※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。
いつもの日常。いつもの通り道。
それもわるくないけれど、いつもと違う、なんだか楽しそうな場所が身近にあったら、覗いてみたくなる。
つい生まれる会話に、日常に埋もれていた本音がほろり。「こんなことがしてみたかったのよね」。
そんなふうにまちの人が集い、会話し、元気になっていく。今回募集する地域おこし協力隊は、そんな場づくりに関わる人です。
場所は、福島県矢祭町。
すでに始まっているコミュニティスペース「ヒガシダテ待会室」を引き継ぎつつ、町内外の人の交流が生まれる場をつくりたいと考えています。併せて、スポーツを通して、大人も子どもも楽しめるような機会をつくっていく人も募集します。
矢祭町内には、すでに活動している協力隊員や、協力隊を卒業後、定住して飲食店を営む人など、多くの先輩たちがいます。
まちづくりの専門家もサポートに入っているので、相談しながら活動を進めやすい環境だと思います。
東北地方の最南端に位置し、東京からは車で3時間、水戸や宇都宮など大きなまちにも1時間半ほどで行くことができる矢祭町。
平成の大合併のときには「合併しない町宣言」を掲げ、こんにゃくやゆずなどの農業を中心に、独立独歩のまちづくりに取り組んできた。
人口5400人。高齢化の進むなか、まちを歩く人を増やそうと「ゲストハウスプロジェクト」が立ち上がり、協力隊がやってきたのが2年半前のこと。
コロナ禍もあってゲストハウスをつくるに至らなかったけれど、「人と人をつなぐ場所をつくりたい」という気持ちは変わらず、つくったのが「ヒガシダテ待会室」。
JR水郡線の東館駅の駅舎を活用したコミュニティスペースだ。
「古い駅舎の佇まいが、都会育ちの彼女たちにとっては懐かしくて落ち着く気持ちになるそうで。新しい駅舎に建て替わるまでの期間限定ではじまったんですが、新しい駅にも多目的なコミュニティスペースを組み込もうと思っているんです」
そう話すのは、矢祭町役場事業課長の古市さん。
「ゆくゆくは観光案内や就農したい人が話を聞きに行ける、中間支援組織のような窓口がそこにできたらいいなと考えています」
「やろうとしていることは、『ヒガシダテ待会室』が目指してきたことと同じなのかなと思います。はじめはまちの人の声を聞いたり、町内外の人たちが交流する賑わいをつくったり。来てくれた方の得意なことを活かして企画を考えてもらえたら」
本気でまちづくりを考える人たちで、まちづくりのNPO組織を立ち上げる構想も出ているという。協力隊として、そこに携わることもできるそうだ。
「今日も開いていると思うから、覗いてみてください」とのことで、ヒガシダテ待会室へ。この場をつくった協力隊のひとり、近藤さんを訪ねた。
中高生が駅を利用する時間に合わせて、平日は午後4時から、休日は午後2時くらいから開けている。この日も、中学生の女の子たちが遊びに来たり、地域の人が集まって何か話したりしていた。
新しく入る人は、まずは近藤さんと一緒にこの待会室での活動から始めることになる。
「もともと海外旅行が好きで、世界一周しようと思って前の会社を辞めたんですけど、行けなくなっちゃって。募集を見たとき、ゲストハウスに憧れていたこともあって『ここだ!』と。まちづくりの専門家が入ってくれるというところも、安心できるポイントでした」
矢祭町に来て1年目は、とにかくいろんな方に会って話を聞いていたそう。
2年目になり、コロナ禍もあってゲストハウスの計画が難航していたころ、専門家の方からこんな助言が。
「『できるできないは置いておいて、どんな場所をやりたいのか、一つ仮定して思い描いてみよう』とアドバイスをいただいて。あらためて考えたとき、やっぱり、人が自由に集えて、出会った人同士で何かが始まるような場をつくりたい、と思ったんです」
同じ思いを持っていた元協力隊員と二人でトライしたのは、移動式の屋台「IDOBATAスタンド(仮)」。小学校の校庭や駅前、まちのイベントなどに出店し、無料でコーヒーを提供した。
「そのなかで地域の方から、駅舎が使えるんじゃない?とアイディアをもらって。JRさんと繋がりのある方にも協力してもらって、貸してもらえることになったんです」
廃校から家具や木材を集め、内装は自分たちでリノベーションしたそう。
始めてみてどうでしたか?
「自然と人の出入りが生まれるいい場所だなと思います。駅を使う町内外の人も通るし、近くに駐車場や図書館もあるから、駅を使わない人も通る」
「私たちのことを知らなかった方も声をかけてくれるので、いろんな出会いが私にも、ここに来る人にも生まれているなって思います」
地元のお母さんたちが久しぶりに再会して昔話に花が咲いたり、駅から家が遠くて自宅に友達を呼びづらい中高生がここで遊んだり。
地元の方以外にも、矢祭町に遊びに来ていた都心の方から、「都心でイベントを開催したいからまちのおもしろい人を紹介してほしい」と相談を受けて繋いだり。
「人と人がつながって楽しそうにしているのを見ていると、私も楽しくて。それに、私たちの活動自体が、まちの人が自分から動き出すきっかけになったらいいなと思うんです」
動き出すきっかけ?
