなさすぎたんですよね。だからこそ、お香でこんな面白いものあるんやって知ってもらえたことは、すごく会社にとってプラスで。さっきのガチャガチャも、展覧会でのご縁から生まれたんですよ」
その展覧会で人気を集めたのが、昨年新たに発売した「きよめ香」。アルコールが75%配合されたハンドスプレーで、使うとお香の香りがするというもの。
シュッと吹きかけて手に広げるまでは普通のアルコールスプレーと同じ。そこから手の匂いを聞くと、お香のいい香りがする。なんだか不思議な感じです。
「みんな最初は不思議がるんですよ(笑)。これはね、アルコールと一緒に白檀を中心に天然香原料から抽出したオイルを入れていて。お寺さんにも好評なんです。お寺に来た人が手を消毒したときに、お香の香りがするってすごくいいじゃないですか」
「お香の一つである塗香は、仏さんにお参りする前に身を清めるという意味があるんです。そう考えると、アルコールの消毒と、香りで心身を清めるのと、二つの意味でマッチする」
たしかに。これ以上ないくらいぴったりの製品ですね。
「大きいほうが3300円なんですけど、最初サンプルを持って行くと、『アルコールでそれは高いわ』って言われるんです。けど、香りを聞くと『注文するわ』って言ってもらうことが多くて。お客さんが『これはいいもんや』って認めてくれたことが、なによりうれしいですね」
天然の原料を使っているため、香りも長保ちする。お客さんからの口コミで注文を受けることが多いという。
香りのバリエーションを増やすとか、いろいろと工夫もできそうですね。
「そうなんです。以前は今いるお客さんしか見えてなかったけど、今はすごく変わりましたね。どんどん視野を広げていって、販売先を増やさないと生きていけないなと。新たに起業したくらいの気持ちでいます」
新しく入る人も、アイデアがあればどんどん言ってほしい、と田中さん。
どんな人に来てもらいたいですか?
「お客さんの手に渡るのを想像できる人、かな。毎日同じ作業をしてると、ええ加減にやっちゃおうって思ってしまうときもあるじゃないですか。そこで、目の前の商品を使う人のことを想像できるかどうか。それが、仕事のディテールに関わってくると思うんです」
「もう一つは、丁寧さのなかにも効率を考えて仕事に取り組める人。言われたことをやるだけじゃなくて、改善できることがあったらこうしていきましょうって、相談してほしいです。そういうことは大歓迎なので」
社員は全部で12人という、少人数のチーム。風通しはいい環境だと思う。
そのなかで、自分にできることを活かしながら働いているのが、岩本さん。
「中学生くらいのころから、お線香の香りがすごく好きで。家で焚いて癒されてたくらい、身近にあったんです」
「高校は工芸高校に入って、木工家具職人を目指したんですが、職業にするのは難しいなと感じて。それでなにか別の技術を身につけようと、デザインの専門学校に入って、卒業してしばらくしたタイミングで日本仕事百貨の募集を見つけて。お香に興味があったので応募しました」
最初は商品の箱詰めや贈答品の包装など、単純な作業から。
慣れてきたら焼香や香木の重さを測って袋詰めしたり、多当紙という贈答品用の紙を折ったりと、できることを増やしてきた。
包装一つとっても、商品によって異なるため覚えることは多い。まずは一つひとつの作業をきっちりとできるようになることが大切。
「慣れないことも多かったですが、今の自分のレベルに合わせて仕事を任せてもらえたので、それがすごくよかったなと」
通常の商品をつくる仕事以外にも、岩本さんはデザインのスキルを活かした仕事も任せられている。
「新しい商品のパッケージデザインを任せてもらうことがあって。きよめ香のパッケージもわたしがデザインしたんですよ」
そうだったんですね。シンプルでいいデザインだと思いました。
「決まるまでがけっこう大変で(笑)。候補を出して、社内のいろんな人に聞いたんですけど、人によって感性がちがうから意見がバラバラなんですよね。なにがいいのか自分でもわからなくなってしまったりもして」
「ほんとに悩み抜いた末に、お寺で使うものやったらシンプルなほうが受け入れてもらえるだろうということで、あのデザインになりました」
お客さんからの評判も良く、売れ行きは好調。
「任せてもらったものがちゃんと形になって、しかも売れているのは、やっぱりうれしいですよね。やってよかったなってすごく思う。報われました」
岩本さんは、この仕事はどんな人に向いていると思いますか。
「真面目な人がいいんじゃないかなって思います。あとは、誰でも得意なこと、苦手なことがあると思うけど、得意なことを活かして仕事ができたらいい。いろんな作業がありますし、わたしにとってのデザインみたいに、別で身につけたスキルが活かせることもあるので」
もう一人、出荷などの作業を担当している田中俊行さんにも話を聞く。社長の剛史さんの弟で、事務を経たのち、3年前から出荷などを担っている。
「線香メーカーさんに出荷する原料を、質のいいものとそうでないもので選別したり、袋詰めしたり、といった作業をしています。さっき話をしてくれた岩本たちと比べると、力仕事が多い部署ですね」
「お焼香とか線香って、普通に暮らしてたら触れる機会って限られると思うんです。お葬式に使われてる焼香はこうやってつくられてるんや、とか、こんな国から輸入してるんやとか。知らなかったことを知ることができる。それが面白いところやと思います」
俊行さん自身も、小さいころから馴染みのあるお香の香りが好きなのだそう。
「原料を配達に行ったとき、帰りにコンビニに寄ったことがあって。そしたら店員さんに『すごくいい香りしますね』って言われたんですよ。くさいとか言われやんでよかったなって(笑)。うれしかったですね。日本の人はやっぱりこういう香りが好きなんやなって」
「香りが好きな人にとってはすごくいい職場やと思いますよ。新しい商品の企画なんかも、部署関係なしにアイデアを出してつくっていきますしね」
受け継いできた伝統を継承しつつ、新しい時代に合わせた香を、より多くの人に届けていく。
そんな香りの道を、ともに歩む人をお待ちしています。
(2022/4/26 取材 稲本琢仙)
※撮影時はマスクを外していただきました。