求人 NEW

人生で一度だけでも
思い出してほしい
この土地、この店、この料理

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

ここで働くには、少なからず覚悟が必要になると思います。

冒頭からそう伝えることはあまりないのですが、その上でなお、このお店に力を注いでみたいと思う人に届くよう願っています。

神奈川県の湯河原にある、カフェレストラン「宮上倶楽部」。

オーナーの堀川光子さんが、亡きご主人とともにつくり上げたお店です。

自身の体調もあまり良くないなか、コロナ禍も重なり、閉店も頭をよぎったそう。それでも、思い出の場所を残したいという想いで、堀川さんは日々お店に立ち続けています。

今回は、ホールマネージャーと料理人を募集します。

求めているのは、宮上倶楽部のこれまでの歩みを継ぎ、さらに豊かに育ててくれる人。個人の応募はもちろん、将来的には事業を任せていきたいので、家族やグループ、法人としての問い合わせも歓迎します。

まずは、一人でも多くの人に、宮上倶楽部のことを知ってほしいです。

 

東京駅から特急踊り子で、約1時間。温泉地として知られる湯河原駅前は、多くの人で賑わう観光地ではないけれど、穏やかに非日常を感じられる雰囲気が心地よい。

この日は生憎の雨。駅前からバスに乗っていくと、旅館や飲食店、美術館やお土産屋さんが道沿いに並んでいる。

10分ほどで下車し、バス停のすぐ近くにある宮上倶楽部の白い建物へ。近くには清流が流れていて、向かいには会員制の高級旅館がある。

中に入ると、温かな照明とクラシック音楽に包まれる。何人かのお客さんが、ランチを楽しんでいる様子。

出迎えてくれたのが、オーナーの堀川さん。

「お昼はまだ?おうどん召し上がりますか?」

挨拶を交わしたあと、そんな言葉とともにキッチンへオーダーに向かっていった。

「お店はカジュアルフレンチなんだけど、うどんは亡くなった主人の好物でね。1日10食限定で、いつまでやるかなあっていう感じですけど。お肉は国産牛で、まちのお肉屋さんにスライスしていただいて、お出汁は四国から取り寄せて。どうぞ、黒七味をかけて召し上がってみて」

外が寒かったので、温かいうどんがじんわり染みる。

食べながら話を聞かせてもらおうと思ったら、堀川さんは「見ているとお腹が空いちゃうから」と席を外してしまった。きっとこちらに気を遣わせないようにしてくれたんだろうな。

この日は常連さんが多いようで、スタッフさんと楽しそうに会話を交わしている。

ゆっくりと歩く堀川さんは、あまり身体の自由は利かないのかもしれない。それでも、すべてのお客さんを欠かさず出口まで見送る姿が印象的だった。

食事を終えて、話を聞かせてもらう。

「お気づきになったかどうかわからないけれど、湯河原は低い山々に囲まれていて。山と海と川のある穏やかな温泉場なんですね。山の端っていう言葉があるでしょう。山の端が見えていると、人間として落ち着く気がしてね。湯河原に終の住処をつくろうと思ったんです」

テレビドラマやドキュメンタリー番組の脚本家でもある堀川さん。夫の堀川とんこうさんも、テレビプロデューサーとして長年活躍していた方だった。

「宮上倶楽部をオープンしたのが2018年の夏です。連れ合いはすごくコーヒーが好きで、豆の種類にも詳しい人でしたから。朝起きて二人で一緒に、お客さまが入る前のテラスに座ってコーヒーを飲みましょう、それを日課にしましょうって」

沖縄の食材や料理の研究をしていることや、かつて東京で飲食店を経営していた経験も活かしながら、建築や庭、インテリア、食材、すべてにこだわりを持ってお店をつくっていった。

現在、宮上倶楽部では、キッチンとホール合わせて5人のスタッフが働いている。

シェフは高齢で、次の人が決まったら引退を考えているそう。

「孫が4人いて、もっと遊ぶ時間がほしいんですって」

そんな紹介のあと、キッチンにご挨拶に行ってみると、元気なシェフが迎えてくれた。

看板メニューのひとつは足柄牛のビーフシチューで、ランチコースは5000円、ディナーは15000円ほど。引き継いでほしいメニューもあるので、今後の展開は新しく入る人のアイデアも活かしながら一緒に考えていきたいと、堀川さん。

「働く方には、土地のものや季節のものをどんなふうに活かすか、どうやったら楽しんでいただけるだろうか、ということに、心を馳せてほしいな。その一皿がテーブルに置かれたとき、お客さまがどんな反応を示してくださるだろうか? それにはどんな器が似合うだろうか? そんなことをね、私はいつも考えてしまうんです」

「この土地にこのお店があって、そのなかで一皿の料理をいただく。ひとつの宇宙のようなもののなかにぽっと存在する、その一皿に描かれている絵を、素材を、味わう時間をお客さまには楽しんでいただきたい。抽象的な表現だけど、それが私の考えるおもてなしかな」

