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本当のうつくしさは
あるだけで伝わる
桑名、一組だけの宿

「あるもので、どうやって始めるか」

昔ながらの古民家や町家、奥ゆかしい街並み。

新しく建て替えるのは簡単かもしれないけれど、昔の技術や空気感を残したものは、一度なくなると戻ってこない。

そんな現実を憂い、日本人だけじゃなく世界中の人が訪れたくなるような場を設えているのがMARUYO HOTELです。

三重・桑名の宿場町の近くにあるこの宿。もとは木材屋だった古い建物を改修してつくられました。

今回は、ここで2代目となるホテルレセプションスタッフを募集します。いわゆる管理人のような役割です。

お客さん対応や清掃など、基本的な宿業務が中心ですが、外国からの宿泊客が多いため、最低限の英語力が必要です。

ただ経験よりは、歴史、文化、建築、そしてアートなどへの興味関心が生まれるかどうか。それが自分自身の仕事と暮らしも豊かにする要素だと思います。

 

桑名市は、三重県の北部、愛知県にも程近い場所にあるまち。

揖斐川(いびがわ)の西にあり、かつて宿場町として栄えた「桑名宿」は、東海道五十三次の一つにも描かれている。

約束の時間まで余裕があったので、周辺をぶらりと散歩。すぐ近くを流れる揖斐川は雄大で、川の向こう側は長島、そして名古屋になる。

宿場町を歩くと見えてくるのが「七里の渡し」と書かれた石碑と「伊勢国一の鳥居」。川に向かって鳥居が立っている。

これは東海道が川を挟んで通っているため。かつて江戸からの旅人たちは川を船で渡り、七里の渡しから桑名に着くと、この鳥居をくぐって伊勢国に入った。

ほかにも、国の重要文化財に指定されている洋館と和館、そして広い庭園がある「六華苑」や、桑名城跡など。歩いて行ける範囲にさまざまな名勝がある。

時間になり、MARUYO HOTELへ。

入り口から趣のある建物。中は古き良き雰囲気を残しながらも、漂流物を使った現代アートが飾られていたり、桑名の歴史文化についての本が置いてあったり。文化的な印象を受ける。

揖斐川が見渡せる2階の大部屋で話を聞いたのが、オーナーの佐藤さん。

着物で風格のある雰囲気でありながら、壁を感じさせない話し方をしてくれる方。

「ここを始めるにあたって、原点となった宿泊施設のプレゼンテーションがあって」

「あるもので、どうやって始めるか。その子はね、親からお金をもらえないんだったら、自分で稼ごうと。今、目の前にあるものをどうやってお金に換えるかということを考えて行動していたんです」

話してくれたのは、数年前に海外のイベントで耳にした、ある少年のエピソード。家庭環境に恵まれず、十分な支援も受けられないなか、自分の部屋を整え、泊まりたい人を迎え入れて対価を得ていたという。

「その話を聞いたとき、すごく身に染みたんです。ああ、なんで自分たちはこんなに恵まれているんだろう、って」

「全部揃ってから始めるんじゃなくて、あるものでどうやるか。それって、すごく本質的だなと思ったんですよね」

その感覚が、MARUYO HOTELをつくるときの大きな軸になった。

きっかけは、長く海外と行き来しながら仕事をしていたとき。パリで仕事をしていたころ、「日本で、どこに泊まったらいい?」と、聞かれることが多かった。

「日本には宿がたくさんあるじゃないですか。たとえば京都は老舗旅館も多くて、名前を挙げればきりがない」

「でもね、基本はご飯が出てきて、一泊して帰るっていうフォーマットで。それがわるいわけではないですが、自分が『何泊もしたい』と考えると、マーケットで買い物して自分で料理したり、まち歩きが楽しい環境があったり。そのほうが楽しい時間だなと思ったんです」

そう考えたのが、10年ほど前。まだAirbnbなども一般的ではなかったころに、佐藤さんは自分で理想の場所をつくってみようと決意する。

そうして生まれた宿のひとつが、MARUYO HOTEL。基本的にフルサービスで、チェックインや夕食を宿で食べるときの配膳、朝食のサーブなどを管理人がおこなう。

「建物は、僕の親族が代々継いできたもので。当初は壊して駐車場にするという話だったんですが、『残したい』と強く思ったんです」

「ここは丸与木材っていう、この辺りでは有名な材木屋でした。町のためにもマルヨの名前を残すべきだと思い、宿の名前にしています」

見えていない価値を、見える形にするためにこの宿がある。

開業してから、確信に変わったことがある、と佐藤さん。

「こちらから説明しなくても、置いてある物や設えで伝わるんですよ」

シーツや布団の質感に気づいて、「どこで買えるんですか」と聞かれたり、器を「欲しい」と言われたり。

「ちゃんと用意していると、ちゃんと伝わる。それを、ここで何度も実感しました」と語る佐藤さん。

「現管理人を務めてくれている水谷さんは、礎を築いてくれた1期目だと思っていて。1期目は雰囲気づくりを重視して、それが形になってきたので、2期目は現場の管理をしつつ、もっと自由にしてもらっていいと思っています」

「ただ、その空間・設えを感じとるには、意味を理解する前に、興味を持つことが大切で。興味を持って触れていけば、自然と知りたくなるし、知れば知るほどその人自身も面白く働けるようになるんじゃないかな」

 

「どう?」と話を振られたのが、1期目を務めている水谷さん。MARUYO HOTELの開業時から働いている。

ここで働くうちに、より広く桑名のためになることにチャレンジしたいと、今年管理人を卒業する予定。「市議会議員になったら?」という佐藤さんの言葉に、「いいかもしれないですね」と笑って答えていた。

