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「うちの会社は、ただ課題を解決して終わりではないんです。正解のないこの時代に、これから起こりうる課題を見つけて持続的に対応できる人材を生み出すことが、大切だと感じています」
そう話してくれたのは、Barbara Pool代表の井上さん。
株式会社Barbara Poolは、地方創生や教育事業を軸にしつつ、広告などのクリエイティブな事業にも取り組んでいる会社です。
目の前の課題を解決だけでなく、その地域が自走できるようになるまでパートナーとして関わりつづける。掲げているのは「社会にあたたかいイノベーションを起こす」というビジョン。
今回は企業や地域の課題をあらゆる角度から解決に導く、プロジェクトマネージャーを募集します。
広告会社や制作の経験がある人を優遇していますが、地域創生や教育に興味がある人であればぜひ応募ください。あわせて、デザイナー、エンジニア、広報担当も募集します。
現状から抜け出して0から1をつくっていきたいと考えている人は、ぜひ読んでみてください。
東京の東。隅田川を渡ってすぐの住宅街。
森下は、蔵前や清澄白河などに挟まれた場所で、最近は新しいお店も増えている。
Barbara Poolのオフィスは、そんな下町にある古民家をリノベーションしている。
約束の時間より少し早く到着して、外で写真を撮っていると、「2階へどうぞ」と代表の井上さんが声をかけてくれた。
狭くて急な階段を上がると、モダンな空間が現れる。
美しい茶碗に入れられたお茶を飲みながら、話を聞く。
井上さんはBarbara Poolを立ち上げる前、広告代理店で営業をしていた。
「大学時代からアートイベントのプロデュースなど、クリエイティブなことを専門にやってきました。いろいろな企画をつくれると思って広告代理店に入ったんですが、営業に配属になって。企画やクリエイティブが、学生時代より少し遠く感じたんです」
当時は既存の事業を進行していくことがほとんどで、新しい企画を担当することはなかった。もっと0から1を生み出す仕事がしたい、ほかにもっと最適な解があるのに、との思いがあった。
そんなときに東日本大震災が起こる。
多くの同業者がビジネスチャンスとも捉えるなか、井上さんはそう考えられなかった。
「仙台にいる祖母が心配で仕方ありませんでした。私は『ビジネス視点だけで物事を考えられるタイプではない』と気づいて。でも、仕事にどっぷりだったから職場にいない自分が想像できなくて、なかなか退職を決意できませんでした」
これからは新しい価値観の時代になる。そう考えた井上さんは、先輩のクリエイティブディレクターの事務所に顔を出すようになる。
休み返上で学びにいく。そこでの活動が評価され、独り立ちを決意。震える手で退職届を出した井上さんは、2013年にBarbara Poolを立ち上げる。
立ち上げ初期は、それまでの経験を活かしたCM制作などのクリエイティブが中心だった。
「1、2年過ぎたころに廣部さんが参画してくれて、業務の領域がガラッと変わりましたね」
そう言って井上さんが紹介してくれたのが、廣部さん。
「はじめはBarbara Poolにゆるりと参画したんですよ」
かつては井上さんと同じ広告代理店で働いていた。
廣部さんは仕事で関わった有田焼に興味を持ち、広告代理店を辞めて有田に移住。その後、井上さんと出会い、いくつかの事業で一緒に協働したあと、Barbara Poolに正式参画となった。
どんな仕事をしてきたのだろう。
佐世保市を中心とした広域連携事業の「西九州食財プロジェクト」の例をあげてくれた。
廣部さんは産地視察をしているときに、養殖の真鯛の餌に、ぶどうの種が混ぜられていることを知る。ただ、それがなぜよいか生産者自身に聞いてみるが、それが消費者視点になってないことに気づいた。
そこで、ぶどうの種を混ぜている理由を聞いてみた。
「そしたら『ポリフェノールが豊富だから』って生産者が答えるんで、ポリフェノールって何がいいんですかと聞くと、『魚の血行をよくする効果があると』と話してくれて」
「血行がよくなると何がいいですか?って聞いたら、『血合いがきれいになり弾力が出て、旨味につながる』という話になりました。ここで消費者にとっての価値につながるようになるんですよね」
実際にぶどうの種を餌にしている鯛は、旨味が向上していることも確かめられた。
そこで消費者に、この真鯛の価値を伝えることを目的として、「ぶどうを入れたブランドネームにしましょう」と提案する。
「長崎県産の養殖真鯛」から「長崎県産のぶどう真鯛」へ。海外でも販売され、多くの売上をあげる生産者も現れた。
Barbara Poolは、答えを提供して終わりではない。
そういうやり方だと、いつまでも答えを提供し続けなければいけない。社会の課題はまだまだたくさんあるのに、離れられなくなってしまう。
だから一緒に問いを見つけるところからはじめて、一緒に考えてきた。
でももっと持続的なやり方があるのではないかと考えるようになる。
すると井上さん。
「そうやって地域創生をしていたら、地域のクリエイターや子どもたち自身が地域の課題を解決できるるようになったら、より良いのではと思いました」
「つまり課題に対して、全方位から考え、持続的に解決できる人を地域に生み出すこと。本質を突き詰めると教育まで行き着いちゃって」
Barbara Poolが2019年からはじめたのは、日本でまだ認知度の低いSTEAM教育の推進。
