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朝の高野山は、静かです。
しんとほどよく張った空気。人の気配はあるのに、せかせかした音がない。
そのなかに、真言宗別格本山 清浄心院(しょうじょうしんいん)はあります。

今回募集するのは、事務・フロント・客室担当、調理担当、そして僧侶・僧侶見習いです。
宿坊である清浄心院。宿坊とは参拝者が泊まれる寺院のことで、山内のさまざまな寺院や、弘法大師・空海が入定した場所である「奥之院」などを訪れる人のための宿坊が、高野山には50ほど存在しています。
その日常を支えているのが、ここで働く人たち。スタッフは未経験から働いている人も多くいます。
清浄心院では「お寺であること」を大切にしながら、さまざまな関わり方で人が集っています。
高野山へは、大阪・難波から電車とケーブルカーを乗り継いでおよそ2時間。
そこからバスに乗り「奥の院口」で降りる。バス停のすぐ近くに建っているのが、清浄心院。

横長で立派なお寺の隣には護摩堂があり、毎日護摩行がおこなわれている。
背筋を伸ばし門をくぐる。受付で声をかけると、事務長の松村さんが迎えてくれた。

松村さんは普段九州で旅館の運営や経営サポートをしていて、月に数日、清浄心院に滞在している。
関わりはじめたのは、8年ほど前。
妹さんがここで働いており、コロナ禍で宿泊客が減ったことがきっかけで声がかかったそう。
「私自身、最初はお寺のことが何もわからなかったので、まずは知るところからのスタートでした」
「運営に入って3年ほどで、年間の流れが見えてきて。いろんなことを変えたり、逆にそのままにしたりと、工夫をこらしてきました」
参拝客の多い春と秋は宿坊の繁忙期で、冬は落ち着く。
ただし2月の節分前は、全国から申し込まれる「星供養」という厄払い行事の準備で、宿泊客が少なくても慌ただしいそう。
「何千件も申し込みが来るので、お札に名前を書いて、袋詰めするんです。専用の部屋にこたつを5台くらい出して、空いている人がひたすら作業します」
節分が終わったら、4月の桜が咲く時期まではひと段落。

次第に人が増え、夏にはお盆の行事があるためお寺自体がいそがしくなる。
この清浄心院の住職を務めているのが、池口恵観法主。真言密教最高秘法「焼八千枚護摩供」を101回以上も修法。その絶大な法力は不世出の大行者として、広く内外に知られている。
全国に信者がおり、スポーツ選手や政治家など、著名人も恵観法主のもとを訪れるほど。

こうしたなかで松村さんが大切にしてきたのが、「線を引くこと」。
「うちはお寺なので。夕食は17時半一斉、お風呂は21時まで。僕はサービス業のプロなので、普通ならお客さんの希望に合わせたいところですが、お寺はサービス業ではないので。その芯を守ってきました」
「もし合わないお客さまがいたら、無理してうちに泊まらなくていいですよと伝えていて。スタッフにもそう伝えるよう言っています。その姿勢が、だんだんとスタッフにも浸透してきたかなと」

職場の関係性についても、上下をつくらないことを意識している。
「これは自分の経験からなんですが、できるだけ縦はつくらず、横にする。上の人が指示を出しても、下の人がちゃんと動いてくれないと意味がない。だから上下ってなくて、お互いさまだと思うんです」
「立場が上だから偉い、ではない。得意なことを持ち寄って、お互いに支え合う。そういう関係でいたいと思っています」
世界遺産でもある高野山。そのなかにあるお寺、しかも宿坊で働くというのは、なかなか想像するのがむずかしいと思う。
松村さんから見て、どんな人だと楽しく働けると思いますか。
「ただ働くだけだと面白くないと思います。歴史でも建築でも、お寺のことでもいい。何か一つ、好きなものがあると、ここは深掘り甲斐がある場所だと思うんですよね」
「私は歴史が好きなので、面白いですよ。宿坊って歴史的に旅館の原点でもあるので。知的欲求がめちゃくちゃ満たされます」
続いて話を聞いたのは、入職して1年半ほどになるハミルトン真美さん。
普段は柿と八朔の農家をしながら、清浄心院では主に宿業務とフロントを担当している。

「以前はアパレルとかプロジェクトマネジメントとか障害福祉とか。いろいろな仕事を経験しました」
「英語力を活かせる仕事がないかなと探していたときに、ハローワークで清浄心院を紹介してもらって。お寺かぁって最初は思ったんです(笑)。お寺で働くって考えたことがなかったんで」
それでも、英語が活かせることに魅力を感じ、チャレンジすることにしたそう。高野山はヨーロッパ系の外国人観光客が多く、英語を使う機会は多い。
「お寺って敷居が高いイメージがあったんですが、実際は意外とフラット。自分たちで考えて動く場面が多いですね」
たとえばゴミ捨てのルール。
うまく回っていなかったやり方を見直し、提案すると、すぐに受け入れられたそう。
「改善したいことを投げたら、それいいねって言ってもらえる。とりあえずやってみて、調整していける環境だと思います」

