求人 NEW

つくれないものはない

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

いろんな会社に取材に行って感じるのは、世の中には本当にたくさんの仕事があって、日常生活の見えないところで支えられているということ。

今回取材に訪れた会社でも、あらためてそのことを感じました。

電車や地下鉄のホームドアから、高速道路のETC、テーマパークのアトラクションまで。人知れず社会を支えているのが、株式会社武杉製作所です。

武杉製作所は、主に錠やかんぬき、蝶番や把手(とって)など、建築金物と呼ばれる部品を製造している会社。

最近では、タンブラーやボトルといった一般ユーザー向けの自社製品づくりにも取り組んでいます。

今回募集するのは、新規営業を担当するスタッフ。主にホームページなどから来る問い合わせに対応して、ものづくりをしていく役割です。

 

武杉製作所は、横浜の鶴見駅からバスと徒歩で15分ほどの場所にある。

こんにちは、と外にいる人に声をかけると、作業場の上の階にある会議室に通してもらった。建物は普通のアパートのような感じだけれど、その壁を取っ払って作業場にしているみたい。

しばらくすると、代表の笠原昇さんが迎えてくれた。

「ここはもともと社員寮として使っていた建物なんです。今はいくつかの部屋をひとつなぎにして、工場や倉庫として使っているんですよ」

もともとは、戦後に大田区でミシンを製造販売したのが会社の始まりだったそう。その後一度廃業し、電機部品をつくる会社として再スタートした。

「単純に部品をつくるだけじゃだめだろうということで、先代がいろいろと考えて。ミシンって、部品に鋳造品を使うんですが、その技術を活用してなにかできないかっていうことで、ロストワックス鋳造というのを始めたんです」

ロストワックスとは、名前の通りワックス(ロウ)をロストする(消す)鋳造方法。

まずロウで原型をつくり、そのまわりを鋳砂や石膏で覆い固める。その後加熱し、ロウを溶かして除去。その空洞に金属を流し込むことで原型とおなじ鋳物ができる、というものだ。

金型で鋳造する通常の方法に比べると、大量生産には向かないものの、精度が高く、また融点にかかわらずさまざまな金属で製品をつくることができるのが強みなのだとか。

「うちの一番のお客さんが、タキゲンっていう金物屋さんなんです。そこは、大手の家電やIT系、官公庁など、幅広く取引をしていて。その一番の製造元がうちなんですよ」

タキゲンの建築金物業界でのシェアは、なんと日本で一番。道路や電車関係の部品から、ディズニーランドのアトラクション用の部品といったものまで、タキゲンが扱う製品の多くを武杉製作所がつくっている。

それだけのシェアがあるというのは、ロストワックス鋳造は簡単に真似できない、むずかしい技術なんでしょうか?

「それがね、たとえば同じものを1万個つくってくれるところはたくさんあるんです。でも10個だけほしいとか、100個を一ヶ月おきに納品してほしいとか。少ない量で細かい希望に応えることは、大手の企業さんではむずかしい。そこに応えているのが、うちの強みなんですよ」

自社で設計もできる武杉製作所。お客さんが「こういうものがほしいんだけど」と相談に来れば、イメージの段階から設計、材質の選定、加工・組み立てまで、一手に引き受けることができる。

 

現在は、台湾や中国にある協力会社でロストワックス鋳造を行い、できた製品を日本で仕上げ・組み立て・検品・発送までしているそう。

具体的にどんなふうにものづくりの過程が進んでいくのか。専務の成晃さんに聞かせてもらう。

社長の昇さんの息子で、通信系の商社で働いたのち、11年前に武杉製作所へ入社した。

主に新規営業や自社製品の開発など、さまざまな業務を担っている。

「うちの営業スタンスがちょっと変わっていて。お客さんから出てくる話が、ほかと比べていくら安くなるか、みたいな価格ベースであれば、無理して追いかけなくていいよって言ってるんです」

「それよりも、ほかじゃつくれないと言われて困っているとか、そもそもつくれるのかわからない、というものに対して、じゃあ一緒にやっていきましょう、というのを大切にしていて。新規でご依頼いただくのは、大体そういった話が多いですね」

たとえば、と見せてくれたのが、「海外向けのピーラー」だというこの製品。

ピーラー… というには変わった形ですね。

「そうですよね(笑)。僕もなんだろうこれと思って。これをロストワックスでつくってフィリピンで売りたいっていう相談だったんです」

普通に考えると、日本よりフィリピンのほうが物価が安いため、日本でつくってフィリピンで売るのは割高になる。それでも武杉製作所へ相談に来たのには、理由があった。

「よくよく聞くと、実はこれ、本当は闘鶏のための道具で、鶏の足につける武器らしいんです。フィリピンではこれを手作業でつくっているらしくて」

「量産したいけど、日本じゃ前例のないものだし数も中途半端だから、つくってくれるところがないと。闘鶏って聞いてびっくりしましたけど、困っているならじゃあ一緒にやってみましょうって、現地にも行って材質から考えてつくりました」

形や材料も決まり、製品はお客さんにも納得してもらえる仕上がりに。ただ、ちょうどコロナ禍に入ってしまったことで、いまは一旦製造をストップしているのだとか。

「ほかと比べて値段で勝つというのは、うちの規模じゃむずかしい。だからほかじゃできないって言われたものを、形にする。うちにつくれないものはないので、そういうところに価値を感じてくれるお客さんと仕事をしていきたいと思っています」

ほかにも、と見せてくれたのは、バッグにつける部品だというこの部品。

日本国内ではほかにできるところがない、というクライアントの声とともに、武杉製作所に依頼が来た。

小さい上に、表面の模様がとても細かい。これもロストワックスでつくれるんですか?

