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「美容師」と聞くと、サービス業のイメージが大きい。だからこそ、取材で聞いた言葉に驚きました。
「わたしたちは、『美容師』という職業を『ものづくり』だと捉えています」
そう話すのは、ESPERで代表を務める赤松さん。
「お客さまの身体を借りてヘアという素材を使い、骨格を活かして造形をしたり色彩を施したり。その技術はAIにとって変わらないとも言われるほど、創造性が求められる仕事なんです」
「それに、資格と技術があれば、場所が変わってもいくつ年を取っても続けられる、一生涯できる仕事なんですよ」
美容に興味があって、ものづくりの仕事に携わりたい人。そんな人にオススメしたい仕事です。
ESPERは、東京・青山にお店を構えるヘアサロン兼アトリエ。もともとはヘアメイクのアトリエとしてはじまりました。
創業以来、“なりたい「かわいい」に協力します”をスローガンに掲げ、既存の価値観にとらわれず、流行に左右されない、自由なヘアスタイルを提案してきました。
今回は、美容室で働くスタイリストとアシスタントを募集します。
アシスタントは、業界未経験の方も大歓迎。
先輩スタイリストのもとで技術を覚えながら通信制の学校に通い、国家資格の取得を目指します。
手先が器用かは関係ありません。大切なのは、目の前の人を喜ばせたい気持ちです。
青山一丁目駅の改札を出て、渋谷方面に向かって青山通りを歩いていく。
ハイブランドのインテリアショップや、隠れ家的なレストランやバーなど、洗練されたお店が並ぶ青山エリア。
一歩通りを外れると、住宅もちらほら。まだ朝ということもあり、人気は少ない。静かな道を歩いていくと、ESPERの美容室を見つけた。
さっそく中に入ると、ESPERのみなさんが迎えてくれる。
建物は2階建て。2階がメインの美容室になっていて、1階はプライベートルームだそう。1階の奥で話を聞くことに。
はじめに話を聞いたのは、代表の赤松さん。
「ESPERはヘアメイクのアトリエが母体となっている会社で、創業から33年になります。創業以来、“なりたいかわいいに協力します”ってスローガンを掲げて、日々取り組んできました」
「きれいな人をきれいに送り出すって、わりと簡単なんです。一方で、何かしらのコンプレックスを持った方を自分たちの技術でどこまで引き上げられるか。自分たちが目指すのは、ヘルシーでアバンギャルドな世界です」
ヘルシーでアバンギャルド?
「ヘルシーっていうのは、自他ともに、スッと気持ちよく受け入れられるということ。それでいて、自分たちが思うアバンギャルドっていうのは、その方たちの意識より一歩先をいくこと」
たとえば、と言って教えてくれたのは、ESPERが生み出した「斜めバング」。
「人の顔って左右対称になっていないですよね、だからそのまままっすぐ髪を切ってしまうと、顔のズレが強調されてしまう人も多い。そこで、髪型をアシンメトリーにすることで、そもそも人に与える印象をズラしてしまう」
「そうすることで自分の顔の骨格のズレが気にならなくなる。そんなふうに、お客さまの想像を超えたやり方で、気持ちよく受け入れてもらう。これがヘルシーでアバンギャルド」
そのほかにも、昨今流行りのショートウルフもESPERから世のなかに発信されていったヘアスタイル。
また、こんな話もしてくれた。
「コロナを機に皆さんマスクをつけるようになって、『メイクを楽しめなくなってしまった』というお声をたくさん聞いてたんです。そこで、ヘアスタイルもメイクの一部になるようなチークレイヤーというシーズンスタイルを発表しました」
頬骨にかかる髪の毛に、その人の個性を活かすデザインやカラーを施すことによって、その人のなりたいイメージを叶えるというもの。
ときにメイクのように、ときに骨格を矯正するように。新しい印象を与えてアクセサリーのように、ヘアスタイルを楽しんでほしい。そんな願いを込めてつくりあげた。
「創業者の考えに『ほんとうにいいものは、時間にとらわれない。絵画も音楽も建築も、いいものはずっと残り続けている。だからこそ、きちんと残るいい仕事をしなさい』と教わってきて」
「流行だからといって、安易にその髪型をつくるっていうのは絶対にしないんです」
新たな価値を創造し続けるESPER。一体どんなことを大切にものづくりをしているんだろう。
「わたしたちは、正しい調音に重きを置いているんです」
正しい調音、ですか。
「正確な音階を持っていると、どんな曲でもつくれる。作曲家はこの音階のみで表現するわけじゃないですか。画家も5原色からさまざまな色をつくっていく。同じように、自分たちの技術も実はすごく限られていて」
「前髪から後ろ髪まで真っ直ぐ切り揃えるワンレングス、徐々に切る長さを変えて段差をつくるグラデーションやレイヤー、本当にこれぐらいです。これらの技術の組み合わせによって、いろいろなヘアスタイルができていくんです」
感性だけでなく、それを裏付ける論理的な思考と確かな基礎力があってこそ、「なりたいかわいい」を実現することができる。
そのために、ESPERでは集中して学ぶ時間を大事にしている。
たとえば、業界に先駆け、月に2回お店の営業を休止して練習日を設けたり、コロナ禍の休業期間中は、オリンピック形式を用いてカットやパーマなどの技術を競い合ったりもした。
