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一膳に込められた技と誇り

1.5mmに削られた八角形の箸先。

手に取ると、すっと手に馴染んでいく。

マルナオの職人がこだわり抜いたお箸には、ものづくりの誇りを感じます。

新潟県三条市に本社を構えるマルナオは、木を使ったお箸やカトラリーをつくっている会社です。三条市にある工場と店舗に加えて、直営店は東京の青山とフランスのパリの2つ。

今回は青山にある「マルナオ青山」で、販売や営業に携わるスタッフを募集します。

マルナオ青山で販売をしながら、全国の百貨店で開かれるポップアップストアでの販売、商品の営業など、お客さんへマルナオの魅力を伝える仕事です。

これからさらに世界に広がろうとしている、マルナオのお箸。マルナオのものづくりの奥深さをぜひ知ってください。



表参道駅の改札を抜けて、地上に上がる。多くの人が行き交う青山通りを、渋谷方面へ3分ほど歩いていく。

一本小脇の道に入ると、結婚式場やフランス料理店があって、なんとも青山らしい。

1階にアパレルショップが入るビルの2階に、マルナオ青山がある。

店内に入ると、やわらかなライトに照らされて、たくさんのお箸が展示されている。お箸はどれも落ち着いた色合いで、木そのものが持つ味わいを感じる。

「主役は料理で、お箸は脇役。僕らは存在を感じないお箸をつくるのが使命だと思っています」

そう声をかけてくれたのは、代表の福田さん。

マルナオのお箸の一番の特徴は、その箸先にある。

わずか1.5mmの直径に削られた八角形の箸先は、目を凝らしてやっと角が見つけられるほど。

口当たりの違和感を限りなく減らす、細い箸先。円でなく八角形である理由は、こまかな角によって食べ物をつかみやすいようにしているから。

「お箸を持つ部分も八角形で。八角形だと中指にちょうど45度の角度で当たるので、お箸と手の間に隙間が生まれないんです」

実際に手に取って、動かしてみる。自然な持ち心地で、ぴったり手にフィットしていて、指先を動かしているかのよう。

「日本には割り箸のように持ち手から箸先まで四角のものか、四角の角を全体的に丸く削ったお箸がほとんど。四角の角を丸くするのは簡単で、大量生産に適しているんですが、どうしてもお箸と手の間に隙間ができやすいんです」

マルナオのお箸が出来あがるまでには、切削、研磨、仕上げなど、少ないものでも98ほどの工程があるという。これは、機械による大量生産では実現できないこと。

「八角形だと程よく面があるので、テーブルに置いたときも転がりにくい。お箸を使う所作もきれいに見えるんですよ」

マルナオがお箸をつくり始めたのは、今から20年ほど前。

寺社や仏閣を装飾する彫刻師だった福田さんの祖父が、地元三条市で創業したマルナオ。大工が木材に直線を引くのに使う、墨壺車(すみつぼぐるま)をつくることから始まった。

「小さいころは学校から帰ったら、いつも真っ直ぐ工場に行って。工場で出た端材が溜まっている木のプールみたいなところで、夢中になって端材で車やロボットをつくっていましたね」

高度経済成長といった時代の変化に伴い、大工道具の需要も高まっていく。2代目の父は、木に加えてプラスチックも使って、大工道具の量産化に踏み切った。

福田さんが大学卒業後に地元へ戻ったときも、マルナオは変わらずに大工道具だけをつくっていた。しかし、人口減少で住宅着工数も減り、大工道具の需要も少なくなってきていた。

そこで福田さんは大工道具をつくる傍ら、木を使った時計やワインラックなど、新しい製品開発を進める。

「いろいろなものをつくったんですが、うちが専門としてきたのは、大工道具。だからこそ、マルナオは人間が使う『道具』をつくることが得意だと気づいたんです」

ちょうどそのころの日本は、コンビニエンスストアが一気に普及した時代。お弁当についているお箸は、食べ終わったら捨てるものという風潮が広がっていた。

お箸は手で扱い、口の中へ食べ物を運ぶ道具。そして日本人は木でできたお箸を好んでいる。では、マルナオの技術を活かしたお箸をつくってみるのはどうだろうか。

「百貨店に行って、一番いいお箸を見せてくださいって店員さんに聞いてみるんです。そうすると、塗りの工芸が施された、きらびやかなお箸を紹介されるんですね」

「塗りのお箸は、伝統としてもちろん素晴らしい。ただ、僕はお箸は食べるための道具という意識が強かったから、見た目よりも使って素晴らしいと感じるお箸をつくりたいと思ったんです」

たしかにお箸を選ぶときは、デザインや長さから決めることが多く、素材やつくり手のことを考えたことは少ない気がする。

「つくったお箸を持って営業に行っても、バイヤーさんもはじめは半信半疑で。見た目の良さを重視してきたから、そうでないマルナオのお箸はあまりに素朴に見えたんでしょうね」

マルナオのお箸は機能に加えて、材料にも強いこだわりがある。

「日本で生育する木は密度が低くて、水を中に吸いやすいんです。たとえば、お味噌汁や醤油がお箸に染み込んで、その味を食事中ずっと感じる、とか」

「いろいろな料理を食べるのに、前の味を口に含まなきゃいけないのは残念じゃないですか。フランス料理などのカトラリーと違って、食事中に替えることもできないし」

水分を含みにくいよう、マルナオのお箸はインドネシアやメキシコなどで育った密度の高い木を使う。それらは仏壇や仏具に多く用いられる、黒檀(こくたん)や紫檀(したん)などといった非常に硬い木だという。