「本当は何かやりたいと思っている方ってきっといると思うんです。けど、なかなか声を上げにくかったりするのかなって」
「こういう場を通して同じ思いを持つ人に出会えたり、私たちを見て『自分にもできるのかもしれない』って可能性を感じてくれたりしたらいいなと思っています」
9月には、近藤さんたちが主体となって、地域の人たちを巻き込んだマルシェを開催。小さな子どもも大人も集まって盛況だったそうだ。
ここで、去年の10月から「もったいない図書館」を担当している協力隊の平本さんも合流。
もったいない図書館は、日本各地から寄贈された本が揃う図書館。全国規模の「手づくり絵本コンクール」の主催や、子ども司書という教育プログラムなど、文化活動にも力を入れている。
「私は生まれも育ちも東京です。美術大学を卒業して東京のデザイン会社に勤めたんですけど、せっかくなら、デザインが行き届いてないところでデザインを役立てたくて。ずっと地方で働くことを考えていました」
平本さんの活動は、もったいない図書館や本を通した地域活性。もう一人の協力隊員と二人で、いろんな企画をしている。
今回生まれ変わるコミュニティスペースでも、何か一緒に取り組んでいけそうな気がする。
「子どもたちと一緒にもったいない図書館のロゴをデザインしたり、図書館の本を使ってカツオの刺身のアレンジレシピを考えて、地元のお魚屋さんと協力して実際につくるワークショップをしたり。あと、これまで図書館に雑誌がなかったので、移動式の棚をつくって雑誌を置いてみたりもしましたね」
すごい。平本さんは、次々とアイディアが出てくるんですね。
「アイディアを出すことより、それを人に理解してもらって実際にやるっていうほうが難しいかもしれないですね」
すると、「わかるなぁ」と近藤さん。
「実は、この場所もそうです。私は人と人が繋がれるような地域の交流の場づくりを目指していたので、ヒガシダテ待会室もゲストハウスから大きく外れてはいないと思っているんです。でも地域の人からは、ゲストハウスをやったほうがいいんじゃない?って言われることもあって」
「この場所は直接的に利益にならないので、私たちのこれからの生活を心配してくださっているのは分かるんですけど、必ずしも利益にならない活動ができるのって協力隊ならではだとも思っていて」
ふたたび、平本さん。
「それぞれ育ってきた文脈も違うから、最初から100理解してもらうのは難しいかもしれない。説明するよりやってみたほうが早いですね。小さくても何かしらやってみれば、ああ、こういうことね、と伝わるし、これができるなら、次はもう少し大きな規模でこんなこともやってみたら?とアドバイスもいただけるので」
「逆に言うと、こういうことを成し遂げるぞ!と完璧な理想をもって来ると打ちのめされるかもしれない(笑)。だめだったらこっちをやってみようって気持ちで来たら、意外といろいろできると思います」
もうひとつ、スポーツを通した場づくりも始まっている。
お会いしたのは、役場の生涯学習グループの小林さん。スポーツに関わること全般を担当している。
「体を動かすことっていいなと思います。ストレス発散というか、考えが煮詰まったときにランニングすると、ちょっと考えが切り替わったりしますしね」
以前は、町民みんなが参加できる体育祭があったり、野球やソフトボールのチームが10チーム以上あったりと、スポーツが盛んだったそう。
人口減少とともに、体育祭は希望者で行くハイキングに変わり、スポーツチームもかなり縮小してしまった。
「本当はスポーツをしたいという人、もっといると思うんです。けど、なかなか忙しくて時間がとれなかったりするのかなって」
そこで、小林さんは昨年から月に2回、土曜日に朝ランニングを始めた。
「自分が走るためにつくった企画です(笑)。川沿いに一周3kmの自転車コースがあって、そこに朝6時に集合して走ります。小学生から80代まで、だいたいいつも10人くらいかな。最年長のスーパーおじいちゃんがいるんですけど、『みんなで集まるのがうれしい、楽しみが増えた』と言ってくれました」
ほかにも、学校に野球部のない子どもたち向けに「キャッチボールからはじめる野球教室」を企画したり、リモートでヨガ教室をしたりすることなども考えているそう。
スポーツを通した場づくりを担う人は、小林さんと一緒にまちの人が参加しやすい企画を考えていく。
「はじめは大会やイベント、児童クラブや小学校のスポーツ少年団など、いろんなところに顔を出して、どんな機会があったらいいか聞いてみてほしいなと思います。小さなまちなので、あちこち出入りしやすいし声も聞きやすいですよ」
人の話を聞くことが好きで、まずはやってみよう、というフットワークの軽い人だったら、トントンと展開していく空気があると思います。
最後に、協力隊からまちの住人になった近藤さんから。
「協力隊は、仕事とプライベートが線引きできないような環境で、大変だとも言われます。けど、それもちょっと視点を変えれば楽しいことも多いです。今は話し合える仲間もいるので、一人で飛び込んでも安心できる環境だと思いますよ」
(2022/8/22取材 倉島友香)
※撮影時はマスクを外していただきました。