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日本の企業は、99%が中小企業。そのなかでも、後継者不在と言われている企業は、6割近くにもなるそうです。
業界の慣習や親子間のしがらみなど。家業を継ぐ、ということにはさまざまなハードルがあります。
もし、そこに自分の好きなことや得意なことを重ね合わせることができたら。きっと「家業を継ぐ人生」は明るいものになる。今回紹介するのは、そんな「アトツギベンチャー」を推進している人たちです。
一般社団法人ベンチャー型事業承継は、同族企業の後継者や後継者候補が、新規事業や業務改善など家業で新しい挑戦を始められるよう環境づくりを推進している団体です。
手がけている事業は、イベントやコミュニティ運営、広報など、多岐にわたります。今回は、ここで総合職として働く人を募集します。どの業務を中心に取り組むかは、本人の希望や適性を見ながら判断したいとのこと。
大切なのは、経験やスキルよりも人柄。一筋縄ではいかない悩みを抱える経営者と後継者たちに寄り添いながら、明るく伴走していく人を探しています。
ベンチャー型事業承継のオフィスは大阪と東京、それと福岡にある。実質稼働しているのは大阪、福岡のみで、基本的にはリモート勤務が中心。
今回は大阪・北浜にあるオフィスで話を聞くことに。
北浜駅から歩くこと、10分ほど。郵便局の向かいのビルの中に、オフィスを見つけた。
迎えてくれたのは、代表の山野さん。
挨拶をすると、「よければジルって呼んでください」とひとこと。
ジル、ですか?
「うちはみんな、イングリッシュネームでお互いを呼び合うんですよ。自分で好きな名前をつけて。肩書きとか年齢とか関係なく、できるだけフラットでありたいねって」
団体はインターンを含めて10名ほどの組織。インターン生も先輩のことをイングリッシュネームで呼び、「さん」付けはNGにしているのだとか。
フランクな雰囲気に心地よさを覚えつつ、取材ということもあり、今回はさん付けでお呼びすることに。
団体ができたのは、2018年6月。大阪を拠点に、創業支援やビジネス情報誌の編集をしていたジルさんが、ほかの理事とともに立ち上げた。
日本の中小企業の多くが、後継者不在という課題を抱えている。理由はそれぞれだけど、「わが子に苦労をさせたくない」と廃業を考える経営者もいれば、家業を継げばほかのことは諦めないといけない、と敬遠する後継者もいる。
「地域の雇用や、日本全体の技術力を支えてきたのは中小企業なんです。これから家業を継ぐかもしれない若い人たちに、明るい未来を感じてもらえないかと、勢いだけで団体をつくって」
ジルさんたちが提唱しているのは、スタートアップでも事業承継でもない、「ベンチャー型事業承継」。
たとえば、ゲーム会社に勤め、サブカルに精通した塗料メーカーの後継者が、コスプレ専用の塗料を開発する、といったもの。
単純に家業を継ぐのではなく、新規事業を同時に立ち上げたり、業態を転換させたりなど、後継者の興味関心と重ねあわせて、家業をアップデートしていく形だ。
ジルさんたちは、そんなマインドを持った後継者や後継者候補たちを、「アトツギ」と呼んでいる。
「後継者って、とくにその仕事が好きではないんですよね。たまたま家業のある家に生まれただけで」
「でも、自分の好きなことと掛け合わせて新しいビジネスをつくるっていう選択肢があることを知ることができたら、家業を継ぐことの捉え方がガラッと変わるはずなんです」
売り上げもビジネスモデルもなかったけれど、立ち上げ時から反響は大きかった。
銀行や生命保険会社、電鉄会社など。取引先の後継者がいなくなれば、自分たちも影響を受ける。
後継者不在は地域経済に深く関わる問題。次第に協賛もつき、今では行政からの問い合わせが絶えないという。
軸となっている事業は、新規事業立案のピッチイベントや専門家を招いた研修などの受託運営と、39歳までの若手後継者がつながるオンラインコミュニティ「アトツギファースト」の運営のふたつ。現在は800人ほどが登録している。
「最初からすごくこだわっているのが、自走でフラットであることで」
自走でフラット?
「私たちがつくりたいのは、学びたい人がおのずと学べるグラウンド。参加する人が自分の体験をシェアするなかで、課題や解決方法を見出していく場所です」
アトツギファーストでは、地域別、業種別、テーマ別に参加できるグループがあり、メンバーは共通点を持った仲間とつながることができる。
グループ内ではそれぞれが活動を報告したり、悩みごとを共有する会を開いたりと、メンバーみずからが主体的に動いている。
「規模も地域も業種も関係なく、行動を起こして体験をシェアしている人がリスペクトされる世界をつくりたかった」と、ジルさん。
家業を持つ後継者は、親や地域との人間関係など、簡単に答えの出ない悩みを抱えている。孤軍奮闘しても、周りからとやかく言われたり、社員に協力してもらえなかったりと、孤独を抱えている人も多い。
似た境遇で頑張る人がいるだけでも、前向きな気持ちになれるのだと思う。
今回募集するのは、団体の3人目の社員として、事業の運営を担っていく人。
どんなことをしているのか、事務局長の大上さんこと、ゴードンさんに聞いてみる。
「数日前、アトツギベンチャーサミット(AVS)っていう、全国からアトツギ100人が集まる大きなイベントを福岡で開催したところで。憔悴しきってます(笑)」
AVSは年2回、団体が開催しているイベント。アトツギが一同に会し、先輩経営者をメンターとして迎え、複数のグループに分かれて朝から晩まで仕事の体験談や悩みを共有するというもの。
「福岡まで来てくれるだけでも涙が出るほどうれしいのに、休憩時間に入っても交流が続いていて。アトツギのみなさんが刺激しあえる場をつくりたいって日々話していたので、実現できてうれしかったですね」
参加してくださるアトツギの方は、どんな方が多いんでしょう?
