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大空と草原
ローカルの高校生に
大人ができること

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

公立高校の数が全国一の北海道には、個性豊かな公立高校が数多くあります。

スケートやスキーなど、オリンピック選手も輩出する強豪校。充実した実習が魅力の農業高校に、文武両道をかかげる進学校。第一希望が公立高校の中学生が多いのも、北海道の特徴のひとつです。

一方で、この20年間、全国で最も公立高校の廃校が多かったのも北海道です。とくに地方の小さな市町村では、少子化で子どもが減るなか、都市部の高校に進む子どもが増えています。

どうしたら、地元の子どもたちが通いたくなる高校をつくれるのか。

北海道興部町(おこっぺちょう)でも、手探りの挑戦が始まっています。

酪農の町として全国的にも有名な興部町は、町唯一の高校である「北海道興部高等学校」の新たな魅力づくりに取り組み始めました。その一環として来春オープンするのが、興部高校生のための公営塾です。

塾のテーマは「放課後の居場所づくり」。放課後を過ごせる場所がとぼしい生徒たちに、勉強と息抜きができるサードプレイスを用意したいと考えています。

今回は塾の立ち上げスタッフを募集します。教職の経験は問いません。高校生や地域の子どもたちのために何ができるか、前向きに考えてくれる人に出会いたいと考えています。

 

興部町へは、最寄りの紋別空港から車で40分ほど。ここは羽田便が昼間に1往復飛んでいる。

朝や夜に移動するには、旭川空港から向かうのがおすすめ。畑が広がる道を2時間半ほど運転すると興部に入り、草原でくつろぐ牛たちの姿も増えてくる。

9月の道北は秋の空。牧場に寄ると、人懐っこい牛がゆっくり近づいてきた。

「興部は乳牛を育てる酪農地帯と、カニやホタテ、サケやイクラといった漁業がさかんな沿岸部で成り立っています。ソフトクリームが有名で、ドライブにきたお客さんが、牧場や専門店によく行列をつくっていますね」

町役場でお会いしたのは、教育委員会の船水さん。

のんびりとした雰囲気の、人口3600人の小さな町。

ここで70年にわたり高校生を育ててきた学び舎が、興部高校だ。

かつては町の多くの子どもが通ったものの、少子化や学区制度の改正により、だんだんと町外の高校に進学する子どもが増えるように。

近年、興部高校に進学する町の中学生は、半数を下回っている。

「毎年中学生と保護者にアンケートをとっているんですが、部活や勉強を頑張りたい、大人数のなかで過ごしてみたい、だから外の学校に行きたいという声が多いです」

「全校生徒40人の興部高校は部活の選択肢が少ないし、メンバーも幼少期から変わらない。違う環境で過ごしてみたいという気持ちもわかります」

町も高校を支えようとさまざまな支援金を給付してきた。ただ、生徒数は今もゆるやかに下降している。

「これまでの支援は、保護者目線の取り組みでした。これからは子どもたち自身が、興部高校に通いたい!と前向きに思えるような取り組みをすべきなんじゃないかと考えていて」

「そこで目を向けたのが、高校生の放課後の充実。公営塾の開設です」

興部高校は部活動の加入率が低く、放課後まっすぐ帰宅する生徒も多いそう。アルバイトをしている生徒もほぼいないため、家と学校の往復で一日が終わる生徒も少なくない。

自由な時間が多くても、居場所や目的がない状態では退屈してしまう。貴重な高校3年間を、少しでも充実したものにしてほしい。

そこで高校の教室を活用して、興部高校生専用の塾をひらきたい。

「同じクラスで勉強していても、小中学生の内容から学びなおしたい子、受験勉強に打ち込みたい子、いろいろな子がいると思います。一人ひとりの希望にあわせて学習支援をするのがこの塾の土台です」

塾は、自学自習スタイルが基本になる予定。各自宿題や問題集を持ち寄って、わからないことがあればスタッフに質問できる。

生徒の人数や希望次第では、小さな授業や、受験や就職に向けた面接の練習などもできるかもしれない。

「塾スタッフにはスキルや知識よりも、生徒の目標に向かって一緒に考えてくれる姿勢を求めたいと考えています。大学受験勉強を経験された方であれば問題ないと思っています」

「学習支援が軌道にのったら、地域資源や生徒の興味を題材にして、生徒たち自身で考えを深めていく探究学習もやりたいと考えていて」

たとえば全国的なブランドになっている「興部の牛乳」だけでも、いくつか探究学習ができそうだ。

地域の酪農家や農協の方と協力して、「興部の酪農は、ほかの地域と比べてどんな違いがある?その違いはなぜ生まれたんだろう?」というテーマで調査するのもおもしろそう。

将来自分で事業をやってみたい生徒がいれば、「地域の特産品を全国に流通させるには?」という切り口はどうだろう。

地元の大人に話を聞いたり、資料にあたったりしながら、自分たちなりの答えを出していく。その過程に伴走するのも、塾スタッフの役割だ。

塾のオープンは来年度。すでに20代の方が一名内定していて、10月以降に着任する予定だそう。

立ち上げスタッフは、まずは塾を形にするための下準備を一緒に進めていってほしい。

「とくに最初は打ち合わせが多いと思います。塾のオープン時間や運営方法、学校との連携など、役場と塾と高校の三者で協議して決定していく予定です」

塾は、町や高校にとってはじめての取り組み。公営塾の運営をサポートしている民間のコンサルタントからも支援をうけながら、まずは今年度中のプレオープンを目指すことになる。

