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サバは、日本の食卓で馴染み深い魚のひとつです。
ただ生のサバとなると、食べたことがある人は少ないかもしれません。それもそのはず、サバにはアニサキスという寄生虫が寄生していることが多く、天然でも養殖でも、海で育ったものを生で食べることは難しいとされてきました。
今、その概念をくつがえし、海のない埼玉県でサバを養殖し、生食できるようにしようとチャレンジしている人たちがいます。
株式会社温泉道場。埼玉を中心に、おふろcaféなど個性的な温浴施設を運営している会社です。
今回募集するのは、温浴施設「おふろcafé白寿の湯」の支配人。施設の運営に加えて、進行中のサバの養殖プロジェクトを引っ張っていく立場になります。マネジメント経験があれば歓迎とのこと。
どうして温泉施設でサバ養殖?と思ったあなた、ぜひ続きを読んでみてください。
取材に向かったのは、埼玉の児玉郡神川町。JR高崎線の本庄駅で降り、バスに乗り換えて30分ほどで、おふろcafé白寿の湯に到着。
約束の10時に合わせていくと、入り口にはオープンを待つ地元の方たちが。みんな一番風呂を狙っているようだ。
その列に加わって中に入ると、係の人が奥へ案内してくれた。迎えてくれたのは、温泉道場代表の山崎さん。
後ろの水槽では、サバがすいすいと気持ちよさそうに泳いでいる。
温泉道場は、2011年に山崎さんが仲間と立ち上げた会社。
前職のコンサルティング会社での経験を活かして、経営の傾いた温浴施設を再生して自主運営する事業をスタートした。
「このおふろcafé白寿の湯は、温泉道場が創業時に立ち上げた2店舗のうちの一つです。2016年にリブランディングして、おふろcaféとして再スタートしました」
「料理のテーマは『糀』と『発酵』にしたんですよ。今でこそ流行しているテーマですけど、当時はまだめずらしかったんです。そして今は、さらなる進化のために、サバの養殖を昨年から始めました」
サバの養殖… どうしてまた魚の養殖なんでしょう?
「養殖は6年前くらいから興味があって。温浴施設って、水質管理のノウハウがあって、水が豊富。その環境があればチャレンジできるんじゃないかって思ったのと、もう一つはエンターテインメントとして活かせるかもしれないなと考えていて」
「たとえばお客さんが釣ったサバをその場で捌いて食べられるとか。養殖と温泉、どちらか片方をやるんじゃなくて、融合させることでこれまでにない場をつくる。会社としても、今後さらに力を入れていきたいと思っている事業なんです」
山崎さんたちがチャレンジしているのは、サバの閉鎖循環型陸上養殖、というもの。主に海水に生息する魚介類を陸上で育てる養殖方法だ。
自然の海水を使わないため、場所は自由。ビルのなかでも砂漠でも、そして海なし県である埼玉でも魚を養殖できる。
タイやフグでの成功例はあるものの、サバの閉鎖循環型陸上養殖の前例はないそう。
「プロジェクトは、サバの養殖に取り組んでいる会社さんとタッグを組んで進めています。ノウハウを教えてもらいつつ、実験して失敗して、また実験する。その繰り返しの日々で」
「僕たちが挑戦しているのは、サバの食文化を変えていくことなんです。サバって、生だとアニサキスのリスクがあるので、加熱しないと食べれない。サーモンを生で食べるようになったのと同じように、埼玉産のおいしいサバを食べてもらいたいんです」
ゆくゆくはおふろcafé白寿の湯を宿泊もできる施設にして、サバを楽しむオーベルジュとしても運営していきたいと考えているそう。
ここで、実際にサバを飼育している水槽を見せてもらった。
正面玄関の反対側にある第二駐車場の奥に、白い大きな建物がある。
中に入ると、大きい水槽がふたつ。奥には小さな水槽やタンクが並んでいる。
水槽の水は時計回りに流れていて、中にはサバの姿が。
片方の水は透明で、もう片方は濁っている。これは人工的に水を濾過した水槽と、自然に任せた水槽とで、どちらがサバの養殖に適しているのか、実験している最中なのだとか。
欠かせないのは、毎日3、4回の餌やりと、水質のチェック。酸素濃度などを細かくチェックして、記録している。
これまでも養殖の過程でサバを死なせてしまうことがあり、まさに試行錯誤しながら最適な方法を探っているところだ。
「今は二千匹くらいいますね。餌やりとかの基本的な管理は、マニュアル化して誰でもできるようになっています。協力してくれている会社さんに教えてもらいながら、仮説とPDCAをまわすっていうことが大事かなと」
「今回募集する人は、支配人業務が基本にはなりますが、サバの養殖という前例のないチャレンジに興味を持ってくれる人がいいですね。誰も成し遂げていないことを形にする面白さはあると思います」
続いて話を聞いたのが、これらの設備をコーディネートしているフィッシュ・バイオテック株式会社代表の右田さん。オンラインでつないでもらった。
サバ一筋15年。サバの陸上養殖のプラットフォームをつくり、餌の開発や水槽設計、育成システムなどをパッケージ化し、共同研究というかたちで提供している。
「閉鎖循環型陸上養殖ができると、アニサキスフリーだし、餌やりや水質検査を自動化すれば、100歳まで働ける漁業になる。SDGsの観点からも注目していただいている事業です」
「いろんな初めての要素があるなかで、一番意義があると感じているのが、サバの生食文化をつくる、ということなんです」
サバの生食文化をつくる。山崎さんも大事なポイントとして話していたことですね。
「大手回転寿司のバイヤーさんが、『生で食べるとしたら、どの魚が一番おいしいんですか?』って、魚のプロに聞いて回ったことがあるそうです。そうするとみんな口を揃えて、サバが一番おいしいって言うらしいんですね」
「魚のプロはそう言っているけど、現状日本ではサバを生で食べるための環境づくりができていない。消費者も食べたことがないから、食べようとも思わない。だからこそやる価値があると思っているんです」
サバについて熱く語る右田さん。
温泉道場と一緒に事業を進めようと思ったのは、どうしてなんでしょう?