丈夫な素材だけれど、毎日使うとやはり傷んでしまう。そんなときは表面を削り直せば新品同様になる、と福田さん。

マルナオで購入したお箸は、永久にメンテナンスを受けて長く使うことができるそうだ。

「もし箸先が欠けたら、欠けたほうの長さに揃えて削り直します。10年前からのお箸をずっとお直しして使ってくださっているお客さんもいますね」

職人がひとつずつ心をこめてつくったお箸だからこそ、使う人も大切にしようと思うのかもしれない。



「職人たちの真剣なものづくりを、私たちがどれだけ店頭で伝えられるかが大切ですね」

そう話すのは入社8年目の西田さん。マルナオ青山の店長と国内外の営業マネージャーを務めている。

前職は飲食ブランドや雑貨、本などあらゆるものにかかわる企画会社で、プランナーとして働いていた。

ある企画でマルナオを取り上げることになり、福田さんと出会う。何度か関わるうちに、三条にある本店に行って工場を見る機会もあり、だんだんとマルナオに惹かれていった。

しばらくして東京にショップをつくろうとしていることを知り、マルナオに携わりたいと前職を退職。マルナオ青山の立ち上げから関わることに。

「このお店、いろいろ手づくりでつくられていて。レジの後ろ、実はお箸の端材でできているんです」

本当だ。横から見ると、何本も細い木がニョキニョキと飛び出している。天井にもたくさんの端材が使われているんだとか。

「レジのカウンターは1600年前の木で。古墳時代って言われてもピンとこないけど、そんな昔のものが残るなんて、木ってすごいですよね」

店奥にあるアトリエにはマルナオがつくってきた大工道具も置かれていて、マルナオの歩みも感じられる。

オープンして4年が経つマルナオ青山。今ではリピーターのお客さんもだいぶ増えてきているのだとか。

「『いいお箸を探していたら、マルナオに辿り着いた』って来てくださる方が多いですね」

自分用として使う以外にも、知人の結婚祝いや、お世話になった両親などへのプレゼントとしてお箸を買いに来るお客さんも多いという。

「うちのお店の近くにあるレストランで食事をして、そこのお箸がマルナオのものだと知って、食後に立ち寄ってくれるお客さまもいます」

実際にマルナオの製品を使ってからお店に足を運んでくれるお客さんであれば、その良さは伝えやすい。

一方で、初めてマルナオのお箸と出会った人には、どうやってその良さを伝えているんだろう。

「このお箸、触ってみてください」と西田さんから手渡されたのは、「上箸」というお箸。

並んでいるお箸のなかでは珍しく、持ち手の上部に色が施されている。

「色のところは楓で、それ以外はより硬い紫檀という、2種類の木をつないでつくられているんです。硬さが違う木を一緒に削ると、柔らかいほうが削られてしまうけれど、楓と紫檀の間に段差がないんですよ」

色の境目を指で撫でてみる。まったく段差はなく、まるで一本の木のよう。

「色は塗っているのではなくて、WPCという技術で楓の木に色の樹脂を染み込ませていて。硬い部分には樹脂が入らないから、年輪がそのまま残っているんですよ」

2種類の木のつなぎ目をさわる、色の部分に注目して年輪を見つける。

パッと見ただけではわからないけれど、西田さんの説明を聞くことで、お箸に込められたこだわりを感じることができる。

「木の材料も箸の種類もたくさんあるので、始めは覚えるのが大変かもしれません。でも、マルナオが使ってる木は特徴的なので、調べれば調べるほど面白いですよ」

今回一緒に働く人も、まずはマルナオのものづくりを知ることから始めてほしい。

「本社での研修で工場に行くと、木の削った香りとか削るときの音とか、五感で感じる情報がとにかくすごいんですよ。硬い木を削るときって、キーンって甲高い音が工場に響くんです」

「私たちも箸づくりを手伝うこともあって。そのときは職人のものづくりの緊張感やスピード感を感じますね。現場を知っていることで、お客さまにお話しできる内容の深みも変わってくると思います」

新しく入る人は、マルナオ青山を拠点に全国の百貨店でのポップアップストアでの販売も担う。そこではマルナオの世界観を伝えるために、ディスプレイのつくり方など、店舗の在り方を考えるところから関わっていく。

「百貨店だとたくさんの方の目に止まる良さがある一方で、価格に引かれてしまうこともあるんです」

マルナオのお箸は1万円を超えるものが多く、一般的なものと比べると少し高価な部類になる。価格の背景にある価値についても「私たちがしっかり伝えていく必要がありますね」と、西田さん。

出張のときは、いつもカトラリーセットを持ち歩いているそう。ケーキフォークとスイーツスプーンもあわせて持っていって、外出先でもマルナオの製品と一緒に食事を楽しんでいる。

「マルナオの社員はみんな、本当にマルナオ愛が深いんですよ」

「今ってなんでもインターネットで買える時代。だからこそ、わざわざお店に足を運んでくれたお客さまと一緒に、木目の違いを見たり、話したりするのが楽しいんです」



こだわり抜かれたマルナオのお箸。見た目では気づけないことも多い。だからこそ、お客さんに直接その良さを伝える役目はとても大切だと思いました。

福田さんの頭のなかには、パリ以外の海外にも出店するという目標もあるそう。

世界に広がっていくマルナオ。気になった人は、ぜひ一度お店に行ってマルナオのお箸を自分の手で感じてみてください。

(2022/10/03取材 小河彩菜、2024/03/01更新 槌谷はるか)

※撮影時はマスクを外していただきました。

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