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友人と釣りに行ったとき、釣った魚をその場で捌いて、塩をかけて焼きました。凝った料理ではないけれど、無性においしかった記憶が残っています。

コスメティックブランド「SHIRO」を展開する株式会社シロは、1989年にこのまちで創業しました。
「自分たちが毎日使いたいものをつくる 」というシンプルな想いから、企画・製造・販売のすべてを自社で手掛けています。
創業から約30年。ブランドが生まれ育った砂川市を今より少しでも元気にしたい。そのために、シロは新しくレストランをつくります。
メインは、地元の素材を中心に、素材の味を最大限活かした薪火料理。加えて、お店の目の前で野菜を育てたり、訪れた人が自ら調理できる機会を設けたり。食を通して、世界中から人が集うような場所を目指しています。
今回募集するのは、新しくできるレストランのシェフ。
その土地でしか味わえない料理や体験を提供したいと思う人にとって、面白い仕事だと思います。
表参道駅を出てすぐにある、意匠的なオフホワイトのビルに、シロの本社がある。
エレベーターで9階まで上り、受付へ。
迎えてくれたのは、今回のプロジェクトで事務局の仕事を担っている武田さん。シロの前身、株式会社ローレルの時代から働いている。

さまざまな製品をつくっていくなかで、徐々に自分たちのブランドをつくりたいと思うようになった。
「やっぱりクライアントあっての製品なので、原価とか成分とかいろいろ制約もあって。さらには、自分たちの利益も考えないといけない」
「そうして出来上がったものは、本当に自分が使いたいものなのか? 代表の今井は疑問を感じたそうなんです」
せっかくつくるなら、自分たちが毎日使いたいと思える製品をつくりたい。そんな想いではじまったのが、自社ブランド「LAUREL」だった。
ブランドの特徴は、天然素材の魅力を最大限に活かした製品。
北海道栗山町の酒かすや函館市のがごめ昆布、徳島県のゆずに静岡県のアロエなど。今井さん自ら世界中の生産者のもとへ足を運び、つくり手の想いを汲み取って製品をつくりあげていった。

国内に27店舗、ロンドンに2店舗の直営店を構え、台湾とアメリカではECサイトを展開するなど、国内外で多くの人に知られるようになった。

そして今年の冬、需要が大きくなったことに伴って、砂川にある工場をリニューアルすることに。
「SHIROがここまで大きくなれたのは、お客さまや生産者さま、協力会社さま、そして創業から支えてくれた砂川市と市民のみなさまのおかげだと思っていて」
「砂川市に恩返しをしたいと考えたときに、ただの工場建設ではなく、もっと砂川市のためになる場所をつくろうという話になったんです」
そうして立ち上がったのが“みんなのすながわプロジェクト”。
市内にある小学校の跡地を活用して、シロの工場を含む複合施設をつくる計画だ。
製品づくりが見えるようにガラス張りの設計がされた工場や、ブランド初となるオリジナルの香料をつくることができるフレグランスバー。
年代問わず、みんなが自由に過ごせるホールに、化粧品とおなじく素材にこだわった食を提供するSHIROカフェやレストランなど、さまざまな企画が進んでいる。

「ただ、地域の人たちと一緒におこなったワークショップやアンケートで、大人にとっての居場所が砂川にないことに気づいて。それなら、子どもも大人もみんなが楽しめるような場所にしていこうよって、プロジェクトの方向が変わっていったんです」
長時間落ち着いて勉強や作業ができるスペースはどうか、ジェンダーレスに配慮した設計も必要じゃないか、子どもがアスレチックで遊んでいるのを親が安心して見えるようにしたらどうかなど。
地域の人も巻き込んで、誰も何も排除しない、みんなが集える場所を目指す。

「ここ砂川の土地でしか味わえない料理や体験を追求するレストランにしたいと思っていて。根底には、製品づくりと同じ想いがあるんです」
安価で簡単に食べものが手に入るようになった反面、使われている食材のルーツが見えづらくなってしまった今の世の中。
訪れる人が安心して美味しいものを食べられるように。いつどこで誰が、どんな想いでつくったものなのかを理解して伝えていきたい。
「だからこそ、素材からこだわったレストランをつくりたくて。自分たちで一から育てたり、顔の見える農家さんの野菜を使ったり。提供するメニューも、素材の良さを最大限活かせるように考えています」
「素材の調達から料理の仕方まで、すべてを徹底することで、地元砂川や北海道内はもちろん、世界中から人が訪れたくなるような場所にできるよう準備している段階です」
「そういった意味で、このレストランには高尾さんしかいないと思ったんですよ」と、武田さんが紹介してくれたのは、新しくできるレストランの監修を担当する高尾さん。
これから入る人は、高尾さんと相談しながらメニューの考案や店舗づくりに取り組んでいくことになる。
現在、札幌市にあるレストラン「TAKAO」でシェフを務めており、今回はオンラインで話を聞いた。