「海なし県の埼玉でやるのが面白いチャレンジだと思ったし、食べてもらうにあたって温泉での集客もある。なにより、温泉に限らず、いろんな資源を使って地域を元気にしたいっていう温泉道場のコンセプトが面白いなと。それでご一緒したいと思いました」
今のところ、養殖は順調なんでしょうか。
「いやぁ、むずかしいですね。順調とは言えないです。ただ、サバ一筋で研究してきた僕らが先陣を切らないことには、どこも参入できない。がんばって、来年の5月に出荷できるところまでいきたいと思っています」
食用になるまでは、1年ほど稚魚を育てる必要がある。新しく入る支配人は、おふろcafé白寿の湯の支配人業務と並行しながら、右田さんとコミュニケーションをとり、養殖事業を進めていく。
「まずは魚が好きで動物が好きで、育てることが好きな人だといいですよね。あともう一つは、社会課題を解決したいっていう気持ちが大事だと思います。陸上養殖なら、高齢者や障がい者も働くことができる。海の資源を奪わないし、生産地と消費地が近いからCO2の排出も少ない」
「大袈裟じゃなく、世の中を変える仕事だと思ってるんです。自分たちががんばった成果で、世の中に貢献できるということを考えると、普通に海で養殖するよりも数十倍価値があることやと思うんですね。それをあなたの手で一緒に成功させませんか、っていうことだと思っています」
「我々も全力でサポートします」と話す右田さん。初めてだらけのことだけど、脇を固めるチームがいるから、前に進めそうな気がしてくる。
ここまで、サバについての話をじっくり聞かせてもらった。とはいえ、今回募集する人は支配人候補として施設の運営に携わりながら、サバのプロジェクトを動かしていくことになる。
配分としては、3分の2が支配人の仕事で、残りがサバの事業、というイメージとのこと。
最後に話を聞いたのは、おふろcafé白寿の湯のマネージャーを務める大城さん。
「僕もサバの養殖に携わるなんて思ってもなかったです(笑)。新しいことにいろいろ挑戦できる環境なので、モチベーションは高く持ってやっています」
おふろcafé白寿の湯には、どんなお客さんが来るんでしょう。
「地元のじいちゃんばあちゃんが多いですね。7割8割くらいがお年寄りの方。前に配属されていた店舗は親子連れが多かったので、どう話しかけるかとか、コミュニケーションの仕方も最初は探り探りでした」
「常連のお客さまはすごく優しくて。ビンゴ大会を定期的に開催しているんですけど、景品を並べるのを手伝ってくれたり、終わったあとにカードを回収してくれたり。すごくお世話になってます。おふろcafé白寿の湯を好きでいてくれてるんだなって感じます」
マネージャーとして、パートやアルバイトの管理も担っている大城さん。
支配人とも連携しながら、いいチームをつくっていきたいという。
「ちっちゃな不満や悩みを聞いて、改善したり。話してみないと、その人の考えていることってわかりません。『最近どうですか?』みたいな感じで、雑談ベースで話すなかで拾ってあげるのが大事かなって思っています」
「たとえば、僕がお食事処のホールに入っていて、フロントの状況がわからないこともよくあって。すごく忙しい日は、後でフロントに顔を出して、『大変でしたね』って声をかけてあげる。一声かけるだけでも、人の気持ちって変わるんじゃないかなって思ってます。ちょっとした気遣いの積み重ねが大きいんじゃないかな」
大城さんはどんな人と一緒に働きたいですか?
「やっぱり支配人だからこそ、スタッフ一人ひとりの声を聞いて寄り添ってくれる人だといいなと思います。温泉も、来てくれるお客さんも、そしてサバも。おふろcafé白寿の湯自体を好きになってくれたらうれしいですね」
温浴施設で始まった、新しい食文化をつくるチャレンジ。
前例がないぶん、困難に直面することもあると思います。それでも、仲間と一緒に乗り越えていくことで、これまでにない景色を見ることができる。
その仲間となってくれる人をお待ちしています。
(2022/5/16 取材 稲本琢仙)
※撮影時はマスクを外していただきました。