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山菜料理発祥の宿
山と生きる
知恵を学び、伝える

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

山形県のほぼ中央にそびえたつ月山(がっさん)。

ブナの原生林がふくよかな土壌をたくわえ、冬になると6メートルもの雪が積もるといいます。

「腐葉土になった土は、あたたかくてふかふかしています。そこに雨や雪解け水が染み込んで、40年、50年という長い年月をかけてろ過され、麓に湧き出てくる。そう聞くと、今目の前にあるコップ一杯の水が、心に沁みる一杯になる。山のなかには、こういった物語がたくさんあるんですよね」

そう教えてくれたのは、出羽屋の4代目・佐藤治樹(はるき)さんです。

出羽屋は、出羽三山の一つ・月山の麓にある、創業94年のお宿です。

地元で食べられてきた「山のもの」を「山菜料理」という文化に昇華させたことから、山菜料理発祥の宿として知られています。

4代目に代替わりしてからは、「山と生きる、山に生きる。」をヴィジョンに掲げ、お客さんの目の前で料理をつくり、会話を楽しむ一日一組限定の「シェフズテーブル」や、一緒に山を歩き、その場で料理を食べていただく「月山テロワール」、季節の山菜を届けるオンラインショップなど、さまざまな取り組みを展開。ここでしかできない体験は、雑誌やメディアでも数多く取り上げられています。

今回は、そんな出羽屋でサービススタッフと調理する人、企画・広報の担当者を募集します。

山菜のこと、山のこと、山と生きる知恵などに興味があれば、経験がなくてもよいそうです。

 

山形県山形市。駅前のバスターミナルから鶴岡・庄内行きのバスに乗り込んで30分ほどで、最寄りの西川バスストップへ到着。ここから宿へは送迎車で5分ほど。

月山へ続く通りを一本入ると、趣のある建物が見えた。

一歩足を踏み入れると、田舎のおばあちゃん家に来たような、なんだか懐かしい感じ。

受付のすぐ隣にある囲炉裏と、吊り下げられた鉄瓶。通りがかった茶室の裏には、ドクダミと紅花が干してある。

館内は、客室が7室と、中庭に面した宴会場が2つ、お昼のみ営業しているそば処が一軒。加えて、一日一組限定のシェフズテーブルのための蔵が一棟。上階には、月山の水を沸かしたお風呂と、宿で働く方々の住居がある。

始めにお話を聞いたのは、7年前に嫁いできたという、若女将の佐藤悠美さん。

25歳のときに起業し、広告代理業の会社を経営していたそう。出羽屋に来てからは山のめぐみに魅了され、この宿の良さを再発見し、光を当ててきた。

「昔、この辺りは出羽三山参りに行く人や鉱山で栄えた町で、三山鉄道が走っていました。今はもう廃線になっていますが、その終着駅の目の前に宿を構えたのが出羽屋の始まりです」

はじめは行者さんをもてなす宿だったものの、2代目の佐藤邦治さんが全国を食べ歩き、「普段自分たちが食べている山のものが一番おいしいのでは」と、山のものを「山菜料理」として確立していった。

「3年前に事業継承しまして、そこからは本当に、山と生きている、ということを自分たちも感じているし、伝えていきたいなと思っています」

山と生きている。

「出羽屋で調理に使っている山菜も、鮎も水も、ここで採れたものです。山菜も地元の山の名人たちが採って卸してくれています。山や地域の人がいて、自分たちの営みができているんですよね」

「西川町は人口も5000人を切り、仕事もなり手も減ってきています。ゆくゆくは地域商社のようになれたら、と考えているんですけど、まずは自分たちにできるところから。山の魅力を伝えることで、未来の山と地域を守ることにつながるかもしれません」

そうして始まったのが、お客さんの目の前で料理をつくり、会話を楽しむ「シェフズテーブル」と、自然のなかで料理を味わう「月山テロワール」だ。

悠美さんたちが山のことを伝えると、お客さんの感動も変わってくるそう。

「一度人の手が入った山は、ずっと誰かが手をかけ続けないと荒れてしまいます。『今召し上がっている山菜やキノコを“食べる”ということ自体が、自然の生態系を守っているんですよ』とお客さまにお伝えすると、すごく喜んでくださって。定期的に食べよう、って、また来ていただけるのだなと感じています」

 

ここで、お子さんの用事に付き添っていた4代目の佐藤治樹(はるき)さんが帰宅。話の輪に加わってもらった。

「私はここの生まれ育ちでして。小さいときは、どうして祖父が月山にこだわるのか分からなかったんです」

けれど、進学のために東京に出て戻ってきたとき、山に入ってはっとさせられたそう。

「小さいころも、従業員さんに交ざって山菜の下処理を手伝ったりしていたんですけど。山に入って、山菜が生えているのを見ると、見え方が全然違って面白かったんです」

「ほら、学校の授業でプールにダイブする感覚と、自然のなかでドキドキしながら川にダイブするときの感覚って、全く違うじゃないですか。水の冷たさや、川の広さ。そういう自然ならではの感覚ってすごく正直だなと思いますし、伝える楽しさもあるなと感じています」

シェフズテーブルでは、治樹さんは料理人として胃を満たすだけでなく、山の語り部にもなり、お客さんの心も満たす。

「そのときに出てくる言葉は、やっぱり体験からくるものです。…だから本当は、宿のスタッフみんなで山歩きをしたい。山菜採りの名人から山菜や山の話を聞いたり、採ったり、みんなで感じながら共有して、山の伝道師みたいな人を増やしたいんですよね」