「群れるのは好きじゃないとか、地元では一匹狼ですみたいな人が多いですね。地元の経営者コミュニティって年功序列みたいなところも多いから、若い人は息苦しいと感じてしまうようで」
実はゴードンさんもアトツギの一人。実家は大阪で4代続く和紙問屋で、後継者候補として8年ほど勤めていたこともあったそう。
「ただ、和紙業界も斜陽だし、同じ方法で続けても伸びない。業界のルールもがんじがらめで楽しくないな、と思っていたときに、自分でブランドをつくって。そこからうまくいきはじめたんです」
昆布のイラストを描いたご祝儀袋「フトッパラ」など、上質な和紙にシュールなデザインを施したシリーズは、テレビ番組でも取り上げられるほど話題の商品に。
「家業に自分を当てはめるんじゃなく、和紙はあくまで経営資源。自分のやりたいことをやっていくための手段だって捉えたら、家業の見え方がまるっきり変わったんです」
数年後、ベンチャー型事業承継の考えを聞いたとき「これだ!」と感じ、入社。オンラインコミュニティの運営を中心にかかわっている。
大切にしているのは、アトツギが何を必要としているか、耳を傾け考え抜くこと。
たとえば、と話してくれたのが、アトツギファーストの運営方法。
最初はFacebookのプライベートページで運営していたものの、メンバーが増えていくうちに、1日の投稿が複数件重なることも出てきた。
使いやすいプラットフォームを求めて、2022年12月に新たなサイトをオープン。それぞれが興味関心のあるタグごとにグループをつくることができるようになり、検索性が格段に向上した。
各グループで開催されているイベントは、平日夜のオンラインミーティングが多く、ゴードンさんたちも積極的に参加しているという。
ただ、アトツギファーストはあくまでプラットフォームであって、正解を与える存在ではない。
答えが見つかるまで、悩みを抱える姿にもどかしさを感じることもあると思う。
ゆくゆくは、右腕人材の採用に悩むアトツギに人材会社を紹介するなど、悩みに対して専門的に寄り添うパートナーをマッチングするサービスも開発していきたい、とゴードンさん。
また、地域経済をよく知る機関と連携して、各地方で後継者のコミュニティをつくる動きも進めている。
「なかにはやっぱり大変なこともあって」
そう話し始めたのが、銀行から出向している大本さん、ことピエールさん。
「行政からの問い合わせを受けて、アトツギベンチャーの考え方を知ってもらうためのワークショップを開いたことがあったんです」
応募終了まで、地元の商工会や経済団体など、チラシや電話でアプローチを続けたけれど、感触はよくなく、集まったのは3人だけだったそう。
「イベントページを毎日見るのが辛かったですね。ずっと0とか1の状態が続くと、果たして僕らのやっていることって本当に求められているんだろうか… と、不安になることもありました」
「ただ、その3人がものすごく熱い想いを持った人たちで。先日のAVSもそうですけど、あんなに熱い想いを持った人たちが一同に会するところを見ると、やっぱりやらなあかん仕事やって思うんです」
後継者候補のなかには、従来通りのやり方しかない、と諦めてしまっている人もいるかもしれない。
ただ、もしベンチャー型事業承継という選択肢を知ることで人生が変わるなら。種を蒔き続ける意味は、必ずある。
普段はブランドマネージャーとして、広報を担当しているピエールさん。今年の3月いっぱいで任期を終え、銀行に戻る予定なのだそう。
ピエールさんは、どんな人が合うと思いますか?
「後継者支援にかかわることであれば、いくらでも自由にさせてもらえるので、合う人にはすごく面白いと思います。自分が素敵だと思うアトツギさんがいたらインタビュー記事を書くとか、新しいイベントを考えてみるとか」
すると、隣で聞いていたジルさんも加わる。
「大切なのは、経営者や後継者が抱えている悩みや課題を聞いて、気持ちに伴走していくことで。経営者相手に仕事をしていたり、話を聞くことに慣れていたりする人は、ぴったりかもしれない」
この人のために頑張りたい。そう思うことができれば、必要なスキルは後からついてくる。
「ずーっと文化祭前夜みたいな、しんどくて楽しい世界です。今までずっと薄暗いイメージだった後継ぎの世界を、ポップでビビットな『アトツギ』にしようと広めている組織なので」
「だからこそ、一緒にいて心地のいい人がいいですね。真面目にやるときは真面目に取り組んで、盛り上がるときはとことん盛り上がる。逆境も一緒に乗り越えていこうと声を掛け合える、ひたむきで、挑戦する人を応援することに喜びを感じる人と働きたいです」
目の前の人の悩みに寄り添い、頭を必死に動かして、その都度ベストを尽くしていく。簡単なことではないけれど、ここから地域を、社会を変えていく、そんな仕事だと思います。
アトツギベンチャーをカルチャーに。ワクワクするものを感じたら、応募してみてください。
(2022/12/5 取材 阿部夏海)
※取材時はマスクを外していただきました。