「はさみの入れ方とかパーマの巻き方とか、一つの技術を習得するために、集中して学ぶ時間をつくり、徹底的に技術を身につけていきます。新しいデザインを開発するためには、新しい技術が必要。アシスタントはもちろん、スタイリストになってからもずっと続けていくことが大事なんです」
今回募集するのは、スタイリストとアシスタント。
事前に「アシスタントは業界未経験の方も歓迎です」と聞いていたけれど、あらためてどうしてなのか聞いてみる。
「美容師の資格は国家資格だけど、そこまでハードルは高くないんです。美容室で働きながら、通信教育に通って資格を取ることは充分にできます」
実際に、働きながら資格を取得して活躍しているスタッフもいるとのこと。
続けてもうひとつ理由を教えてくれた。
それは、美容師の国家資格を取得しても、すぐに実践で髪を切る実力がつくわけではないこと。
専門学校の勉強は、あくまで資格取得に重きを置いたもの。お客さんからお金をもらってサービスを提供するには、美容室に入り数年かけてさまざまな技術を学ぶ必要がある。
「そういう理由があるので、専門学校の卒業生も未経験の方も、わたしたちにとってはあまり変わらないんです。だからこそ、美容業界にこだわらず、ものづくりが好きな人、クリエイティブに働きたいと思っている人に来てほしいと思っています」
「美容系の仕事って、どうしてもサービスに目が行きがちなんですけど、わたしたちはデザイン性や創造性にも重きを置いていて。お客さまの身体をお借りして、ヘアという素材をつかって造形したり、色彩を施したり。働く人の個性を活かせる仕事なんです」
「いまはものづくりを仕事にしたい人にアプローチしはじめているんですよ」と教えてくれたのは、店長の山崎さん。
「ESPERにいるスタッフは、もともとものづくりが好きな人が多いんです、美大出身のスタッフもいるぐらい。ESPERがつくるデザインやスタイルに魅了されて、自分も同じようにつくってみたい。だから、色彩や造形を表現したい方なら、ESPERの考えにもマッチしやすいと思っていて」
「技術はうちでサポートできるので、ものづくりが好きな人に、美容業界でもものづくりができるんだよってことを伝えたいです」
お客さんの骨格から、どこに光を当てて、どこを影にするとかわいく見えるのか。なりたい姿の要望を聞きつつ、創造していく。肌質などに合わせて髪の色を考えるなど、デザインする要素はたくさんあるし、その分自分の個性も反映させやすい。
山崎さんも、ESPERの世界観に共感して入社した。
「前の職場では、お客さんの要望通りに髪を切る仕事がほとんどで。ただ、ESPERにいると『お任せでお願いします』って言われることが多いんです。それだけ自分の個性を求められているというか、期待されているんだなって」
印象に残っていると話してくれたのは、今年のシーズンスタイルを発表して、スタッフみんながそのヘアスタイルにしていたときのこと。
「お店の前を通りかかった50代ぐらいの女性の方が、『あら、あなたの髪素敵ね。わたしもそういう感じにしてみたいわ』って、来店してくださって。すごく驚いたし、ぼくたちがつくるものが世代を超えて届いたことがうれしかったですね」
「この仕事を辞めたいと思ったことは一度もなくて。お客さまが変われば、扱う素材も変わってくる。反応もダイレクトにもらえるので、デザインすることに楽しさを感じられる人には、面白い仕事だと思います」
山崎さんと同じく、ESPERのつくるヘアスタイルに惹かれて入社したのが、アシスタントの宇田川さん。
「“なりたい「かわいい」に協力します”って理念もそうだし、やっぱりつくっているものがかわいいなって。トレンドの要素が入っていることもあるけれど、お客さんの骨格に合わせたものだったり、その人の内面から感じるものを汲み取ったりしているので、時間が経過しても色褪せないんです」
自分もここで学びたいと4年前に入社。はじめはお客さんのシャンプーを担当するところからはじまった。
現在はアシスタントチームをまとめる役割を担っている。
「仕事をするときは、自分がスタイリストだったらどうするだろうって考えていて。スタイリング剤を用意するにしても、何か新たな選択肢をお客さんに出せるように、ちょっといつもと違うスタイリング剤も置いてみたりしています」
ケアに力を入れているESPERでは、自分たちでセレクトしたシャンプーやトリートメントを組み合わせて提案している。各10種類ほどあり、組み合わせは100通り以上。定期的に商品が追加されるので、常に学ぶ姿勢が大事とのこと。
「美容師の資格を取ってから、こんな必死にメモを取ったり、座学でテストを受けたりするなんて思っていませんでした(笑)」
「それでも辛いと思ったことはほとんどないんです。覚えたことが、そのままお客さんに喜んでもらえる一つの情報になるし、自分の自信にもつながっていくので」
美容室も規模が大きくないぶん、先輩がマンツーマンで教えてくれる環境がある。わからないことをすぐに質問できるのがすごくありがたい、と宇田川さん。
取材を通して感じたのは、働くみなさんがとても楽しそうだということ。
それは、基礎に重点を置きつつ、働く人の個性を大事にしているからだと思います。枠にはまらず、自分たちがほんとうにいいと思うものをつくり続けていく。
興味を持った方は、一度ESPERの美容室に足を運んでみてください。きっとその世界観に魅了されるはずです。
(2022/9/15取材 杉本丞)
※撮影時はマスクを外していただきました。