STEAM教育とは、科学(Science)、技術(Technology)、工学(Engineering)、アート(Art)、数学(Mathematics)の5つの領域を対象とした分野横断的な教育理念のことで、もともとは、アメリカで発祥したSTEMという理数教育にAの創造性教育を加えたもの。
たとえばアメリカでは、子どもがNASAに行って研究者と一緒にロボットをつくったり、PIXARでプロのアニメーターとアニメーションを制作したりするなど、民間企業も一緒になって創造性を育もうとするクリエイティブ教育が盛んに行われている。
「アメリカなど海外に比べて、日本には創造性を育むArtの教育が圧倒的に少ないんです。自分の住む国や地域がこれからどうなっていくのか、子どもたちが課題を見つけ、学んだことを活かして多方面から解決策を見出す。その過程を発信していくことがこれからの日本の教育に必要です」
STEAM教育を日本でもしっかりと広めていきたい。
そう考えた井上さんは、まずSTEAM教育のサイトを自社で立ち上げる。研究者やクリエイターなど、あらゆる取り組みの最前線にいる方々にインタビューを行い、記事などを通して情報発信していった。
Barbara Poolが立ち上げた「STEAM JAPAN AWARD」では、中高生が自ら課題を設定し、解決に向けたアイデアを形にする取り組みにスポットを当てている。
たとえば、2021年のアワードでは、「フードロス」をテーマにゲームをつくった高校生が金賞を受賞。作成者がオリジナルでつくったイラストやキャラクターのアート性も評価された。
中高生の間では新しい流れが生まれつつあるSTEAM教育。一方で、大人のほうが新しい教育に順応できていない難しさもある。
「自分たちが受けてきた、知識を詰め込む教育が『教育』だと思っている保護者は、いまだに多いんです。アワードに参加してロボットをつくっていた子が、『受験に関係ないからやめなさい』って親に言われた、と話してくれたこともありました」
Barbara Poolが大分県でおこなった「OITA GIRLS 8 PROJECT」というプロジェクトは、STEAM教育の過程を実践する教育事業のひとつ。自治体からの依頼を受け、当初の予定では世の中で活躍する女性の講演会を大分の女子中高生に聞いてもらうイベントだった。
インプットだけで終わってしまうことが多い講演会。そこで講演にプラスして、ワークショップやプレゼンテーション講座なども加えて、参加者が自分の考えを発信するところまでプログラムに含めた。
「はじめは『私に何ができるんだろう』って不安そうにしていた高校生が、同じ年代の海外の子が堂々と発表しているのを見て、火がついたんですよね」
「自分もやらないと!って立ち上がって、6ヶ月間のプログラムでプレゼンの練習もして。もちろん最初の予定にはないことなんですけど、自然と中高生たちに自発性が芽生えている。そういうのが大事だと思っています」
「OITA GIRLS 8 PROJECT」によって、参加した女子中高生たちの未来につながっていたかもしれない。
ただ、もっと持続可能なものにするためには、一度だけのアワードやワークショップを開催して終わるのではなく、継続していくようなやり方が大切なんじゃないか。
廣部さんが「草加クリエイティブラボ」について教えてくれた。
「草加クリエイティブラボ」は埼玉県草加市の地元の人たちが、クリエイティブ人材からデザインなどについて学び、その学んだことを生かして地元の企業が実際に抱えている課題の解決に挑戦するというワークショップ。
なんと今年で4年目を迎えて、これまでに卒業した地元クリエイターは50名を超えた。
「ラボの卒業生たちが地域のインフラになるんですよね。例えば草加市にある古い家具屋さんを、ワークスペースとしてリノベーションしました。すると、その場所を介して、卒業生が新しいプロジェクトをはじめていきました」
点が線になり、面となっていくように、連鎖的に社会課題が解決されていくようになった。
自分たちが必要なくなるくらいに、地域が動き出しているのを見ると、きっと仕事のやりがいを感じると思う。
最後にどんな人と働きたいですか、と尋ねると、「僕からいいですか?」と廣部さん。
「仕事を自分でつくり出せる人ですね。あとは地域が好きな人でしょうか。課題解決ってすぐに終わることじゃないんですけど、地域の方とお付き合いしていると、相手が行動変容に気づく瞬間があるんです」
行動変容?
「たとえば、教育事業なんかはまさにそうですよね。高校生たちって、ちょっとしたことで本当に変わるんですよ。その瞬間に立ち会いたいっていう人が入ってくれるとすごくいいなあと思ったりしますね」
井上さんはどうですか?
「地方創生や教育といったうちが抱えてる領域以外でも全然大丈夫ですので、自分でやってみたいと意志を持って突き進める主体性のある方ですね」
「つくられた枠のなかだと、本当にその人の能力を発揮できるのかなって、いつも思うんですよ。社会をより良いものにしたい、そこに熱い想いがある方は是非、会いたいです」
社会を大きく変えていくには、課題を見つけて持続的に対応できる人を生み出すこと。
そのやり方は1つではないはず。Barbara Poolはこれからも新しいやり方を見つけていくと思いました。
働いてみると、きっと自分が変わっていく瞬間も感じるはずです。
(2022/4/7取材 小河彩菜)
※撮影時はマスクを外していただきました。