朝は6時半出勤。朝食のお膳を配膳して、食後には食器を洗う。
洗い物が終わったら、客室の片付けと準備をして、フロントに入る。真美さんは農家と兼業しているため、14時までの勤務にしてもらっているそう
部屋数は15部屋。繁忙期はすべて埋まることも多いため、布団の片付けなど、意外と力仕事が必要だ。
「正直、仕事では大変なことって、あんまりないんです」
「もちろん業務的に、力仕事がしんどいときはあります。ただ精神的なしんどさって、ここでは感じたことがなくて。みんなやさしいし、おだやか」
真美さんが大切にしているのは、何事もポジティブに受け取る姿勢。
「注意されても、気づかせてもらえてラッキーって思える人。そういう人と一緒に働けたらうれしいですね」
「お寺って、心のもやもやを話せる場所なのかなと思うんです。だからこそ働く人もそうであってほしいし、そういう職場にしたいなと思っています」
続いて話を聞いた宮下さんは、寮で暮らしながら働いている方。フロント担当で、入職して1年半ほどになる。

「部屋は四畳半くらい。洗濯機とかお風呂は共同です。食事はまかないが出るんですけど、それがおいしいんですよね」
シフトによっては朝が早いので、20人ほどいるスタッフの多くは寮に住んでいる。あとは高野山内のアパートの部屋を数部屋借りているので、そこに住んでいる人もいるそう。
「うちはみんなそうなんですが、宿坊と調理の研修を受けて、できればフロントの仕事もして。みんなどこでもやるっていう形になっています」
北九州出身で、大学時代は東京で過ごし、前職はIT系の企業で3年働いていた。
このお寺の住職のお孫さんと友だちで、清浄心院を勧められたという。
「もともと料理とか歴史ある建物とかに興味はあって。いわゆる衣食住に近い領域で働きたい思いはあったんです」
「やっぱり最初は迷いました(笑)。ただ前職を辞めたのも、都会に疲れたところもあったので。高野山での暮らしを経験するのもありかなと思って決めました」
朝が早い生活も、暮らすうちに慣れていった。
交通の便はいいので、休みの日には大阪のほうに出る人も多いそう。
「前職は10時から21時くらいまで、ずっとパソコンと向き合う生活でした」
「そのころと比べると、人間らしい生活だなって思います。朝ちゃんと起きて、夜は早めに寝て、太陽と一緒に動く。その健やかさというか、気持ちよさはすごく感じています」

そんな宮下さんが取り組んでいるのが、事務作業の効率化。
パソコンも使われているものの、まだまだ紙ベースで業務が行われていたり、非効率なことも多い。
担当業務の経理では、紙で処理していた領収書をPDF化してクラウドで共有。税理士さんに送るのも楽になったし、事務長の松村さんもオンラインですぐ確認できるようになった。
「デジタルまわりはより良くできることがたくさんあると思っていて。これからもいろいろアップデートしていけたらと思っています」
こんなふうに、自分の得意なことや、これまで培ってきたスキルを反映できる柔軟さもある環境。
宮下さんはどんな人に来てもらいたいですか。
「シンプルに言うと、明るくて素直な人。いろんな部署の方、いろんなバックグラウンドを持った方と接するので、素直さと明るさは必要かなと。その二つがあればなんとかなるんじゃないかな」
「世界遺産で、パワーのある場所だと思っているので。そんな場所で働けるのは、ほかにない魅力だと思いますよ」
最後に話を聞いたのは、僧侶見習いの田村さん。2024年に新卒で清浄心院にやってきた。
物静かで、少ない言葉のなかで丁寧に伝えてくれる。

きっかけはハローワークの窓口の人の紹介だった。
「その… 最初は、花屋になりたいと言いました」
花屋になりたい。
「花を売って、人の心を豊かにしたい。そうしたら、花屋もいいけれど、高野山の自然のなかで、自分と、あるいは人と。正々堂々向き合うお坊さんのほうが、田村くんの気質に合っていると思う、と言われて」
「自分を満たすよりも、人に与えたり、自分がすでに満たされてることに気づけるほうがいい。そう思って、ここに来ることを決めました」

清浄心院の人たちは、田村さんの感性と合ったという。
「なんて言えばいいんだろうな。難しいです… こう、綺麗なお椀より、汚くて、カビとか生えてて、割れたりしてるものを、美しいって感じる。不完全を慈しむような、器の大きい人が多くて。うん、だから、一緒にいたいと思いました」
僧侶見習いの人は、基本的に宿坊や調理場の仕事をしつつ、僧侶の仕事を学んでいく。
最初に教わるのは、仏さまに炊き立てのご飯を毎日お供えする「仏飯」。その後はお経を覚えたり、朝のお勤めに出たり。
先輩僧侶とともに、僧侶としての在り方を学んでいく。
田村さんが大変だと感じているのが、調理の仕事。日本料理で有名な味吉兆に監修してもらっているので、精進料理を学びたい人にとっては貴重な環境だ。
「お客さまに出すものはレシピも決まっているんですが、まかないも毎日つくらないといけないので。あるもので何をつくれるか、ネットで調べたりして。お肉を使わないというのも、むずかしいです」
この日のお昼は、精進カレー。調理場では、お米を炊き、野菜を素揚げしているところだった。

今年の4月には、真言宗の修行道場である専修学院に入学し、1年間修行する予定。卒業後は清浄心院に戻って来たいと話す。
「物理的な豊かさを求める人には、合わないかもしれません。でも、今あるものに目を向けたい人には、居心地のいい場所だと思います」
清浄心院は、誰にとっても働きやすい場所ではないかもしれません。
事務、調理、フロント、僧侶見習い。関わり方はそれぞれでも、共通しているのは、「お寺であること」を大切にする姿勢。
効率や便利さよりも、人と向き合う時間や、場のリズムを尊ぶ。
そんな働き方に、少しでも心が動いたなら。清浄心院という場所を、選択肢のひとつにするのもいいと思いました。
まずは、この地を訪れてみることからはじめてみてください。
(2026/12/19 取材 稲本琢仙)


