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自然と人の営みをつなぐ
100年の景色をつくる仕事

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

俳句の世界では、季節ごとに「山」を用いた表現が存在します。

芽吹きの春をたとえて「山笑う」。冬の静まる様子をたとえて「山眠る」など。

そんな言葉が生まれるほど、山は人にとって身近な存在でした。

建物の材料やエネルギー源となる木材の生産のほか、水を蓄えるはたらきや、地球温暖化の防止、生物多様性の保護など。時代が変わったいまも、山はわたしたちの生活になくてはならない存在です。

これから紹介する「地域フォレスター」は、山の恵みを50年、100年後にも引き継いでいけるよう、山づくりをディレクションしていく仕事です。

今回は、その候補生として3年間、実務と研修を重ねながら、地域フォレスターを目指す人を募集します。

舞台は、全国トップクラスの森林率を誇る高知県・本山町。そのうち人工林が8割を占める、林業のまちです。

林業の経験はあるとより良いですが、必須ではありません。人の営みと共存する山づくりに興味があれば、異業種での経験も活かせる環境だと思います。

 

高知駅から特急南風に乗り、40分ほど。本山町の隣町にある、大杉駅で降りる。

「今日はとびきりの秋晴れですね!」と、迎えの車から声をかけてくれたのは、本山町役場で林業施策を担当している立川さん。林業分野の地域おこし協力隊として活動したのち、役場で働いている方。

車窓からは黄金色に光る田んぼと、秋空を映す吉野川が見える。都心では見られない風景に、心が安らぐ。

15分ほどして、役場に到着。

まずは地域フォレスターの仕事がどういうものなのか、立川さんに教えてもらう。

「本山町では森林整備計画に基づいて林業施策を推進しているんですが、役場では数年に1回、人事異動があるので、専門性をもって継続的に関われる人材がいませんでした」 

林業者は山主や行政からの依頼に基づいて施業するものの、どの木を伐り出すのかは現場判断になる。もう少し育てたほうがいい木になるからと残すこともあるし、防災や水源涵養の観点から伐り出さないほうがいいと判断されることもある。

林業は、50年、100年先に結果が現れる仕事。その場では最善の選択をしたと思っても、答え合わせは容易でない。

「林業者ごとに少しずつ判断の基準も違います。まとまりのある森づくりをするためには、専門的な知識があって、かつ地域に根ざしながら林業を推進していく人が必要なんです」

「ドイツなどでは、地域ごとに森林づくりを指導する技術者がいて。フォレスターと呼ばれる国家資格が必要な仕事で、どの木を伐るのか、1本単位でその人が判断するんですよ」

何十年と同じ地域を担当するため、地域の特性を踏まえつつ、現場に近い感覚をもって一貫した森づくりができる。「この町の山のことなら、あの人に聞けばわかる」という存在がいることによって、林業者も仕事がしやすくなる。

日本にもフォレスターと呼ばれる森林総合監理士という資格はあるけれど、ドイツほど権限もないし、地域に入り込んでいる人材もまだまだ少ない。

そこで本山町では、林政支援のほか、日本版のフォレスターをつくろうと人材育成をおこなう団体、フォレスターズLLCの支援を受ける形で「地域フォレスター」という仕事をつくることになった。

「新しく始まった森林環境譲与税の活用推進など、取り組んでいただきたい業務はいくつか挙がっているものの、新しく加わる方の得意分野も活かして仕事内容を考えていけたらと思っています」

たとえば、林業は未経験だけど、人と人をつなぐことが得意な人なら、山主と専門家をつなぐような仕事ができるかもしれない。森林組合で働いた経験のある人なら、現場の視点と俯瞰的な視点の両方から森林に関わることができる。 

また、今回は地域おこし協力隊としての採用になるため、3年間、山づくりに見識の深いフォレスターズLLCの指導を受けながら、行政での実務を通して林業を学んでいくことになる。

最初は、山を役割ごとに区分けするゾーニングから始める予定だそう。山づくりの理論をどう現場に落とし込むか、フォレスターズLLCが伴走しながら実践に移していく。

協力隊卒業後は、本山町の地域フォレスターとして活動していくことになる。将来的には町内を3つのエリアに分け、複数人で町の山づくりを進める構想だけれど、まずは今回募集する人が最初の一人として、フォレスターの土台を形づくっていく。

「暮らしでも仕事でもコミュニケーションをとる場面がたくさんあるので、人と話すことに抵抗を感じない方がいいと思います。やっぱり田舎ならではの人の近さはありますね」

「あとは、林業の現場感覚を理解できるかどうかも大事ですね。施業する場所がどれほど傾いていて、作業し続けるのがどれだけ大変か、計画や地図上だけではわからないので」

林業は、命を懸けた仕事でもある。

ともに仕事をしていくうえで、近しい感覚を持てると、計画の精度もより高めていけるはず。

 

今回募集する人は現場仕事を担当するわけではない。現場にも足を運びつつ、町内で林業を営む人たちとコミュニケーションをとるなかで、現場の感覚を知っていけるといいと思う。