そんな想いを汲みつつ、軽やかに働くスタッフの一人が、大村さん。

働き始めてもうすぐ1年。もともと山形市内でバリスタをしていて、3年前、友人づてに出羽屋のみなさんと出会った。

「出会って1か月後くらいですかね、ちょうどジビエの獲れる季節になると、4代目から『クマが獲れました』『カモが獲れました』とお声かけいただくことが増えまして。気がつけば一緒にカヌーに乗ったり、山菜を採りに行ったり、子守りもしたり(笑)、っていう流れから出羽屋に入ってきた感じですね」

日々の仕事は体力勝負の大変さもあるという。

「朝の食事出しに始まり、チェックアウトが済んだお部屋から掃除。お昼はそば処の営業があって、終わったら少し休憩をとります。チェックインが始まる前にお客さまをお迎えする準備をして、夜は食事出しと片付け、というのがだいたいの流れです」

布団の上げ下げや食事出しなど、てきぱき動く場面もあれば、お客さんとのコミュニケーションのなかで気づいた食の好みや趣味など、メモにのこしておく細やかさが必要な場面もある。

「ぼくは少し離れたところにアパートを借りていますが、仕事が続く日はここに住み込んでいます。新しく入られる方も、住み込みで働きつつ部屋を探してもいいかもしれませんね」

サービススタッフは全員で4人。新しく入る方は、大村さんから教わることも多くなる。

「ぼくは人とコミュニケーションをとる仕事が面白いなと思うし、自分の手を介したものがお客さまに直接届く、その光景に携わりたいなっていう思いがあるんです」

「たとえば、お客さまにお食事をお出しするとき、地域の人や4代目やみんなから聞いた話を総合してお客さまにお伝えするんです。そうすると、『出羽屋の4代目の方ですか?』って言われたりする(笑)。そのくらい、お客さまがぼくの説明に納得してくださったのかなと。料理を口にしたときの、感動なさっている表情が見られるとうれしいですね」

「だけどまだまだ勉強中です」と続ける大村さん。山菜やキノコだけでも年間100種類ほど扱うため、ひとつずつ覚えているところ。

たとえば、春の代表的な山菜のこごみは、青こごみ、赤こごみ、油こごみと3種類もある。

形や色も違うけれど、口にしたときのぬめり感や、シャキシャキ感が全然違うのだそう。

大村さんは、どうやって覚えているんですか?

「ぼくは話を聞きながら食べます。自分の体験からじゃないととっさに言葉が出てこないので、調理場に行って、つまみ食いですね。下茹でのスタッフの方がすごく話し上手で、訊くといろいろ教えてくれるんですよ」

コミュニケーションがとりやすい環境なんですね。

すると、悠美さん。

「手が空くと、不思議とみんな調理場に集まるよね。忙しいときは黙々と仕事をしますけど、ちょっと空いた時間はけっこう和やかに過ごしています」

 

そんな調理場の中心にいるのが、治樹さんの弟である明希菜さん。

「まかないもここでみんなで食べるんですけど、そのときに『今日はこんな声がお客さんから届いたよ』とか『あなた今日元気?』とか『おいしかったからこれ食べて』とか。なんでもない会話が大事だし、そういうところに自分の求めている田舎っぽさがあって、素敵だなぁと思います」

とてもゆっくりと話す明希菜さん。大学進学のために一度山形を離れるも、7年前に戻ってきてからは、調理のかたわらで畑仕事を楽しんでいる。

田舎が大好きなんですね。

「おじいちゃん子だったので、小さいころはおじいちゃんになりたい!って言っていました。おいしいものはみんなに食べてほしい人で、『おいしいから来てくれ』みたいな感じ。おじいちゃんの話が聞きたくてみんな囲炉裏に集まってくるような、とても愛されていた人なんです」

「おじいちゃんと全く同じにはなれないけど、地域の人たちとの関係だったり、山への向き合い方、畑仕事、そういうものに全力で向かっていく姿勢を通して、おじいちゃんに近づけたらいいなって思います」

一日一組限定のシェフズテーブルに治樹さんが立ち、宿に泊まる方にお出しする美味山菜コースの調理は明希菜さんが担う。

「あぁ、懐かしい」と思ってもらえるような、滋味深い感じを大切にしているという。

「たとえば乾物ひとつとっても、戻すときは、お湯で戻すのか水で戻すのか。煮るときは、銅鍋を使うのかアルミ鍋を使うのか。それだけで、ふっくら感が大きく変わります」

「お皿に盛ったらほんの一口ですし、できあがりの見た目では分からないことかもしれないですけど、そのひと手間をかけることが大事で。それがもしかしたら、優しい味とか雰囲気につながるのかなって思います」

募集する調理スタッフも、出羽屋に受け継がれている調理法をもとに調理全般を担う。

朝の仕入れから始まり、朝食の準備、お昼のそば処の調理、夕食の準備と、5名の調理スタッフが休みをとりつつ携わる。

決まった担当場所を持つというよりは、その日届いた食材に合わせてみんなで進めていくそう。

調理経験や技術のある人というより、出羽屋の考え方や扱うものに興味のある人がいい。

「シンプルにおいしいものを提供したいので、それほど複雑なことはしていません。ちょっとした包丁さばきができれば大丈夫です。それよりも、葉っぱを取ったり乾物を戻したりといった下処理はみんなで一緒にやるので、会話が好きな方。あとは扱う食材が本当に日に日に変わるので、そういうことに興味がある方に来てほしいなと思います」

山のめぐみを受けとり、山を活かす。

その循環がとても印象的でした。

人と関わることが好きな人ならきっと、瑞々しい山の空気を感じながら、気持ちよく働けると思います。

(2022/7/19取材 倉島友香)

※撮影時はマスクを外していただきました。

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