もともと、ホテルや高級旅館で働いていた水谷さん。

「大きなホテルと違って、マニュアルがあるわけじゃない。その場で判断しなきゃいけないことも多くて、最初はびくびくしていましたね」

宿泊は一組のみで、最大4人まで。夕食はすき焼きや蛤鍋を提供しており、お客さんの希望によっては近くのお店で食べてもらったり、宿まで料理を持ってきてもらったりという仕組み。朝食は水谷さんが準備してサーブする。

1泊の料金は6万円ほど。決して安くはない値段だけれど、海外の人を中心に宿泊客が絶えない。

チェックインからチェックアウトまで、掃除も、準備も、対応も、基本は一人。

とくにプレッシャーだったのは、体調管理。基本一人でオペレーションするため、倒れられない、という気持ちの張りがあったそう。

そういったこともあり、今回の募集では最大2名採用し、管理人を交代制にすることで、負担を減らしたいと考えている。

宿の経験があるとはいえ、一人でのオペレーションの日々。それでも続けてこられた理由を聞くと、水谷さんは少し考えて、こう話してくれる。

「ここにいると、自分が変わっていく感じがあったんです」

MARUYO HOTELには、テレビがない。時計も必要以上には置いていないので、次第に時間を気にすることもなくなってくる。

「最初はお客さんも不安に思うみたいです。『テレビないんですね』って言われることもあります。けれど、翌朝になると反応は変わって」

「『すごくよく眠れました』とか、『時計を見ない時間がこんなに気持ちいいとは思わなかった』って言われることが多いんですよ」

夜、川の音を聞きながら過ごし、気づけば深夜になっていた。そんな体験をしたお客さんの顔は、どこかやわらいでいるそう。

「チェックアウトのとき、表情が全然違うんですよね。ああ、この人、ちゃんと休めたんだなっていうのがわかる。それを見られるのがやりがいですね」

またシーツ、パジャマ、器。どれも、佐藤さんが厳選している。

「シーツとパジャマは竹からつくられたものをお出ししています。とろんとした柔らかい生地で、触れるととても気持ちがよくて、宿泊後購入される方も多いですよ。パジャマズボンは私もプライベートで愛用しています」

「肌に触れるものが気持ちいいと、気分もいいんだなって。毎日触れるうちに、心地いい状態を大事にしたいと思うようになってきて。化学繊維より綿の肌着を選んだりとか。ものを選ぶ基準が少しずつ変わってきました」

アートや歴史にもとくに詳しいわけではなかったけれど、少しずつ興味が広がっていったという。以前は好きではなかった水やりも、いつの間にか楽しみになった。

「朝、植物の様子を見るのが習慣になって。今日は元気そうだな、とか、ちょっと乾いてるなとか。苔も違いがよくわからなかったけれど、最近はここいい感じだな、とか思いながら見ているんですよね」

MARUYO HOTELで過ごす時間が、水谷さん自身の暮らし方にも影響を与えている。

イベントで料理人が来る日。板前の仕事を間近で見る時間。普段の生活では出会えない人との会話。そんな経験たちが、自分のなかに蓄積されていく。

「言ってしまうと、たくさんお給料をもらうためにここで働くのは、ちょっと違うと思っていて」

「感覚的に、でも確実に。自分がよくなっていく感じがある。それは、お金だけじゃ測れないここで働く良さだと思います」

 

最後に話を聞いたのは、宿の花の設えを担っている和子さん。

玄関に入った瞬間、ふと目に入る花。主張しすぎず、それでいて、確かに空間の空気を変えている。

「大きな枝物は、佐藤さんのお母さんが運営されている『アトリエヌーボ』で用意しています。でも、細かい花や季節のものは、自分で用意することが多いですね」

花屋に並ぶものだけでなく、野にある草花を使うこともある。

「この場所に合うかどうか、それだけを考えています。華やかさよりも、静けさ。写真映えよりも、呼吸のしやすさ、という感じ」

花があると、空間に余白が生まれる。

春にはやわらかい色を。夏には、涼を感じる草花を。秋冬は、少し線の強いものを。

「季節を感じてください、とは言わなくても、なんとなく伝わればいいなと思っています」

和子さんは、桑名に嫁いで来た方。最初は城下町らしい、落ち着いた雰囲気だと思ったそう。

名古屋へは車で30分ほどと近く、地理的にも便利な場所。一方で、変わっていく街並みも見てきた。

「便利になるのはいいんですけど、川があって、海があって、歴史ある建物や名勝がある。それが当たり前になって、少しずつ見えにくくなっている気もしていて」

「だからこそ、外から来た人のほうが、よく気づくんですよね」

MARUYO HOTELに泊まる人たちは、初めて桑名を訪れる人も多い。

「『こんなに川がきれいなんですね』とか、『夜が静かでびっくりしました』とか。言ってくださって、ああ、そうだったなって思い出させてもらう感じがしているんです」

「何もない」と思われがちな場所でも、ここで過ごすことで見つけられる価値がある。

「まずは訪れてくれるだけでもいいと思うんです。ここに来て、何かを感じ取ってもらえたらうれしいです」

川の音、建物の質感、朝の光、花の佇まい。

ただそこにあるうつくしさに、目を凝らす。心をひらく。

MARUYO HOTELでの滞在は、感覚を研ぎ澄ませていくような時間になるんじゃないかと思いました。それは、旅をする人もはたらく人もきっと同じです。

まずは桑名を歩いて、MARUYO HOTELに足を運んでみてください。そこから、何かが静かに動き出すかもしれません。

(2025/12/05、2026/01/26 取材 阿部夏海、稲本琢仙)

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