「林業に携わるうえでも、移住の先輩としても、とても頼りになると思います」と紹介を受けて、ほかの地域おこし協力隊の卒業生にも話を聞くことに。

辿り着いたのは、くねる山道の先にある開けた場所。大きな木が並んでいる。

「これ、大黒柱なんですよ。もとになった木が重くて製材所に持っていけなかったので、ここでチェーンソーで挽いてつくったんです」

そう話しかけてくれたのは、川端さん。自宅のセルフビルドに取り組んでいるそう。

伐り出しも製材も自分でするって、月並みな表現ですけど、すごいですね。

「木を伐る人間として、自分が伐った木がどういうふうに使われるのか、体感したくて。やってみるまで全然わからんことばかりです。十分伐ったと思ってたのに、製材してみたら一棟分の半分もとれてなかったんですよ」

「家を一軒つくるのにも、想像している倍以上の木が必要になる。その木が育つのには何十年とかかる。木を扱うことの重みを肌で感じられたことで、より山と真剣に対峙できるようになりました」

川端さんが林業の世界に飛び込んだのは10年前。さまざまな現場で経験を積み、現在は個人で林業を営む傍ら、お茶づくりなど、山の資源を活かした仕事をつくっている。

「協力隊時代は好きにさせてもらったので、これは本山に残って恩返しせなあかんなと(笑)。学びたいことがあればすぐ研修に行かせてくれるし、新しくやりたいことにも背中を押してくれる。いい町ですよ」

「それに、林業するにはものすごく適した場所なんです。加工しやすいスギ、ヒノキの割合が森林の8割を占めていて、さらに木材の出し先も地域内に複数あって、利便がいい。スーパーやドラッグストアも近くにあって、自然も豊か。生活もしやすいです」

その一方で、「林業って、やればやるほど自分の足らんところがどんどん見えるんですよね」と、川端さん。

「向かいに見えるところ、木が倒れてるでしょ。去年あのあたりを間伐したんですけど、1本、木を伐ってしまったことで風の受け方が変わって、台風のときに木が倒れてしまったんです」

そうして結果がすぐ見えることもあれば、もう何十年も先、自分がこの世を去ったころに影響が現れることもある。

「ちょっと判断を間違えれば、災害の原因にもつながりかねない。だから軽はずみな判断はできません。逆に自分の判断がいい影響を与えていたら、めっちゃうれしいじゃないですか」

「そんなとき、フォレスターみたいに地域のことをよく知っていて、専門知識をもつ人がおるとすぐに相談ができる。そういう人がいる山って、全然レベルが変わってくると思うんですよ」

同じことが言えると思う、と紹介されたのが「土佐本山コンパクトフォレスト構想」。

本山町の50年後の森林ビジョンを定めたもので、木材の生産に限らず、防災や水源涵養、保健・レクリエーション機能など、森林がもつ多面的な機能をあらためて評価し、町の財産として引き継いでいくための方向性や施策がまとめられている。

「たとえば、山じまい。町ではいま、木材生産の質を高めるために、人工林にする山の選択と集中を進めようとしていて。対象とならない山は、自然に近い広葉樹の山に戻しませんかと提案しようと考えているんです」

町として方針を定めていれば、提案された側の納得感もちがってくる。そうして理解が広がれば、スピード感をもって目指すべき山づくりに向かっていける。

「僕もビジョンの策定から関わっているんですけど、地元の高校生たちも委員に加わってくれたんです。それがすごくよくて」

「僕らが施業している山の風景は、彼らがずっと見ていくんです。若い人たちに関わってもらっている以上、このビジョンをつくって終わりじゃなくて、実現していかないといけない。委員のみなさんも、そんな気持ちでいると思います」

今回新しく加わる人も、ビジョンの推進に関わっていくことになる。

大きな方針があるなかで、町の人がどのように森林と付き合っていくのか。まずはビジョンの周知をはかることが求められている。

立川さんや川端さんは、今後も本山町の森林づくりに関わり続ける予定なので、悩むことがあればすぐに相談できると思う。

川端さんは、どんな人に来てほしいですか?

「こんなん言うたら怖いかなと思うんやけど…。やっぱり、林業に携わると決めたからには、覚悟は絶対に必要やと思うんですよ」

覚悟、ですか。

「本山で林業している人っていうのは、やっぱり10年、20年と続けている人が多いです。そんな人たちでも『自分はまだまだや』って言う人ばかりで。そんな人たちと一緒にやっていくためには、関わり続けるぞって気概がないとね」

「専門知識としてこれがあればいい、というのはなんぼでもあるんですけど、やっぱり心やと思うんですよね。山と向き合うぞ、って腹を括った人に来てほしいですね」

生半可な気持ちで山と関わると、取り返しのつかないことにもなりかねない。一見、厳しくも聞こえるけれど、新しく加わる人のためを思っての言葉なんだと思う。

その分、覚悟を決めたら、きっと力になってくれるはず。そんな力強さを、川端さんからは感じる。

「僕には全国に林業の師匠がいるんですけど、林業を少しでも元気にしたいって、みなさん企業秘密みたいなこともバンバン教えてくれるんです。それがなかったらいまの自分はないだろうなって思っていて」

「せやからこそ、受け取ったもんは出し惜しみせず、次にちゃんと渡していきたい。僕は40超えてから林業始めて、あと何年できるねんって感じなんですけど、自分より若い人が頑張ってくれたら、本山の山はずっと生き続けると思うんですよね」

大きな時間の流れと、自然への畏れのなかで、未来のためにできることを一つずつ積み重ねていく。

結果はすぐ見えないかもしれないけれど、確実に日々の暮らしにつながっている。ほかにはない、スケールの大きな仕事だと思います。

(2022/10/17 取材 阿部夏海)

※撮影時はマスクを外していただきました。

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