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日常のすべてを革に込める

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

ものづくりに携わっている人を取材するとき、いつも心から尊敬の念を抱きます。

ある人は木から、ある人は鉄から。そしてある人は革から。

そのままでは価値が見えづらいものを、みずからの手で作品や商品へと昇華させる。その過程には、どんな努力や技術、そして葛藤があるのか。

今回の取材を通して、ものづくりへの関心がより強くなったような気がします。

栃木・黒磯。SHOZO COFFEEの黒磯本店があることで知っている人もいるかもしれません。

このまちにあるのが、NORDFELD(ノルドフェルド)。鞄や財布などの革製品を、一つひとつ手づくりで製造・販売しています。

今回は、ここで革製品のつくり手兼店舗スタッフとして働く人を募集します。

経験は問いません。長く革を扱ってきたつくり手の北野さんが、1から指導してくれるとのこと。

黒磯という地域や革製品に興味がある人。もっと言えば、どんなことにでも興味を持って動ける人。そんな人に合っている仕事だと思います。

 

東京駅から東北新幹線に乗って1時間ほど。那須塩原駅で降りて、JR宇都宮線で一駅行くと黒磯に到着する。

駅前にはおしゃれなパン屋さんやカフェ、そして大きな図書館が建っている。道中の風景からは予想外に現代的な雰囲気の駅前を過ぎると、今度はひと昔前の風情が残る街並みを歩く。

10分ほどで、左側にノルドフェルドの工房兼ショップが見えてきた。

外観の写真を撮っていると、中にいた人が気づいてドアを開けて迎えてくれる。

「どうぞ奥に。今日は風が強くて寒いですよね」

迎えてくれたのは、店主でつくり手でもある北野憬(けい)さん。

「このあたりはちょっと古い雰囲気の街並みだったでしょう。あれが昔の黒磯。駅前はここ5年くらいできれいになったんです」

「昔は純喫茶とかも多かったらしくて。SHOZO COFFEEがここから数分歩いた先にあって、そのまわりに雰囲気のいいお店が集まっています」

SHOZO COFFEEは黒磯に本店を持つカフェ。

純喫茶ではなく、カフェと呼ばれるお店を日本で初めてつくったと言われている。カフェを経営している人なら知らない人はいないほど、有名なお店なのだそう。

北野さんの工房も、SHOZO COFFEEオーナーの省三さんが紹介してくれた物件。倉庫だった建物を改装して、5年前にオープンした。

「22歳のころから革に興味を持って、自作したりもしました。当時身近にあったのが、父親から借りて使っていた革の鞄で。その製造元に直接訪れて、働きたいと直訴したのが、前職の会社だったんです」

「ぼくは美大出身でもないし、経験もほとんどない。唯一やってたのはラグビーで、体力だけはあります!って言って(笑)。体力があるのと、とにかくこの会社の鞄が好きだっていう気持ち。そのふたつは自信がありました」

運良く採用されて、革製品づくりの最初の工程である「裁断」の担当になった北野さん。

新入社員はふつう、「製作」という裁断された革を使ってものをつくる部署に配属されるところを、北野さんは最初から「裁断」を任されたそう。革を切るだけの仕事に聞こえるけど、難易度が高く、とても重要な仕事なのだとか。

「天然皮革って生ものなので、繊維の方向や表面のシワが一枚一枚ぜんぶ違う。それを考えて裁断しないと、えらいことになるわけですよ。プレッシャーがあるし、ストレスのかかる仕事なんです」

「それで数年裁断をして、その後製作に異動したら、すごく楽しくて」

やっぱり切るだけじゃなくて、つくることが楽しかった、ということでしょうか。

「そうそう。その会社は変わっていて。ふつう、革製品をつくる工房は分業制になっていて、担当する部品だけ縫う、という感じなんです。でもそこでは分業をせず、最初から最後まで一人の担当が製品をつくり上げて、新作も自分でデザインする。それが楽しいんですよね」

「このつくる楽しさはノルドフェルドでも大切にしています。最初から最後まで、自分の手でつくると、つくり手の想いも製品に宿っていく。この楽しさは、新しい人にも感じてほしいと思ってます」

結果的に、その会社では11年働いた北野さん。毎日ウキウキした気持ちで働いていたけれど、あるときから独立することを意識しはじめた。

「会社の創業者と仲が良くて、よくプライベートでも遊んでもらっていたんです。とにかく一緒に飲んで。そうするうちに、自分も創業者の経験をしたいと思うようになって」

「そのときは本店の責任者っていう肩書きまでいただいていたけど、ぼくがはじめた事業じゃない。だから自分の言葉に説得力がないような気がして。自分の足で立っていない感じ、っていうのかな」

自分の足で立っていない感じ。

「つまりは、創業者がつくったレールに乗っかって生きてるだけ。そう考えると、急に虚無感が湧いてきたんです。給料もそれなりにいただけるようになったけど、全然満足できない。そんなときに訪れたのが黒磯でした」

黒磯のまちなみと、SHOZO COFFEEを中心とした雰囲気のいいお店たち。昔ながらの風情と集まっている人たちのセンスの良さを感じ、北野さんは強く惹かれた。

そこからの行動は早かった。地元の古道具屋を訪ねて開店の相談をして、SHOZO COFFEEのオーナーである省三さんにつないでもらい、空いている物件を探してもらうまでに。

「物件まで見ちゃったら、もうやばいじゃないですか(笑)。結婚したばっかりで、そのとき妻も一緒にいたんですけど、もう自分はやるんだって決めちゃって」

 