「普通のものでは無理です。こういう複雑な形状だと、通常の金型でつくることができなくて。なので、これは特殊な金型をつくって対応しました。アクセサリーとかでよく使われるものなんですが」

その特殊な金型だと細かい模様がつくれる、ということでしょうか?

「そうなんです。この小さくて複雑な構造も製作可能で。あと苦労したのは、形ができたあとにメッキをかけるんですが、メッキ液って少し粘度があるので、模様の奥まったところに残ってしまって、そこが黒ずんでしまうという問題が出てきて」

「いろいろ方法は考えたんですが、これは工程のなかでは改善できなかったんです。結局、海外工場でメッキをつけてもらってから日本へ送ってもらい、知り合いのお神輿とかを補修する会社にお願いして手作業で補修してもらいました」

こういった一連の流れも、営業担当が逐一依頼元に連絡をして、図面の確認や制作可能かどうかの判断、予算や試作品の出来具合、納期の予定など、細かにコミュニケーションをとりながら進めていく。

また同時に、実際に製造作業をお願いしている台湾や中国、ベトナムなど、海外の工場とのやりとりもある。

基本的に現地には日本語を話せる人がいるので、語学はそこまで必要ではないそう。町工場のようなイメージでありながら、海外との関わりも強いのは面白いところだと思う。

「図面も確認して、金型をつくって試作品をお送りしたあとに、『検討します』っていうので止まってしまい、発注には至らない、ということもあって」

「そういうときも『注文まで至らなかった理由はなんだったんだろうな』って考えて次に活かしたり、お客さんに直接聞いてみたり。どんどん突っ込んでいって、積極的に情報をとりに行ける人がいいんじゃないかなと」

今回募集する営業担当は、とくに経験は求めないそう。ただ、いろいろな人と関わることになるので、コミュニケーション能力は求められる。

メールでも電話でも、直接足を運ぶでも。どんな形でもいいので、その人の一番得意な面を活かして、自分なりの営業スタイルをつくってほしい、と笠原さん。

「一番大切なのは、丁寧さですね。お客さんからの問い合わせに対して『忘れてました』ってなると、会社としての信頼も失ってしまうので」

こういった新規営業以外にも新しい人に挑戦してほしいのが、自社製品の開発と販売。ここ数年力を入れている、チタン製のタンブラーだ。

「たとえばこれがステンレスだったら、ほかの会社でも比較的簡単につくれるんですよ。チタンって素材自体も高価だし、すぐに酸化してしまったり、加工中に割れやすかったりと、高い加工技術が必要な素材なんです。だからこそやってみる価値があるんじゃないかって」

CADで図面をつくり、3Dプリンターで試作品を製作。その後ロストワックス鋳造で実物をつくり、改良を重ねていった。

持ちやすい形状で、底面にはゴム素材がつけられているので、置いたときに動きにくい親切設計。

なによりこの青がすごくきれいですね。

「表面処理はこだわりのポイントなんです。化学研磨っていうんですが、薬液につけて電気を流すことで発色をコントロールしていて。金属そのものの色なので、メッキのように剥がれることもない」

「クラウドファウンディングでも250万円ほど支援をいただくことができました。手にしてくれた人からも、軽くて色がきれいだと、いい感想をいただいています」

現在はECサイトでメインに販売している。表面を特殊処理して模様をつけたものや、日本酒が飲める小さいサイズ、水筒として使えるボトルサイズも試作していて、今後販売していきたいと考えている。

とはいえ、自社製品づくりに興味がある人も、まずは問い合わせ対応や、それに伴う製品知識の習得などが必須になる。

そのなかで、自分のできることを少しずつ広げてほしい、と成晃さん。

「物事をコツコツと進められる人がいいですね。一日一個ずつだとしても、それを続けていけば自ずとたくさんのことを吸収できると思うので」

「あともう一つ伝えたいのは、僕たちがつくったものはそのまま完成品として世の中に出て、ものによっては電車や高速道路といったインフラを支えている、ということ。これは目に見えるやりがいでもあるし、同時に責任でもあります。しっかりしたものをつくる。そこはちゃんと意識してもらいたいですね」

 

取材のなかでも、ロストワックス製法やアクリル塗装、粉体塗装といった専門的な言葉を、丁寧にわかりやすく説明してくれました。

仕事場も女性のパート職員さんや、台湾やフィリピン出身の人など、グローバルな感じで、みなさんアットホームな雰囲気。風通しよくいろいろなことを聞ける環境だと思います。

目立たなくても、自分たちの仕事が社会を支えている。その静かな誇りと自信が、働いている人それぞれから感じられるような取材でした。

つくれないものはない。その言葉とともに、飛び込んでみてください。

(2021/12/9 取材、2022/9/8 更新 稲本琢仙)

※撮影時はマスクを外していただきました。

この企業の再募集通知を受ける

おすすめの記事