TAKAOを開業する前、支笏湖(しこつこ)の国立公園内にあるレストランで働いていた高尾さん。お店は公園内にあったので、通勤で毎日山に入っていた。
アイヌの方をはじめとする森仲間に、森の食材についての知識や経験を教えてもらい、それを活かした料理をつくってきたそう。
たとえば、オオウバユリ。ゆり根をすりつぶしてデンプンをとり、道内の小麦粉と合わせたパスタをつくったり、シケレペというミカン科の木はチョコに練り込んで、風味付けをしたり。ほかにも松の木を発酵させてパン生地に混ぜたり、木の皮を発酵させてスープに入れたりなど。
「それらの食材って、とくに珍しいものではなくて身近にあるものなんですね。でも、木を折るといい香りがするとか、そういうことを知っている人って意外と少ない。だからこそ面白いというか」
「僕は、北海道のものを使って料理を表現したいと思っていて。味だけではなくて、食べた後にその土地の情景や風景が見えるような、そんな余韻を感じられる料理を目指してきました」
今回のレストランは、その延長線上にあるという。薪火料理をテーマにメニューを考えているとのことだけれど、どんな料理になるんでしょう?
「よりダイレクトに素材を味わってもらいたいというか。イメージとしては、地元でとれた鹿肉を薪火で焼いて、近くの農家さんの野菜を突き合わせるだけ、みたいな。火を使ったシンプルな調理方法で、この場所でしか食べられない力強いメニューをつくっていきます」
「薪火の熱って、200〜500℃という広い温度帯が特徴なんです。薪に使う木の種類によっても、香りをつけることができたり、温度変化の波がちがったりする。それらを調節して、素材の旨味を最大限引き出そうと思っています」
地元素材を活かした料理の提供に加えて、大切にしているのはこの場所でしかできない体験。訪れた人同士のコミュニケーションが活発になるような場を目指している。
たとえば、お客さん自身が野菜を採れる畑や、その野菜を自分たちで焼けるようなスペース。子どもも大人も、一緒に楽しめるような体験を考えているとのこと。

「自分たちの畑で野菜を採るほかにも、地元の生産者さんと近い距離でつながることもできる。それって都会だとなかなか難しいと思うんです。雄大な自然に囲まれたこの施設ならではですよね。純粋に料理を極めたい人にとって、いい環境だと思います」
オープンに向けたメニューは基本的に高尾さんが決めているところ。新しく入る人も、その人の経験に応じて一緒に考えていってほしいとのこと。加えて、調理経験が3年以上あると望ましい。
砂川の自然や地域の人と密接に関わり合いながら働くことになるので、日々いろいろなことを吸収できると思うし、そこで得た気づきや発見が料理や体験のヒントになると思う。
「自主性があるというか、型にはまらないような方がいいかなと思っていて。立場的には僕がプロデュースするみたいな感じですけど、半ば同志なのでこういう料理がしたいって話もしたくて」
「僕自身も新しい料理を追究してきたけど、引き出しには限界があると感じていて。新しく来られる方からも、こういう食材ありますよ、とかこういう調理の仕方はどうですかね?って提案してもらいたい。そんな会話を重ねることで、新しい料理も生まれると思うんです」
ふだん食べている野菜や、まちのなかにある木など。身近な素材にも、きっとまだまだ知らない表現が眠っているはず。そんな発見を面白がれる人だと、新しい場所づくりも楽しんでいけると思う。

「僕の料理は誰かのものを真似しているわけではないので、世界中のどこに行ってもやっていないことをやっている感覚はあって。新しい料理を追究して、お客さまにも美味しいねって言ってもらえたら最高ですよね」
素材の魅力を活かす。シンプルだからこそ、その先の人にもまっすぐ届く。SHIROのブランドのあり方も高尾さんの料理も、共通しているものがある気がします。
シロがはじめる、砂川でのまちづくり。
人にとって自然にとって、みんながより幸せになるために。ここでしかできない料理と体験を、シロはみんなと一緒につくっていきます。
(2022/03/16 取材 杉本丞)
※撮影時は、マスクを外していただきました。