「壁にぶち当たることや悩むことのほうが多いと思います。どういう塾をつくりたいか、都度確かめながら進めることが大事だと思っていて」

「私は塾を、高校生たちがふらっと集える居場所にしたいです。学校で居場所がないと感じていても、勉強が苦手でも、塾に来ればお兄さんお姉さんがいて、ちょっと気分転換ができるとか、先生には言えない話もできる。それで後輩たちに、興部もいいよ!って言ってもらえたらうれしいですよね」

 

この町の生徒たちは、どんな高校生活を送っているんだろう。

興部高校OGとして当時の話を聞かせてくれたのは、観光協会の池田さん。

「私はもともと声優になりたくて、高校も演劇を学べる学校に行きたかったんです。でも現実的な問題もあって、高校は地元でお金を貯めて、専門学校で絶対外に出ることにして。興部高校にした理由も近さと補助金くらいで、とくにこだわりはなかったんです」

「入学後は人数が少ないので、やりたい部活ができないとか、顔ぶれが変わらない面はあったんですけど、そのぶん先生たちが一対一で進路指導をしてくれたり、学校祭も全校一丸となって取り組んだりして。少人数ならではの良さも感じていました」

高校卒業後は、札幌の専門学校に進学し、東京で声優として活動。今後自分がやりたいことを考えたときに、興部に帰って演劇や表現の仕事を探してみようと思ったという。

池田さんのように自分で夢を見つけて行動を起こす人もいれば、家業を継ぐために地元に残る生徒、外に出たいけれど目標がないという生徒もいる。

進学か就職か、地元に残るか外に出るか。塾では、高校生の悩みに一緒に向き合う時間もありそうだ。

「私は高校時代、町の外に出て戻ってきた人、外から来た人の話をとても聞きたかったです。幼い頃からずっと同じメンバーで過ごしていると、世界が固定されちゃうんじゃないかって思っていました」

「生まれた町の外に行こうと思った理由、行って感じたこと、そのうえで町に戻ってきた理由とか、等身大で話してくれる大人がいたらよかったなって。大人との何気ない会話が、高校生には大きいターニングポイントになると思うんですよね」

高校生と地域の大人が関わる機会をつくろう。

そんな気風は少しずつ生まれていて、昨年度からは町の観光協会も高校の授業をコーディネートしている。

「今、町内の事業者さんに協力してもらって、商品開発をしているんです。メニューは3つで、興部のチーズと加工肉と海産物のピザ、地元の昆布を練り込んだラーメン、はまなすのアイスクリーム。開発した商品は、いずれも実際に販売する予定です」

アイデアを形にしてお客さんに届けることも、先生や親以外の大人と会話したり、プレゼンしたりすることもなかなかない機会。将来的に塾で取り組んでいく探究授業のヒントにもなりそうだ。

「まだ2年目の取り組みですけど、子どもたちも緊張しつつ新鮮に感じてくれているみたいで。だから塾ができると、また高校生たちの興味の幅、チャンスの数が広がるんじゃないかなって期待しています」

 

塾のオープンに向けて、現在は教育委員会と高校で協議を重ねている。

お会いしたのは相澤先生。商業の先生として全道の高校で教鞭をとり、今年の春から興部高校で教頭を務めている。

「38年教員をやっていますけど、うちの子はすごくおとなしくて純朴で、マナーがいい。少し背中を押すことができれば、化ける子がたくさんいます」

たとえば1年生。先生に「お前ならできるぞ!」と焚きつけられるうちに、「国公立大学に行きたい」と目の色を変えて勉強するようになったそう。

吹奏楽部の部長は、長期休みも先生と一対一で勉強して、第一志望校の合格を目指している。

少人数であるぶん、一人ひとりの性格も、努力も、成長の過程もよく見える。

「子どもにはすごい力があるんです。力を認めてあげて、やる気にさせて、隣で見てくれる人がいるときにガラッと化ける。課題をクリアしてくごとに理解する喜びを吸収して、ものすごいペースで成長します」

「先生方と塾の双方から学べるのは、生徒にとって力になる。教員とは違うエッセンスで子どもに火をつけてくれる人に出会いたいです」

地域学習に特化したり、進路指導に力を入れたり。公営塾でも、地域によってあり方は異なる。

興部ではどのような塾をつくっていくか。スタッフは、教育委員会や高校と話し合いを重ね、自分の経験や得意なことも活かしながら、この町なりの形をつくっていってほしい。

「高校生の成長は、学力だけではないと思います。この学校で3年間を過ごして、精神的に成長したというのも立派な成長。子どもたちが伸びる姿を見て、うれしいと感じてくれる方に来てほしいです」

 

学校の先生、地域の大人、塾のスタッフ。多様な大人たちとの関わりのなかで、生徒は可能性の芽を伸ばしていくのだと思います。

大空の下、草原に囲まれるこの町ならではの塾をつくる仲間を探しています。

(2022/09/02 取材 遠藤真利奈)

※撮影時はマスクを外していただきました。

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