そう話しながら目線を横に向けると、オンラインストアを担当している奥さんの愛子さんが困ったような笑顔を浮かべている。

「すごく困りましたよ。わたしが一緒に黒磯に来たときにはもう店を出すことが決まっていて。省三さんも、ちょっと落ち着いたら?って心配してくれたんですけど、一歩も引かなくて」

店舗が決まり、内装工事をしてオープン日も決まった。

一方で、お店のコンセプトは決まっておらず、商品も0からつくる状態。

“自分はなにをつくりたいのか”、とことん考え抜く作業は、ときに辛かったという。

「前の職場では、新作もそのブランドの枠の中でつくらないといけなくて。だから最初はどんなものをつくればいいのか、相当悩んでいました。いざつくったものを見せてもらっても、『本当につくりたいと思ってつくったの?』って思っちゃうようなものが多くて」

北野さんが悔しそうな表情で話に加わる。

「最初のころは、つくっても自分でぶん投げたくなるようなものばかりで。前職ではすごくいい商品をつくっていたはずなのに、自由になったら全然つくれない、やべぇって」

「思い出しても涙しちゃうくらい大変でした。妻はちゃんとモノを見る目があるから、つくったものを見ても全然納得しない。『なにこれ、考えてつくったの?』って言われて、喧嘩になることも多かったです。でも悔しいことに、冷静になったら、言ってることは合っているんですよね」

万人受けしそうなデザインや、どこかで見たことがあるような形。そうではなく、北野憬がつくりたいものはなんなのか。

もがき苦しみながら、北野さんは試作を続けた。

「つくっては妻とぶつかって喧嘩して、何かに気づいてつくり直す。ときにはお客さんからフィードバックをいただくこともありました。『すごく使いやすい』と言っていただくこともあれば、『ここはこうしてほしい』という改善点や新作のヒントをいただくこともあって。この5年間その繰り返し」

「だからうちの商品は、ぼくだけじゃ絶対につくれない。妻やスタッフ、お客さんと話す、このお店の日常がすべて反映されているんです。怒って泣いて笑ったすべてが、ここにある商品に注ぎ込まれている」

ノルドフェルドで何をつくりたいのか。その悩みを打開するきっかけとなった商品がある。

それが、卵リュック。

「この卵リュックは、ノルドフェルドにとってすごく大切な商品なんです。売れるか売れないかはわからない。でも自分がつくりたい形を追求することができた、最初の商品で」

「普通は手を加えないところまで丁寧につくり込んでいます。たとえば、この左右の切れ込みも、どの位置にどれくらいの長さで入れたら、イメージ通りの丸みや立体感が生まれるのか。かなり試行錯誤しました」

ほかにも、フラップに切り込みを入れることで、全体がより卵のようなフォルムになるようにしたり、背負ったときの収まりの良さを考え、上がキュッと詰まっていて、下に向かって広がっていくデザインにしたり。

デザインと機能性、どちらも妥協することなく、とことん丁寧に試作を繰り返した。

「自分が心の底からいいと思えるものをつくらないと、独立してブランドをつくった意味がない。だから卵リュックが完成したとき、ノルドフェルドは大丈夫だって確信したんです。これがあれば俺は歩いていける、って思えました」

「そうは言っても、そのあとまた別のものをつくるときに苦しむんですけどね。そのたびにいろんな人の声を聞いて、また完成して。日常ってそうじゃないですか。怒って、心が乱れて、笑って喜んで。子どもも授かった。そういう日常があってこそ、ノルドフェルドの商品ができているんだと思います」

最近、お子さんのお絵かきからヒントを得て新しい色の商品をつくったそう。

今回募集する人は、革の加工に関しては未経験でもいいとのこと。北野さんは、どんな人に来てもらいたいですか。

「革じゃなくてもいいんだけど、いろんなことに興味を持っている人がいいかな。主にぼくとふたりで工房とお店を切り盛りしていくので、普段のちょっとしたことでも楽しんだり、一緒に話せたりする。そんな人が一緒だと面白いと思うんですよね」

「ひたすらつくるだけの職人は合わないと思います。お店に立って接客もするし、手も動かす。つくることを楽しんで、何か好きなものがあって、たわいもない笑い話をして。そのうえで、丁寧であることが必要かなと」

丁寧。ものづくりのお話でもおっしゃっていましたね。

「丁寧に仕事をするっていうのは、基本だと思うので。どんな経験でもいいので、なにかを丁寧にやってきた自信がある人に来てほしいなと思います」

「もちろん技術や知識は必要なので、そこは厳しく言うこともあるかもしれない。でもそれも学びなので。一緒に面白いものをつくっていきたいですよね」

愛子さんも話に加わる。

「わたしはお店に出ていないことが多いんですが、新しい人には雰囲気づくりも考えてくれる人がいいなと思っていて。この工房に立っていると、入り口から入ってきたお客さんは、アーチ状のスクリーンを通したような感じで中の人を見ることになるんです」

「その瞬間の雰囲気を、どうやっていいものにするか。ただの工房じゃなくて、お客さんと話すお店でもあるし、つくっている人たちの晴れ舞台でもあるので。それを見てほしいし、見せていきたいと思っています」

トントンという金槌の音や、ゴトゴトというミシンの音。

それらが響く空間で、丁寧に、そして日常を詰め込んだこだわりのものたちを手に取ってもらう。

ともに手を動かし、革のある日常をつくっていく仲間を待っています。

(2022/1/16 取材 稲本琢仙)

※撮影時はマスクを外していただきました。

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