ゆっくりと目の前の一皿を楽しんでもらいたいから、お客さんの領域にはむやみに立ち入らない。付かず離れずの距離感で、リラックスして過ごしてもらうことを心がけている。

「特別高級でも特別難しいことでもない、シンプルなことじゃないかなと思うんですけどね」

目の前の相手をよく観察し、気持ちを想像し、できる限り心を尽くす。そんなふうにも捉えられる。

だから、「決まった時間内に決まった仕事をして終わり、というだけでは少し寂しい」と漏らす。

「古くさいかもしれないけれど、ここに来たら自分の時間をお客さまと一緒に楽しんでほしいし、お客さまにも楽しんでいただこうと心から思ってほしいんです」

「私はかつてドラマを書いていたのでね。お店って舞台と似ているのよって、前のお店のスタッフにもよくお話ししていたんです」

お客さんは、働く人たちの所作や身なりをよく見ている。お客さんの前に出ている時間は、舞台の上で演技をする感覚と近いという。

でも、どんなに良い役者が揃っても、舞台全体が良いものになるかどうかは演出家の腕次第。

「今回募集する料理人の方やマネージャーさんっていうのは、一歩引いてお店全体を見る、演出家であってほしいなって。お客さまがドアを開けて入ってきた瞬間から、ここを楽しんでいただくにはどうしたらいいだろうって逆算して考えると、案外簡単なことだと思うの」

基本となる言葉遣いや知識は共有するものの、目の前のお客さんとの適切な関わり方は、一人ひとりが考えて、つくり出していってほしい。

「常に100点満点を求めることはないけれど、できる限りのことをしたかどうかは問うてほしい、自分自身にね。それでいいんじゃないかなと思います」

「この空間でゆっくり過ごされたお客さまが、一日のうち本当に一瞬、あるいは一週間のうちのほんのひととき、あるいは人生のなかでたった一度、『あ、湯河原にあんな店があったな』って思い出してくれたら、とてもうれしいなと思うんです」

 

スタッフの中心的存在として働いているのが、長谷川さん。普段はホールをメインに、シェフがお休みの日はランチでキッチンに入ることもあるという。

「自分でお店を開きたいという夢があって。そのためにサービスやお料理、雰囲気づくりを勉強できるお店を探していたときに、ここを見つけて。お料理や雰囲気がすごく素敵だなと思って応募しました」

20年以上、レストランのサービススタッフとして働いてきた長谷川さん。先月からはここの仕事と並行して、シェアキッチンで週に一度、カフェレストランをオープンしている。

宮上倶楽部では、どんなことを学んできたと感じますか?

「オーナーのセンスから吸収できるものは大きいです。料理に本当にこだわりがあって、盛り付けの位置も、『ここじゃなくてこっちがいいよね』とか。常に1+1=2以上になることを目指しているんだなと感じます」

「たとえばこの照明がいいとか、あのお花があそこにあることがいい、とか。オーナーがいいと思うものに対して、自分もやっぱりいいなって思うんですよね。違う人もきっといると思うんですけど、私はすごく、オーナーのお店づくりに共感できます」

まずは自分が、この空間を心地よく感じられるかどうか。その感覚はきっと、お客さんへのサービスにも表れていく。

お話を聞いていると、自分の感覚を大事にしながら、納得感を持って働くみなさんの様子が伝わってくる。

一方で、人手不足のままお店をまわしているのが現状。

観光客が多い土日祝日は、自分のキャパシティ以上の働きが必要なこともある。

「社員として安定して勤務できて、オーナーと共感できる方が入ってくだされば、すごくいい。どこでもいいから仕事を、っていうわけではなくて、自分の料理やサービスを、このお店で届けたい人が来てくれたらいいなと思います」

「宮上倶楽部は本当にいいお客さまが多いんです。サービスしがいがあるというか。誠心誠意サービスをすると、直接ありがとうって言われたりすごく褒めていただいたりして。サービスって本当に楽しい仕事だなあとあらためて思うんです」

 

最後に、宮上倶楽部のお客さんにも話を聞いてみる。

長年ここに通っているという、山岸さん。食事を終えたテーブルにお邪魔して、このお店との思い出を聞かせてもらう。

「歩いて15分くらいのところに住んでいて、ときどき散歩がてらここに来るんです。最初亡くなった家内が見つけてきて。湯河原にはこういう雰囲気の場所はほかにないので、二人で喜んで、よく来ましたよ」

「一言で言うとね、全部洗練されているんです。お店の佇まいもインテリアもね、料理へのこだわりも、素人の僕がコーヒー1杯飲んでわかりますよ。食材も厳選していて、妥協がないですね」

山岸さんは「誇張するつもりはないんだけど」と言いながらも、うれしそうに宮上倶楽部のことを語ってくれる。

「柔らかな高級感っていうのかな。サービスも、普通こういう店って型通りのことが多いんだけど、ここのオーナーたちはお客を構えさせないんですよ。話しかけると親しみのある言葉が返ってくるので、すごく安心する」

一方で、柔らかいなかにも、けじめのあるサービスが徹底されている。

昔、山岸さんがスタッフの一人と親しく話をしていたときのこと。その後、堀川さんがスタッフに「出過ぎてはいけない」と注意していたことが、とても印象に残っているという。

「妥協しないんですよね。随所に見られるオーナーの強さというか、すごく意思を感じます。この店をきちんと残していきたいという、自分の身体のことを超えた、強い想いがあるんだなと」

新しく入る人に「これだけは守ってほしい」というものはあるんですか?

そう質問をしたとき、堀川さんはこう答えました。

「宮上倶楽部というお店はこういうことはしないだろう、と思うことをしないでほしい」

それはどういうことなのか。具体的な言葉では聞けなかったけれど、ここで数時間を過ごして、この場に関わる人たちの話を聞いて、片鱗が見えたようにも思います。

これまで積み上げられたものを捉えながら、ぜひ一緒にこれからの宮上倶楽部をつくっていってください。

(2022/10/7 取材 増田早紀)

※撮影時はマスクを外していただきました。

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